赤い霧がダンジョンにいるのは間違っている   作:ピグリツィア

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都市の生活、オラリオの生活

 合流地点に到着したがやることもないのでリヴェリアを見送った後も四人で武勇伝を語りあった。

「ふむ、この世界では武勇伝はほとんどがレベルアップにつながる話になるんだな」

「そうじゃな、レベルアップというのは即ち、己の壁を越えたという証明に他ならないからのう。自らの心にも記憶にも深く刻まれるものじゃな。ワシも初めてレベルが上がった時の事は鮮明に思い出せるぞ!」

「『冒険者は冒険してはならない』なんて言われているけれど過度に恐れすぎるのも考えものね。まぁ仕方がないことではあるんだけど」

「でもカーリーも凄いよね、恩恵があったらレベル5は硬いね。そりゃこんなに強い訳だって感じ」

「羨ましいとは欠片も思えんがな。ワシらが闇派閥に負けたとしてもここまでにならんじゃろ。流石に人間やめとるって感じの治安じゃな」

 随分な言いようだな、だが謝肉祭の話をした私が一番悪いとわかっている為なにも言い返せない。

「人間を食って糸にするっていくら何でもねぇ…人間として死ねるだけ自分の環境がマシだったかもって思っちゃったわ」

「私たちもテルスキュラとか暗黒期とか物騒な経験をしてきたけど流石にここまで精神的にヤバいのは見た事ないかなぁ。モンスターでもここまで悍ましくないよ」

 やっぱり闇派閥の話に合わせて話すのに謝肉祭を選んだのは大間違いだったようだ。まだネズミや人肉料理店の話の方がマシだったか。

「今ぼそっと人肉とか言わなかった?…ごめん、やっぱいい、聞かなかったことにする。こっち見んな、話さなくていいから」

「え、えっと…もっと幻想体のこと知りたいなー!なんかいい感じのやつお願い!笑う死体の山系はやめてね!」

 やはりアレもダメだったようだ。一回話題に出したからなし崩し的に話すことになったが案の定微妙な顔をされてしまった。

「ふむ…では『たった一つの罪と何百もの善』という安全な幻想体について話すか」

「随分と意味深な名前じゃの」

「人の罪の告白を糧とする幻想体だったな、脱走することもなく特に危害を加えられることもなかった。あの環境ならばエサには困らなかったな」

「はえ〜、そんな感じの無害な幻想体もいるんだねぇ」

「あぁ、嘘さえつかなければなにも問題は起こらなかったはずだ」

「それ嘘ついたら何かしらあるってことじゃないの」

「過去数年の記憶が消えるらしい」

「今までの話を聞いていると生きているから安全だという様に思えてしまうな」

「『何もない』とかも…アレだったもんね」

 私の体験談はこの世界の住人にとっては刺激が強すぎるようだ。謝肉祭は私でもすこしどうかと思うがそれ以外は比較的そこそこ起こる事象だったのだが。

「いやぁ、今の平和がすっごくありがたくなるね。わたしたちもそこそこ悲惨だったから余計にね」

「こういう経験をすればEGOも発現するのかしら。絶対に同じ目には会いたくないけど」

「い〜や、こいつはまだヤバいのを隠しているな。でも話さなくていいぞ。聞きたくない。聞くとしても今日はもう腹一杯じゃ」

 私の世界のことをボロクソに貶してくるが裏路地出身の私には心底同意する気持ちしか湧かない。巣の出身だったらもう少し違ったのだろうが…

 

「びっくりするくらい暗い話になっちゃったなぁ。そうだ!オラリオの話をしよう!」

「そうね、明らかに治安が違いすぎるから色々教えとかないといらぬ諍いを持ってきそうだからね」

「失礼な、流石に戦うべき相手とそうでない者くらい見分けられるぞ」

「悪人も大したことがないからと放置せんか心配なんじゃよ。詐欺とかぼったくりには会いそうじゃからな」

 そこらへんの事情は置いといてもこの世界で最大の巣とも言えるオラリオのことを知るのは悪くないだろう。素直に話を聞くこととする。

「まずは…治安維持を担当しているガネーシャファミリアかな。ミミックを持ってたらギルドからロキファミリアのホームに戻るまで10回以上呼び止められそうだし…」

「くれぐれもちょっと敵意を出しながら呼び止められたとしても攻撃するんじゃないぞ。ファミリアとしては間違いなく善の側じゃからな」

「めんどくさいからって叩きのめしていくのもダメよ。普通に捕まるから」

「あんたらは私を何だと思っているんだ?狂戦士かならずものか?」

「いやぁ、そっちの治安が悪すぎてあまりにも神経質になりすぎてないか気になって…」

「まぁその武器を平然と持っている時点でこの世界では狂人側に近い気もするがな!」

 散々な言われようすぎないか?いくら何でもボロクソに貶しすぎだぞ。いや、もしかしたらこの世界は私が想像つかないほど平和なのか?

