優曇華と彼岸花   作:桃玉

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<Reisen side>

 

千束が狙われている。

狙われた他のリコリスは全員死んだ。

 

でも千束は強いから大丈夫だ……

そう思っていても嫌に不安が燻る。

 

もしもを考えてしまうんだ。

私をおいてどこか遠くに行ってしまうんじゃないかって……

また一人ぼっちに戻っちゃうんじゃないかって……

今までの出来事が夢や幻のようにあやふやに消え入ってしまうんじゃないかって……

そんな恐怖を想像すると震えが止まらず、心音が大きくなる。

 

 

たきなが千束に電話をかけている中、私は不安に押しつぶされそうで息を荒げることしかできない。

突如電話から聞こえてきた衝突音と千束の声。

 

 

「千束! 大丈夫ですか!? 千束!!」

 

 

たきなが呼びかけても切れた電話からはノイズしか聞こえない。

 

 

誰か(仲間)が死ぬのが怖くて、死を受け入れられずに、本当の意味で誰か(千束)の命に向き合えていない。

だから命が簡単に失われる戦場は嫌いで、怖くて何もできず、ただ震えているだけだった。

 

でも、怖いけど戦い(助け)に行きたくて、逃げたいけど逃げたくない……

矛盾した意識の中、後悔はしたくないという思いが荒く喘ぐような呼吸音と煩い心音を押さえつけ、武器を持つことなど忘れ、鈍い体を動かし始めた。

 

轟く銃声。

非道く五月蠅い方に全速力で向かった。

 

 

 

 

 

ナニカが膨れ上がる。

怒り、悲しみ、苦しみ、全ての感情をドロドロに溶かしたようなナニカ。

 

千束の苦しそうな声が聞こえてきて、感情も殺気も気配も隠す余裕がなくなる。

感情の波が押し寄せ、外に溢れ出し、正気でいられない……

 

激しく共鳴した感情は狂気の波長となり周囲に伝播し……

私は狂気の瞳で敵を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

クルミが千束の映像を見せてくれたことで嫌な予感が確信に変わった。

千束に危険を知らせる一報を飛ばし、その電話越しに激しい音が響いた後連絡が途絶える。

 

顔が青ざめ不安と緊張で冷たい汗が垂れる。

いち早く安否を確認するために現場に向かわないと……

そう思ったときに初めて鈴仙がいないことに気づいた。

 

私より先に千束の方に駆けだしたのか。

さっきまでそこにいたのに、まるでずっとそこにはいなかった幻のように消えた鈴仙。

ようやく隔たりがなくなったのに忽然といなくなってしまった……

不安は増すばかりである。

 

 

急いで千束がいたと思われる場所に足を走らせる。

着いたその場所には千束が身に纏っていたポンチョと先頭の形跡のみ。

 

一足遅かった……

拳を強く握りつつクルミの指示に従い全力で駆ける。

 

 

『まずい! 千束がやられてるぞ!』

 

 

そんなクルミの声を聞き、足はさらに加速する。

辿り着いた……

 

無線から『えっ……』と漏れた声。

私からも同様の声が漏れる。

なぜそんな声を漏らしたのか?

 

そこにいつの間にか消え去っていた鈴仙がいたからか。

赤い液体が倒れている千束の額から流れていたからか。

敵の数が一瞬で把握できない程であったからか。

 

どれも正解だが一番の理由ではない。

 

鈴仙の異様な雰囲気に呑まれてしまったせいだ。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

いつもの鈴仙ではありえない不気味な気配。

普段の気弱の雰囲気から人が変わったかのように一変した。

 

敵の意識は完全に彼女に向いていながら、銃弾は放たれずにいる。

千束にゆっくりと歩み寄る鈴仙。

発狂したように誰かが放った銃弾も一切彼女を射ていなかった。

 

無意識に鈴仙を撃つことを躊躇ったせいか……

それとも彼女の回避能力が千束のように神がかっているのか……

ナニカに晒され正確に判断できない私の視覚は銃弾が鈴仙の体を透過したように見えた。

 

射程範囲外からでも十分感じる殺気のようなナニカ。

そのナニカに触れ、恐怖、憤怒、疑心、哀惜……あらゆる感情の波が増幅する。

狂気の感情の波に襲われ、感覚が狂う。

 

そんな中、月の光を反射して暗闇に赤く映る瞳が綺麗だった。

 

 

「オイ……なんだぁテメェは? コイツの代わりに戦ってくれんのか?」

 

 

