赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている   作:ピグリツィア

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深層域への挑戦

 迷宮の一角、休息がてらみんなの武器の整備をしつつ前日の事件の顛末をフィンから聞く。

「それで、結局はロキやフィンに任せっきりになるということか」

「そうなるね。とは言え、僕達でも具体的な対策は何もできないけどね。精々が有力ファミリアに警戒を促す程度だ」

 公開する情報もかなり絞られるとのことだ。公開した所で無用な混乱を生むのと、ロキに何かしらの考えがあるらしい。何はともあれ、例の事件については私の仕事はもう無いらしい。

「全く、とんだ事件だったな。私なんてギルドでの事情聴取が長引きすぎてロキがキレていたからな」

 丸二日拘束されたからな。三日目にしてロキがギルドに突入してきた時は正直助かった。

「ははは…まあ無理もないね。君は書面上、というか実際にレベル1だから色々とね…」

 そうなのだ、私とアイズ、ティオナにレフィーヤが揃ってやらかしたのだ。具体的には私が何をしたか馬鹿正直に言ってしまった。

「あれは失敗だった、よくよく考えればわかる筈だったんだがな」

「僕も事情聴取中に気がついたよ。失念していた、カーリーがレベル1って事実をね…」

 レベル1が迷宮の楽園でレベル5、6の冒険者と共にリヴィラの街の冒険者を防衛しつつ、襲撃者を撃退。よくよく考えなくてもおかしいな。

「ロキがギルドで大暴れして、紆余曲折あってウラノスとロイマンの前で自分がレベル1だって証言したんだっけ」

「ああ、正直あそこまで大事になるとはな、気分的にはリヴィラでの戦闘よりも疲れたぞ」

「全くだ、私も忘れていたから人のことは言えんがな」

 リヴェリアも荷物の整理が終わったようだ、そろそろ休息も終わりか。

「私とフィンは存在こそぼかしたが穴だらけの報告、ティオネは直接言わなかっただけでしどろもどろ、他は正直にカーリーの活躍を英雄譚のように、またはそうして当然と言ったように報告…」

「申し訳ない…」

「いや、今回は誰も悪くないと思うよ、ロキすらも考え付かなかったからね」

 ロキも最後は『アイズやティオネ達と並んで戦う実力者ならちょっと盛った程度の活躍っぷりや!それがたまたまレベル1だっただけやろ!何が悪いんや!』なんてあまりにも無理すぎる事を言っていたからな。

「さて、そろそろ出ようか?」

「そうだな、私はいつでもいけるぞ」

「頼もしいな…深層域でこの胆力はレベル1じゃないな…」

 何を今更と言いたいがついこの間それが問題になったのだから肝に銘じておかねばな。私はレベル1、私はレベル1…

「そもそもどれだけ強い仲間を連れていようとレベル1は深層域に来るべきではないんだけどね?」

 

