優曇華と彼岸花   作:桃玉

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<Chisato side>

 

鈴仙がいなくなって、たきながいなくなって、ミズキとクルミもいなくなって、残りは私と先生だけかぁ。

このお店を始めて時の状態に逆戻り。

 

……は~あ、静かでしんみりしちゃうわ。

 

私もこの場所ともお別れの準備をしなくちゃいけない。

今まで大事に使ってきた私物たちを箱に詰めていく。

 

 

「あっ、懐かしいのでてきたぁ! 先生見てみて!」

「何だ? アルバムじゃないか」

「ほら、リキの写真に鈴仙が初めてリコリコに来たときのも! いやぁ、鈴仙はいつまでたっても変わらないねぇ……」

「そうか?」

「そうだよ! 小っちゃくてやせっぽちで……。すこぉし肉はついたけどホント、変わんないよ……」

 

 

昔飼っていた柴犬のリキとの写真、鈴仙が来て初めて妹ができたとはしゃぐ私、先生のコーヒーが苦くて舌を出して渋い顔をする私とそれを見て笑う二十代前半のミズキ…………

……最後の方にはたきなも含めた集合写真。

 

……楽しかったなぁ。

でも今日で終わり!

これからはみんなそれぞれの道へと進むのだ!

 

 

「ねえ、先生はこれからどうするの?」

「特に何も変わらないさ」

「……アルバイトとか雇ったりして続けるの? 鈴仙もいるし」

「バイトは雇わない。……ただ、いつものメンバーでひっそりと過ごしたいとは思うな」

「そっかー。……私がいなくなったときの言い訳は頼んだぜ!」

 

 

コーヒー豆をしまう先生はどことなく寂しそう。

日もすっかり暮れ、白い息が出る。

 

……私も今日でこのお店とも最後か。

どうせならみんなで閉店祝いに~乾杯~! とか言って、まだ飲めないけどお酒とか飲んで、おいしいもの食べて、酔っ払いを介抱したりして……

しんみりした雰囲気じゃなくて楽しく終わりたかったなぁ。

 

 

「千束、そろそろ鍵を閉めるぞ」

「は~い! ……この店とも、ちゃんとお別れしないとなぁ」

「……あまり、無理するな」

「さすが先生、何でもお見通しかぁ……そりゃ、寂しいですよ」

「……コーヒー、どうだ?」

 

 

昔と変わらない不器用な先生。

でもコーヒーの味はあったかくておいしくなったなぁ……

昔のかっこいい先生も好きだけど、今の優しい先生の方が私は好きだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Mika side>

 

「えぇっ! このお店閉めちゃうの!?」

「一時的にだがな。バイトが軒並み退職して手が回らないんだ。また誰か職場に復帰したら開店するさ」

「いやぁ、悪いねぇ。ちょっとぉ~隠居しようかなってぇ……」

「何言ってるんですか、まだ華の女子高生でしょ? せっかく面白いところ見つけたのになぁ……」

 

 

菫子さんが残念そうに帰って行く。

他の常連たちも似たような反応だった。

……といってもまだ閉店の予定はなく、一ヶ月くらいたったら再び営業を開始したいと思っている。

 

 

「いやぁ~…………今までありがと、せんせ!」

「お前に感謝されることなど何もできなかったさ。それに……」

「それに…?」

 

 

喜んでくれる千束を見ているとこちらまで嬉しくなる。

だがそんな千束には今のままでは(・・・・・・)時間が残されていない。

千束の時間を取り戻すためには、千束の心臓を手に入れるためにはシンジを……

素直に喜ぶことができない複雑な思いの中決心した。

 

 

「……お前の新しい心臓がある」

「……マジか。えっ!? ……マジで!? は? え!? っはああ!?!?」

 

「本当に黙っていてすまないと思っている」

「え? マジですか……。じゃ、じゃあどうして今まで黙ってた?」

「それは……私とシンジの関係を聞いてくれるか」

 

 

真剣な顔持ちで頷く千束。

意を決して言葉を絞り出す。

 

 

