優曇華と彼岸花   作:桃玉

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<Takina side>

 

「たきな……その、DAの復帰が本意じゃなかったって言ってたでしょ。その……何で?」

「どうしてでしょうね……」

 

 

エリカの質問にうまく答えられなくてもどかしい。

千束たちと一緒に過ごしていくうちにDAに戻りたいって気持ちがなくなってしまった感じではなくて、戻りたいって気持ちは絶対あるのに、千束たちと一緒にいたいって言う気持ちの方が強くて……

 

千束たちと一緒にいる時間がかけがえのないもので、残りの後少しだけではなくてもっともっと長く一緒に心から楽しいって思える時間をこれからも過ごしたくて……

 

 

「……確かに復帰は本意じゃなかった。でも私自身が決断したことです、鈴仙と千束を助けるために……」

「そっか。……もし何か助けとか必要になったら、私が言うのもあれだけど、手伝わせてね?」

「……ありがとうございます」

 

 

矛盾していて複雑な想いを伝える適切な言葉はなくても私の想いは固まっている。

千束の心臓の手がかりを見つけるために、捕まった鈴仙を助けるために、大事な人のために……

 

そう思っていると作戦開始直前会議が始まり、司令から説明される。

 

 

『……強襲作戦の実行部隊編成だ。各自目を通しておくように』

 

 

画面に映し出されるのは真島討伐作戦実行メンバーの一覧。

4班構成、計32人の名簿を見て思わず目を見開く。

 

 

「千束も参加するんですか!?」

「おい、たきな! 座れ!」

『……やつは来ない。連絡がつかなくなった』

「連絡が……!? 店長ともですか?」

『ああ、その通りだ』

 

 

千束の通信と消息が途絶えた。

それどころか店長まで音通不振なのはこの状況では絶対おかしい……

一体何が……

 

 

「私、一度お店見てきます! 作戦までには戻りますので!」

「どこに行くんだ! 会議中だぞ!」

 

 

心配、不安、恐怖が溢れ、いてもたってもいられず、作戦開始直前にも関わらず外に向かって走り出す。

フキさんの制止を無視して急ぐ足。

 

走りながら千束に電話をかけても一切の応答がない。

私からの連絡も出ないなんておかしい……

 

連絡に出なかったら緊急事態だと判断して向かうって言いましたよね?

 

不吉な予感は最高潮に達し、走ることを止めるなと私の全てが訴えかける。

心臓が早くなり、呼吸が荒くなり、足が速くなる。

そのせいで呼吸と足が苦しくなっても、それ以上に苦しいと訴えかける感情のせいで駆け出さずにはいられなかった。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「千束! 店長! いますか!」

 

 

ようやくついた……!

臨時休業を知らせる張り紙を気にも留めず、肩で息をしながら勢いのままに扉を激しく開けて中に飛び込む。

震える声で店の中に声を飛ばしても返事はなく、代わりに携帯の着信音が鳴っていた。

 

 

「クルミ! ミズキさん! いるなら返事を……!」

 

 

どれだけ叫んでも誰からの反応もない。

人の影すら見えなくて、誰かの声も足音さえ聞こえず、振動する携帯が床に落ちた。

嫌な予感が的中したようで心臓がぞわり震える。

 

 

「こんなの……さっきの鈴仙の時と同じじゃないですか……。電話だけ鳴って本人の姿はないって……絶対何かが起きている……!」

 

 

指先の震えが止まらない……

司令に異常を伝えないと……!

もしかしたらラジアータで何かわかるかもしれない!

 

 

「司令! 千束と店長の姿がありません!」

『それがどうした』

「携帯だけおいていくなんて……おかしいですよ! きっと真島が関わって……」

『なぜそう判断する。具体的に何故真島が関わっていると判断できる』

 

 

確かに根拠という根拠はなくも立て続けに起こる異常事態が全くの無関係だなんて、そんなこと……

可能性はあるはずなのにどうしてと言われると何もないということしか言えない。

 

 

「……ラジアータでこの近辺の情報を探れないでしょうか! きっと何か……」

『根拠がないならこちらから何をすることはない。……とにかく後30分で作戦が始まる。聞きたいことがあるんだったらヤツが死ぬ前に聞き出すことだ』

「……了解しました」

 

 

司令はまともに取り合ってくれないそうにないですね……

行方がわからない二人のことを知るには司令の言うとおり真島から聞き出すほかないのでしょうか。

 

……いや、できることはほかにもあるはずです。

それこそラジアータをハックしてしまうほど頼りになるうちのハッカーなら……

 

出てください、クルミ。

千束たちみたいにあなたまで失踪中とかだったら笑えませんからね?

