雀聖の器   作:マージャンスキー

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雀聖VS神域 二戦目

「なあ、雀聖さんよ……命を賭けないか……ッ!」

「噂には聞いてたが、極度の死にたがり……命を賭け金にしないと直感が鈍るってところか……」

「ああ、不条理に身を置いてこそギャンブルッ!」

「構いはしないが……こんな爺さん手前を殺してなんになる……?」

 

 アカギの提案はこう、残りの二半荘、自分が二勝すれば命を奪う。逆に自分が負けたらその場で死ぬというもの。

 昭和の怪物・鷲巣巌が対戦を拒否する相手、どの程度か見定めていたが打ち筋は運任せの若干はデジタル打ち、まだまだ引き出せていない部分が目立つ。

 ――だからこそ、命をチップにしたいと思えてしまう。

 極限の状態だからこそ出る――人間の足掻き、それを確認したいと思えた。

 アカギは懐から一丁のリボルバー拳銃を取り出す、弾薬は装填済み――二勝したら天下の雀聖に風穴、自分が負けたら自分が風穴、命なんて安いモノ……。

 

「……なら、俺も条件を出させてもらおう」

「ククッ……保身に走ると思ってたが、逃げてる顔じゃない……」

「俺が勝っても――おまえの命は奪わない。表の麻雀打ち、一人くらいは綺麗な麻雀打ちを育てろ」

 

 アカギ、この提案に少し不満。

 自分の命を賭けるからギャンブル、それなのに雀聖は自分の命は二の次、次の世代のことを考える。

 どこまで行っても無欲、拳銃を見せても動じない。

 

「まあ、だが、本調子で打たせてやれなかった礼だ……弾を一発抜きな……」

「…………」

 

 リボルバーから弾薬を一発だけ抜き取る。そして雀聖に静かに渡す。

 ――何の躊躇いもなく頭部に引き金を引いた。

 ハズレ、この場合は大当たり、五連装のリボルバー拳銃、それの5分の1を平然と引き当てた。

 

「まあ、どうせ撃てない場所にセットすると思ってたが……これならどうだ……?」

「なるほどね、折り込み済みってわけか……」

 

 リボルバーの薬室を数回転させ、自らの頭部に突きつける。

 そしてまた――躊躇いもなく引き金を引いた。

 乾いた空打ちの音が木霊するのみ。

 

「これで……俺の覚悟を受け取ってもらえたら嬉しい限りだ……」

「……マトモじゃない、これでこそ勝負にハリが出るッ!」

「て、てつさん……」

「怖気づくなダンチ! この程度は日常茶飯事だ」

 

 まさしく天運、この場の人間ではなく、ただ天が神がこいつを死なせることは許さないという意思表示、アカギ、これには鷲巣巌を重ね合わせる。

 神すら従えた男、鷲巣巌、それを恐れさせた理由。

 自分と同じ、今この瞬間に死んでも悔いはないという姿勢、理不尽を受け入れる度量。言ってしまえば誰だって思う――この人には負けてしまうかもしれないという恐怖。

 年齢のこともあるだろうが、雀聖と呼ばれる男、博打一筋で聖の名を与えられた存在、リスクが勝る。

 

「言ってしまえば、俺が鷲巣と打たなかったのは変なルールの麻雀を嫌った」

「…………」

「血を抜かれるのは了承した。だが、あの透明な牌が嫌だったんだ……見えない何かを見ようとしてる……」

「……倒さない限り、そこには何もない。そういうことか」

 

 同類、命への態度はアカギに似ているが、こと麻雀に限っては鷲巣に似た打ち手。

 何十年と研ぎ澄まされたセンス、天運の持ち主と称される圧倒的な勝負強さ、だが、少しばかり古風な部分が目立つ。古風だからこそ、変なルールを極限まで嫌ってしまう。

 アカギ、静かに風牌を捲った。

 

【東一局・親:赤木しげる】

 

東:赤木しげる  「25000」

南:滝川達夫   「25000」

西:阿佐田哲也  「25000」

北:アカギのおひき「25000」

 

 山が切り開かれ、雀聖のみ命を賭けた戦いに移行。

 

 ――アカギ、仕掛ける。

 

「ポンッ!」 {発発横発}

 

 ダンチが第一打に打った{発}をノンタイムで鳴き入れ、場の流れを自分のモノにしようと動き出す。

 雀聖、この光景に顔色一つ変えず、ただ自らの麻雀を貫き通す。

 そして六巡目、アカギの手、仕上がる。

 

