雀聖の器 作:マージャンスキー
新幹線から降りて山手線、その後はタクシーを使って東京か? そう感想が出てくる墓地に足を踏み入れる。
爺さんは花屋から大量の花を携えて、その場所に向かう。
雀聖、阿佐田哲也、まあ、阿佐田哲也はペンネーム、朝だ……また徹夜だというのがこの名前の由来……。
阿佐田哲也の本来の名前が刻まれた墓石、アカギのようにボロボロになっているわけではなく、綺麗な大理石でできている普通のお墓、大きさも隣り合う墓地と大差ない。
「哲さん……貴方の器を見つけましたよ……」
爺さんが見せたこともない寂しい表情、それだけ雀聖を慕っていたことを表している。
なんだろうか、やはり死人に感情移入ができない。
昔、「千の風になって」とかいう歌が流行ったが、正しくそれ……こんな場所に雀聖が眠っているわけがない……。
芽が出た博打打ちでも観察しているのではないか? そう思えてならない。
「結局、昭和には死ねませんでしたな……でも、哲さんらしいですよ……」
ガクリッと墓の前で崩れ落ちる。
この感じを見る限り、数年、下手をすると十年はこの場所に来ていなかった……そんなところか……。
そういえば、雀聖は昔から昭和に死にたいと語っていたらしい、昭和の玄人、博打打ちとして死んでいきたい。
だが、天は……雀聖を平成、平成元年まで生かすことを選んだ……。
多分だが、雀聖を慕う者達に別れの時間を与えたのではないか? 魂がある状態で……教え子達に雀聖がなんたるかを教えることを使命としたのではないか……。
わからない。
動けない爺さんの変わりに墓の掃除を淡々と進めるが、俺もこんな風に誰かに……死しても思われる存在になれるのだろうか……。
プロ雀士になって、大量の教え子達をかかえるのか……それとも、闇に屠られるのか……。
俺が真っ当な人生をおくれる可能性は低い、墓を建ててもらえる可能性だって……。
だからこそ、雀聖に、雀聖の墓に憧れてしまう。
「爺さん、線香」
「あ、ああ……すまんな……」
死に急いでもいないが、生き急いでもいない。
阿知賀のクソガキ、雀聖の器よりずっとしっくりくる。
だが、なんとなくだが……理解できる……。
雀聖がなんたるか……。
2
「また酷いことになっておるのぉ……」
「うっわ、雑誌で見た時よりエッフェル塔してやがるぜ……」
アカギの墓、博打打ちの聖地、その墓石は完全に剥ぎ取られ、名も記されていない。ただ、避雷針やエッフェル塔という例えが酷く似合う。
尖り過ぎ……モンハンの初期ランスみたいに尖ってやがる……。
だが、博打打ち、麻雀打ちの神様、昔は雀聖だったが、今は神域、神域の人気は衰え知らず。
「まあ、一輪くらいはくれてやる……」
爺さんが残った百合を一本だけ墓に供える。
死人に口無し、アカギという人間がどういう生き方をしたのか……自伝の中で読み取ることができるが……。
それもまた断片的、だからこそ――この人の人間らしい一面はどんなものだったのか?
「流也、最後の対局はな……幽霊が出たんじゃよ……」
「幽霊?」
「ああ、哲さんがワシの師匠なら……哲さんの師匠は「房州」、ワシも死ぬ日にあったんじゃが……凄い打ち手じゃった……」
「なあ、どうせ役満だろ? 出てないって言ってたじゃねぇーか……」
「哲さんとアカギからって意味じゃよ……」
屁理屈、そう思った。
3
生死を賭けた三戦目。
雀聖・神域ともに雅に煙草を吹かす。
だが、ことダンチに限っては顔色が青く染まっていた。
雀聖はアカギの命に毛ほどの興味もない、だが、命がかかっているというホームグラウンドでアカギは自分の闘牌を繰り広げている。
さっきの八連荘未遂もそうだ。完璧に雀聖の豪運を見切り、八連荘という役満を捨てて見えない役満を握り潰した。
この勝負、誰がどうみてもアカギ優勢。
「……アカギさん、やっぱり命は」
「あっちは賭けてる。男に二言は無しだ……ッ!」
そう、あっちは命のやり取りをしていない。
最後の半荘、雀聖が負ければ確実に命を落とす。そして、ヤクザか何かを呼んで死体の処理をさせるだろう。
だが、雀聖の表情は変わらない。この半荘に勝てるという絶対的な何かを隠し持っているような感覚。
ダンチはそれに賭けるしかないと思った。
「……打とうか」
「……そうだな」
ダンチは泣きべそを書きながら風牌を捲る。
出目は{東}、立ち親。
雀聖がダメでも自分が勝てば阿佐田哲也の命は助かる。
強い心、それを持って対局に挑む。
――坊や、まだまだ弟子達に教えてないだろ。
ダンチの目に雀聖と出会った頃、雀聖の師匠と呼ばれた男の姿が写った。
だが、雀聖は亡霊に何も答えない。
頭がおかしくなったか、そう思いながら卓に座り、静かに山を積み上げる。
これが最後、これが最後なのかもしれないという感情がせりあがる。
――坊やのおひきよ、坊やを表に戻してやってくれ……。
亡霊がささやく、そして、ツモ牌を残して理牌。
{一一一二三四五六七八九九九} ツモ{裏}
九蓮宝燈、それも純正九蓮宝燈。
いつものダンチなら叫ぶだろう、だが、あの時出会った――房州は……これを和了していた……ッ!
静かにツモ牌を開く。
{一一一二三四五六七八九九九} 自摸和了{二}
「……ツモ、純正九蓮宝燈・天和、四倍役満」
全員が息を呑む。
そして、真っ先に反応したのはアカギのおひきであった。
「イカサマしたな! よくも!!」
「やめろ……そいつはイカサマなんてしてない……」
「あ、アカギさん?」
「それは……天からの授かりもの……」
――誰にも防げない最高の役満。
「……房州さん」
この夜の出来事は終わった。
天運ではなく、亡霊の加護によって……。
「アカギ……おまえは俺に二つ名を求めたよな……」
「……ええ、授けてくださいな」
「――神域、死者を連れてくるなんて神様の領域に入らなきゃ出来ねぇ、使いたければ使いな」
「……ククッ――悪くないねッ」
この後、二人が出会うことは一度もなかった。
もう二度とアカギ書かない! 誓いました!!
阿知賀12後 寄り道していいですか? 11書き直し許可感謝!
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おまけの中身 以下略