<Takina side>
今日も平常運転の店内は賑やかです。
昼休みを使って休憩に来る人。
創作活動に勤しむための場として活用している人。
ボードゲームを楽しみに来る人。
様々なお客さんが来ます。
「ヘイ、オマチっ!!」
「千束ちゃん、飲み屋じゃないんだからぁ」
「おっ? 昼から飲めるのかい?」
「阿部さん、こちら泥酔になります……」
「おお、鈴仙ちゃん! 昼間っから盃とは悪いねぇ!」
「オイィッ! それわたしんのだからっ!」
「阿部さんっ! 勤務中ですよ!」
「ですって、ミ・ズ・キ・さん?」
「ぐぬぬぬぬっ……! 仕事終わりまで我慢すればいいんでしょ!?」
「そもそもお店にお酒を持ち込まないでください」
お酒を昼から飲む不良がいる日常風景に問題を感じつつ、このお店は別の問題も抱えていた。
それは何かというと……
「今日のもすごいねー!」
「なんて言ったって千束SPECIALですからぁ! 北村さんも食べます~?」
「食べるー!」
「はいはいっ俺もー!」
「こっちも頼むよ」
「はいはーい! スペシャル一丁二丁三丁っ! ほらたきなもムスッとしてないで愛想よく働いて! …………? おーいたきなー、スペシャル三つだよー?」
「……まずいです、このままでは!」
「何が?」
赤字必至千束のボリュームたっぷりのパフェが売れに売れまくっています。
お店は絶賛経営難中。
この前以上の閉店の危機を回避すべく従業員全員に危機意識を持たせないと……
****
「大赤字だな……」
「依頼を合算しても足りません。このままではインスタントコーヒーのみの提供になってしまいます……銃弾や仕事の移動の経費はどうしてるんです?」
「DAが千束のリコリス活動費用って名目で支援金もらってんのよ」
「……足出てますよね。独立してると言いながらお金はDAに頼ってたと……」
「う、うえーん、楠木さんみたいなこと言わないでよぉ」
「コイツがバカスカ高い弾を打つからよ!」
「というミズキは化粧品やスケスケ下着を購入してるけど……」
「ウッ……!」
鈴仙の指摘でミズキさんがギクリとする。
全員からの視線が突き刺さり呻き声をあげるミズキさんを監視対象としてマークしておく。
「あのパフェもだな」
「というクルミはこの前株価落ちやがったって悪態ついてたけど……」
「ナ、ナンノ、コトカナ……ソレニ、マイナスニハ、ナ、ナッテナイヨ?」
勝手にお店の資金を投資に運用してたんですか……
これはクルミも監視対象ですね。
「クソー! みんな結局私利私欲じゃねぇか!」
「という千束は……」
「うぉぉおい! 私は何もしてな……!」
「ホームシアターセット」
「げぇ、バレてる!?」
完全に自分の趣味じゃないですか!
ミズキさんも千束も給料でもないお店の資金を経費扱いで勝手に使わないでくださいよ……
「とりあえず今の三人は今後私の了解を得てから資金運用をするように。鈴仙は引き続き監視をお願いします」
「はいはーい! この鈴仙にお任せあれ~!」
「鈴仙の裏切り者ぉ! 密告者ぁっ!」
「横領者にそんな風に言われる筋合いないんだけど!?」
「その通りです。横領の疑いがある三人は今後の仕事に期待します。いいですね?」
「「「……はい」」」
とにかく赤字続きをなんとかしなくてはいけない現状。
お店を建て直すには……
「店長。店長はこのお店の経理できますか」
「……ご覧の有様とでも言っておこう」
「わかりました。以後私が、ここの経理をします!」
<Reisen side>
こうしてリコリコ営業改革が始まった。
たきなが経理を始め、今までの無駄な費用が徐々に明らかになっていく……!