「ツモ、発・一通・混一色……3900オール」

 

{二三四五六七七} {横七八九} {発発横発} 自摸和了{一}

 

 鳴きの速攻、3900オール、他者を突き放す。

 だが、ここで違和感。

 ダンチから鳴いた{発}これがどうしても気になる。いつもの自分なら加槓し、ドラを最低でも二枚は増やす、だが、無駄自摸なしと表現すれば聞こえはいいが、手が上へ向かない。

 焦った平凡な打ち手のソレ、流れを完璧に活かしきれない。

 

【東一局・親:赤木しげる】一本場

 

東:赤木しげる  「36700」

南:滝川達夫   「21100」

西:阿佐田哲也  「21100」

北:アカギのおひき「21100」

 

「ツモ、リーチ・門前・平和……1300オール、一本場は1400オール」

 

{567789五六⑤⑥⑦①①} 自摸和了{四}

 

 アカギ、八巡目で平和自摸、だが、ここでも違和感。

 この手、確実に三色に向かって突き進んだリーチ手、本来ならダマで山越しの三色を狙ってもいい局面、だが、この違和感の正体を確かめたくリーチを宣言した。

 そして疑問が確信に変わる。

 

「なるほど……流れの支配は俺にあっても、場の支配はアンタの方か……ッ!」

 

 アカギ、雀聖を見つめる。その姿はどこかおぼろげ、まるで死人のように静か。

 天帰、自らの欲を完全に捨て去り、勝っても負けても恨まない、ただ海流に身を任せる海藻のような立ち振舞。

 流れに身を任せている。だからこそ、アカギが高めを得られない。

 互いの天運が流れと場の支配を奪い合い、相対的にアカギの手が低くなっていく、言うならば守護、アカギが流れという戦車に乗り戦地を駆け巡るとするなら、雀聖はこの場にいる全員を守ろうと守勢に回る。アカギ以外の全員を核兵器にも耐えられる頑丈な地下シェルターに移動させている。それはアカギが連れてきたおひきにも適応される。

 だからこそ、アカギは自摸和了しかできない。

 オカルトな話だが、ことこの場においては説得力が増す。

 

「……八連荘はあるのか?」

「ああ、翻数縛りも無しだ」

 

 互いのおひき、言葉が出ない。

 この状況、裏表ともに名の知れた麻雀打ちの戦い、理解できない部分が多々発生する。だからこそ、この二人の勝負に何も言い出せない。口から音すら出せない。

 その後、ペースは完全にアカギのものになる――。

 

「ツモ、500オール、二本場は700オール」

「ツモ、500オール、三本場は800オール」

「ツモ、500オール、四本場は900オール」

「ツモ、500オール、五本場は1000オール」

 

 アカギ、怒涛の自摸和了、雀聖が高い手やドラを天運によって使わせないのであれば、自らは連荘の最高峰、八連荘に挑む。

 怒涛の六連荘、残り二回の和了で八連荘が成立する。

 雀聖、まだ動かない。

 ダンチは止まらない汗を袖で拭うが、その袖すらも水に浸けたかのようになっている。雀聖の防戦一方、何十年という付き合いだが、ここまで雀聖が押されるところは見たことがない。

 ――負ける。

 脳内に駆け巡る雀聖の死、裏世界の麻雀、死するなら骨すら残さず神隠し、雀聖の名は語り継がれるだろうが、雀聖を知る者にとっては最大の屈辱。

 雀聖、アカギに負ける。

 洗牌、ダンチの目はサマ師の目に変わる。

 

 だが――ッ!

 

「その山、崩してはくれないか……俺のおひきが迷惑をかけた……」

「……あくまで真剣勝負、なるほど、フェアなんだな」

「あ、ああ……」

「ダンチ、便所だ……」

 

 便所から響き渡る中年男性の叫び声、打撲音、痛みによってこの戦いの意味をまた一人理解する。

 雀聖、阿佐田哲也は死ぬことを恐れてはいない、ただ、死にたがりのガキ相手に大人の余裕を見せるのが仕事、死にたがりのガキに殺されたのなら、自分もまだ麻雀打ちとして青い存在だったと納得している。

 ――この戦い、完全に天に任せている。

 

「すまなかったな……チョンボをとってもらって構わない……」

「いや、アンタの姿勢は嫌いじゃない。続行だ……!」

 

