グムの特性料理をお食べ…。
低く屈んだラ・プルマは、無言で瞬きをしていた。
目の前には青い髪をしたリーベリの双子。まだ幼く、手に羽獣のパペットを嵌めている。
ラ・プルマが首をかしげると、双子も鏡映しのように首をかしげる。反対側にかしげると、同じようにする。
そんなことを繰り返していたところに、ドクターがやって来た。
「……何をしているんだ?」
「あ、ドクター」
「ドクターお姉ちゃん!」
「顔の見えないお姉ちゃんだ!」
見つめ合っていた三人が、同時にドクターに目を向ける。ドクターは駆け寄ってくるリーベリの双子と目線を合わせ、撫でてやった。
「ふたりとも、どうした? フェデリコお兄ちゃんに会いに来たのか?」
「うん! むっつりした眼鏡のお兄ちゃんがね、これ作ってくれたの」
「フェデリコお兄ちゃんそっくりでしょ? だからプレゼントしようと思って!」
双子が笑って掲げたものは、デフォルメされたイグゼキュターのパペットだ。
なかなかいい出来だった。恐らくアオスタの作品だろう。
ドクターはイグゼキュターのパペットを見つめて微笑む。
「そうか、これを届けに来たのか。けどすまないな、フェデリコお兄ちゃんは今ロドスにいないんだ」
「えー……」
「えー……」
「そんな顔をするな。フェデリコお兄ちゃんのことだから、そろそろ帰ってくる頃合いだ」
「「「ほんと!?」」
あからさまにがっかりした双子の顔が、すぐにパッと明るくなった。
ラ・プルマは屈んだまま、ドクターに問いかける。
「ドクタードクター、その子たちは?」
「会うのは初めてだったか。エスタラとエレンデル。女の子がエスタラで、男の子がエレンデルだ。イグゼキュターに会いたくて、ラテラーノからついてきてしまってな」
「ふうん……」
ラ・プルマは改めて双子のリーベリを観察した。
数秒前まで落胆していた幼いふたりは、ドクターに抱き上げられてきゃっきゃと笑っている。
いつも無表情なイグゼキュターとは対照的だ。彼がふたりに懐かれているシーンが、どうにも想像できない。
ラ・プルマが90度近く首をひねっていると、ドクターはラ・プルマに双子を差し出した。
「ラ・プルマ。イグゼキュターが帰ってくるまで、この子たちの面倒を見ていてくれないか」
「いいけど……いつ帰ってくるの?」
「遅くとも、今日の夕方には。エスタラ、エレンデル、フェデリコお兄ちゃんが帰ってくるまで、このお姉ちゃんと待っているといい」
うん、と元気よく返事をしたふたりが、期待に煌めく瞳でラ・プルマを見つめてくる。
ラ・プルマは戸惑った。こうした子供の相手をするなど、経験したことがない。
だが純真無垢な瞳を無下にするわけにはいかず、神妙な顔で双子を受け取った。四、五歳ぐらいだろうか。羽のように軽い。
この後どうすればいいのだろう。立ち尽くすラ・プルマが動き出すのを、双子はじっと待っている。
いつの間にかソファの近くに移動していたドクターが、軽く絵本を振ってきた。
「三人とも、こっちにおいで。ラ・プルマ、これを読み聞かせてあげてくれないか」
「……う、うん……」
ラ・プルマは双子を落とさないように気を付けながら、ソファに腰かけた。
絵本を手渡したドクターが、小さく助言する。
「硬くなる必要はない。こういう時どうすれば嬉しかったか、君は知っているはずだ」
「……!」
その言葉を聞き、思い出すのは故郷の光景。
実父や義父、その戦友たちは、ラファエラをよく可愛がってくれた。頭を撫でたり、支給品のチョコレートをくれたり。
義父のパンチョはやや不器用だったけれど、あの大きな手のひらが頭を撫でるのが好きだったのだ。
ラ・プルマはぴったりとくっついてくるエスタラの頭に手をかざし、ゆっくりと撫でてやる。エスタラは心地よさそうに目を細めた。
「えへへ……」
「ラファエラお姉ちゃん、サラばっかりずるいー!」
唇を尖らせてせがんでくるエレンデルの方も撫でてやる。両手が埋まって絵本が開けなくなってしまった。
自分でもわかるぐらい、手つきがぎこちない。手のひらに収まる頭は思ったよりも小さく儚いものに思えてしまう。
パンチョも、同じように思っていたのだろうか。戦友から預けられた養女を、戦慣れした手で潰さないかと心配していたから、あんな風にぎこちなかったのかもしれない。
その気づきは、ラ・プルマに不思議な感慨をもたらした。
しばらく撫でられる感触を堪能していたエスタラは、ふとラ・プルマの膝上に置かれた絵本に目を向ける。
そういえば、読み聞かせをしてくれるのだった。だが、ラファエラお姉ちゃんは両手が埋まってしまっている。
そこでエスタラは閃いた。本の表紙を自分で開き、反対側をエレンデルに押し付ける。ふたりの間にいるラ・プルマの目の前で、絵本が広げられた。
「ラファエラお姉ちゃん、読んで読んで!」
「ページ、めくってあげる!」
ラ・プルマは少し面食らったが、すぐに顔をほころばせて短い文章を読み始める。
ゆっくりした語り口は、昼下がりの温もりの中で穏やかに流れる。自分の席に座ったドクターは、ふわふわとした朗読を聞きながら詰まれた書類のひとつを手に取り、眠らぬように濃いコーヒーを口にした。
ラ・プルマの義兄テキーラがやってきたのは、それから二時間後のことだ。
「おーい、ドクター、ラファエラを知らな……って、やっぱりここか」
「やあ、テキーラ。何か用か?」
「愛すべき我が妹にな」
テキーラはぴらぴらと手紙を振って見せた。きっと、サンチョからの手紙だろう。その宛先は、ソファの上でぐっすりと寝息を立てている。
ドクターはキンキンに冷えたアイスコーヒーを流し込み、眠気を振り払った。
「急ぎじゃないなら、寝かせてやってくれないか。見ての通りの状況だ」
「まあいいけど……こいつは本当に、いくつになっても変わらないよ。ボンヤリしてて、子供っぽくて……いつまで経っても成長しない」
「そうでもないさ」
言葉と裏腹に優しい顔のテキーラは、既に気づいている。
ドクターはそれを理解した上で、あどけないラ・プルマの寝顔を見やった。両隣には、彼女の細腕に抱かれた双子が安らかに眠っている。
エレンデルがもぞもぞと動き、ラ・プルマの脇腹に顔を擦りつけながら寝言を呟く。
「ラファ……おねーちゃ……」
「聞いての通り、ラ・プルマも、今やしっかりお姉ちゃんだ」
「お姉ちゃんか……あのラファエラがな」
テキーラは手元の便箋を見下ろした。嬉しさ半分、寂しさ半分といったところだろうか。
彼は様になった動きでドクターに便箋を投げた。
回転しながらデスクに乗って、手元まで滑ってきたそれを、ドクターは摘まみ上げる。
「渡していかないのか?」
「起きたら代わりに渡しておいてよ。俺がいると起こしちゃいそうだから」
「一緒に眠っていってもいいんだぞ?」
「いや、遠慮しておく。怒られそうだ」
小さく笑って、テキーラは部屋を後にする。
眠るラ・プルマの頭がコテンと肩に落ち、口元からお兄ちゃん、とつぶやきが漏れた。