「DAの司令官とアラン機関の一員として私たちは初めて出会った。千束を助けるにあたって千束の才能を世に届けることが条件だった。お前のその目が才能だ」

「……この銃弾を避けるだけの目が?」

「避けるだけじゃない、十分人並み外れた才能だ。……だからいつもの依頼で誰も殺さずにやってこれたんだ」

「うん……」

「だが、アラン機関としてはその行動に不満らしい。正しく生かされてないと、支援が間違っていたと言われるほどに……」

「えっ、じゃ、じゃあ本当は……」

「……アラン機関はお前に最強の殺し屋となってほしかったんだ」

「うそ……うそうそ。だってヨシさんは人を助ける救世主だって……。じゃあどうして……?」

 

 

俯いたまま無言を貫く。

建前と嘘だけを並べて……何て嘘つきなんだろうか。

 

千束の心と憧れと希望とを傷つけたくなくて、傷つくのも傷つかれるのも怖い。

 

(千束)に嫌われるのが怖かった、

崩れ落ちた憧れのせいで死に急いでしまうのではと怖かった、

生きる支えがなくなり精神が病んで死んでしまうのではないかと怖かったんだ。

だからお前の生き方は間違えだ、殺しを続ければシンジはまたお前を助けてくれるだなんて言えるはずなかった。

 

 

「アラン機関の連中は才能を神からの贈り物と言い、世界のためといい少数を切り捨てることを何も厭わない奴らだ。才能を生かせないアランチルドレンは……。アラン機関はこれ以上千束を生かしたくないらしい。しかし、シンジはお前の心臓を手に入れ、規則を破ってまで支援しようとしている」

「……つまりヨシさんは私がしていることを肯定してくれてたってこと?」

「少なくとも千束には生きてほしいと思っているはずだ」

 

 

本当につくづく自分が嫌になる。

千束の生き方をシンジが肯定しているかどうかなんてわかりきっているのに別の言葉にすり替えて……

不安が消え失せ安心したような表情の千束を見てよかっただなんて思う自分は最悪だ。

だが、最悪でも最悪なりにできることがある。

 

 

「そっか、そうだったんだね……。ヨシさんが私の心臓を……」

「……それで、だ。シンジはアラン機関の一員として千束を支援する上で……お前に何らかの手段で殺されようとしてくるはずだ」

「え、何で!? さっき先生、ヨシさんは私のこと……」

「ここでお前が一度でも誰かを殺すことができればアラン機関は手を引くからだ。誰かが犠牲になる必要があるなら過ちを犯した自分こそ相応しいと思っているんだろうが……」

 

 

嘘と誠が混在する。

いや、何も事実を外したことは言っていないんだ。

ただ悪い部分を隠すようにいい言葉だけを抜き取って……

きっと千束も薄々気づいてるんだろう。

それでも全てを話すことは恐ろしくてできずにいた。

 

 

「……話してくれてありがと。やっぱり先生とヨシさんがしてくれたことに対しての感謝はしてもしきれないや。改めて思った、先生とヨシさんへの思いは変わらない。二人とも私のお父さんだよ……。それが一番嬉しいって感じがする! そして私のこれからはヨシさんを助ける方針で、なおかつできれば私ももうちょっと長生きしてみたくなったんでぇ、頑張りますか!」

「ああ、よろしく頼む」

 

 

シンジは最強の殺し屋としての千束がほしいと言って、今でもそれは変わらないんだ。

いくら娘が愛しくても、いくら娘の幸せを望んでいるとしてもその一点だけは……

千束が皆のためになると思い不殺を続けていたのはシンジの望んでいたことではないんだ。

 

 

「ってことはまた一ヶ月後あたりにはリコリコ再開で、成人式も来年までお預けってことか!」

「そう言う……ことだ、な……」

「あ、あれ!? せんせー泣いてんの!? そんなに嬉しかった?」

「……年をとると、涙腺が緩んで困ってしまうな」

「ってことはこれからもっと泣かれるってことかぁ……。嬉しい涙にしないとな?」

「ああ、そうだな……」

「じゃあ片付けなんてヤメヤメ! さっそくミズキたちも呼び戻さないと……」

 

 

