優曇華と彼岸花   作:桃玉

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<Takina side>

 

先月、リコリスが襲われ、それを皮切りにこの短期間で次々と発生している。

 

 

『え? リコリスが?』

「はい、四人とも単独任務中に大勢に襲われたそうです」

 

「ちょっ、待ってよ、は、早いって!」

「すみません、ですがもたつく余裕はありません、急いでください!」

「ひぇぇ!」

 

 

耳に当てている電話からは寝起きの千束の声。

空いている方の手で引っ張る鈴仙の手。

 

重大事件が未解決であり、一人きりでの生活は危険であると知った。

そのため鈴仙を叩き起こし、そのまま急ぎで二人で千束の家に向かっている。

多少小走りだが息切れするほどの運動量でもない。

……のに鈴仙は息絶え絶えで必死に体勢が整わないまま脚を動かしていた。

 

 

『何で特定されてるんだぁ?』

「わかりません……例のラジアータのハッキングと関連があるのかも。……それと『しばらく単独行動は控えなさいよ。それと今月の検診昨日よ』と山岸先生が」

「!? ……あぁ~、そぉ~だったぁ……」

 

 

山岸先生の雷を想像したのかばっちり目覚める千束。

忘れたものを思い出して、「うわっ、まずったな~」という額に手を当て、頭を抱えている声。

忘れていたのだろうか……

 

 

「……行かなかったんですね」

「だってぇ~……注射苦手なんだもん

「今何か言いました?」

「何でもなーい」

「なら早速、今日から常に集団行動しようと思います」

「ん? ならって何? それとたきなと鈴仙とは毎日お店で一緒じゃ……」

 

ピンポーン

 

 

そうこうしているうちに千束の自宅に着いた。

電話と目の前の呼び鈴からほぼ同時に聞こえるインターホンの音。

その音が鳴ると同時に鈴仙はへたりと倒れこむ。

体力なさ過ぎでは……?

 

そんなことを思いつつ扉の前にいると勢いよく元気な声とともに千束が出てきた。

 

 

「『あ~! お客さんだ! ちょっと待って……ぇ?」』

「『夜は交代で睡眠をとりましょう!」』

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

「ちょっ、ナニ何々ど~したぁ!? 大丈夫か!?」

「千束、わ、私もう、ダメ、かも、しれない……。死ぬぅ~……」

「えっ、わ、ちょ、えぇ~!?」

 

 

ドアを開けたら鈴仙が死にかけてた。

たきながここにいるのもビックリしたけど理解不能な状況なのに誰からも説明がないんだけど!?

そんな状態なのにさらにたきなが自然に家の中に入ってくるもんだから余計に目ぇグルグルよ……

 

そんな中見かねたたきながようやく状況を説明してくれた。

 

 

「ただ急いで早歩きしただけでしょ? 運動サボって体力ないからって鈴仙は大袈裟です」

「鈴仙ってばまた運動サボってたの?」

「う、ん……」ガクッ

「鈴仙が……死んだ!?」

 

 

運動は大事だからしっかりしなさいってあの時言ったのにまたサボるから……

 

 

「何馬鹿なことやってるんです? それより、今日から安全が確保されるまで24時間一緒にいます。いいですね?」

「うちに泊まんの!?」

 

 

マジか!

メッチャ嬉しいんだが!?

ようやく状況を把握できた途端、喜びでルンルン気分、テンションあがるぅ!

どうでもいいような理由でへばっている鈴仙のことなんて忘れてたきなを家に招く。

 

 

「いやっったああ~~! そ・れ・じゃ・あ、CHISATO's HOMEにごあんな~い、どぞ♪」

「どうも……」

 

 

まあ、先に無断で上がり込んでいたのにどうぞもなにもないけどな?