無駄を発見し次第たきなの指導が入り、聞こえる千束とミズキの悲鳴が日常と化してきた。
もちろんたきなの指導はリコリコの外、今日のようなリコリスとしての任務も例外じゃない。
「千束、クリーナーを呼ぶと莫大な費用が飛びます。できるだけ現場を壊さないで、原状復帰が不要な活動を心がけてください。……ちょ、弾使いすぎです!」
「ヒイイィィ……!!」
建物中に響き渡る千束の悲鳴。
ようやく回復してきた経営状況をクリーナーバンバン使いまくってプラマイゼロにしようとする千束をワイヤーでぐるぐる巻きにして拘束するたきな。
派手な惨状にならないのはいいけど仲間に向かって拘束をかけるとは苦笑いするしかない。
千束たちの行動に手を焼いているたきなのため息を聞いて他人事のように大変だなぁって思う。
だって私の仕事は横領阻止だけだしね。
「いやーお疲れ様だね、たきな」
「そう思うんだったら鈴仙からも注意してくださいよ……。何のために監視担当に任命したと思ってるんですか。鈴仙も一緒に経理経営の協力してもらいます」
「えっ、監視担当ってそんなとこまで職権及ぶの!?」
「今決めました」
「職権乱用!?」
「適当な采配です。鈴仙ならできると、信じてますから」
「よく信じてるとか小っ恥ずかしいこと言えるね……」
ほくそ笑むたきなを見て顔があっつくなる。
それにしてもほとんどたきなと同じポジじゃんか!?
さすがに疲れるし遠慮したいんだけど……
そんなこと思いながら建物の中を歩いていると銃を持っているチンピラ風の男の人たちが目を光らせていた。
まあ見た目からしてアマチュアの集まりだね。
私たち
「回り込んで先に仕留めてくるね」
「はい、私は打ち漏らしを狩っていくので」
「了解」
手短に話終え、戦闘態勢に入る。
物陰に身を潜めつつ敵に接近し、武器から音を鳴らした。
一人でぶらついていたチンピラから狙いを定めて一人ずつ、確実に無力化する。
これが私の戦い方。
まあそんな戦い方だから敵襲がばれて警戒されちゃうんだけど……
それくらいのこと全然問題じゃない!
むしろ音が鳴った方を警戒してくれるから簡単に意識の外に入り込め……もとい、逆に隠密がしやすい。
すぐに移動してるから敵に見つからないし、かなり私なりに上手く立ち回れてるはず……
そんな感じで二人、三人と順調に制圧完了!
****
「ふう、こっちは制圧終了!」
「こちらも大丈夫そうです、お疲れ様でした。千束と違ってクリーナー呼ぶ必要がなくって助かります」
「それはどーも? まあ私の場合、あれだよ、武器と戦闘スタイルがこういうのに適してるから、たまたまだよ」
「……何か照れてます?」
「い、いや? ……どうしてそんなこと聞くの!?」
「褒めてるのに素直じゃないので……。顔も赤いですし」
べ、別に顔が赤いのは運動した後だからだよ?
ニヤニヤしないでよたきな……!
何か本当に照れてるみたいじゃん!
たまたま使っているコレが一番手に馴染んでるだけだよ……本当だからね?
「それにしても本当にきれいなまま終わりますね。血もないですし……。前から気になってましたけど一体どう戦ってるんです?」
「ああー……コレは、何ていうか、音発生装置?」
「なんで疑問なんですか……」
「いやだって音が鳴る無駄に性能がいいおもちゃの銃だって言いたくないし……」
「おもちゃなんですね……」
そう、
たきなだから笑わないと思って話したけど……
思い出しただけで恥ずかしさとミズキに対する怒りが……!
「でもそのおもちゃで敵を倒してるんですよね?」
「まあね。私も詳しく説明できないんだけど、銃を耳元で鳴らされれば鼓膜が破れて誰だってあんな感じになるでしょ?」
「確かにそれなら原理的には理解できますがだいぶえげつない攻撃ですね……。倫理的に……」
「いやいや物の例えだって! 本当にそうしてるわけじゃなくて……。まあ確かにやろうと思えばできなくもないけど私、耳いいでしょ? 自爆するし諸刃の剣だから……」
「なるほど、そう言われれば……。ではどうやって?」
「何というか……波長を合わせたりすると、神経調節性失神とかでああなる……みたいな?」
「はあ……? 波長です?」
「だ、だよねぇ。うん、そんな反応になるのわかってた……」
だって私だってわかんないもん。
感覚的な部分を言語化して説明する能力は語彙力がない私には無理だったよ……
千束みたいな勘の類いなんだろうけど……なんて言うの? 意識の波長? 感情の波?
