優曇華と彼岸花   作:桃玉

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<Chisato side>

 

「じゃあな、電波塔のリコリス」

 

 

真島が窓から逃げていく。

急に現れて、突然帰るとか……

ホント一体何したかったんだぁアイツ?

ただただはた迷惑なやつだなぁ。

おかげで次の健康診断に余計行きにくくなったろ!

 

はあぁぁ……本当に山岸先生の所行きにくいじゃんか、絶対怒られる~……

そんなことを思ってるとドタバタと足音が聞こえてきた。

そして激しくドアが叩かれる。

 

なにごとぉ!?

インターホンあるんだからソッチ使えよ……

急な荒々しいお客さんに対応するためにドアの前に行こうとした。

でもその必要はなかったみたい。

……いや遅かったっていう方が正しいかな?

玄関のドアを蹴破られ、ドアが壊れた。

 

 

「ちょどあーっ!? なんだなんだっ!? また変なやつが来やがったかっ……ってどうした二人と」

「千束っ! 大丈夫だった!?」

「ほえ?」

 

 

そこには鈴仙とたきながいた。

突然の展開に頭が追いつかないぞ~?

 

 

「真島がいたんですよね!? どっちに逃げましたか!」

「ちょちょいちょい! どうして知ってるそのこと……」

 

 

映画さながらの突入を見せてきたと(突然荒々しく訪問してきたと)思ったら、なんで真島がいたこと知ってんのかな?

てかさっきまでリコリコで仕事してたんじゃなかったっけ!?

 

 

「電話で家にいるって言っていたのに別の誰かの呼吸が聞こえたから……」

「もしもし鈴仙さん、さすがに聴覚おかしいんじゃない? そもそも携帯電話ってそこまで音拾うもんなの?」

「まあそれだけじゃなくて男の声がしたからてっきり私たちの知らぬ間に彼氏ができたのかと……」

「だからって家のドア壊すやつあるか!?」

 

 

彼氏なんてそもそもいないっつーの……

リコリスに恋愛禁止とかはないけど仕事とかで最近忙しくてそんな暇ないのくらい知ってんでしょーに。

 

 

「えっ、そうだったんですか? てっきりリリベルとかその辺だと思ってサーチアンドデストロイと聞いたんですが……」

「おいオマエらもっとちゃんとしとけよ連絡は……。危うく私の恋人(仮)が撃ち殺されるところだったぞ!? ってか真島は恋人じゃねぇから」

「まっいいじゃん! どちらにせよ、千束を穢そうとするやつは問答無用で尋問しようよ!」

「「ええー……」」

 

 

冗談めかしてそんな物騒なことを抜かすなよ鈴仙……

瞳のハイライトが消えててマジ怖いんだが?

 

まあ別に変に未だ付き合いたいとも思わんし、付き合ったことすらなかった私にとってはどうでもいいことよ。

それよりも何で真島がいたか知っていたのかなど聞きたいことも話したいこともいっぱいある。

 

 

「そういやどうして真島だって? まさかいつのまに家に隠しカメラとかくっつけてたの? いや~ん鈴仙のエッt」

「ち、違うから! ……家に近づいたとき話し声が聞こえただけ」

「そんなことはどうでもいいんです! 真島と何かあったんですよね!?」

「そう! そうなんだよぉ、聞いてよ! 詳しい話はリコリコでするけど、あいつの弱点は苦いもの、映画好きってことだよ」

「ちょっとよくわからないのでお店に着いてからゆっくり事情徴収させて頂きます」

「わたしゃ容疑者か何かかッ!」

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「真島が家に来たぁ~っ!?」

「それで、やったのか?」

「それが……私と鈴仙が到着する前に感づいて、姿を拝むこともなく逃げられました」

「つまりどういうことよ……?」

「アイツ、鈴仙と同じ地獄耳だった……」

「えっ、そうなの?」

「うん……。私がぼそっと聞こえないように喋ったことも拾ってたし、そうだと思う」

「鈴仙ならともかく、だとしたら厄介ですね……」

「たきな? 私ならともかくってどーゆーことぉ?」

「まあそうよねぇ。コイツ体貧弱だしぃ」

「ミズキまでっ!?」

 

 

