孤児の私、親はどうやら魔法使いだったみたいです 作:Silkyy
「ギル!ギルバード!ご主人様のお帰りよ!おいで!」
ギルバード?執事かな?と思っていると、パチンっという音がしてエレナのそばに何かが現れた。
「主様!お帰りなさいませ!いつ帰ってくるかとまちわびておりましたよ!」
嬉しそうなきいきい声で話す其れは、絵本で見たゴブリンを細くしたような見た目に、簡易的なワンピースのようなものを身に着けていた。
「な、中山さん。この生き物は?」
「これはね。屋敷しもべ妖精って言って、私の家にずっと仕えてくれている生き物よ。名前はギルバード。ギル、この子が例の子よ。」
「ああ。お話は聞いております。エレナ・クレース様でございますね。屋敷しもべとして中山家にお仕えさせていただいております。ギルバードと申します。エレナ様がご滞在の間、御用があれば何なりとお申し付けくださいませ。」
そういって、きれいなフォームで深々と頭を下げられ、エレナもあわててお辞儀を返す。
「よ、よろしくお願いします。ギルバードさん」
「ギル、さっそくで悪いけど、車と荷物を片しておいてもらえる?エレナの荷物も、部屋に運んでおいて。あと、朝ごはんの用意もよろしく。エレナ、洋食と和食、どっちがいい?」
きびきびと指示を出す中山さんに驚きつつも(学園にいたときはおっとりしているイメージしかなかったのだ)
「洋食がいい。」
と答える。
「ギル、聞いたわね?じゃあよろしくね」
「はい。了解いたしました。主様、十分程お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「いいえ、五分で。エレナもおなかがすいているだろうしね。」
「了解いたしました。では、失礼いたします」
ギルバードがお辞儀をした後すぐにまたパチンッという音がして、ギルバードの姿が消えた。
「じゃあエレナ、ギルがいろいろやってくれいる間に、この家を案内するわね。ついておいで」
「う、うん」
歩き出した中山さんの後を小走りについていく。まずは一階の右側から案内される。階段のそばの扉を開けると、大きなソファと小机、壁一面に本が並べられている、書斎のような部屋があった。
「ここは書斎?」
「ええそうよ。私のお父様が使っていたの。エレナも英語を勉強したらここの本をよんでみたらいいんじゃないかしら。魔法界のことから魔法生物、魔法薬、魔法史までいろいろなことについての本があるから、きっと気に入るわよ。」
「へえ…中山さんのお父さんは学者さんだったの?」
「ええ。私もちいさかったからよく覚えていないけど、その界隈では結構著名な人だったみたいなの」
「ふーん。いいなぁ。早く私も英語読めるようになって読みたいなあ」
学者レベルの人の部屋にある本なんて絶対面白いに決まっている、英語習得が最優先の課題だなあ、とワクワクしつつも課題を発見すると、なんだか目線を感じて上を見上げてみる。すると中山さんの優しい目と目があう。
「何?なんか私変なことしてた?」
不安そうに尋ねると、中山さんはゆるゆると首をふって
「ううん。ただ、エレナは絶対私たちと同じ、レイブンクローに入るだろうなって。」
聞きなれない単語に首をかしげる
「私たち?レイブンクロー?どういう意味?」
「そうだなぁ。まずレイブンクローの説明からしようかな。ホグワーツには、学園みたいにいくつかの寮があるの。一つが、グリフィンドール。勇気がある人が行く寮。次にハッフルパフ。公正で優しい人が行く寮。そしてレイブンクロー。エレナみたいに、知的好奇心が強い人、創造的な人が行く寮。最後に、スリザリン。狡猾な人が行く寮。スリザリンに行く人は悪いことをする人が行くことが多いの。例えば例のあの人…。ううん。何でもないわ。とにかく、世紀の大悪党とかが多い寮なの。OK?」
首を縦にふる。
「それで、中山家はね、代々全員がレイブンクロー寮で卒業後も、ほとんどが学者になって偉大な発明をしたり、魔法相に務めたりしているの。わかった?」
後半は少し誇らしげになる中山さんを少し面白く思いながら、頷く。
「私も早く入学して勉強したいなぁ。レイブンクローで友達も作りたいなぁ。きっとみんな勉強が好きなんでしょ?」
「ええ。もちろん。エレナみたいな子がたくさんいるから、話も合うんじゃないかしら。」