う~~ん……言葉にするのが難しい……。
「そう言えば前にも店長が鈴仙は心音から感情を読める的なこと言ってましたけど、その波長とかと関係が?」
「うん、そうそう! ちょっと違うけど何となくそれに近いかも……。まあ千束みたいにある程度近づかないといけないのが欠点だけど、この銃なら引き金を引けるから重宝してるよ」
「おもちゃなら安全ですし……」
「おもちゃ言わないで!」
ホント、最近のたきなはからかい上手なんだから……
これで天然なのが恐ろし過ぎる。
「……まあ確かに血が出ないおかげで結構精神的にラクだけど普通にやった方が早いよね」
「ですね。帰ったら効率的な戦闘スタイルを考え、訓練しましょう」
「い、いやご勘弁を……クリーナー代が浮くと思ってさ……」
「ふふ、確かに、それは大事ですね。……帰ったらもう一踏ん張りです!」
「ねえ? それは給仕を頑張るって話だよね? 訓練を頑張ろって話じゃないよね!? ねえ、たきなってば!」
クスクスと笑いながら千束に絡まっているワイヤーを解除しに行くたきな。
最近は自主的にいろいろ頑張ってお店の地下にある射撃場で練習してるんだけど!
これ以上負荷かけたら筋肉も心も大変なことになりそうなんだけど!?
ねえってば!!
****
結局たきなの冗談だったみたいで訓練回避できて一安心。
代わりに千束が訓練とかいろいろ頑張ってた。
その甲斐あって千束は銃弾一発で依頼を終わらせる域までになり、たきなに褒められてうれしそうに声を漏らすらしていたのは記憶に新しい。
このままいけば順調に黒字を維持できる!
そう思っていたんだけど……
いや、実際そうなったんだけど……
「お待たせしました! ホットチョコレートパフェです! ごゆっくりどうぞ」
「ミズキ~、4つ追加~!」
「ミズキさん、4番に3つお願いします!」
「……ま、待ってぇ、今、今やるぅ!」
「鈴仙、何ぼーっと突っ立ってるんですか。仕事中です。早く運んで!」
「は、はいぃー!」
店の外には何人もの人が列を作り、店内は大混雑!
普段働かない
……ここは問題じゃないんだよ。
問題は蜷局を巻いた
しかもお客さんはそれを嬉々として口に運んでいることだよ。
「おお~! 今日もお客さんいっぱいだね! よっ、たいしょー!」
「どちらかというとマスターだよ」
「そうそう、そうだね、鈴仙ちゃん。……だけど私がここに来たときは閑古鳥が鳴いてたのにどうしたの?」
「いや、アナタのせいですよね、菫子さん?」
「アレ、そうだっけ? ま、リピーターとして応援してるから頑張ってねー」
普段は常連さんしかいないこのお店にどうしてこのようなことが起きたのか。
この異変の発端は目の前にいる女子高校生のお客さんがSNSにたきなのパフェを載せたことだったりする。
つまりバズり散らかしていた。
おかげでお店は大繁盛して忙しさと排泄物状のパフェを運ぶことに苦笑いしてたけど、もう一周回って笑えてきた。
……千束たちには笑顔を貼り付けてるみたいでキモいって言われたけど気にしないもんね。
****
「お疲れ様でした。この調子でまた明日も頑張りましょう」
「お、おう、明日もが、頑張るぞー」
「あ、ああ、お疲れさん……」
「ククッ……疲れーw」
「ウ、ウヴ……」
「……」
営業時間たっぷり行われた強制拷問。
ワロてるクルミ、呻くミズキ、声一つ出さず顔をテーブルに擦り付ける私。
もはやブラック企業と遜色ない労働態勢なんじゃないかな。
疲労で死にそう……
今日という日をなんとか乗り越えるのに精一杯だったのに明日もあるとか、マジで死ねるんだけど。
「……では一足早く上がらせてもらいますね。明日もよろしくお願いします」
「あーい、じゃあねー」
「……」
ドアを閉じてしばらくすると大きなため息。
抑圧から解放され、「ふぃー、おわったわった!」と隣に座る千束。
そんな千束に顔を伏せたまま恨み辛みを吐き出す。
「はぁー……ねえ、千束」
「どしたー」
「どうしてこんなことになってるんですか……」
「それはねー、ミズキがー、私の言葉をー、止めたからぁー」
「じゃあミズキは後で絞めるとして」
「ちょ、とばっちりっ! それにさん付けどこ行った!?」
「じゃあ! どうしてこんな流行ったんですか!?」
「バズったせいだな。まあ元凶はミズキだが……」