確かに鈴仙は体力ないし筋力ないしあんまり強い印象ないけど実はリコリスの中でもトップクラスの実力がある……はず。

昔二人で模擬戦したときもヒヤヒヤしっぱなしだったしかなりヤバい奇襲をしてくるから……

そんな鈴仙と似てる能力を持ってる真島とは……

うげぇ、やりたくねぇ。

昼とか明るいところだったら全然いいけど流石によるにかち合いたくないわー。

 

 

「そういや、アイツも私と同じペンダント(コレ)……持ってたわ」

「凶悪犯でも支援されるんですかッ!?」

「アイツなんかにどんな才能があんのよぉ?」

「ミカ、おまえの恋人から何か聞いてない」ゴキン

「あっらークルミちゃん、おねむでちゅかー? これだからこどもはしょうが……」

 

 

先生のプライベートに土足で踏み込むクルミにミズキの恐ろしく早い手刀……

私じゃなきゃ見逃しちゃうね……じゃなくてナイス、ミズキ!

ビシッと親指を立て突き出すとミズキもそれに応えてグッと指を立てる。

 

危なかった……

あのまま喋らせてたら先生に私たちがヨシさんと逢い引きしてたの密かに見ようとしてたのばれちゃうところだったよ。

 

 

「きっとどっかで拾ったんでしょ、ね、ミカさん! ……ってちょ、ミカさん! コーヒー! コーヒー溢れてますって!?」

「うん? ……あ、ああ!? すまない! ぼ-っとしてたみたいだな……」

「先生だいじょーぶー?」

「ああ、少し考え事しててな……」

「もー、しっかりしてよぉ?」

「すまない、心配かけたな」

 

 

鈴仙に指摘されて慌ててふきんで拭き取る先生の眉にはしわが寄っていた。

確かに考え事してるときは他のことに集中できなくなるのはわかるけど、さすがに注意しないとねぇ。

たまにぼーっとしたり、物忘れする癖が先生だけど今回のはマジで心配したよ……

 

火傷しなくてホントよかった……

ほっと胸をなで下ろしてると隣でバンッとカウンターを叩き立ち上がるたきな。

「千束っ!」という声に思わずなで下ろした胸も「は、はいっ!?」と姿勢良く張ってしまう。

一体どしたぁ!?

 

 

「私からの電話は3コール以内に出てください! でない場合は危険と判断して次のワン切りですぐに向かう通知とします! 嫌ならすぐ出るように」

 

 

えっとつまり……?

つまり……

えっと?

あ、わかったかも!

 

 

「つまりどこに居ても来てくれるのね!」

「ええ。それと、ほかのセーフティーハウスに移ってくださいね?」

「えぇ~、あそこ一番気に入ってるんだけどぉ」

「また遊びに行きますから……」

「ホント!? 同棲~!? またご飯作ってくれる!?」

「それは鈴仙がやってくれます」

「えっ!? まあいいけどぉ……」

「ええー、なんでぇ……。鈴仙のも食べたいけどたきなのも食べた~い~!」

「はいはい、仕事しましょ」

 

 

たきなに冷たくあしらわれたぁ……

でも私の家に遊びに来てくれるもんね!

めっちゃ楽しみ~♪

結局真島が何で私んちに来たんだかはわかんなかったけど今が楽しければ何でもいっか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

今回、たきなのパフェは販売終了した。

でも経理担当は貴重な収入源を失い、どうすれば来月以降黒字を継続できるかで頭がいっぱいらしい……

ということで新しい商品とサービスについて考えることになったんだけど……

 

 

「皆さんどのようなサービスが売れると思います?」

「そ~ねぇ……私だったら夜、カクテルとかおしゃれなお酒を嗜む夜間限定大人のバー何てどうかしらぁ?」

「ミズキ~……それはアンタがお酒をお店で合法的に飲むためにしたいだけだろ? そんで持参した酒で店にやってきた男とお近づきになりたいってだけだろ」

「そしてミズキの本性を知った男性はこのお店から離れていく……」

「おいチビどもっ!」

「まあ普通に考えて却下ですよね」

「そんなぁぁ~……」

 

 

ミズキは論外だったよ……

流石愛と酒に溺れたい女。

未成年が働く喫茶店なのに男女の出会いを求めてバーにするって発想が予想通り過ぎて、しかもその後の展開も簡単に想像できるわ。

 

 