たきながそのまま奥の方へ進むと感動したような声が聞こえる。

 

 

「プロの部屋だ……」

 

 

家具が一切ないカモフラージュ用の部屋を見て感動してるとこ悪いけどそっちじゃないんだよなぁ……

黙ってても面白そうだけど、その場合この場所で寝袋でも取り出すか、壁に背を預けて寝るみたいなことになりかねない……

 

 

「そっちじゃないよ~、こっち~!」

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

「え? ええぇぇ~~……」

 

 

なんということでしょう。

何の変哲もない壁が回転式の隠し扉で、その下に続く梯子が……

そこから下りていくと、お菓子や DVD のケースが散らかり放題のだらけきった千束らしい部屋が露わに……

 

私の感動を返してください。

 

 

「その辺座って~、アイスコーヒーでいいでしょ?」

「ちょっと、おいて、いかないで、くださいよぉ……」ドサッ

「ああ、ごめん、大丈夫?」

大丈夫じゃ(だいじょば)ない、飲み物ぉ」

「へいへい」

 

 

放置していた鈴仙が息を切られつつもなんとか自力で部屋の前に到着し、さも当然のようにソファーに倒れ込み、目の前にあるお菓子を一心不乱に食べ(エネルギーを補給し)始める。

 

 

「……何なんですか、コレ?」

「長く仕事してるといろいろとあるのよ。ここはセーフハウス一号。他に三つあるんだ」

 

 

そう言いながらコーヒーの準備をする千束、出しっぱなしだったお菓子を貪っている鈴仙。

こんな生活力がなさそうな人たちと共同生活すると決心して本当によかったのでしょうか……

もしかすると身が持たない可能性も……

 

 

……私がこの家のことを切り盛りしないと!!

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「共同生活を送る上で公平な家事分担です!」

 

 

この共同生活、何とかして乗り切りたい!

そう思い、生活力皆無そうな二人に家事をやってもらうべく分担表を作成し提示。

料理、洗濯、掃除、三人だから丁度毎日どれか一つずつ行うように計画。

 

これほど平等で完璧なプラン、誰も文句もケチもつけないでしょう!

……そう思ってましたが

 

 

「……つまんない」

「つ、つまらない!?」

「私、掃除機のうるさい音苦手ぇ……」

「では話し合って決めm……」

「それもつまんなーい」

「……」

 

 

心底つまらなそうな様子の千束と掃除が嫌いなのか顔をしかめる鈴仙。

殴りたい……

 

和を以て貴しとなす。

昔の偉人(聖徳太子)の言葉に(なら)えば議論するのが良さそうですが……

こうなれば拳で決着をつけるしかないようですね。

 

 

「……じゃんけんでいきましょう」

「いいねぇ、それいいねぇ! じゃんけん!」

「え、でもそれだとちs……」

「何か文句でも?」

「ほら、鈴仙も勝負の準備して!!」

「準備も何もいらないでしょ……」

 

 

じゃんけん

それは確率によって支配されている運だけのゲーム。

世の中には心理戦だと言うような人が一定数いるかもしれませんが、多少のばらつきはあっても勝つ確率はみんな1/3、つまり平等に家事分担は決まるはずです。

 

 

「「「最初はグー! ジャンケンポン!」」」

「「「ジャンケンぽんっ!」」」

「「「ンケンぽん!」」」

「「ケンぽんっ!」」

「「ンぽんっ!」」

「「ぽんっ!」」

 

……

 

「「ぽぉ~んっ!」」

「……は?」

 

 

気づくとじゃんけんは終わっていた。

……まさかの全敗。

いや、現実的にあり得ないでしょ……

 

 

「あ、あの、掃除以外だったら私も手伝いますよ……?」

「ありがとうございます。ですが、言い出したのは私ですので……」

「そうだよ! たきなの仕事なんだからぜ~んぶ任せちゃおう!」

「千束は遠慮という言葉を学んでください」

 

 

分担表の21マスには全てに私の名前を見ながら約束は約束だと腑に落ちないながらも鈴仙の手助けを拒む。

千束は甘いジュースを、飲みながらテレビを見ており、鈴仙はお菓子をリスのように口に入れながらもどこか申し訳なさそうだった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

じゃんけんの件の翌日。

私は仕方なしに料理と洗濯、それから簡単に掃除をし、三人で集団登校(出勤)をする。

リコリコに到着すると過剰なほどの元気を振りまく千束が店のドアを勢いよく開け、その鈴の音を響かせる。

 

 

「おはよう、労働者諸君!」

「おはよーございま~す……」

「おはようございます」

 

 

千束は飛びきり元気な挨拶、鈴仙は対照的に眠気がまだあるようで目をこすりながら挨拶する。

電話中の店長、飲酒してないミズキさんと畳の上でゴロゴロしているクルミ。

 