「オイおっさん!?」
「しっかし見事にう○こだよね、アレ」
「ホントそう! う○こですよ、アレ!? 生暖かいホカホカの! ミズキの策略のせいだっ!」
「だからぁ私じゃないって言ってんでしょうがッ!」
「こらこら、年端もいかない少女が下品な言葉を連呼するんじゃない」
「なにスルーしてんの
「クルミ、何にやついてる……クルミだってアレのこと実はそう思ってるでしょ!?」
「に、にやついてなんかないぞ? にやついてなんか……。べ、別にカワイイカワイイと持て囃されたからとかそんなことはなかった……がう○こだってことは……否定はしない」
「あ、私は空気なのね……」
「ミズキ、ヨシヨシ」
「ううっ……ありがと、ありがどぉ千束ぉ」
少人数で切り盛りしているのにお客さんが次から次へと来店するせいで疲労も情緒もやばい……
これが明日も、か……
「こうなったらやけよ、やけ酒よおぉぉぉおお!!」
「まだ早すぎるわ。家に帰ってからやれ」
<Takina side>
経営状況は順風満帆、流れは掴んだも同然です!
さらに追加で外での依頼をお店での仕事の合間にこなすことで時間短縮、作業効率上昇して、利益も上昇。
千束の呼び込みの甲斐もあり、今までの赤字を帳消しにするくらいの売り上げです。
11月直前の今日の仕事は日本語教室にハロウィンイベントで子供のお世話。
千束には組長にコーヒーのお届け、迷子捜し、野生動物の保護活動、不審者の追跡、チンピラ成敗、狩猟のレクチャーなどをやってもらっています。
ハードスケジュールですがおかげで稼ぎも多いので頑張り時です。
店員のモチベーションを高めるためにも利益を有効活用すべくお店に必要なものを買いそろえたり、店員の要望を聞いて必要であれば買うことに……
「たきな、ミズキさんが食洗機ほしいって。あとミカさんがレコード……」
「そうですね……作業効率も上がりそうですしいいと思います。……ついでにロボットも導入しましょう」
店員の満足度をあげるとともに、脱ブラック労働環境、福利厚生の充実を実現するために様々なものを導入しました。
その結果……
「ああっ……! これでっ手荒れに悩む日々からおさらばっ! ありがとう、偉大なる文明の利器! ありがとう、食洗機! たきな様様だわ……」
「やはり和風喫茶にはまったりとした心安らぎ落ち着く曲が合う……」
「おおっロボ買ったのか! これでボクの仕事はお役御免だな。これでようやくボドゲに集中できる」
「そーね、アンタが皿割るようなことなくなっていいわねーぇ」
……と、このように手荒れに悩む心配がないとか、クルミが皿を割らないで済むとか喜びの声を多数頂いてます。
AI搭載ロボットにもロボリコと名付け、絶賛稼働中。
この調子でさらに……
<Reisen side>
「もう、そのパフェ、やめます……」
「あら~気づいちゃった?」
にんまり笑ってたきなを揶揄うミズキ。
ようやく気づいたか、いや、気づいちゃったんだね……
自信満々意気揚々と売り出した新商品、味の評価はかなりよかったはず。
でもSNSでは主に見た目の評価が拡散されてる。
そしてその予想外というか悲惨な評価に気づいてしまったんだね……
私としてはもうあの変な見た目の皿を運ばなくて済むからありがたい。
けど、あんな見た目でも重要な収入源だったんだ。
今回、たきなはお店の経営を改革して売り上げや株、外での仕事を誰よりも頑張ってくれてた。
本当にたきな様様だったから肩に手をぽんと置き、労をねぎらう。
「たきなは、よくやったよ……」
「鈴仙……今までありがとうございました」
「なに終わりみたいな雰囲気だしてんのよ。アンタおかげでお店の状態よくなったんだからこれからもやってもらうわよ?」
「ミズキさん……そうですよね。こんなところでヘコんでる暇はありません!」
「その意気だ! このパフェがなくなれば客の頻度は減るだろうが前よりは多くの客が来るはずだ。ボクが楽するためにも頑張れよ?」
「クルミ……どさくさに紛れてサボろうとしないでください」
「そうだそうだ! 私だってボドゲしたい中頑張ってるんだからね!」
「そーよー、私だってねぇ……!」
「ッチ、うまくいかなかったか……」
一人で休もうったってそうはいかないんだから!
