アークナイツ二次創作集   作:よるめく

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続くかもしれない?


ドクターの思い出の味・後編

 

「イーサン……君、私がいない間にカップ麺を食べただろう」

 

「な~んのことだかわからねーなぁ~」

 

 ドクターに睨まれたイーサンは、後頭部で手を組み、そっぽを向いて口笛を吹く。

 

 しらばっくれてはいるものの、これで誤魔化せやしない。お互いわかっていることだ。

 

 ドクターは大きく溜め息を吐くと、書類の山をドンとイーサンに突き出した。

 

「食べた分は働いてもらうぞ。それを今から言うところに届けてくれ。こっそり置いてくるのではなく、ちゃんと面と向かって渡すこと。

 

 それと、君のために外勤任務も用意した」

 

「おい待て、カップ麺三人分にしちゃ高すぎねーか!?」

 

「カップ麺だけじゃないだろう。戸棚の菓子も好き勝手食い荒らしておいて何を言ってる……」

 

 ドクターがどんよりした溜め息を零した。

 

 さすがのイーサンも少し憐れみを覚えるが、言うほど食べたわけではない。ケオベたちと忍び込んだ一昨日の夜に食べた分だけだ。

 

 と、いうことは。

 

 ―――あいつら、何回も入りやがったのか。

 

 よし、チクろう。そしてあのふたりにも手伝わせよう。

 

 そう決意するイーサンの目の前で、ドクターは何かを取り出した。

 

 縞模様の包み紙に収められた、糖衣錠のようなキャンディ。あのハラペココンビも、それには手出しをしなかったようだ。

 

 ドクターはキャンディをひとつ口に含んで黙り込む。

 

 心なしか視線が沈み、切なげな表情になった。暗く、今にも泣きだしてしまう子供のような……。

 

 激辛キャンディひとつで、どうしてそんな顔ができるのか、イーサンには正直理解できない。

 

 あの後ケオベから聞いた話では、夜中の香辛料資料室でドクターに出くわしたことがあるらしい。

 

 まさかと思うが、あのキャンディはお手製なのか? どうしてわざわざそんなものを? 何を思って食べている?

 

 改めて噴き出した疑問を、イーサンは思い切ってぶつけてみることにした。

 

「なあ、ドクター。それ、美味いのか?」

 

「食べたんじゃないのか?」

 

「犬ッコロどもがな。俺は食ってねえ」

 

「……大方、悪戯で食べさせたんだろう」

 

 大体合ってる。絶対口には出さないが。

 

 半眼で睨んでくるドクターに、顎で話の続きを促す。

 

 彼女は目つきで“後で詳しく聞くからな”と念押しすると、少し考えてから問い返してきた。

 

「イーサン、スノーデビル小隊を知っているか」

 

「んあ? まあ、そりゃあな。俺は違う部隊だったし、会ったことはねえけど」

 

 イーサンは久方ぶりに、かつて籍を置いていた感染者組織のことを思い出す。

 

 怒れる感染者たちの集団、レユニオン・ムーブメント。スノーデビル小隊はその中でも最強と呼ばれた術師たちだったとか。

 

 ゴースト部隊としてチマチマ隠密任務に従事していたイーサンにとっては、食事中に噂する程度の存在だ。

 

 そんな部隊のことを、ドクターはさらに掘り下げて聞いてきた。

 

 半ばぼんやりした表情で。

 

「リーダーの名前は……憶えているか?」

 

「そりゃな、有名人だったし。フロストノヴァ。タルラと同じくらいやべえ術師だって……」

 

 そこで、イーサンはピタリと言葉を止めた。出奔して久しい古巣の伝説的戦士の名前を、最近どこかで聞いた気がする。

 

 しばらく考えて、手のひらに拳を打ち付けた。

 

「そういや……前にアンタ、枯れた感じのリーベリのオッサンとか、探検隊のねーちゃんとか、おっかねえフェリーンの姐さんにそんな名前の薬渡してたよな?」

 

「……ああ」

 

 疑問を解消するつもりが、さらに増えてしまった。

 

 レユニオンとロドスはかつて敵対関係にあり、イーサンも何度か、ロドスのオペレーターにちょっかいをかけたり、かくれんぼをしたりした。

 

 ドクターは恐らく、スノーデビル小隊と遭遇したことがある。

 

 しかし、それだけでは腑に落ちない。

 

「なんで敵の部隊の大将筋と同じ名前の薬を作ってるんだ?

 

 ってか、そのキャンディとなんの関係があんだよ?」

 

 ドクターは目を閉じ、押し黙る。

 

 キャンディをもうひとつ口に入れた彼女の顔は、懐かしむような、安堵しているかのような……あるいは、死を悼んでいるかのような。

 

 肌に合わない沈黙がむず痒く感じられて、イーサンはたまらず声をかけた。

 

「おい?」

 

「すまないが、行くところがある。書類のことは頼んだぞ」

 

「は? いや待てって! なんにも答えてもらってねえぞ!? おーい!」

 

 引き留めるイーサンの声に構わず、ドクターは執務室を去ってしまった。

 

 ひとり残されたイーサンは、うず高く積み上がった書類の束……ということさえ不釣り合いな山を見つめる。

 

 釈然としない。だが、今はあれ以上答えてくれはしないらしい。

 

 イーサンは仕方なく、書類の山を抱え上げる。

 

 その脳裏には、幾多の疑問とドクターの表情が焼き付いたままだった。

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