私は嘘つきだ。

嘘をついたまま今も、これからも隠し続ける。

だから千束は涙の意味の半分(嘘で隠した真実)は知らないままでいいんだ。

 

太陽以上にまぶしい笑顔。

全てをこの子のために尽くしてみせよう……

……最愛の恋人を手にかけようとも。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「すみませーん! 宅急便でーす!」

「はいはい、今行くのでちょっと待っててください。……千束、頼んだ」

「ほいほーい。お仕事ご苦労様~! うわっとおもっ!?」

 

表から聞こえてきた宅配便の声。

千束の抱えているものを見ると割れ物注意の印がある小さめの段ボール。

見た目に反して重かったのか、驚いた様子で座敷に置き、額を手で拭う千束。

……一体誰が寄越したのか。

 

 

「先生の?」

「いいや? ……開けてみるか」

 

 

段ボールを開けて中身を確認するとそこにはケ-スが一つあった。

 

見覚えのあるスーツケースに千束のと同じフクロウの印がキーホルダーのようにくっついていた。

まさか、今になってシンジから贈り物な訳……

額から汗がにじみ、息をするのを忘れる。

 

 

「先生の?」

「どうやら、そうみたいだ……」

「誰から?」

「……これを見ろ。お前のと同じだ」

「えっ、ってことはもしかしてヨシさんから!?」

 

 

緊張で手が震える。

シンジの意図がわからない。

そもそもシンジが寄越したのかさえわからない。

 

 

「何入ってるのかな?」

「……わからない」

 

 

ゆっくりとその中身が露わになる。

中に入っているものを見て疑問、疑念、驚愕、不信感、そんな嫌なものが脳内を駆け巡る。

 

 

「……これ、心臓……だよね?」

「そう、だな……」

 

 

それは金属のようなものでできた、握りこぶし大の、管がついた…………

人工心臓だ。

最初の心臓でアラン機関としての支援は終わったはずだ。

わざわざ千束の心臓を壊して今更何で……

新しいのを送るというのはどういうことなのか……

 

少なくとも新たな心臓を無償で提供してくれるわけない。

シンジは千束に殺しをしてほしかったんじゃないのか……

裏が全く読めない……

そう思ったとき、一枚の紙切れが目にとまる。

 

 

「やっぱりヨシさんからだよ! ……ってことは私の決意はどうなるの!?」

「……どうやら差出人は違うらしい。見てみろ」

 

 

紙の上部を覆い隠すように持ち、見せる。

『おめでとう千束。

君の新たな人生の始まりは、

千束の死によって完成した。

君の幸せを心より願う。 優曇華院より、愛を込めて』

 

 

「優曇華院……って先生、もしかしてこれ鈴仙から?」

「そうみたいだな。鈴仙がDAに戻ったのは知ってるだろう? これを見る限りどうやら真島を介してシンジとの接触に成功したらしい……」

「おお……?? 何か私の知らんとこで鈴仙がスパイみたいなことしてる!?」

「あれ、知らなかったか?」

「DAに行ってるのは聞いてたけど潜入調査とか初耳も初耳よ!? 一人で映画みたいな格好いいことしやがって! 無茶してなきゃいいんだけど……」

 

 

鈴仙がシンジから盗ってよこしてくれたのだろう。

 

やはりシンジの想い、最強の殺し屋としての千束がほしいという想いは変わらずだった。

今も昔も、これからもそれは変わらない。

……そんな残酷な事実、千束に言えるはずもなく、口を紡ぐしかない。

 

そして不可解なことが2つ。

どうして鈴仙がこの場にいないのか……

どうして私の部分を千束に変えたのか……

 

しかしそんなことを考える暇なく店の電話が鳴る。

 

 

「もしもし、こちらリコリコ」

『楠木です』

「どうした、急用か」

『ええ、千束に代わってもらえますか』

「千束、楠木から電話……だ……」

せんせ……真島だ

 

 

疑念がいやな形で一つ晴れた。

千束の方を見るとその手に持つ携帯の画面に映し出された二人(・・)……

縄で拘束されている鈴仙とシンジに愕然とする。

まさか自分の身を(なげう)って……

 

 

