雀聖の器   作:マージャンスキー

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バイバイ京太郎

 出目徳の爺さんと出会って二年くらい経過した。

 この爺、無理難題を押し付けてくることに関しては右に出る者はいない。

 このクソガキ二人に何人のプロを落とさせたんやら? 三人くらい二軍から放流されてたぞ、やっぱり小学生に負けるってのは精神的ストレスがヤバイんだな、小学生と打たないことにする。

 今日はどんな無理難題を押し付けてくるのかと身構えていたが、京太郎が本物の両親の元に帰るらしい。

 同じ釜の飯を食う間柄が去っていくのは辛い限りだが、両親が戻して良いと考えているなら仕方がない。

 

「なんでも、おまえの弟さん……車に轢かれてミンチらしいぜ……」

「……そう、ですか」

「爺! もう少しTPOとかいうのを考えろよ!!」

 

 京太郎の表情は明鏡止水、本当に静止画のように動かない。

 濁りきった瞳は何を見ているのかと問いかけたくなる。

 だが、弟が死んだからって……捨てた兄貴を連れ戻すか……。

 

「ただ、おまえさんの記憶を消さなけりゃならん」

「……記憶? そんなことできるんですか」

「ああ、だから鹿児島に連れていくぞ」

「記憶を消すオカルトなんて……まさか……?」

 

 鹿児島の神代だったか? 全国大会編に出てきたオカルト全開のチーム、その一人は神様を降ろして役満バンバンだとか……それを京太郎に……。

 まあ、麻雀というルールの中で発生させる奇跡、それだったら神様も役不足、本来はこういう使い方をするんだろうな。

 

「……流也との記憶も」

「わからん、神様の気分次第じゃろうて」

「……流也」

 

 そういう目で俺を見るな……。

 

「多分、そっちの方が幸せだ……俺のことは気にするな……」

「……流也、流也との記憶は消したくない」

「そういうな、俺はもう戻れないが……おまえは戻れる……」

「――嫌だ! 最初の友達を忘れたくない!!」

 

 出目徳の爺さんが悲しそうな瞳を見せる。

 タヌキ爺だが、人間の感情を持っているってことか? 多分、金銭は生じているだろうが……本来は俺達を死ぬまで育てる覚悟は持ってた筈だ。

 だが、爺さんの仕事はかならず前金、もう仕事は受けている。

 

「……鹿児島で麻雀を打てばいい。僕は流也以外に負けない、相手に麻雀を押し付ける」

「……まあ、それなら須賀さんは京太郎を引き取らんじゃろうが」

 

 京太郎の覚悟は本物か、別に俺みたいなモブに執着しなけりゃ幸せなのにさ……。

 

 

 鹿児島に到着した。

 俺は地元に残ってよかったんだが、親友との最後の時間とやらで出目徳が俺分の旅費も出してくれた。

 ただ、この場所は鳥肌もんだぜ……。

 

「……場違いってのはこのことか」

 

 霞がかった長い階段、爺さんはヒィヒィ言いながら上がっているが、一段一段ごとに感じる邪を払うこの感覚、確実にオカルトの総本山だぜ……。

 ただ、京太郎の方は覚悟ガンギマリで記憶を死守することしか考えてない。

 もう、逃げられないという感覚が体を拘束する。

 

「ようこそ、滝川さま……」

「巫女さんや、手っ取り早く記憶を切ってくれ……情がでんうちに……」

 

 巫女服に身を包んだ女性、その後ろに隠れてチラチラしている少女。

 ああ、どっちだろう? 神代小蒔なのか、それとも石戸霞なのか、まあ、どっちもオカルトだ……京太郎の記憶を切り刻む存在でしかない。

 京太郎が俺の左手を痛いほど握りしめる。

 

「僕と麻雀で勝負だ! 僕が勝ったら記憶は消させない!!」

「ひッ!?」

「……京太郎」

「僕は……僕の幸せな時間を奪わせはしない……!」

 

