アークナイツ二次創作集   作:よるめく

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ケーちゃんの絵日記、アニメアークナイツ2期、イーサンのプロファイルネタを詰め込んだ!!


ドクターの思い出の味・前編

「お腹空いた!」

 

 腹の虫を吠えさせながら、ケオベが叫んだ。

 

 ぐぎゅるるる、という切なくも欲の皮の張った音に負けじと声を張り上げる。

 

「お腹空いた! お腹空いた! お腹空いた!」

「うるさいぞ……腹が減ったのはルナカブもだ」

 

 ケオベと一緒に歩いていたルナカブがげんなりした顔で言う。

 

 食堂は既に閉まっているが、ふたりには関係ない。空腹になれば忍び込み、冷蔵庫を漁ればいい。

 

 そう思っていたのだが、流石に常習しすぎたせいか、厨房係も対策を打っていた。イグゼキュター及びグレイの指導の下、セキュリティシステムを導入していたのである。

 

 ふたりもまた、今や歴戦のオペレーター。この程度どうということはない、と意気込んだはいいものの、野生児に機械の相手は荷が重かった。怪我しない程度の電流に苦戦した挙句、警報を聞いて駆けつけてきた夜勤のオペレーターたちにこっぴどくしかられ、空腹を強めたまま尻尾を巻いて逃げる羽目になってしまったのだ。

 

 ルナカブは眉間に皺を寄せて臍を噛む。

 

「あいつら、ルナカブたちの食い物を……こういう時、ルナカブは外が恋しくなる。あんなのないからな」

「う~、すぐそこにあるのに食べられないなんて……おいら、ますますお腹減っちゃったよ」

「言うな。もっと腹が減る」

 

 ぐぅぅぅぅ、とふたりの腹がユニゾンした。ふたりはそろって肩を落とす。

 

 時間は既に夜を回っているせいで、ハガネガニカフェも閉店済みだ。あそこはあそこでガードが堅い。

 

 ヴァルカンも含めてみんな寝静まっており、起きているのはケチなクロージャや医療オペレーターぐらいのものだ。

 

 この空腹を一体どう沈めたものか。ふたりが尻尾を引きずりながらトボトボと歩いていると、通り過ぎた廊下の壁に一組の目が浮き上がった。

 

「おーう、どうしたイヌ公コンビ。そんな捨てられたみてぇなツラしてよ」

「むっ!?」

 

 ルナカブが振り返って弓を引く。警戒態勢を取る彼女とは逆に、ケオベは目を輝かせた。

 

 一見何もないはずの場所から声が聞こえてくる。つまり、ケオベにとってもはやおなじみとなった彼がいる。

 

 案の定、渦巻型の尻尾が特徴のサヴラが姿を現した。

 

「イーサン! おいらお腹空いた!」

「んなの見りゃわかるっての。さっきの警報騒ぎはお前らのだろ? ったく、最近は食堂の連中も一層ケチになったよなぁ」

「あー!」

 

 愚痴りながら、イーサンは小ぶりのウィンナーを指で弾き、口でキャッチする。

 

 それを指差して咎めるケオベの横で、ルナカブは一層強く弓を引き絞った。

 

「お前、持ってる食料をルナカブたちに渡せ。でないと……」

「悪ぃな、俺のヘソクリは今ので最後だ」

「……おい」

「まあそう怖い顔すんなよ。俺だってこれで満足したわけじゃねえ。ってことでよ」

 

 イーサンはふたりに近づき、口元に手を添えて囁きかけてきた。

 

「これから美味い菓子が食えるところに行くつもりなんだが、どうだ?」

「行く!」

「騙したら承知しないからな」

「なーに、嘘なんか吐かねえよ。お前らもよく知ってる場所だからな」

 

 剽軽な態度のサヴラを睨み、ルナカブは弓を下ろした。

 

 ケオベはもう待ちきれないのか、イーサンの袖をつかんでしきりに引っ張っている。口の端からよだれを垂らして。

 

「どこ!? どこに行くの!? おいらお腹空いた! もう待てない!」

「わかったわかった、ほら行くぞー! 俺についてこーい!」

 