 一度拠点に帰ってから誘ったレベル3のラクタを含めた8人でダンジョンを進む。

「カーリー、まだ余裕なの?」

「だな、まだここら辺なら一人で行動しても問題はないな」

 ティオナの問いかけにそう返すと、あちこちからため息が聞こえてくる。

「もうコレ逆レベル詐称した方がいいんじゃない?」

「絶対にまたどこかでやらかすよね、あたしはやらかす自信あるよ!」

 私も油断したらやらかすと思う。まだこの世界に来て日にちも浅いからな、力関係とかもうまく把握できていない。

「正直それも手かもね、逆レベル詐称なんてどこもやらないだろうし疑われにくい筈だから…ロキと相談してみるか」

 私の役割はサポーター兼レフィーヤとラクタの護衛だ。主に後方の警戒を担当している。

「アイズ、前に出過ぎだ!もう少し下がってくれ!」

 アイズはリヴィラの事件以降、焦るようにモンスターを狩り続けている。周りに気を配る余裕もないようだ。

「フィン、前進のペースが速い。アイテム回収がギリギリだぞ」

「ンー、そうだね…ティオナ、アイズのカバーをしてくれ。こっちは少しペースを落とそう」

「はーい!アイズ待って〜!」

 ティオナがアイズの方へ向かいこちらは速度を落とす。心なしかレフィーヤとラクタも少し肩の力を抜けたようだ。

「まったく、アイズはあそこまで考え無しじゃなかったろうに」

「リヴェリアは何か話を聞いていないかい?」

「ああ、『何でもない』の一点張りだ。この様子だと少しきつく言い聞かせた方がいいか…」

 手持ち無沙汰になったフィンがアイテム回収にまわりレフィーヤとラクタの負担を減らしつつ、アイズの様子を伺う。

「今は効果が薄そうだね…やれやれ」

「団長、リヴェリア様…アイズさんは、大丈夫なんでしょうか」

「ああなった時は大抵空腹になれば治る…腹を空かせた素振りを見せたら餌付けしてやれ」

「は、はいっ」

「餌付けで落ち着くのか…」

 何というか単純なんだな…その片鱗を見せていなかった訳ではないが実際に言われると少しな。

 

「随分稼げてるし、そろそろ十分じゃない?もう五日も潜ってるしさぁ」

「うん…そうかな」

 バックパックにはまだ余裕はあるが、帰りの事を考えると今から戻れば十分埋められるだろう。

「4000万は行かないかもだけど、それでも十分な稼ぎにはなるわよね」

「そうだね、物資的にはもう少し居てもいいけど…余裕を持ってここら辺で切り上げてもいいかもね」

 確かに私たちは未だ余力を残しているが、ラクタはレベル3になったばかりだ。精神的な疲労も大きいだろう、それを踏まえれば帰還も十分視野に入る。

「あ、ルーム」

「ほう、広いな」

 ダンジョンでも一際大きい広間に出る。白い壁や床の果ては霞んでいる。

 都市でもなかなか見ない光景に目を奪われていると、何かの割れる音が聞こえてくる。

「うん?どこだ?」

「床ね」

 思わず顔を顰めてしまった。それを見たティオネも苦笑いする。

「大丈夫よ、と言うには変だけど、嫌というほど見たあいつらじゃないわ」

 地面から出るモンスターと聞いて怪物祭やリヴィラの街で嫌というほど戦った植物型モンスターを想起する。武器さえあれば梃子摺る相手ではないが流石に食傷気味だ。

 地面から出てきたのは、動く白骨死体だった。そう言えば都市では案外見る機会がないな、白骨化する前に掃除屋に片付けられるからな。

「たしかスパルトイだったか?」

「よく覚えていたな、数が多く盾を持っている奴も少なくないから梃子摺る事もあるぞ」

 そう言う事なら退路を意識しておこう。流石に死人が出るようなことはないと思うが一度に大量の数を相手取れば傷を負う可能性も少なくない。

「フィン、私が行く」

「あ、アイズ!?」

 またもや独断専行、私がここを離れるわけにも行かないのでフィンの判断に任せよう。

「はあ、とりあえず様子見かな。ティオナ達は周辺の安全確保をしてくれ、カーリーはそのまま退路の確保を頼むよ」

「了解だ」

 

