アークナイツ二次創作集   作:よるめく

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宇宙猫ホルハイヤ、ずっと書きたかった


感謝のハグ

 ホルハイヤは恐らく、生まれて初めて思考停止の状態に陥った。

 

 何が起こったのかわからない。脳が理解を拒んでいる。そんな風に思ったが、現状はちゃんと理解できている。

 

 抱き着かれたのだ。男に。なんの遠慮もなく。

 

「……? ホルハイヤさん? どうかしましたか?」

「……どうかって……」

 

 ホルハイヤは無邪気そうな疑問の声に、なんとか返事を絞り出す。

 

 彼女よりも背の高い、ペッローの青年は尻尾を振ったまま丸くなった目で瞬きをした。

 

 さて、どうしてこんなことになったのか? 順を追って説明しよう。

 

 現在地はクルビアの、とある工業区画。ヴィクトリアで騒ぎを起こしたサルカズの一派、それも兵器開発を担当していた連中がここに逃げ込んだという情報がもたらされた。

 

 該当区画は感染者を押し込める隔離区画という意味合いを持っており、感染者が奴隷同然の待遇で仕事をさせられている場所だ。

 

 待遇に耐えかねた感染者たちは決起し、暴動を引き起こして工業区画を破壊。秘密裏に作り出されていたサルカズの兵器も用いられ、大勢の血が流れる事態となった。

 

 これに対し、ロドスは対策を練るべくホルハイヤを潜入させた。そして彼女はそこで、事件に巻き込まれたこのペッローの青年―――オペレーター・ウィンドフリットを救出し、今に至る。

 

 回想を終えたホルハイヤは、そこでようやく我に返った。

 

 しがみついたままのウィンドフリットの腹に掌底を当てて持ち上げ、背中から地面に叩きつける。

 

「ぐへぇっ!? な、何するんですか!?」

「それはこっちの台詞よ、子犬ちゃん」

 

 若干怒りを沸き立たせた笑顔で凄むホルハイヤ。ウィンドフリットはただならぬ雰囲気を感じ、きゅぅんと喉を鳴らすとその場に正座した。

 

「命が助かって嬉しいのは理解できるわ。よかったわね、あの見境のない感染者たちに処刑されなくて。でもだからって、女性に抱き着くのはいただけないわね。失礼だとは思わない?」

「え、でも……ドクターはよしよししてくれますよ?」

「は?」

 

 ビシッ。ホルハイヤは頭蓋に亀裂が入るような音を確かに聞いた。

 

 翡翠色の瞳に暗い影が落ち、三日月型に吊り上がった口元がどんどん深く裂けていく。

 

 流石に身の危険を感じたのか、ウィンドフリットは両手の平をあわあわと動かしながら弁解し始めた。

 

「あ、ええと、そのっ! 感謝を伝える時はハグをすればいいってドクターに教えて頂いて! それから感謝する時は積極的にハグするようにしてるんです! ドクターもハグを返してくれますし……。……あの、ホルハイヤさん……?」

 

 ウィンドフリットはただならぬ怒気を感じ、正座したまま後ずさった。

 

 ホルハイヤは変わらず笑顔だ。しかし、その背後には陽炎が湧きたつほどの熱があるように思えてならない。

 

 ハグがそんなに嫌だったのだろうか。でもクロージャやドクターは喜んでくれるし……と思い悩んでいると、ホルハイヤは唐突に踵を返した。ムチのようにしなる尻尾の先端が、ウィンドフリットの鼻先をかすめる。

 

「うわっ、ホルハイヤさん!?」

 

 ヒュッ、と鋭く風を切る音に驚いた時には、もうホルハイヤはそこにいなかった。

 

 置き去りにされたウィンドフリットは、そのまましばらく地べたで正座する羽目に。迎えに来たオペレーターの言葉によれば、彼は捨てられた循獣のような目をしていたという。

 

⁂   ⁂   ⁂

 

 数日後。ロドス本艦の会議室にて、LogosとStormeyeはそろって虚無の表情をさせられていた。

 

 理由は当然、対面に座るドクター。そして彼女の膝に腰かけ、べったりとくっついたホルハイヤのためである。

 

「……ホルハイヤ、そろそろ会議を始めたいんだが」

「あら、このまま始めればいいじゃない。私のことは気にしなくていいわ」

「出来るか! 離れてくれ!」

「あんまりジタバタしないの。尻尾に力が入っちゃうでしょう?」

 

 ドクターを椅子に縛り付けた尻尾が僅かに膨らみ、藻掻くドクターを逃がすまいとしている。

 

 呻くドクターのフードを外したホルハイヤは、耳元に唇を近づけて熱っぽく囁いた。

 

「別にあなたを食べちゃおうなんて思ってないわよ? ただ、感謝の意をハグで示せばいいって教えたそうじゃない。だからこれは日頃の感謝の気持ちよ。受け取ってくれるわよね、ドクター?」

「今じゃなくてもいいだろう! 降りてくれ!」

 

 かくして大騒ぎをし始めるふたりを見ながら、LogosはStormeyeに囁きかける。

 

「……Stormeyeよ。我は彼奴を罰するべきか?」

「それか、ケルシー先生が来るまで待つかだな。まあ、ドクターが巻き付かれてるのはいつものこととはいえ……」

「ほう?」

「前に会ったとき、マンティコアに巻き付かれていた。おかげでマンティコアのアーツは発動せず、会話できたんだが……」

「話してないで助けてくれ!」

 

 ドクターのSOSを受け、ふたりのエリートオペレーターは呆れたように首を振る。

 

 ホルハイヤを引き剥がすのに、実に一時間もの時間を要した。

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