 

「聞いたよ。エラいことになってるわねぇ~」

「んあぁ~、私たちDAじゃないから大丈夫だよ」

「可能性はゼロじゃありません。油断大敵です。……ですよね、鈴仙?」

「……えっ? あっぁ、ええそうですね! 気をつけないと……」

 

 

油断していると足下をすくわれてしまうと千束に釘を刺す。

ついでにぼーっと店長の方を向いている眠たそうな鈴仙にも注意を促す。

犯人がわからない今、いつでも危険を意識し、緊張感を持って行動しなければいけないということを本当にわかっているのだろうか。

 

 

「次の被害を防ぐためにもなると思うが……。ああそうか、わかった」ガチャン

「楠木さん?」

「今回の事件、司令は情報をくれそうですか?」

 

 

店長が電話を切る。

その音を合図に千束と私は質問をするが、店長は肩をすくめ首を横に振る。

 

 

「極秘だとさ」

「DA様は秘密が多いこって」

「勝手に覗いちゃうから、いいよぉ~!」

 

 

一刻を争う事態であるはずなのに私たちには極秘だと言うその裏には何があるのか。

テレビに映る『またしても常識を覆すアラン』『昨今の怪奇現象とその原因』などのくだらないトピックを見て、表は平和を感じながら仕事を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

 

「抹茶団子、おまたせしました」

 

 

たきなが接客を頑張ってる中、私とクルミは休憩、もとい情報を調べていた。

ちなみに鈴仙もいるけどフラフラして眠そうだったから仮眠させてる。

昨日は早く寝たはずなんだけどなぁ……

 

 

「ほい! これも~らい」

「ああっ、そのタイルもってくなよぉ」

「調査するんじゃなかったんかい!」

 

 

仕事が空いたのかミズキが調査中の私たちにそんな声をかける。

心外な! と一瞬思ったけど、まあ今の状況はボードゲームをしているようにしか見えないのでその言葉はしまっておく。

 

 

「ちっちっち、もうやれることは終わったのよ」

「情報をダウンロードして後でゆっくり調べるんだ」

「アンタっ、DAをハッキングしてるの!?」

「さすがはクルミさん、ヤバいねっ!」

「チョロいね……ガツガツガツガツ」

 

 

朝飯前だと調子にのるクルミはテーブルの上に置いてあった先生特製ぜんざいをかき込み、リスみたいなぷっくりほっぺたになっていた。

空になった皿を持ち上げ「たきな~、おかわり~!」という声高らかな声に目の前を通る労働者の鏡はむすっとした表情を浮かべた。

 

……今私のほう見てムスッとしてなかった?

何で!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

今日の仕事が終わり、3人で千束んちまで歩きながら帰ろうとしていたときのこと……

 

 

「……尾行されてる」

「えっ!?」

「本当ですか!?」

「うん、ドローンの音が追っかけてきてる」

 

 

少し離れた所からプロペラの音、ドローンが私たちを尾行してた。

距離にして数百m程で普通なら聞こえないし見えない距離にいる。

距離や方向は不規則、巧妙に隠れてるせいで尾行であると気づくのに遅れたけど私に感知されたのが運の尽き!

 

 

「え、マジか~… こちとらこれからゆっくり映画見ようと思ってたのに~。お願いたきなぁ」

「……わかりました。どこです鈴仙?」

「遠いし夕日に隠れてるから撒いた方がいいかも」

「了解です」

 

 

せっかく仕事が終わったのに業務時間外に仕事に呼び出されたが如く厭そうな顔をする千束。

唯一ちゃんとした銃を持っているたきなが仕方がない人たちですと言うような顔で承諾し狙撃しようとするけど、スコープがほしい距離なので狙えない。

近くにあったスーパーマーケットに隠れて、ドローンを撒くか誘き出すかしないと……

 

というわけで入店した。

 

 

「……とりあえず、今日の今晩の献立のリクエストはあります?」

「おっ、私はね~、これとかどう!」

「ヤツメウナギ? ……ゲテモノは料理の仕方がわからないのでパスです」

「ええ~、たきなが何食べたいって聞くから~」

「流石に一般的なものじゃないと困っちゃうでしょ。千束の大好物が寄り道、回り道、トラブルだとしてもねぇ」

「ですよね。流石にグミやガムを使う料理なんか言われても困りますし」

「私のことを何だと思ってんの!? 確かに面白そうだけど晩ご飯にはしないわッ!」

(あ、晩ご飯じゃなきゃグミとガムの料理作るかもなんだ(なんですね)……)

