ロドスにサウナが造られた。それも無許可で。
娯楽があまりないせいか、それとも変人ぞろいなせいか、こういうことがたびたび起こる。建築、爆破、危険なスポーツ。甲板に逆さで吊るされる面子もほとんど見慣れた顔ぶれになって来た。
ドクターは本来それを窘める側なのだが、とりあえず試すだけ試してみようと思って利用してみることとなった。
せっかく造ったのにもったいない。むしろこれでオペレーターたちがリフレッシュできるなら厳重注意ぐらいで済むようケルシーに打診するつもりである。たとえ我慢比べを仕掛けられずとも、そうするつもりだった。
だったのだが。
「……ブレイズ、暑いんだが」
「そりゃあサウナだもん、暑いに決まってるじゃない」
「そうじゃなくてだな!」
ドクターは全身汗だくになりながら、くっついてくるブレイズを押しのけようとする。だが非力な腕では叶うはずもなく、逆にぐいぐいと密着されてしまう。反対側は壁であり、もはや逃げ場がない。
「あっつ! 君、アーツ使ってるだろう! 明らかに君の方から熱気が来ている!」
「な~んの話かしら~♪」
ブレイズは明後日の方を向いてしらばっくれる。声は弾んでいて、笑っているのが顔を見ずともわかってしまった。
サウナの口添えだけでなく、酒の奢りまで賭けたのは失策だったか。もはや燃焼機関が必要ないほどサウナの中が熱くなっている。ブレイズの肌もとんでもない熱を帯び、あまり長くは触れていられない。
ブレイズはさらにドクターに近寄った。汗に濡れた肩と太ももがピタリとくっつく。熱気がマスクを外したドクターの顔を襲い、呼吸を苦しくした。
「ぐぉ……っ!」
「どうしたの? もう降参? それなら勝負は私の勝ちってことでいいわよね?」
「わ、わかった、わかった! わかったからアーツを止めてくれ! ちょっと朦朧としてきた……」
「ヤバッ」
壁とブレイズの板挟みから解放されたドクターはすぐに立ち上がり、サウナから転がり出た。
全身から熱気が逃れ、代わりに涼しい空気が体に入り込んでくる。何度か深呼吸をすると、息苦しさがたちまち胸から立ち去って行った。
「……ふう」
サウナの扉横に置かれたベンチに腰を下ろし、体に巻いたタオルで胸元を煽ぐ。
長時間いたわけでもないのに、薄いバスタオルは多量に水分を含んでしまっている。病的に白い肌も真っ赤になっていて、我がことながら苦笑いがこみ上げてきた。
サウナの扉が開き、ブレイズが顔を出す。健康的な色の肌を紅潮させ、隣にストンと座ってきた彼女から、ドクターはススッと距離を取った。
ブレイズは不満そうな顔をする。
「ちょっと何? 傷つくんだけど」
「いや、すまない。やはり少し熱くてな」
「ふ~ん。ま、でもこれで、サウナの件とお酒の奢りは確定ね」
「……そうだな。ただし、三本までだ」
「ちょっ! なにそれ、聞いてないんだけど!?」
ブレイズの顔色がわかりやすく変化する。ドクターはサウナの仕返しとばかりに笑いながら言った。
「フォリニックが怒っていたぞ。そろそろ酒を控えるべきだって、なぜか私に言ってくるんだ。上司として、そのあたりは気にしておかないとな」
「ちぇっ。……ちなみに三本って、缶? ボトル?」
「缶なら君に丸ごと三本。ボトルなら三本を私と半分ずつだ」
どうしたい? と訊くと、ブレイズは少し悩んでから、不承不承口を開いた。
「……ボトル三本」
「よし。なら、買いに行こうか。バーで待ってる」
「ん~~~」
火照った肌も落ち着いてきたドクターが、胸元のタオルを整えながら立ち上がる。
立ち去りかける彼女の手をつかみ、ブレイズも腰を上げた。
「待った。私の部屋で飲むんじゃダメ? ほら、バーで飲んだら、私勢いで飲み比べしちゃうかもしれないし」
ドクターは目を丸くし、驚いて二度見した。むしろ飲み比べを積極的に挑んではしょっちゅう吐いているブレイズからそんな言葉が出るとは。
「どうしたブレイズ……? のぼせたのか?」
「もう、何よそれ! いいから、待ってるからね!」
「あ、ああ……」
ツンとそっぽを向いて先に出ていくブレイズを見送り、ドクターは首を傾げる。
その後、ブレイズの部屋で小規模な飲み会を開き、違う意味で熱を帯びたブレイズに押し倒されることになるのだが……。
それはまた、別のお話。