主犯格だと思われる男が銃口を千束から外しつつ再装填、鈴仙の方へ僅かにそらして片腕で構える。

唯一鈴仙の気配に飲み込まれなかったのか冷静に睨みをきかせる男。

鈴仙はそれを無視して千束の方に近づく。

 

 

パアァァァンッ

 

 

一発の音を皮切りに鈴仙は男に肉薄する。

さっきまで透過しているように見えていた銃弾が鈴仙の頬を掠め、代わりに照明が破壊される。

 

 

「……なんだ、喋らないのか? 寂しいぜ俺は……ッ!」

「……グッ」

 

 

急に光を失い、目のしぼりの調節が上手く働かない。

かろうじて男の蹴りが鈴仙に当たったことで吹き飛ばしたのを認識できた。

蹴りをもろに受けたのか鈴仙の苦しそうな声。

さっきまで銃弾はかするどころか通り抜けていたのにどうして……

 

 

「……なんだ、喋らないのか? つれねぇなぁ寂しいぜ俺は……ッ!」

 

 

月に叢雲がかかり、暗闇に包まれて鈴仙の月明かりを反射していた赤い瞳も見えない。

二発、三発……

その間にも銃声が鳴り響く。

 

こんな暗闇で照明もない中まともな戦闘ができるはずない。

四発、五発……

しかし爆ぜる火薬の光は激しい。

 

 

「テメェ……おもしれぇなぁ」

「……」

 

 

暗闇に目がようやく慣れ、鈴仙と男の方を見る。

 

そこには無手で転げた男。

男から奪い取ったのであろう銃を握る鈴仙。

その銃口は男に向けられ、いつでも撃てる状態でいた。

 

しかしそこから一切の変化を感じない。

 

銃弾を一発残した状態で硬直している鈴仙。

殺しが嫌いなら急所を外せば……

血を見るのが嫌なら目を瞑れば……

そう思うのに小刻みに震える指はトリガーにかかる気配がない。

 

 

「オメェ……なぁにビビってんだぁ? 銃は殺しの道具だろ」

「鈴仙!!」

 

 

男が素早く鈴仙から武器を奪い返しそのまま固まって動かない鈴仙に向けて最後の一発を撃ち込む。

鈴仙は金縛りにあったかのように一切動かない(動けない)

 

思わず叫び、目を瞑る。

 

しかし銃弾にさらされることはなかった。

間一髪で千束が手を伸ばし、鈴仙を引っ張り、攻撃を寸での所で回避したようだ。

 

 

「千束……」

「……大丈夫。ありがと、鈴仙」

 

 

起き上がり弾切れのリボルバーに弾を詰める男。

膝をついている武器がない二人が立ち上がる。

 

満月の光が照らす。

絶望的な状況だけど千束と鈴仙なら……

 

いつの間にか私の感情や感覚が正常になっている。

なら……私はやるべきこと、つまり二人が体勢を持ち直すまで支援すればいい。

 

場所を変えながら敵の急所以外を狙い撃つ。

この隙に体勢を持ち直してくれれば……!

 

十秒もない時間。

しかし体勢を整えるには十分な時間。

 

千束は落とした自分の武器を取り、突然の発砲に気をとられた敵に何発も打ち込み気絶に追い込む。

鈴仙はどこにいるかわからないほど姿気配を巧みに絶ち、いつの間にか敵が一人ずつ膝をついて倒れている。

 

戦い方は全く違う。

でもどこか似ている白く輝く太陽と月、二輪対の赤い彼岸花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

無意識に硬直する指、千束の力強い瞳と仄かに伝わる体温と息づかい、そして耳に届いた声。

高ぶり(ほとばし)り爆発した狂気的感情は落ち着きを取り戻し、意識は現実を認識する。

 

感情に乗っ取られ、正気を失っていた……

自己嫌悪とトラウマで膨れ上がりつつあるソレ(狂気)を押さえつける。

 

突然、敵が血を出して倒れ出す。

サイレンサーのついた独特の小さめの銃声がなる方を見ると戸惑いは消える。

 

たきなだ。

 

そこから体勢を立て直すのに時間は要さなかった。

千束が落とした自分の武器を取り、突然の発砲に気をとられた敵に何発も打ち込み気絶に追い込む。

私が音を鳴らすたび、一つ響くたびに敵も一人ずつ地面に倒れる。

 

 

多勢に無勢にもかかわらず見かけ上こちらが優勢。

けれど実際に不利なのは私たちの方で、千束とたきなの銃弾がなくなり次第攻撃手段がなくなり逃げ回るしかなくなってしまう……

なんてこと考えている間も敵の銃弾は容赦なく私たちを狙ってくる……

当たらないけど。

 