『今すぐ本部に来い。我々と一緒に真島を討て』

『お前が延空木に近づけばこいつらの命はない』

『お前のようなリコリスが必要な状態だ。多くの命がかかっている』

『お前のようなリコリスに来られると都合が悪いコイツら二人の命がかかってるんだ』

 

『変なことするなよ? ずっとお前らを見ているからな』

 

『どうかしましたか?』

「すまない、後でかけ直す」

 

 

千束に渡した受話器を奪い取り楠木との通話を終了させる。

外を見上げると十に及ぶと思われるドローンがこちらを監視していた。

 

 

「……罠、だろうな」

「でも……見殺しになんかできない! ……それに鈴仙には私に何にも言わないで勝手にどっか行って勝手に無茶したこと、言いたいことがいっぱいだし、ヨシさんにもあってお礼を言わないと」

 

 

千束とシンジを深く関わらせるなとけたたましく鳴り響く警報。

二人を会わせれば二人とも死んでしまう……

そう思えてならない。

だが、このまま何もしなければ鈴仙がどうなるかわからない。

仕組まれたか……

 

 

「先生、二人を助けに行こう!」

「……武器庫の弾丸が処分できそうだな? ありったけ持ってこい。 延空木はたきなとフキに任せよう。あの二人も私の優秀な教え子だ。きっと何とかしてくれるはずだ」

「うん!」

 

 

シンジがどういう手を使って千束に殺しをさせようとしているのかはわからない。

千束が殺しをしなければシンジはどこまでも殺させようと手を尽くしてくるだろう。

 

あのとき、鈴仙がリコリコを去る際に言ってくれた大切な人は誰も殺させないという言葉が本当にできるのなら私の出る幕はなさそうだが、もしシンジを殺さなければならなくなったらそのときは千束には、ましてや鈴仙には引き金を引かせるわけにはいかない。

私がやらないと……私が決着をつけるべきなんだ。

過去と決別するためにも他の誰にもその役目をやらせない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Majima side>

 

「……悲しい勘違いだな。ヨシさん? しっかしわざわざテメエらからこっちに出向いてくれるとはご苦労なこった」

「私が果たすべき使命を実行するために君と接触しただけさ。鈴仙ちゃんと同じでね」

「憧れのヨシさんがこんなヤツだと知ればどんなにがっかりすることか……心底同情するぜ。……だが、気にくわねェことがあったからって手ェを出すのはアランのルール違反だろ? 大丈夫なのかぁ?」

「……彼女が道を違えたのは私のミスだ。責任を果たす」

「答えるつもりもないってか? つくづく狂ってやがるぜ、オマエ」

 

 

聞けば聞くほど歪んだ感情だな。

アラン機関っていうのはみんなこんな狂った奴らばっかなのか?

 

……まあいいか。

俺はバランスを取り戻すために延空木とDAをぶっ壊せばいい(偽りの平和を晒しあげればいい)

そのためにはラジアータとかいうDAの中枢を担うAIをハック必要があるらしいが……

うちのロボ太にかかれば簡単なことだ。

 

 

「……俺は規則なんて余計なものに縛られずに思うがままに生きてる。だからここで思うがままにアンタをぶっ殺すかもだ。そうなる前に本丸の場所を教えてほしんだがなぁ……?」

「私からは何もない。アランのためというのなら、喜んで命を差しだそう」

「気色悪ぃやつだ……アラン機関もDAと同じ、こそこそ隠れて自分勝手に正義を振りかざして裏で操ろうとする……DAの後はオマエらだ」

 

 

延空木のオープンセレモニー(狂った世界をぶっ壊す)まであと数分か。

こんなところで道草食ってるわけにもいかない。

 

 

「……どこか行くのかい」

「俺はこれから全国放送の準備が控えてるんだ。もうテメェらに構ってる暇はねぇ。暇ならそこに寝転んでるアホを起こして待ってるんだな。じゃあな」

 

 

もう時期楽しいショーが始まる。

こんな狂った世界、正しい均衡を取り戻さないとなぁ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

「鈴仙……! 鈴仙……! ……ああ、良かった随分魘されていたから」

「……吉松、さん? …………夢?」

「現実だよ。真島君がここに君を運んできたんだ」

「……そ、っか」

 