「千束は何かアイディアあります? できるだけ私が思いつかない斬新なヤツだと参考になるので助かります」

「斬新なヤツねぇ…………あ、そうだ! メイド服とかどーよ」

「メイド服、ですか? それが一体どんな」

「そりゃうら若き女子のメイド服は需要あるっしょ。それに鈴仙とたきなは絶対似合うって! だからやろ、メイド喫茶!」

「却下だ。私のお店のコンセプトは和喫茶なのに洋風なメイド服を着て接客するなど……このお店のアイデンティティーがなくなったも同然だ」

「えぇ~、せんせ~そこを何とかぁ! 何とぞぉ……。絶対カワイイのにぃ」

「可愛いのは否定しないが、しかしなぁ……」

「そうですね……。メイド服にすることで利益がどの程度上がるか不明ですし保留という形で」

 

 

メイド服かぁ……

確かにたきなも千束もみんな似合いそうなんだけど、別にこの制服もかわいいしなぁ……

和喫茶なのにコーヒーなのは突っ込みどころだけど和菓子と合うし、今はまだ和喫茶ということでメイド服じゃなくて今のまま和服でいっかな。

……というかメイド服にしたら千束のかわいさでこの前以上の集客率になりそうな予感がビンビンでこわい。

 

 

「鈴仙はなにかあります?」

「えっ私!?」

「ずっと意見も何も言わないので……。何かあれば積極的に言ってください」

「えっと、じゃあモーニングメニューとか?」

「フツー……」

「普通ねぇ」

「普通だな」

「ああ、普通だ」

「……確かに普通です」

 

 

いや確かにそーだけどぉ!

みんなして普通って言われると悪い案出したみたいな感じになるからやめてよ!

いいじゃん普通で。

 

 

「朝弱い鈴仙からこんな提案が出てくるとは思ってませんでしたが……アリですね」

「だよね!? ほかの二人の案がぶっ飛んでただけだから」

「確かにぶっ飛んだアイディアよりいい考えだ。小倉トーストとコーヒーのセットはどうだ?」

「お、おお……めっちゃ旨そう」

「確かに良さそうですね……」

「某コーヒ店のパクりだろ……」

「ならこのお店でのオリジナリティを出したいですね……」

 

 

ミズキがコ○ダ珈琲のパクりだって言うからたきなの真面目さに火をつけちゃったじゃんか……

これは長引くかなぁ?

そろそろお昼食べたいんだけど。

 

 

「……閃きました」

「おや、さっそく何するの?」

「今から試作してみようかと、ちょうどお昼近いですし。みんなの感想も聞きたいのでちょっとまっててください。……店長、小豆って使ってもいいでしょうか?」

「ああ、ある程度は余分に作ってあるからな。少し席を外すが好きに使ってくれ」

「やった~! 実はもうお腹すいてたんだよねぇ」

 

 

朝寝坊してご飯抜いたせいでおなかペコペコだったからうれしい朗報!

思わずお腹の虫も鳴き出してちょっと恥ずかしい……

でもそれ以上にトーストとあんこの甘い香り、ウインナーの香ばしくていい匂いが鼻を直撃して食欲が刺激されたせいで空腹に耐えるので精いっぱい。

まだかな、まだ来ないかなぁ……と手にフォークを握りしめ待っていると足音と香りが近づいてきた。

 

 

「お待たせしました。栄養バランスも考えてタンパク質とビタミンも補充できる力作です!」

「待ってました!! いっただきま~す!」

 

 

食欲という名の獣が解き放たれた。

 

もうお腹と背中がくっつきそうだったけどこれでようやく食べ物食べれる!!

ウインナーも卵もおいしいー!

しょっぱいの食べたら甘い小豆トースト!

ああ~幸せ~……

 

 

「野菜もしっかり食べてくださいね」

「はーい!」

「ちょいちょい、鈴仙?」

はひほひはほ、(何よ千束!)わはひいははふぇふほに(私今食べるのに)いふぉはひいんはけお(忙しいんだけど!)

「あ、えっとごめん? でもちょっとこの食べ物食べるのは……」

「ほえ?」

 

 

一体なに?

別に食べてる感じ何にも変なところないしおいしいからみんなも食べたらいいのに……

そう思いながら千束の一切手のつけられてない皿を見せられた。

何かもう食べないでと必死にジェスチャーしてくる千束を見てもハテナマークしか浮かばない。

一体どうしたんだろう……

 

 

「ごちそーさま! たきな……とってもおいしかった!」

「それはよかったです。ですが皆さんは残ってますね……もしかして気を遣わせてしまいました?」

「いや、本当においしかったよ? どうしたのよみんな? 食べないなら私食べるけど?」

「いや、ひとつひとつはおいしそうなのよ? だけど……」

「見た目が……」

「いーっひっひっひぃ……笑わせんなよぉは、腹が捩れるぅw 静かそうな顔していやらしい子たちねっ!」

「「……はい?」」

 

 

いやらしいとは何か!?