発砲の音は無数に聞こえるのに肉が爆ぜる音、骨が砕ける音、血が大量に吹き出る音は一切ない。

夜風が肌を掠める中、撃ち転がされた人型も暖かさを失わない、ただのごっこ遊びだ。

 

 

「聞いてねぇぞロボ太…………ハハッいいぞぉ、最高だ! だが1対2じゃダメだ(フェアじゃねぇ)。バランスを取らなくっちゃなぁ!!」

 

 

男の銃撃が加速する。

激しい銃撃戦に、狙いが定ならないまま銃弾をばらまき牽制する千束、もう弾切れが心配になる。

 

そんな時突然車がやって来た!

ミズキさんが運転する車だ!

最高のタイミングで敵の体勢を崩しながら私たちの横につけ、敵の射線が遮られる。

 

 

「お前たち! 乗れっ!!」

 

 

後部座席から聞こえるミカさんの声に促されそのまま車に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

あの戦闘の後私たちはリコリコに帰ってきた。

結局銃弾切れで撤退を余儀なくされ、爆発などヒヤリとした場面もあったがこうして全員無事で良かった。

座敷で店長と鈴仙が千束の手当を行って、ミズキさんは酒瓶(未開封)片手にカウンターに腰掛けていた。

 

そんな一方今回の事件のきっかけであるクルミは私の前の床に正座をして、申し訳なさそうな顔を浮かべる。

 

 

「……ごめん、たきな!!」

 

 

私としてはもう気にしてないのでどうだっていいんですが……

後ろの方から「たきな、やっちまうか?」「この場合禁固何年になるのかなぁ」「アンタは被害者なんだから……」という声が聞こえてくる。

目の前に犯罪者がいたら警察に突き出しますが、仲間は例外です。

 

 

「銃取引の時の結果は私の意思で行ったものでクルミのせいじゃありません。…………でもあいつは捕まえる。最後まで協力してもらいますよ?」

「も、もちろんだ!! ……さっそくだがそいつの名前がわかったぞ!」

 

 

早速調子を取り戻したクルミがニヤリとしながらタブレットを取り出し動画を再生する。

 

 

『真島さ~んっ!』

『真島さ~んっ!』

「真島さーん、だって」

 

 

さっそく犯人逮捕に一歩進展です。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「ねぇ~たきなぁ。帰り道くらいゆっくり帰ろうよ~」

「千束。危険なことがあったばかりですし油断は禁物です」

「ちょっと……もう足が動かないんだけど! 手、離すか止まってほしんだけど! ねぇ……ねぇって!」

 

 

時刻は20時。

今回、クルミだけではなく私も二人に単独行動をさせたことは良くなかったと反省した。

その反省を生かし千束と鈴仙の単独行動を見逃すまいとガッチリ腕を捕まえ暗闇を闊歩する。

千束の家に着いた頃には鈴仙は死にそうなほど疲弊してましたが、今日はもう食事と睡眠だけなので問題ないですね。

 

時刻は22時

もうそろそろDAでは消灯時間。

そろそろ寝ようとシーツの準備をしているのに、二人は今から映画鑑賞3本コースを始めようとしていて……呆れてしまいます。

 

 

「鈴仙、こっちきてくさだい。もう就寝時刻です!」

「えー! まだまだ眠くなーいー!」

「そうだぞぉ! これからパーリナイッするんだから……今夜はたきなも寝かせないぜ☆」

「そう言うのいいんで、千束は警戒お願いします。「ぶー、冗談通じないヤツめ……」鈴仙は私と一緒に就寝です。寝れるときにしっかり寝るのが良い子(リコリス)です」

「ふ、不公平!? 私、もう15だよ!? 昔だったら元服(成人)してます~!」

「その幼児服が似合う体型で何言ってるんです? しっかり食べて寝れば伸びます。ほらこっちきてください、もう10時です!」

「ち、ちさとぉ~! まだ9時半だし早すぎるよね!? そうだよね!?」

「鈴仙……南無三」グッ

「ご協力、感謝します」グッ

「アイルビーバアァァック……ッ!!」

 

 

デデンデンデデン、デデンデンデデン……

 

サムズアップして千束がかけた映画「ターミメーター」のBGMとともに絶叫する鈴仙を暗い寝室に引き込んだ。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

敷き布団に引きずり込み、私たちは横になる。

千束が私たちに配慮してイヤホンにしたのか、静寂が広がる。

 

 