 京太郎の鬼気迫る表情に気圧されて少女は逃げ出そうと方向転換、だが、母親だろう巫女に止められる。

 俺は……どうしたいんだろうか……。

 

「では、姫様と私が相手になりましょう」

「流也……僕が勝つところを間近で見ていて……」

 

 出目徳の爺さんは目をそらした。

 

 

 

【東一局】

 

東:俺

南:巫女さん

西:神代小蒔

北:京太郎

 

 結局、なし崩しで俺も卓に入ることになったが、典型的なデジタル思考の俺がオカルト麻雀にどれだけ適応できるか気になる。

 別に京太郎の記憶だとか、そういうのは関係ないんだ。俺はこの卓で何かを残せるのかと感じてしまう。

 まあ、立親……短期勝率は二番目に高い、北家が短期勝率最強だっけか?

 

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} ツモ{裏}

 

 あら、なんで牌が全部裏返ってるんだ? 牌を何度も確認するが背面しか見えない。

 ああ、そうか、俺は勝負さえさせてもらえないのか。

 

「……何をしやがったッ!」

 

 立ち上がって巫女を睨みつける。

 だが、微動だにせず、自分の配牌を睨んでいる。

 これじゃあ、麻雀なんて……。

 ――いや、いいんだ。

 京太郎は原作のキャラクター、俺みたいなモブは隣に立てない。

 だが……だが! 勝負を投げる気はねぇ!!

 

「こいつだッ!」

 

 盲牌でどうにか配牌は理解できた。ただ、ロン和了ができねぇ、河の牌まですべて裏面、目がぶっ壊れてんのかよ……!

 あくまでも自摸和了、俺にできることはそれだけ……京太郎は牌が見えてる。だから、京太郎の勝負を壊すわけにはいかない……!

 六巡目、どうにか聴牌だと思う。だが、立直ができねぇ……河の牌が見えねぇからロンも和了牌の枚数も確認出来ないんだ。

 七巡目の牌は和了牌じゃない、ツモ切り。

 

「ロン」

 

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏}

 

「何点だ! 早く宣言しろ」

「平和・断么九・ドラの3900です」

「クッ……」

「どうして……流也がこんな手を放銃するわけが……」

 

 京太郎、おまえは構わず自分の麻雀をつらぬ……声が出ない!?

 

「あ、あう……うぅ……」

「流也!」

 

 京太郎が介抱しようと立ち上がるがそれを制し、点棒を巫女に投げ渡す。

 おまえらは……俺も消そうとしてんのか……。

 溺れるような感覚、だが――まだ勝負は終わってない。

 

「ロンッ! 七対子!!」

 

 それでいい、京太郎、おまえはおまえの勝負を貫けばいい……。

 俺は……おまえのライバルだからさ、おまえが負ける姿を見たくない……。

 

「ツモッ! 門前・断么九・七対子・ドラドラ!! 跳満!!」

 

 そうだ……進め……。

 

「すぅ……――」

「ごはっ!?」

「りゅ、りゅうや……」

 

 へへっ……最近の神様は攻撃的だねぇ、血ぃ出てるぜ……。

 ああ、京太郎……俺の大親友……。

 張ってるんだろ? だからさ、俺の変わりに勝ってくれ……。

 

 ――タンッ{中}

 

「「ロン」」

 

 ま、まさか……。

 

「頭ハネ……国士無双……」

 

{一九①⑨19東南西北白白発} ロン{中}

 

「ダブロンだろ! なあ、ダブロンだろ!!」

 

 見えるぜ、京太郎……。

 おまえの最高の七星がさ……これだからおまえとの麻雀はやめらんねぇ……。

 

{東東南南西西北北白白発発中} ロン{中}

 

 意識が消えていく、その中で……泣きながら俺を呼び続ける声がする……。

阿知賀12後 寄り道していいですか? 11書き直し許可感謝!

  • 怜を可愛くかかんと容赦せいへんで!
  • 愛宕親子再び
  • 京ちゃんの小学生時代希望
  • テレビ番組出演(はやりん☆)
  • BADENDとかある? 見たい
  • おまけの中身 以下略
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