「うわー。楽しみー!」
まだ顔も知らないルームメイトたちと本の内容について議論している自分の姿を思い浮かべてワクワクしていると、もう聞きなれたパチンっという音がして、ギルバードが現れた。
「主様、エレナ様、お食事の用意ができました!どうぞ食堂へいらしてくださいませ」
「あら、ありがとう。ちょうど五分ね。やるじゃない」
中山さんが腕時計を見て、お茶目にウインクをする。なんだか学園にいた時とキャラが違う気がするが気にしないことにした。
「お褒めの言葉、光栄でございます。では、わたくしめは厨房の方へ戻りますので、失礼いたします。」
また深くお辞儀をして、破裂音とともにギルバードは消えた。
「さ、スープが覚める前に食堂にいこっか。こっちだよ」
手を引かれるままに、書斎の隣の部屋に向かう。扉はなく、ドアの形にくりぬかれた壁の穴を通り抜ける。正面に大きな暖炉、木でおしゃれに作られた五人分の椅子、部屋の中央に畳二枚分くらいはあるだろう大きさの、黒檀でてきたどっしりとした足の机があり、その上には二人分の高価そうな食器と燭台、かごに盛られた、バターのにおいがたっぷりとする黄金色のパン、新鮮なトマトの香りのするミネストローネ、見るからにパリッとしている青々としたサラダがあった。
「うわぁ…おいしそう」
エレナのお腹がぐぅと鳴る。
「昨日の夜からなんにも食べてないもんね。はやく食べちゃおっか。座ろ座ろ。」
向かい合って椅子に座り、手を合わせる。
「「いただきます!」」
中山さんもエレナも無言で食べた。学園の調理師さんにも引けを取らない美味しさに、ギルバードの料理の腕のすごさを知る。二人とも満足するまで食べて、どちらからともなく同時に
「「ごちそうさまでした」」という。
すると、机の上にあった食器が消えた。
「えっ!お皿消えちゃったんだけど!?」
「ああ。大丈夫だよ。ギルがちゃんと洗ってしまっておいてくれるから。これも魔法だよ」
またお茶目にウインクをして、微笑む。
「エレナ、疲れていなければここで質問タイムにするけどどうする?エレナのことだし、いっぱい聞きたいことあるでしょ」
「あ、ある!いっぱいある!どうやってイギリスに車できたの?海とかあるよね?!それに、ギルが使ってる魔法ってなに?私も使えるようになるの?それと…なんで中山さんは私をここに住まわせてくれるの?私とは赤の他人だよね?どういうつながりなの?」
思わず早口になってしまうエレナの質問を、中山さんは優しい目で言い終わるまで待っていてくれた。
「OK.じゃあ一つずつ答えていくね。まず、どうやってイギリスに車で来たか。これは簡単。車で飛んできたんだよ。いかにも魔法って感じじゃない?」
「車で空を飛ぶ?!そんなことできるの?!」
「できるよ。だって魔法だもん」
いたずらっぽくほほ笑む中山さんは、目がキラキラしていてとても楽しそうだった。
「それと、二つ目の質問ね。ギルの使う魔法は何か。これも簡単。姿くらましっていう魔法だよ。マグル達の言うテレポートに近いかな。エレナたちは六年生から使っていいことになってる魔法よ。簡単そうに見えるけど、難しくて失敗すると体がちぎれちゃうの。ギル達屋敷しもべは私たちよりも魔力が強いから結構使うけどね」
「姿くらまし…すごいんだね」
「最後に、三つ目の質問ね。なぜ私がエレナを面倒見るか。これはちょっと重めの話になるけどいい?」
「うん。もちろん。話して」
中山さんは、一つ深く呼吸して、まるでまだ膿んでいる古傷に触れるような顔をして口を開いた。
「まずね。私はエレナのお父さんとお母さんとは昔からのお友達だったの。」
「え。私の…両親のことを知ってるってこと?」
「知っているどころじゃないわ。お互いが学生のころからの親友だったの。私と、エレナのお母さんのエレノア、お父さんのクイン、それともう一人、今はもう亡くなってしまったけど同じく親友のショーン。私たち四人は全員同じレイブンクロー寮で、七年間をずっと一緒に過ごしてきたの。ここまでは大丈夫?」
「う、うん。エレノアとクイン…お母さんとお父さんの名前、初めて知った…。」
思いもよらなかった自分の両親とのかかわりに、エレナは名前を頭の中で反芻することしかできずにいた。
「そうだよね。私もエレナに話してこなかったから。今まで隠しててごめんね。でも、この機会に話せてよかった。ええと…先に進んでもいい?」