それにどうせリピーターさんはそんなに多く増えないでしょ。
遊ぶときは私も混ぜてみんなで楽しまないとね!
ようやく終わる多忙の日々……
ようやく戻ってくる安息の日!
今すぐにでも遊びたい気分だけどまずは……
「ということで! これをもってホットチョコレートパフェは終了! ヘイ、ロボリコ」
「ハイ ナガシテキマス」ジャー
「ちょ、今日はまだ売るから! 人気なんだからいいじゃ……なっ! トイレっ!? クソ、くそが」
こうしてたきなの黒歴史は水に流された。
****
トイレの水の音に紛れて店内の電話が鳴る。
近くにいたたきなが電話の受話器へ手を伸ばして耳に当てる。
「もしもし……」
『もしもし? 山岸よ』
「どうも、お世話になってます、たきなです」
『ごめんなさいね、急に……』
「いえ、どうしましたか?」
『実は今日、千束の健康診断の予定日なんだけどよ、一向に来る気配がない訳よ。私からの電話も通じないしよ。何か知ってるかと思ってよ』
「いえ、特に聞いていませんが……」
『千束に早く来いって伝えておいてほしいってわけよ』
「了解しました、はい、では……」
聞こえてきた会話を聞く限り千束が健康診断に行ってないみたい。
いつも通りっていえばその通りなんだけど、電話に出ないのはちょっとばかりおかしい気がする。
「……どうしたんだろね? 注射嫌がって逃げ出したとか?」
「子供じゃないですし流石に違うのでは?」
「少なくとも聞き逃したって言う線はなさそうだけど……。何て言ったって千束の着信音、山岸先生の時はホラーな悲鳴と不気味なBGMだからね」
「どれだけ山岸先生の所行くの嫌なんですか……」
「とりあえずこっちでかけてみるねー」
「わかりました。お願いします」
何もないといいんだけど……
そう思いつつ携帯を耳に当てた。
プルルルルという無機質な機械音が何回も、何回も、繰り返される。
そのたびに不安が募る。
しかしようやく繋がりひとまず安堵する。
「千束―? いまどこぉ? さっき山岸先生から電話あったけど……」
『ああ、ゴメンゴメン! 今家ん中!』
「一体何してんのさ」
『続けろ……』
『
「了解、今そっ……ップツ、プー、プー……ちいくから……」
スゥ……異常事態発生だ。
「たきなッ!!」
「は、はいっ!?!?」
「千束の家に不審な男を確認ッ!」
「……了解です。サーチアンドデストロイで構いませんよね」
千束も青春真っ盛り花のJKって年頃、かわいい彼女に彼氏の一人や二人いてもおかしくはない。
だから千束の家の中に変な野郎の息があったからって冷静沈着に、落ち着いて、怒らず……
なんてできるわけない!
こうして囚われの千束奪還作戦は幕を開けた。
****
全速力で千束のところに走る。
近づくにつれ聞き覚えのある狂った声が聞こえ、顔を顰める。
「真島だ、真島が千束と一緒にいる……!」
「真島と一緒なんですか!?」
その事実が足を加速させる。
千束が危機的状況に陥っていてもおかしくない状況に心臓の音が大きくなる。
しかしそんな状況ではなかったみたいだ。
「もう帰るの?」
「ああ、お前のお仲間がご到着だ」
キィと家のドアの開閉する音が知らせる。
まるで私とたきなが迫っていることを知って逃走を始めた真島。
一体どうやって私たちの接近を察知したのか……
本当ならこのまま追跡したいところだけど、それ以上に今は千束のところに行かなくちゃだし、私では真島に追いつけないので大人しく千束の家に走った。
真島……銃取引、下鉄の爆破、リコリス襲撃、そして今回の件。
脈絡のなさそうな一連の事件の主犯であろう彼は一体何のため、何の目的で……。