お皿に一切手をつけていない千束とクルミとミズキはお残しする悪い子たちなのにそんなこと言われたくないよ!?

 

 

「ねえ、これのどこが変なの?」

「そうですよ、ウインナーにウズラのゆで卵二つ、サラダにパン……これのどこが一体駄目なんですか! 教えてください、千束!」

「ええっとぉ、何というか、言うのをはばかられる形というかぁ……。そういうのはミズキの方が詳しいかなぁ~……なんて」

「オイ私に丸投げかよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Mika side>

 

「はあぁぁ……参ったな。……あと少し、少しだけ待ってほしかったな」

 

 

着信のある携帯を見るとシンジからのメールだ。

今日最後に千束に会いに来るらしい。

千束にシンジが救世主であることを伝えるべきか、それとも伝えずにまた先延ばしにするか……

今日が千束に伝える最後の機会なのに覚悟が後一歩決まらない。

 

このまま一生嘘をつき続ければ嫌われもしないだろうし、傷つけることもしないだろう。

……隠し通せるのであればの話だ。

そんなことできやしないのに、本当に情けない話だ。

娘に嫌われたくない、傷ついてほしくない、ただそれだけなのにな……

 

いや、だからこそ話さなければいけない。

最後に千束とシンジ、二人の時間を作ってやらなければ今まで千束がやってきた行動も想いも救われない。

 

それでも心は優柔不断で話さないといけないとわかっていながら話さない方がいいのではと都合のいい思考が邪魔をする。

決心がつかないまま姦しい五人の方へ……

 

 

「お前たち、一体騒いで、る……ん…………」

 

 

目の前にあった皿には完成度の高いネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲が乗っていた。

 

誰がこんなことを……!?

 

思わず衝撃で悩みが吹き飛び、ミズキの方を見る。

こういうことするのはミズキしか考えられん……と思っていたのだが予想は外れた。

というより予想の斜め上、千束とミズキとクルミの3人はたきなの方を指していた。

 

まさかあり得ない……!

あの真面目なたきながこんな……

 

現実を飲み込めず目を見開いていると店の扉が音を立てる。

いつもなら振り返ってお客さんに挨拶するはずの体が動かなかった。

 

 

「やあ、ミカ」

 

 

終わった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

まさか吉松さんが来るなんて思ってもみなかったなぁ。

おかげで千束たちは「どうしよ! 二人って付き合ってるんだよね!? き、気まずいもの見せちゃったよ……」みたいな感じで冷や汗をかいていたけど吉松が大人の余裕で笑ってくれたため事なきを得た。

いや、私言われるまで気づかなかったんだけど?

……そこのミズキ、お子ちゃま言うな!

 

 

「元気だったかい、千束?」

「もちろん! 千束はいつも元気ですよ~! ヨシさんも久しぶりだけど……」

「ああ、最近仕事が立て込んでいて、ようやく来れたよ」

「たまには休憩しに来てくださいね?」

「……」

「……ヨシさん?」

「……うん? ああ、すまない千束、疲れてボーッとしてしまったようだ」

「もーヨシさん? 先生みたいだよ? しっかり休んで疲れとって、体力回復させないと!」

「……そうだね、ありがとう千束。じゃあさっきのメニューを貰えるかな」

「いいですよぉ! たきなぁモーニングセットひとぉつ!」

「今昼ですよ?」

「まあまあそう言わずに、栄養とってもらわないと!」

「……名前、別の考えないとですね」

 

 

見た感じいつも通りの日常。

この前のバーでの出来事なんてなかったかのようなそんな明るい雰囲気。

けど徐々に二人の感情が聞こえ出して曇り出す。

 

耳に集中しないと聞き取れないし、そもそも聞き取れたとしても詳しい思いまでは読み取れないのに……

普段通りに振る舞うミカさんと吉松さんの裏にある感情が五月蠅い。

普段通りの店内、普段通りのみんな、だけど重苦しい心の声だけが違くて気持ち悪い。

幸せそうな現在と残酷な未来がダブって立っているのがツラくて椅子に座って目を背ける。

 