「鈴仙……」

「ん、どうしたの?」

「その……どうしてあの時撃たなかったんですか?」

「あの時?」

「ほら、さっき。真島の銃を奪い取って……」

「ああ……」

 

 

銃弾が透過して見えたのも、普段は感じない奇妙な気配も、あの暗闇の中どうやって動いていたのか……

他にも質問したいことは山積みですが、まず最初にその行動が引っかかった。

 

 

「千束みたいに殺しに否定的なのはわかります。血も苦手なのを知っています。ですがあの緊急事態でなぜ急所を外して撃たなかったんですか? 例えば肩とか足とか……」

 

 

私の質問に鈴仙の顔に影が差す。

もしかして聞いてはいけないことだったのでしょうか……

私が何か声をかける前に鈴仙の口が動き出す。

 

 

「……銃の引き金を引くのが怖い。ただそれだけだよ。…………」

 

 

それ以上は何も言わず背を向ける鈴仙。

僅かに震えを感じるその声は僅かな拒絶と大きな恐怖の色がにじみ出ていた。

 

そんな彼女を見て心臓がドキリと跳ね上がる。

この場所から消え入ってしまいそうな彼女を幻視するほどに不安定で脆く儚い感じ。

 

思わず手をつかみ、背中に体を寄せる。

 

 

「話したくないならそれで大丈夫です。鈴仙は臆病で、でも優しい人だってことは知ってます。だから話したくないならいいです……待ってますから、いつまでも」

 

 

 

 

****

 

 

 

 

鈴仙がポツリと言葉をこぼす。

 

 

「昔はね……人が死んでいくの、怖くなかったんだ。自分だけで精一杯だったから」

「……はい」

「何人も何人も……悲しくて、ツラくて、苦しくて、何かに(不条理に)怒って……死んでいったの」

「……」

「初めての仲間たちもそうだった。みんな死んじゃって…………私のせいでみんな死んだんだ」

 

 

涙を堪え、肩を震わせながら懸命に自身のことを伝えようとする鈴仙。

 

 

「でね、多分そのあたりから死んだ人が夢に出て来るようになって……自分が死ぬこと以上に誰かが死ぬことが怖くなったの」

「……そう、だったんですね」

「うん。まだ初めのうちはDAのお仕事だし割り切って、何とか大丈夫だったんだけど繰り返してるうちに、銃を握ることすら怖くって、殺すどころか撃てなくなってたんだ……。本末転倒で笑っちゃうよね」

「……」

「誰も助けられないし悪夢を見るし……自暴自棄になるくらいには大変だったなぁ……。仕事ができなくなって、DAから追い出されて、後はわかるでしょ?」

「……ええ」

「千束を見て……もう、ね。唯一無二の相棒を見つけられた気がして嬉しかった」

「歴代最強のリコリス。千束なら絶対死なないし絶対死なせないですからね……」

「……………………うん」

 

 

鈴仙が人を殺さない理由も人が死ぬのを怖がる理由もわかった。

鈴仙は仲間の死と同じように誰かが死ぬのが悲しくて、怖くて……優しすぎて自分が傷ついてしまうんだ。

 

 

「それでね、たきなが来たとき、DA復帰したいって言ってたし、そうした方がみんなのためになるって決めつけたんだ。いくら善い人でも弱かったら死ぬし、仲間として見る覚悟がなかったんだ……」

「それ、私が弱いって言ってます?」

「いや、あのときのたきなは、何ていうか……すごい焦ってたでしょ? それが不安定に見えたんだと思う」

「なるほど…………。ちなみに今の私は仲間として見れますか……?」

「うん、もちろん……!」

 

 

話がトラウマから少し離れたのか、鈴仙の震えが消える。

鈴仙が背中を翻し、くっきりと満月のような笑みが見える。

しかし儚げで、以前の私より不安定な笑みだった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「……ところで鈴仙。……さっき誰かが死ぬことが怖くなったって言ってましたよね? 自分より……」

「きゅ、急にどうしたの? 確かにそんなこと言ってたかもだけど……」

「その……自分のことを大切にすると約束してほしいんです」

 

 

今の鈴仙を見ていると自分の命を削ってでも誰かを助けるような……

そんな危うさを感じる。

 

私たちにとって鈴仙は大事な人だから、少なくともそんなことにならないように約束して安心したかった。

 

 

「私たちの活動方針は『命大事に』です。敵を殺さないのもそうですが自分のことも大事にしてください!」

「…………いいよ、約束しよ! ……代わりと言ったら何だけど私からも一つ約束、聞いてほしいな」

 