 

 

名称すらわかんない食品を指さす人が何言ってんだろ……

入店してしばらく経ったけどプロペラの音は聞こえてこない。

 

 

「うーん……流石に店内には入ってこないみたい」

「お、よかった~! これで晩ご飯決めに集中できる!」

「あの、鈴仙……」

「ん? な~に?」

「一体どのようにドローンがいるかどうか判断しているんですか? 外にいたときもですが私は全くどこにいるかもわかんないのですが……」

「ああ、私ね結構耳がいいの。だから意識しなくても勝手にいろんな音が入ってきて……」

「なるほど……だから掃除機のうるさい音嫌いなんですね……」

「そそ。つまり私の弱点は耳。ちなみに千束の弱点は目」

「それは人類共通です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

そんな毎日を過ごして早1週間ほど。

私たちは今日もリコリコで給仕をしている。

 

 

「どったのアンタ? そんな眉間にしわ寄せちゃって」

「ミズキさん…………実は、千束と鈴仙にじゃんけんで勝つ方法を考えてまして」

「……鈴仙、アンタ、最初はグーでやらせてるでしょ」

「ま、まあ、じゃんけんってそういう遊びだから……」

「……それでは勝てない。千束が服や筋肉の動きを見て相手の行動を予測しているのは知っているだろう?」

 

 

確かに千束がよく銃弾を異常な動きで躱しているのを見ますが本人曰く、「勘」。

そういう原理だったとは知らなかったです。

 

 

「鈴仙だってそうよぉ、千束よりは弱いけど」

「そ、それは千束が反射神経オバケなだけで、千束以外だったら連勝できますけど!?」

「その対戦相手がいないのに何言ってんだか」

「酷い……」

「つまり私が負けるのわかってて止めなかったと……」

「いや、止めようとしてたよ……それを千束に止められたけど」

「まあ勝ちたいなら最初はグーを止めることだ」

 

 

店長とミズキさんの解説と助言。

タネがわかればこっちのものです!

かの邪知暴虐の二人を倒すために……じゃんけんで!

 

 

「組長さんのとこに配達いくわー……ナニよ?」

「い・い・え、別に……」

「早く配達行ってきな~」

 

 

せっかくじゃんけんしようとしてたのにいきなり出鼻をくじかれてしまいました……

何か勝ち逃げされたみたいでムカムカした気分です……

ですが、リコリス襲撃事件の犯人が特定できてない今単独行動はよくない。

 

 

「私もいきます」

「ああ、大丈夫! クルミがね、リコリスの制服がばれてるんじゃないかって。だから上にポンチョ着てみました~! どう、かわいい? ねえどうどうどう?」

「……いいと、思います」

「ああ~ん、かわいいって言ってくれないなんて、たきなのいけずぅ~」

「……ハァ、とにかく私もそれで行きm」

「ああ、大丈夫! たきな、今日も夕飯楽しみにしてるゥ♪ それじゃ行ってきま~す!」

「……確信犯め、警察に捕まっちまえ」

 

 

 

 

****

 

 

 

 

千束との勝負はは配達に行ってしまったのでお預け。

代わりに鈴仙のじゃんけん連勝記録を止めようと挑んでいるのですが結果はというと……

 

 

「ど、どうして……!?」

「たきなぁ、もう止めにしない? 千束以外私に勝てないんだって……」

「いえ、もう一度です! それに千束以外に勝負相手はいないんでしょう?」

「グッ……た、確かにそうだけど、今それは違うよね!?」

 

 

私が連敗していた。

おかしい……助言通り最初はグーをやめて、それでも連敗だなんて。

そんな私を見かねたのかミズキさんが顔を出しに来た。

 

 

「こっぴどく負かされて、よくめげずに続けてるわねェ。言っとくけどその方法では千束に勝てても鈴仙は勝てないわよ」

「えっ、それってどういう? さっき千束より弱いって……」

「あーえーっと、私はさ、耳が良いって言ったでしょ?」

「ええ、スーパーの時言ってましたね。……それと何が関係が?」

「耳が良いからさ、心臓の音までわかるんだよね……。どんな感情なのかわかっちゃうんだ、心音で」

「はい?」

「つまり(感情)を読み取って予測してるらしい」

 