 アイズがルームの敵を殲滅したのを確認してサポーターのレフィーヤとラクタが戦利品の回収に勤しむ。私は荷物持ちだ。

 そんな中フィンから話しかけられる。

「カーリーから見て今のアイズはどう映る?」

「少なくとも冷静じゃないな、だがリヴィラでの事を引きずっているにしては少し違和感がある気がする」

 ここまで周りに気を配れない程に焦燥しているのはいくら何でも不自然にすぎる気がする。他に何か彼女を急かすような理由があるとは思うのだが。

「とは言えこれはほぼ勘のようなものだ。あまり当てにはしてくれるな」

「いや、十分ありがたい意見だよ。僕も何かがあるとは思っているんだけど…やっぱり本人が話してくれるのを待つべきかもね」

 ティオナがアイズに餌付けをしている。側から見ても少し上機嫌にジャガ丸くんを受け取って、落ち込んだな。傷んでいたか。

「あの様子を見れば何の変哲もない可愛げのある女の子なんだがな」

「そうだね…さて、いい感じに戦利品も入手出来たしそろそろ帰るかな。リヴェリアはどう思う?」

「異論はない。ではカーリー、頼んだぞ」

 帰りのプランは、チームの消耗具合を見て余裕があるようなら私が前衛を務めるというものだ。EGOは自己判断、後ろはフィンやリヴェリアが務めてくれる。

「ああ、任せてくれ」

「ティオナ!ティオネ!アイズ!撤収するぞ!」

 リヴェリアが少しだけ遠くにいる3人を呼びつける。ティオナとティオネが談笑しながらこちらに来て…アイズの元気がないな、思い詰めた表情をしている。

「何か一波乱ありそうだな?」

「ンー、何をねだってくるかな?」

 アイズが私たちの前に立ち、申し訳なさそうに少し視線を彷徨わせてからこちらを見る。

「…フィン、リヴェリア。私だけまだ残らせて欲しい」

 予想はしていたが本気で言ってくるとはな。この階層での単独行動のリスクを把握できないほどの素人でもないし、何かしらの目的があるのだろう。

 ティオナ達の反対を他所にフィンはしばらくの間黙考する。

「リヴェリアはどう考えている?」

 私の問い掛けに、リヴェリアは一呼吸おいてフィンの方へ向き直る。

「…フィン、私からも頼もう。アイズの意思を尊重してやってくれ」

 流石にこれは予想外だ、てっきり猛反対すると思っていたが。

「ンー…?」

 フィンの視線の意図を察したリヴェリアが改めて口を開く。

「この子が滅多に言わないわがままだ、聞き入れてやってほしい」

 ここまで面倒見が良ければママと呼ばれるのも納得だな。口には出さないが。

「そんな子を見守る親みたいな気持ちじゃあ動けないよ、リヴェリア。帰りの予定も立ててあったしね、パーティーを預かる身としては許可できないな」

「甘やかしている自覚はあるが…さて」

 何故アイズはここで残りたいと言い始めたのだろうか。そこまでしてでもモンスターが無尽蔵に湧き出るらしい闘技場に行きたいのだろうか。

「私も残ろう」

 どうやらリヴェリアもアイズと共に行動するらしい。その程度で許可するとは思えないが…

「わかった、許可するよ」

「ええ~、フィン~説得してよ~」

 ティオナの抗議の声と共に私もフィンの方を見る。

「リヴェリアが残るなら万が一にも間違いは起こらないだろうしね、逆に僕たちの方が危険な目に逢うかもしれないけど…」

「私は攻撃と回復を器用になんかこなせませんからね、団長」

 ティオネの言葉でレフィーヤの方を見るが…レフィーヤもリヴェリアの魔法を使える関係上、リヴェリアと同様に味方の回復という役割も熟せるが、『エルフ・リング』を使う必要がある分手間も掛かるし魔力も大きく消耗する。今後成長すればもっと効率化出来るかもしれないが同じ魔法を使うならどう足掻いてもリヴェリアには敵わないだろう。

 レフィーヤもちょうどこちらに気付いたようだ。話は聞こえていたと思うが…私は保護者から説明を求めてみるか。

 

「どういうつもりなんだ?リヴェリアママ」

 フィンも私と同じくリヴェリアの真意を聞こうとしたのだろうが私の言葉でこちらから顔を背けて肩を振るわせる。

「ママと呼ぶな…と言いたいが先程の言葉の手前強く否定はできんな」

「ああ、さっきの提案そのままの意だったならいよいよ僕もリヴェリアの事をお母さんと呼ぼうかな」

 私達に挟まれたリヴェリアは一つため息をつく。

「あまり揶揄わないでくれ…今あの子を止めたところで問題の先延ばしになるだけだ。いずれ爆発するなら今私が見ていられるうちに爆発してもらった方がいいと考えたんだ」

「なるほどね」

「まあ、一理あるか」

 そこまで短慮ではないと思いたかったが、おそらくそういう事もしかねないのだろう。それならばアイズをよく知る二人の判断に任せるか。

「例の調教師が現れることはないと思うけど、どうか気を付けてくれ。僕の手持ちのマジックポーションは全て置いていく。アイズの独断を許したのは君だ、君が彼女の分まで責任を負わなくてはいけない」