 

鈴仙が真剣な顔つきで瞳を見てくる。

私としては鈴仙がどこか遠くに行ってしまわないように繋ぎ止められる何かがあればよかった。

もちろん変な約束でもない限り断る理由もない。

 

 

「私が死んでから死んでね? 誰かが死んじゃうのは嫌だけど、たきなが死んじゃうのはもっと嫌だから」

「嫌です」

「じゃあ約束を…………今なんて?」

 

「嫌ですよ、そんな変な約束」

「ヒドい!? 何が変!?」

「理由言わなくても……そもそも鈴仙が死ぬのが嫌です。先に鈴仙が死んだら追いかけないと一緒にいられないじゃないですか……」

「まさかの想い重い回答だぁ……」

 

 

何も重いことはない。

さっき自分のことを大切にしろと言ったばかりなのにいきなり違反するとは……

鈴仙を繋ぎ止めておくための楔が全く効いていないことに正直こちらの方が驚きを隠せません。

そもそも鈴仙の場合気配消せば大体生き残れるので死んだ時点で約束を無下にしていると見なせますし。

 

 

「……約束を変更します。鈴仙は生きてください。私も絶対生きてやります。破ったら地獄でもどこまでも追いかけてあげますから。それでいいですね?」

「重っ…………ほ、本当に追いかけてくることない……よね?」

「……まあ、当分死に急ぐ予定はないです。鈴仙次第ですが」

「怖っ、自分自身を人質にとって約束させる人初めて見たわ」

「とにかく、鈴仙が死なない間は私も約束を守りますから」

「……わかった。約束」

「ええ。約束です」

 

 

小指を絡ませて契りを結ぶ。

今やDAよりリコリコでみんなと一緒にいる方が大好きで、千束の鈴仙もみんな不可欠な人たちですから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

翌日、私とたきなはミカさんに頼まれ、嫌がる千束の両腕を掴んでとある場所に連行していた。

 

 

「二人とも! 私逃げない、逃げないから放せやコラっ!」

「ちょっ、抵抗しないでケガ人は大人しくしていてください!」

「今日は消毒とか傷の治療だけだから暴れんなじゃじゃ馬娘!」

「何で今日に限ってそんな息ぴったなの!? だって傷口に塩塗るみたいに痛いよ拷問だよ!? 避けられないから嫌いだぁ……」

 

 

とある場所とは千束の担当医、山岸先生のところ。

子供のような千束は定期検診やライセンスの更新といったものを疎かにしがちで、私たちが口酸っぱく言っても改める気はないらしい。

多分その背景には普段ケガをしない(痛みを回避できる)分、絶対回避できない痛みに苦手意識を持っているんだと思う。

そんなこんなで途中まで無理矢理、その後観念したのかスムーズに患者を搬送(連行)した。

 

 

「ケガなんて珍しいわね」

「いやぁ、相手の目潰しが効いて……。でも鈴仙が途中駆けつけてくれたおかげでそこまでひどくはないでしょ?」

「いいえ! 車にはねられたんだから受け身して骨折はないにしろ酷い打撲よ! ここに引っ張ってきてくれた二人には感謝しなさ、いっ!!」

「いだああっ!?」

 

 

山岸先生が傷口に消毒液を塗り込み、湿布を貼り、包帯を巻き付け、千束が悶絶する様子を面白がってみているとたきなが突然当然のことを口に出す。

 

 

「千束の弱点は目ですね」

「ね! 言ったでしょ?」

「それは誰だってそうだろって……」

 

「……そう言えばこれでリコリス襲撃騒動は終わりですね」

「えぇ~たきなぁ、二人でいると安心だし、しばらく同棲続けないとぉ♪」

「……じゃあ勝負します? 千束が勝てば継続で」

「いいね! この勝負乗った!」

 

 

今までたきなに負けたことがない千束はノリノリでじゃんけん勝負を引き受ける。

 

……たきなに勝ってほしいなぁ。

これ以上千束と一緒にいると甘やかされて堕落しちゃうし、そろそろ限界なんだよねぇ……。

 

 

「最初は「じゃん・けん・ぽん!!」ええ゛っ!?!?」

「ッシ……~~~っっ!!」

 

 

言葉に表せないほど喜ぶたきな。

勝負に負けたあげく喜んでいるたきなを見て「それってつまり同棲したくないってこと!?」と思いショックを受ける千束。

 

たきなとの約束通り、

千束との約束通り

こんな生活がいつまでも続けばいいなぁ……

千束の心臓が止まらないでほしいのに……

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