 

「ちょ、ちょっとぉ、ミカさん! 何でそこまで教えてるんですか~!?」

「ん? 悪かったか?」

「アンタが永遠どもって教えないからでしょ。兎の討伐方法(自分の手の内)くらい仲間なんだから吐いちゃいなさいよ」

「いや、そうじゃなくて……。気持ち悪いでしょ、自分の心を覗かれるとか……」

 

 

なるほど、そういうことですか……

 

私と鈴仙との間に何か距離を感じていたのはこれが一因な気がする。

私の視線に気づきビクビクと震える鈴仙を見て少しショックを受ける。

 

 

「ごめん……お、怒ってる……?」

「確かに怒ってますね」

「や、やっぱり! ごめんなさい。気持ち悪いですよね、嫌ですよね……」

 

 

「……私はこんなことを隠してたことに怒ってるんです」

「え……?」

「心を覗かれるくらいどうってことありません。むしろ私が鈴仙と仲良くしたいと思っていると気づいていたんですよね?」

「ま、まあそれは……」

「なら、もっと早くに打ち明けてほしかったです。…………そんなに私は友人として信用なかったのですか?」

「そんなことないです!! たきなはとっても優しくて……。でも怖かった、嫌いになっちゃうんじゃないかって怖かった……!」

「……馬鹿ですね。私が鈴仙のこと嫌いになるわけないじゃないですか」

 

 

鈴仙をただ静かに胸に抱き寄せる。

背中をさするたびに私たちの隔たりがなくなっていく気がした。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

千束が配達に行って数時間が経過し、外はすっかり暗くなる。

店の外も内も夜の静かさに呑まれていた……

先ほどまでは。

 

 

「ぁぁぁぁぁああああああああ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!」

 

 

静寂をぶち破る声が二階から降り私たちの前に来た。

一体何事かとクルミを凝視する。

 

 

「見てくれっ! これは銃取引の時のDAのドローン映像! これが犯人に流出してバレたんだっ!」

「なぁんでそんなモンが流出すんのよ!?」

「あのときのハッキングか……」

「アンタの仲間じゃないの? さっさと調べなさいよ!」

 

 

ミズキさんがクルミに指示を出すが動きがない。

クルミの顔を見ると申し訳ないような、気まずいような顔をしており、爆弾を落とした。

 

 

「あの時のはボクだ……」

「どういうことだっ!?」

「依頼を受けてハッキングした……仕方がなかったんだっ! 目的のクライアントに近づくには必要だったんだ……」

 

 

耳を疑うような発言に皆が驚き、険しい顔つきになる。

どのような意図にしろ、私の左遷の原因が目の前にいる。

今まで仲間として見ていた者から突然裏切りの告白。

 

でもそれがあったから私はここにいる。

あの時、千束が私に居場所をくれた。

こんなにも不安がっていた鈴仙が待っていてくれた。

あの事件があったおかげでこの人たちに会えた、失ってできた意味があった。

 

 

千束たちの考えを知って自分の中に変化が起きたせいか……

不思議なことに冷静さを失っただけで、怒りや憤り、悲しみはほとんどなかった。

 

ただひたすらに千束が心配で……

今はクルミがDAにハッキングしてたことなんてどうでもよかった。

 

 

問題は今回の騒動の犯人はリコリス制服を目印にしている訳ではなく、映像にいるその人をターゲットにしているということ。

クルミが見せてくれた写真の中に千束は写っていない。

 

良かった……なら千束は平気ですね……

 

 

そう、千束は安全なはずなのに何故かほっと息をつけない。

……妙な胸騒ぎがする。

 

 

「映像はそれで全部ですかっ!?」

「千束、千束は…………! 写真はアレで全部じゃないんだっ……!」

 

 

クルミの焦って千束を探す声、予感が確信へと近づいていく。

悪い予感なんて当たってほしくないのに……

 

千束が映し出されているタブレットを見せつけられる。

的中してしまった。

 

季節は秋。

ドアベルの音、木が軋む音、風の音、すべてが私たちの不安を煽る。

 

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