【東一局・親:赤木しげる】六本場

 

東:赤木しげる  「51100」

南:滝川達夫   「16300」

西:阿佐田哲也  「16300」

北:アカギのおひき「16300」

 

 絶望的な点数状況、この場でどうにか流れを掴もうとダンチは鳴きの速攻を仕掛けていく。

 だが、雀聖と神域、その戦いに割って入れる程の器ではない。

 無慈悲にもその言葉が告げられる。

 

「ロン……断么九……親の40符1翻は2000、六本場は3800」

 

{567②③④⑥⑦⑧六六八八} ロン{八}

 

 ダンチの体から力が抜けていく、このアカギという男はロン和了したいが為に{五}を平然と叩いている。

 自摸和了からの脱却、それを目的として良型両面からシャボ待ちに変化させた。

 ――勝てない、誰もがそう思った。

 

「まあ、次は役満だ。煙草でもゆっくり吸って和了りな」

「……案外、あっさりしてるんだな」

「ツキはアンタに出てる。だからこそ、これだけ積み棒が乗ってる……拒んでもしかたがない……」

「……雀聖、阿佐田哲也――アンタは」

「自由に生きて、理不尽に死ぬ、これが俺の博打だ……」

「なるほど……似てるが違う……」

 

 アカギ、雀聖に一種のシンパシーを感じていたが、それは見当違い。

 言ってしまうなら、体が焼け焦げるようなギャンブルを求めているアカギ、一瞬の油断で死んでしまうギャンブルの本質を求めている雀聖、似ているようで真逆。

 アカギは死人として生の実感を得ようとしている。

 雀聖は生き人として死の理由を得ようとしている。

 まるで正反対、博打打ちとしてどちらも正しい。

 

「なあ、アカギ……次の年号はなんになるとおもう……?」

「さあね、興味がない」

「俺は……昭和に死にたい。昭和の玄人として死んでいきたい」

「…………」

「もし、この勝負がアンタの勝ちだったなら、それもまた俺の勝ち、昭和に死ぬ」

「……期待外れだ」

 

 互いに煙草を揉み消し、山を積み上げる。

 互いに互いを意識していない、ただ、その場所にいる麻雀打ちとしか言いようがない。

 だが、天は、卓は、勝負は、彼らを雀聖と神域として見ている。

 

『アカギ・配牌』

 

{一九19①⑨⑨⑨東南西北白} ツモ{発}

 

 アカギ、八連荘に王手の状態で配牌国士無双聴牌、神はこの男を選んだ。

 だが、アカギ、ここで迷う。

 あまりにも出来すぎている。雀聖とそのおひきは完璧にヒラで打っている、それなのに漂うこの気配、何かしらの理不尽が出てくる前触れ、肌を焦がすような何か。

 

「……人和は役満か?」

「いや、倍満にしてる」

「そうか……」

 

 人和が役満ではない、それならばと{⑨}に手がかかるが、それでも押し寄せてくる危険信号。

 体から出てくる危険だというストップ、この感覚に何度も救われてきた経験がある。

 だからこそ――

 

「九種九牌だ……」

「うえぇ!? 国士無双聴牌じゃないか!!」

「だが、九種九牌だ……ッ!」

「アカギさん!? 八連荘を捨ててなんで……」

 

 アカギ、雀聖を睨む。

 我関せずとソッポを向くがアカギのセンスからは逃れられない。

 

「アンタも張ってんだろ……俺以上の手を……!」

「開けてどうする? 流されたモノは見ない方がいい……」

「ククッ……食えない人だ……」

「おまえさんに言われたくないね」

 

『哲也・手牌』

 

{19一九①⑨東南西北白発中}

 

 パタンッ

 

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏}

 

 アカギ、逆転の一手を殺す。

 

【東一局・親:赤木しげる】8本場

 

東:赤木しげる  「51100」

南:滝川達夫   「12500」

西:阿佐田哲也  「16300」

北:アカギのおひき「16300」

 

 

「うっわ、それ国士無双以外は経験あるんですがそれは……」

「まあ、四暗刻だったかもしれん、じゃが……哲さんは確実に役満を張っておった……」

「で、神域が逃げ切り……最後の半荘はどうなったんだよ……」

「まあ、墓参りの時に教えてやるさ」

「うっわー……一番気になるところを……」




 次回、アカギの墓に到着します。

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