いずれ神話へと至る物語 〜落ちこぼれだった俺が幼馴染を助けるために相棒の妖魔と一緒に神殺しを決意する〜   作:くーちゃんし

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魔の大森林

 

 

 学校の授業を終えた後、俺は一人魔の大森林に来ていた。

 朝の一件から少しでも早く強くなるために、妖魔退治をしに来たのだ。

 

 大和国を取り囲む大森林には、多くの妖魔が住んでいる。

 人里の近くには戦闘力の低い妖魔しかおらず、大森林の中心部に近づけば近づくほど強力な妖魔が住み着いているらしい。

 

 もちろん俺には、まだ低級以外の妖魔は倒す事が出来ないため、今日も今日とても人里の近くで妖魔退治に勤しむ。

 

 「それにしても、今日はやけに森が静かだな」

 

 いつもは、森に入って一時間もすれば小鬼の一匹や二匹すぐに出てくるのだが、今日はまだ一度も遭遇していない。

 それどころか虫の鳴き声ひとつ聞こえてこない。

 これはいよいよ何かおかしいぞ、と考えていると背後から突然、耳をつんざくような雄叫びが聞こえてきた。

 

 「グォォオオオオオ」

 

 「なんだ、なんだ?」

 

 少しでも自身を落ち着かせようと、あえて言葉を発しながらおそるおそる後ろを振り返る。

 そこには、茶色がかった赤毛の熊が木々を踏み倒し、コチラをジッと見据えていた。

 

 熊の体からは、メラメラと妖気が漏れ出ており、恐らく長年生きた個体が妖魔化したものだろう。

 熊は、動物の中では最上位に位置する強さを誇るが、それが妖魔になったのだ。

 その強さは推して知るべしだ。

 

 「嘘……だろ。なんでこんな強力な妖魔が、こんな人里近くにいるんだよッ」

 

 熊はこちらの様子を伺っているのか、襲いかかってくる様子はない。

 

 ――仕掛けるなら今しかない!

 

 俺は懐から神術を媒介するための札を取り出し、ありったけの神力を込めて熊に投げつけた。

 

 札は勢いよく飛んでいくと熊の足元に当たり、その瞬間、熊の足元から無数の蔓が伸びて熊の足に絡みついた。

 

 これで少しは足止め出来るかと思ったが、どうやらそれは甘い考えだったらしい。

 

 熊は突然現れた蔓を鬱陶しそうに爪で払いのけ、こちらを敵と認識したのか低い唸り声を上げ襲い掛かろうとしてきた。

 

 「くそッ! 全く効かないなんて反則だろ!」

 

 俺は次々に札を熊に向けて投げると、一目散に逃走した。

 

 森の中を無我夢中で逃げながら後ろを振り返ると、熊が恐ろしい速さでこちらに向かってくるのが見えた。

 

 「やばい、やばいッ!」

 

 時折振り向いては札を投げるが、スピードに乗っている熊には効果なく、蔓は一瞬のうちに引きちぎられる。

 

 

 そんなことを繰り返して、どれほどの時が経っただろう。

 持参した札はほとんど尽きかけ、道なき道を必死に逃げ回ったことで、体は枝や葉っぱによって切り傷だらけになっていた。

 

 捕まるのは時間の問題だなと、どこか他人ごとのように考えながら走っていると、突然、ゴゴゴとこの世のものとは思えない音が辺りに響き渡った。

 その直後、歩くことすら困難になる程の揺れが、俺を襲った。

 

 「次から次へと、何が起きてんだ?!」

 

 よろめきながら後ろを振り返るとそこに熊の姿はなく、どうやらこの地震で熊も姿を消したようなので、大人しくその場にうずくまり地震が収まるのを待つ。

 

 暫くうずくまっていると揺れも収まったため、先程の熊に出くわしたくない一心でその場を離れる。

 

 「ったく、熊がどっかに行ったはいいけど、ここは一体どこなんだよ」

 

 ふと冷静に辺りをを見回すと、そこに慣れ親しんだ景色はなく、里付近に生えているものと比べると二倍も三倍も大きな木々が乱立していた。

 

 無我夢中で熊の妖魔から逃亡していたため気付かなかったが、木々の特徴から察するに、いつの間にか今まで足を踏み入れたことのない大森林の中心部付近に来てしまっているようだった。

 

 「早く帰らないとあいつら心配するよな」

 

 伊吹と真琴が、俺の帰りが遅いことを心配している姿は容易に想像できた。

 

 「よし!」

 

 頬を両手で叩き気合いを入れると、何か森を抜け出す手掛かりはないかと辺りを注意深く観察する。

 すると、何故今まで気付かなかったのか、と言いたくなるような巨樹が視界に入り込んできた。

 

 周りの栄養を全て独り占めにしているのか、巨樹の近くには木が一本も生えておらず、その逞しい幹は、先程襲ってきた熊の妖魔が十体横に並び、両手をいっぱいに広げても足りないぐらい太太としていた。

 

 「これは凄いな」

 