 

「……ところでミカ、例の件、考えてくれたかな」

「…………嫌と言っても君の考えは変わらないだろう、シンジ?」

「そうだな」

「ね、ねぇ、何の話?」

「私からは何も言わないでおくよ。一つ言えるとしたら次会うときは客ではない、ということだ」

「そ、そーなんだ! へ、へぇ~!」

 

 

千束は視線をそらせ急に挙動不審になって……

ちょっと幸せそうな顔をしているのを見てひどく心が痛んだ。

 

千束たちの事情もミカさんと吉松さんの事情も全部知っているのは私だけだから本当のことを話したかった。

でも恐ろしく怖くてできなかった。

 

千束の心臓がこの後どうなるか知っているのに心構えなんてできてなくて……

本当にうまくいくのかもわからなくて不安ばかりが頭を駆け回る。

 

 

「おいしかったよ」

「あ、もう帰るんですか?」

「ああ、これから海外に出向かなくてはいけなくてね」

「そっかー、じゃあまたお会いしましょうね!」

「ああ、さよなら、千束」

「うん、また来てくださいね~!」

「またの来店、お待ちしております」

 

 

振り返ることなく店の扉から出て行く吉松さん。

穢れなく静かな月のような精神は誰が止めても止まらない狂気を帯びていた。

 

……私も覚悟を決めないとね。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「ね~先生? ヨシさんとのことで何か話すこと、あんじゃないのぉ?」

「いや、今はまだ……」

 

 

吉松さんが帰って、今は千束とミカさんと私の三人だけ。

ミカさんをちょっと茶化すように、でも嬉しそうに小突く千束。

けれどミカさんの顔は暗いままで千束も店内も次第に静かになっていった。

 

 

「……わかった。今はまだ話さなくてもいいよ。でもいつか話せるようになったらでいいから……」

「……駄目」

「ん? どうした鈴仙……」

 

 

これは千束とミカさんと吉松さん、三人の問題。

でも三人の想いを知っているからひどい考えのすれ違いにもう我慢ならなかった。

 

 

「ミカさん。話してくれませんか?」

「ちょ、鈴仙! 別に私はまだ良いって言って……」

「ううん、駄目なの。……ミカさん、全部じゃなくてもいい。千束に教えてあげてください、じゃないときっと後悔するから」

 

 

少なくてもこれから吉松さんが何か起こす前に話さないと、きっと千束はとっても悲しむし、ミカさんも後悔すると思うから……

でも今ならまだ大丈夫。

千束が訳もわからないまま吉松さんと対峙することもなく、どうしてずっと千束に隠してきたのかも納得してくれるはず。

逆にここを逃せば千束は訳もわからないまま、気持ちの整理もできないまま現実を受け止めきれずに……

……なんてこと、私だったら絶対イヤだから。

 

 

「……わかった。…………千束。謝らないといけないことがある」

「せ、先生……?」

 

「千束が探している救世主の件で隠していたことがある。それを聞いてほしい」

「……うん」

 

「……シンジが救世主だ」

「そっかー……………………ってええっ!? そうなの!?」

 

 

黙っていた分蓄積されていた罪悪感があふれ出す。

私でさえちょっと申し訳ないと感じるのにミカさんは私以上に隠してきてて押しつぶされそうなほどツラいはず……

ミカさんは千束の目を直視できないでいた。

 

 

「ヨシさんが救世主、救世主さんねぇ……ヨシさんかぁ………………。……どうして隠してたの?」

「……そう言う約束だった。……アラン機関に属している彼は規則で一度支援した者には会ってはならない決まりだ。だが、千束が気づいていないからこそ規則の穴をついて来てくれていたんだ」

「……そっか、そーゆーことだったかぁ……」

「……今まで言えなくてすまなかった」

「ううん、話してくれてありがと。ちょぉっと驚いちゃったけど千束さんはぜんっぜん大丈夫!! だから先生も気にすんなよぉ?」

「と言いつつめっちゃびっくりしてたよね?」

「ちょっといい感じのところで茶々入れないでよ!」

 

 

建前ばかりだけど、今はそれでいいと思う。

すれ違いが一部なくなったおかげで千束とミカさんの間に感じていた溝が少し埋まって、感じていた気持ち悪さも少しよくなった気がした。

 

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