「うん」
「私たちはホグワーツを卒業した後、みんなばらばらの道に進んだの。私はマグル達の世界で子供について学ぶことにして、エレノアは魔法相に、クインは魔法薬の研究者に、ショーンは…」
少し言いよどんで、目線をおとす中山さんに、ショーンという人物に何かが起きてしまったことを察する。
「そ、それで?お母さんとお父さんはどうしたの?」
「あ、そうね。ええとね、それが、、、わからないの」
「わからない?」
「ええ。卒業してからも私たちはフクロウ便でお互いの近況報告をしていたの。でも卒業して五年後、いきなりフクロウ便が途絶えてしまった。」
「そんな…じゃあお母さんたちは」
「わからない。今どこにいるのか、何をしているのか、生きているのかすらも。私もありとあらゆる手を使って魔法界もマグル界も調べた。でも見つからなかったの。そして、10年前。いきなりエレノアとクインからフクロウ便で手紙が届いたの。それが、エレナ。あなたのことを頼む、一人で生きていけるまで面倒をみてくれ、という内容のものだったわ。ご丁寧に学園の住所まで書いてね。だから私は菜夜学園に就職して、エレナのことをそばで見守ってきたの。これが、私がエレナの面倒を見ている理由よ。」
流石のエレナも、茫然としてしまった。両親は自分をなぜ捨てたのか。なぜ学友に託したのか。捨てるならばポイっと捨ててしまえばいいのに。そしてなぜわざわざ日本という遠い国に捨てたのか。いくつものなぜがエレナの頭の中を飛び回っていた。
「大丈夫、じゃないわよね。ごめんなさい。でも噓をつかれるのは好きじゃないでしょう?」
「う、うん。」
たくさんのなぜのなかで一つ、どうしてもわからないことがあった。
「あのね、中山さん。なんで私にここまでしてくれるの?私なんて、ただの友達の娘だし、こんな、、、自分の家に迎え入れてもてなす義務なんてないはずでしょ?」
エレナが恐る恐る聞いた質問に、中山さんは満面の笑みで答えた
「ああ。それなら簡単だわ。私がエレナを愛しているからよ。」
「あ、愛してる?」
予想だにしなかった返答に、エレナは思わず目を見開いて大きな声を出してしまった。
「ええ。確かに、言ってしまえば私とエレナは他人よ。でもね、エレナ。他人同士でも愛情は芽生えるの。七年間、ずっとエレナのことを見守っている間にエレナのことが実の娘のように思えてきてね。職員だからとか、親友に頼まれたからとかじゃなくて私個人として、あなたのことをとても愛おしく思っているわ。」
中山さんの優しい、いつくしむような眼が、その言葉を真実だと語っていた。
「あ、ありがとう。であってるのかな」
嬉しさと気恥ずかしさから小さくなったエレナの声を中山さんは聞き逃さず、
「ふふ。どういたしまして。そうね、ここまで話しちゃったし、、、エレナ、クインとエレノアの写真って見たかったりする?」
少しためらうように言われたその言葉にエレナは飛びついた
「見たい!見てみたい!絶対見たい!」
学園にいたころ、カナとエレナでよくそういう話をしていたのだ。両親がどんな顔をしているのか、どんな目の色、髪の色、背格好をしているのかということを妄想しては笑いあっていた。
さっきとは打って変わって大きな声を出して、興奮気味のエレナに、中山さんはほほ笑んだ。
「そうだよね。アクシオ!写真よ!」
ジーンズのポケットから三十センチほどの黒い木の杖を取り出し、知らない呪文を唱えた。すると、階段の奥からひらりと一枚の写真が飛んできて、するりと中山さんの手に収まった(魔法のじゅうたんのように、本当に飛んできたのだ)。
「この、両端の二人がエレナのお父さんとお母さん、クインとエレノアよ」
そういって差し出された写真には、四人の若者が写っていた。左端には柔らかそうなプラチナブロンドの髪を少し襟足長めに伸ばしている、エレナと同じ目の色をした強気そうな青年、その横に腰まである黒髪に黒目の優しそうな女性(多分中山さんだ)、つんつんしていて四方八方に好き勝手伸びている茶髪の、おっとりしていそうなひょろっとした青年(目を細くして笑っているため目の色がわからなかった)と続き、右端に、肩くらいまでのブロンドの癖っ毛でハシバミ色の目をした背の高い女性がいた。四人とも楽しそうに笑ってこちらに手を振っている。