「ま、まぁそこら辺は置いといて…できるだけ目立たずに過ごすってのは多分無理だろうからちょっと神経質なくらいに警告してるのよ」

「見た目もあるけど纏う雰囲気がオラリオに合ってないというか、まぁ目立つだろうね!自然と目を惹かれると思う!」

「絶対ダンジョンの外に出てもその張り詰めた警戒心を緩めることは無いじゃろうからな。まぁ全く知らない場所ならそれも無理はないが」

 流石に見ず知らずの新天地で気を抜けるほど豪胆ではない。そこがどんなに安全な巣であろうともその巣の規律もあれば裏路地も存在するものだからな。とはいえそもそもこのスタンス自体がこの世界では異質なのだろう。この調子だと家で無防備に寝ても安全だったりするかもな。

 

「そうそう!神様には絶対に喧嘩を売らない様に!買うのもダメだからね!」

「人間にも言えるが殺すのはもっとダメじゃぞ。普通に禁忌じゃからな」

「よく絡んでくるタイプの神もいるけどそういうのがきた時は…とりあえず逃げる感じで!絶対に物理的に往なしちゃダメなんだからね!神ってのは一般人並みにすっごい弱い存在だから!」

「お前らが私をどういう目で見てるかはよ〜くわかった。喧嘩を売っているなら買ってもいいんだぞ?」

 いい加減言い過ぎだ、私にも我慢の限界というものはある。というかある意味子供扱いに近い気すらしてきたぞ。

「だって倫理を一から叩き込まなきゃ絶対に問題を起こしそうだもん!倫理観が違いすぎる!」

「なんていうか街中で人が失踪したり死ぬのが日常みたいな口ぶりだから不安になるのよね」

「みたいじゃなくて日常なんだよ。とりあえずオラリオがどれだけ安全で、諍いを起こしたら面倒かも何となくわかったからもっと私の興味が惹かれそうな話題とかないのか?」

 だから3人ともその怪しいものを見る目をやめてくれ。疑わしいのはわかるが私は都市では比較的イカれてない筈だから何とかなるって。

「本当かなぁ〜、まぁいいや!それなら…何の話題がいいかな?」

「武器じゃないか?多分ミミックは封印されるじゃろうからな」

「悪いけど同意するわ。とりあえずこの禍々しい気配を何とかしなきゃ街中で持ち歩くのは絶対に禁止されるだろうからね」

 それは…かなり困るがまぁ仕方のないことなのだろう。こんな事になるなら予備で小型の工房武器を持っておくべきだったか。

「とはいえミミックに並ぶ武器かぁ。普通に耐久力的な面で見ても一線級じゃないと不安になるよねぇ」

「ふむ、そこはワシから椿に話を通しておくか。流石にカーリーを直接見たら相応の武器を打ってくれるじゃろう」

「ゴブニュの方でもいいけど…頑丈さとか考えたら鍛治ギルドのトップに直接依頼した方が良さそうね。ゴブニュの方はこれからすっごく忙しくなるし…」

「主にうちのファミリアのせいでな!ガハハハハ!はぁ…」

 一気に空気が重くなってしまった。武器代で頭を抱える事になってしまったからだろう。

 

「金はとりあえずワシが出そう。ミノタウロスを処分させた迷惑料と、ミミックを触らせてくれた礼じゃ!」

「形はミミックに近い方がいいわよね、あと伸び縮みする機能は絶対につかないと思うわ」

「すまんな、何から何まで。だがどうしてここまで面倒を見てくれるんだ?」

「まぁまだ予想でしかないが…うちのファミリアに入る事になると思うからの。流石にフィンがおぬしを野放しにすることは無いじゃろう、恩恵を受けるかはロキとカーリーで話し合って決めるとしても活動拠点はロキファミリアになるじゃろうな」

「あー、普通のファミリアに入られるならまだしも巡り巡って闇派閥紛いのファミリアに入られたらヤバいもんね」

 つまり首輪をつけたいと言ったところか。まぁあまり束縛してこないならばやぶさかでもない。見知らぬ土地で一から活動拠点を作るのもなかなかに疲れる事だからな。

「ロキがなんていうか次第ではあるけどカーリーが望むなら無理に冒険者になることもないよ。仕事が全くないわけじゃない筈だし」

「いや、私はこれ以外の生き方を知らないから、もし世話になるとしたら冒険者一択だろうな。恩恵を受けるかは別としてな」

「恩恵がないとダンジョンには入れないぞ。まぁそもそも恩恵を受けていないものがダンジョンに入ることを想定していないだろうから口先で何とでもできるだろうがな!」

「あまり大声で言うことでもないけれどね。いちいち毎日増える新人冒険者の服をひっぺがして恩恵があるか確認することなんてないしね」

「じゃあちょっと早いけどこれからよろしくね!あとで仲間の紹介もしなきゃな〜」

 3人とも流れ者の私を嫌な顔もせずに受け入れてくれるのか。路地裏とは全く違う、見ず知らずの人間に敵意を向けることもなく手を差し伸べられるのか…私たちが目指した形とは全く違うがこれも一つの理想の形なのかもしれないな。

 

 今まで幾度となく裏切られ、奪われたと言うのにまた性懲りも無く差し伸べられた手を取るんだな、私は。




〜なぜなに!プロムン教室〜
今回は巣と裏路地について!
今回はやけにプロジェクトムーンの世界をボロクソ言ってるね!でも向こうは倫理観がすずめの涙ほどもない上に、裏路地にもなると人の命はティッシュ一枚分の価値もないと言わんばかりの世紀末状態なんだ!
巣は大手企業が自ら治安維持に勤しんでいるけど、裏路地なんかは知ったこっちゃないと言わんばかりに放置しているぞ!
裏路地には裏路地の不思議ルールや一応自警団らしきものがあるけど基本的に殺しは罪に問われないぞ!殺しすぎるとハリネズミにされたりして処分されるけどまぁよくある日常風景だね!…終わってんなこの世界。

つ・い・し・ん♡
いやね?当初の予定だとミミックは普通に使いまくる予定だったんですよ。でも話を考えているうちに心の中のロキに「こんな物騒なモン持たせながら街歩かせる訳ないやろアホか」って言われたんですよ。ぐうの音も出なかったですねはい。
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