「わかっている。そして、すまない、ありがとう」

 二人の話も終わったようだ。次は私から質問するか。

「アイズの目的は何だろうな、闘技場で乱獲でもするのか?」

「さてな、そこまで危険な事はさせたくはないんだが…フィン?」

「ああ…そろそろか」

 どうやらフィンには心当たりがあるようだ、黙って続きを促す。

「ウダイオスの少人数討伐…いや、ソロ討伐あたりかもね」

「ウダイオス…階層主だったか」

 たしかこの階層で出るんだったか。スパンは三ヶ月、前回の討伐は知らないがフィンの反応からして出るのだろう。

「…もう一人、ティオナかティオネ…もしくはカーリーか、必要かい?」

「いや、必要ない」

 ウダイオスと戦うにあたって大きな脅威が幾つかあるが、今フィン達が考えているのはスパルトイだろう。

 おそらく、というよりは必然的に一対一で戦うアイズはウダイオスに釘付けになる。そうなると後衛職であるリヴェリアを守るものは何もない。

「私も素人ではない、それくらいは何とでもするさ」

「そうか、ならいいんだけど…くれぐれも気を付けてくれ」

 リヴェリアの言う通り彼女も自衛の手段を持っていないわけではないが、所詮は後衛職。一人で行動させるのが危険な事は私でもわかる。とは言え本人がいらないと言うなら。

「カーリー、そんな目で見るな。そんなに心配か?」

「心配に決まっているだろう。いくら自衛手段があるとは言え数で押されたら厳しいだろう」

 そう簡単に割り切れる訳でもない。物資的に全員で残る余裕は流石にないだろう、だがあと一人なら許容できる程度にはあるはずだ。

「カーリー、心配なのはわかるけどここは信じよう。大丈夫さ、二人とも引き際は間違えないはずだ」

「そう、だな。わかった、フィン」

 渋々ではあるが私も帰還組の方に行こう。そうだ、彼女達も素人じゃないんだから危険だと判断したら引けるだろう…リヴェリアはともかく今のアイズは大丈夫か?

「アイズも危険だと判断したら何をしてでも私が引かせるさ」

 ついアイズの方を見たらリヴェリアからフォローが入る。リヴェリアなら大丈夫だろう。

「ああ、わかった。怪我をするなとは言わないが気を付けてくれよ」

「できれば怪我もしてほしくないけどね、流石に無傷でウダイオスの討伐は無理だろうからそこまでは言わないよ。でも死ぬのはもちろん、冒険者として終わるのも絶対に避けてくれ」

「わかっている…少し過保護すぎないか?気持ちは分からんでもないがな」

 おそらくリヴェリアが私の立場になったら同じくらい過保護になるだろうに…

「そろそろ行こうカーリー。少し長話になっちゃったしね」

「ああ、わかった。また後でな」

「…ああ、また後で」




~なぜなに!プロムン教室~
いい加減プロムン教室のネタがなくなってきた今日この頃、皆様はどうお過ごしでしょうか。私はナイトシティでモブAになりました。
質問は随時受け付けてます。分からないことがあったら聞いてね!

今回はフィクサーの継戦能力について!
とはいってもそう長々と語ることもないけどね。カーリーに近い実力を持っている特色フィクサー同士がサシで勝負したら文字通り三日三晩ぶっ続けで戦えるらしいぞ!えぇ…こいつら人間やめてない…?

P.S.
今のカーリー(EGO弱体化、ミミック無し)がウダイオスとタイマンしたらギリ負けるぞ!普通に武器が持たないし。ミミック有りだと少し時間はかかるけど普通に勝てるぞ!
アイズは『涙で研ぎ澄まされた剣』を持ったらもっと楽に勝てます。『ジャスティティア』なんて持ったらレベルアップが出来なくなります。象を倒す時、剣で倒したらヤバいけど戦車で倒したら「まぁ余裕やろ」ってなりますよね。EGOっていうのはそういうもんです。

黒い人外伝(ダンまちで言うと本編)書いてるけどいつ出す?

  • 今すぐ出せ!Now!
  • 出す予定の場所(EGO武器使用後)
  • warp列車行き(チラシの裏)
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