 あまりの大きさと、どこか神秘的ですらある巨樹に圧倒されていると、ふと、巨樹の根本にぽっかりと穴が空いているのが見えた。

 穴を見ていると好奇心が刺激され、中を少し覗いてみるかと巨樹に近づく。

 

 穴の目の前まで来てみたが、近くまできても黒黒とした穴の先を見通すことはできない。

 

 「どんだけ奥まで続いてんだ?」

 

 ここまできて穴の先を見ずに帰ることなんかできない、といつの間にか森で迷っていることすら忘れ、恐る恐る穴の中に足を踏み入れた。

 

 木の根に手を這わせながらゆっくりと奥の方へと歩いていると、突然、地面の続きがなくなった。

 それに気づいた時には既に、俺の体は宙を舞っていた。

 

 「ちょ、うわぁあああぁあああ?!」

 

 俺は真っ逆さまに落ちていく中、訳もわからずにただ手足をばたつかせながら叫ぶことしか出来なかった。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 ぼんやりと顔に当たる光を感じながら、俺は目を覚ました。

 

 「ここはどこだ?」

 

 かさかさになった唇からかすれた声が漏れる。

 眩しさから顔に手をやり、その隙間からまぶたを薄らと開く。

 そこは洞窟のようで、辺りの壁はどういう理屈かぼんやりと光り輝いており、上には小さな穴がポッカリと開いていた。

 未だはっきりとしない頭を働かせ、自身の身に何が起こったのか思い出す。

 

 なんとか記憶の糸を辿ると、巨樹の根本に空いていた穴を探索していた所、突然地面の続きが無くなり、勢いよく落下したことを思い出した。

 そこから先の記憶がないため確かなことは分からないが、地面にはふわふわとした苔が一面中生えており、どうやらこの苔のおかげで大した怪我もせずにすんだようだ。

 

 俺は、うまく力の入らない身体に、必死に力を入れ立ち上がって辺りを見回す。

 すると、猿の像らしきものとぼんやりと発光している洞窟の壁一面に描かれた壁画が、俺の視界に飛び込んできた。

 

 「これはいったい?」

 

 俺は呆然と辺りを見回していたが、ふと猿の像に違和感を覚えた。

 猿の像をもう一度目を凝らしてみると、猿の顔には口以外のパーツがなく、その口は両端が吊り上がっており不気味に微笑んでいた。

 

 「うわっ、なんだこれ。気持ち悪いな」

 

 驚きと猿の像から感じる悍ましさから目を逸らすように、数歩後退ると俺は壁画に目をやった。

 壁画には、一人の少女と思わしき人物が不思議な力を使い、枯れた大地を肥沃な大地にし、何もない所に川を流す様子が描かれていた。

 

 俺はふと、ある噂話を思い出し、とても嫌な予感が頭をもたげる。

 どうか勘違いであってくれと思いながら、俺は恐る恐る他の壁画を見た。

 

 その壁画には、先程見た、顔を構成するものが口しか存在しない猿の化け物と一人の少女が描かれており、その周りでは猿の化け物と少女を取り囲むように人々が地面にひれ伏し、猿の化け物を崇めている様子が描かれていた。

 

 それはまるで、生贄。

 土地を富ませる代償に、少女がその身を猿の化け物に捧げているようだった。

 

 その壁画を見た瞬間、俺の予感は確信へと変わった。 

 俺にはこの壁画の内容に思い当たる節があった。

 それは、集落でまことしやかに語られている、ある噂話。

 確かその噂話によると、年若い巫女の後継者が、百年に一度その身を神に捧げるらしい。

 

 その話を聞いた時は、そんな訳ないだろうと気にも留めなかった。

 確かに昔、巫女の後継者が失踪したことがあったらしいが、ただの偶然かその事件を元にその噂話ができたのではないかと思っていた。

 

 しかし、もしそれが実話だったとしたら?

 俺はその事実に気づき愕然とした。

 体が何かを求めるように微かに震える。

 

 「そんな……」

 

 俺は呆然と呟いた。

 なぜならこの壁画が表しているのは、伝説や神話なんかじゃなく。 

 間違いなくソレは、俺の住む集落の過去の出来事であり、猿の化け物に身を捧げていた少女は、噂話から巫女の一族であろうことが窺えたのだから。

 

 つまり、壁画の少女は俺の初恋の相手であり今も恋している、香月の先祖なのだ。

 俺は力なくうなだれる。

 壁画の内容が、俺が生まれるよりはるか昔に起きたことであるというだけなら、こんなにも取り乱すこともなかっただろう。

 

 実は先程の噂話には続きがあるのだ。

 前回の巫女の後継者が失踪してから、今年でちょうど九十九年目。

 今、巫女の一族で年若い娘は香月だけであり、また巫女の後継者も香月なのだ。

 それが表すことはつまり、近い将来、香月が猿の化け物に生贄として捧げられるということだ。

 

 「なんであいつが!」

 

 俺はその信じ難い事実をまともに受け止めることができず、ただ呆然とその場に立ち尽くすことしかできなかった。

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