 

額の汗がじっとりと手に纏わり付き、千束の心臓がどうなったかを思い出した。

寝ても覚めても悪夢ばかりなせいでサイアクな目覚めだ。

 

 

「吉松さん……私の記憶が正しければ今日の深夜にお迎えに行ってスーツケースを預かって……それからどうなったの?」

「それは昨日の夜の出来事だ。今は真島君がそろそろ計画を開始する段階だ」

 

 

知らない間に時間が流れてる。

悪夢を見るのも時間の感覚が狂ってるのも最近慣れないことして疲れてるせいかな……

自分のやることべきをきちんとやったのか心配になっちゃうけど、少なくとも吉松さんの鼓動が聞き取れているってことは千束の新しい心臓は吉松さんを殺さなくても何とかなりそうだってこと……

 

心臓をちゃんと千束のところに送れたか心配だったけど、それだけはちょっと安心だ。

 

 

「……疲れが取れないのかい?」

「どこかの誰かさんに起こされたせいですね」

「……悪い夢を見てたのか?」

「ええ、まあ……」

「いつからそうなんだい?」

「……もしかして吉松さんが千束に変なことしたせいだとか思ってます? 大丈夫ですよ、千束と出会う前から毎日あることなので吉松さんは関係ないです。……まあ、トラウマ的なものですよ、最近特に酷いだけです」

「……これが終わればきっと軽くなる。悪夢というのは現実世界での不安が夢に反映された結果だ。現実という不条理から解放されれば自然と消えていくだろう」

「そうなれば、いいんですけどね……」

 

 

仲間を失ったときに初めて見た夢から始まって、

周りの人が死ぬたびに夢が悲しくて怖くてツラいものになって、

日に日によく聞こえるようになる耳は大勢の人の死に際の声を拾った。

 

千束と出会って一度は落ち着いた五月蠅さも、

心臓がいつか壊れると知った日から現実と悪夢との境界が曖昧になって、

同時に私の耳が余計な音まで拾う。

 

悪夢を見るのも現実を見るのも怖くなって睡眠薬を始めて、

不安や恐怖の意識を紛らわせるために人を殺めて……

……一度は落ち着いても拭えないトラウマは一生夢と現実をつきまとってくる。

 

 

「鈴仙ちゃん、君の才能を……使命を果たしてくれ、私と千束のためにも」

「……ええ。もし千束があなたを撃つの躊躇ったときは私に任せてください」

 

 

私は人が死ぬのが嫌いだ。

だから誰も殺させない。

たとえ敵だろうと何だろうと、私の前では誰も死なせない。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「そろそろ、延空木の催しが始まるみたいですね。下の方がざわざわうるさいです……」

「いよいよ始まるのか……」

 

 

吉松さんにとっては自分の死を以て千束の才能を開花させることで助ける計画。

 

私にとっては千束に吉松さんを殺させない……

まあ千束なら絶対そんなことしないと思うけど吉松さんが千束のことを諦めるように一芝居しないと。

ウォールナットの時と同じで死んだことにすれば……

そんな計画。

 

真島にとっては日本の古い秩序を壊す計画。

混沌をもたらし、新たな秩序を形成しようとしている。

つまり、真島の目的のひとつである「DAの壊滅による均衡(バランス)の再構築」が本格的に開始された。

 

見せかけの平和は街中に鳴り響く銃声によって崩されていく。

鉛玉によって肉から鮮血が流れ出ることで、それを皆が見ることで、いい意味でも、悪い意味でも変化が訪れる。

 

銃弾が肉を穿つ音が嫌いだ。

発砲音も不快に感じる。

でも耐えられる、我慢できる。

ただひとつ、我慢ならない音は、人が人でなくなるときの音だ。

 

そんな音が街中に響き渡る、そう考えただけで空っぽの胃が嫌悪感を吐き出そうとする。

でも、私の覚悟はそれでも揺るがない。

銃の反動を感じる、それだけで苦しくて死にそうになる自分と他人は今日のただ一回で終わりにする。

それ以上は誰も傷つく必要がないから。

 

 

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