 そう言って暗い廊下を歩くことしばらく。扉を開けて入った先は……。

 

「ドクターの巣?」

「執務室な。まあ巣でもいいと思うけどよ。四六時中ここにいるし」

 

 イーサンは突っ込みながら電気をつける。中はがらんとしていて、今は誰もいない。

 

 普段、ドクターが昼夜を問わず書類と格闘している部屋だが、そのドクターは現在外勤任務の真っ最中だ。それに伴い、手伝いのオペレーターたちもここには来ていない。

 

 イーサンは鼻歌を歌いながら、部屋の奥にある棚を開く。中から取り出したのは、縞模様の包み紙に収められたキャンディである。限界になったケオベがイーサンに飛びついた。

 

「キャンディー!」

「ほれ、食え食え。お前も食うだろ?」

「うむ」

 

 ケオベとルナカブはそろって包み紙を剥がすと、中に入っていた糖衣錠のような形のキャンディを口に放り込む。

 

 ふたりの動きがピタリと止まった。

 

「ん?」

「んん……?」

 

 イーサンがピクリと片眉を吊り上げた。

 

 ドクターのお菓子には、時々変なものが混ざっていることがある。塩卵味のチョコレートだとか、サボテン味のガムだとか。

 

 そういうのは得てして不評で、嬉々として食べるのはドクターぐらい。

 

 つまりこのキャンディは……ハズレのお菓子だ。

 

 イーサンがそう察すると共に、ふたりは大声で泣き叫んだ。

 

「「辛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」」

 

 ケオベが悲鳴を上げながら執務室内を駆け回り、誰かのデスクに向う脛をぶつけてもだえ苦しむ。

 

 ルナカブの方は口元を抑え、床に蹲って震えるだけだ。

 

 イーサンは腕を組むと、まだ残っているキャンディをじっと見た。見た目は糖衣錠のようで甘そうだが、一体何が入っているのだろうか。

 

 ―――こんなもん食って、あんな顔するもんかねぇ。ドクターの考えてることはよくわかんねえな……。

 

 内心で、このキャンディを口に含んだドクターの横顔を思い出していると、目の前を足が横切った。

 

 ドン、と重い音を立てて壁に突き立てられる細い脚。イーサンがぎこちない動きで足の来た方に視線を向けると、そこには弓を限界まで引き絞ったルナカブがいた。

 

「お前……っ! ルナカブに何を食べさせた……!?」

「ままままま待て待て待て! わざとじゃねえんだ、弓下ろせ!」

 

 たまらず両手を挙げて見せるも、ルナカブの目は殺意にぎらついている。その背後では、体を丸めたケオベが飢えた獣のような唸り声を上げていた。

 

 本格的に命の危機を察したイーサンは、アーツを発動。背景に溶け込んで姿を消し、床を蹴った。

 

 ルナカブがいるせいで、逃げ場は一方向にしかない。それを察したルナカブの矢と、山勘で飛び掛かって来たケオベをギリギリで回避し、イーサンは給湯ポットの置いてある棚に飛びついた。

 

 引き出しを急いで漁り、飛び掛かって来たふたりに中の物を投げ渡す。

 

 それぞれ受け止めたふたりの殺意は、たちまち収まった。イーサンが放ったもの、それはドクターが良く食べているカップ麺だ。

 

 今度こそ、味の保証されているもの。急いで湯を沸かしながら、イーサンは慌てて取り繕った。

 

「そ、それ食おうぜ! そっちは絶対変なもんじゃないからよ! さっきのは悪かった、俺もアレが辛い飴だなんて思わなかったんだよ……だからそれでチャラにしてくれ! な?」

 

 殺意こそ消え去ったものの、ルナカブとケオベはふくれっ面をしている。丸くなったそれが赤らんでいるのを見るに、スコヴィル値は相当高いものだったらしい。

 

 ―――あのキャンディに何を突っ込んだんだ?

 

 早く湯が沸くように祈りながら、イーサンは湧き出る疑問を抑えられずにいた。

 

 

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