捕まっている鈴仙とどこかに消えてしまった千束と店長を探せるのはあなたしかいないんですから、クルミだけが頼りなんですから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Kurumi side>

 

これだ、さっすがウォールナットにかかれば論文を探すなんてお茶の子さいさいだ!

じゃあ、論文からその著者、この骨格と吉松の骨格で検索かけて……

カメラの振動解析して……

 

……よぉし、聞こえてきた。

 

 

『……アラン……かげ……よ』

『我々は手助けしただけだ。少女の命一つであなたの才能が結実するならば安いだろう』

『その子にこれを? ……救ってあげてね?』

『なんだ、心配なのかい?』

『岡崎さん……。そうですね、初めて救うべき患者が死んでしまったらと考えると……』

『心配しなくても私も手伝ったんだ、失敗はないはずだ。そうだろう、吉松さん?』

『ああ、もちろんだとも。君が心配すべきは、これからのいくつもの患者だ。……被験者のことは任せてくれ。君らと同様、アランチルドレンだからね』

 

 

「あった!!!!」

 

 

千束の心臓を見つけたぞ!

よしよしよし、これで千束を助けられる手がかりは掴めた!

 

おかしいと思ってたんだ。

脳でも心臓でも何でもいいから破壊すれば良かったのにどうしてどうして吉松は千束の心臓を壊すだけで殺しはしなかったのか。

未だに目的はわからないけどただ一つ、千束のことを生かそうとしているってのはわかった。

吉松が心臓を持っているとわかってよかった……

あとはその心臓をどうやって奪い返すかだが如何せんここ数日の足取りが掴めん。

どうしたものか……

 

とにかく一度空港から出てミズキと一緒にリコリコへ……

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「ねぇ、ここからどうやって帰るつもりよ。そもそも真島の電波ジャックで交通網は全滅よ?」

「ヘリを手配しておいた。今からたきなに知らせるからミズキはそこまで運んでいってくれ」

「人使い荒いわね!」

「今こそボクのできないことをやるときだぞ、ミズキ?」

「わーったわよクソったれぇぇええ~!」

 

 

あー快適、快適!

ミズキタクシーの乗り心地は7点だ。

もう少し振動を抑えてくれると声が安定するしボクが疲れないから良かったんだが急いでいる今そんなことを一々言っている暇はない。

 

 

「……ってそっちからかけてくるとは手間が省けたな。たきな、聞こえるか?」

『クルミ! 少しお願いしたいことが……』

「いいけどただその前に嬉しい知らせだ。千束の新しい心臓が見つかったぞ!」

『ほ、本当ですか!? ……一体どこに』

「吉松が持ってるはずだ。最近アランチルドレンが改良した最新の心臓を吉松が持ち出している。だが、足取りがさっぱりだ……。ところで鈴仙は? 並列でかけているんだが……」

『鈴仙は……今真島に捕まってるはずです』

「何だって!? 確かか?」

『はい』

 

 

おいおい、マジか……

せっかく千束が助かりそうだって時に今度は鈴仙が大変なことになってるとは……

 

 

『それにリコリコに戻ったのですが千束と店長がいませんでした……。しかも携帯だけ置きっぱなしで行方知れずなんです』

「何かあったのか……はぁ、一難去る前にもう三難か」

『それで私からのお願いについてなんですが……千束の携帯、解析できませんか?』

 

 

もちろんだ!

言葉より先に指先が動き出す。

ウォールナットに任せればこんなもの…………

 

解析を終え、携帯の内容を見る。

……なんだ、これ

 

 

「解析終わったぞ。たきな、千束のスマホ見てみろ」

『何か見つかりました?』

「……吉松と鈴仙だ」

『……っ!』

 

 

二人が一緒に拘束されている。

確実に真島関連だろう。

 

 

「千束のに……その画像が送られて吉松からの着信が入ってた」

『鈴仙は今真島に捕まっています! つまり吉松と鈴仙が一緒に真島のところにいるってことですよね』

「ああ、その通りだな!」

『……どうして吉松まで捕まってるんでしょう』

「まさかわざと捕まりに行ったと考えるべきか……」

『それで今二人はどこですか? 延空木ですか』

「……今、ミカの車を追跡したらおそらく旧電波塔の方に向かってる。吉松と鈴仙を助けに行こうとしてるんだ!」

『真島は延空木、鈴仙たちは旧電波塔……どうして真島はそんなことを……』

「たぶん千束に邪魔されないように遠ざけたんだろう。何にせよ千束は心臓の持ち主のところに向かってるってことだ! 万事解決だぞ!」

 

 

鈴仙も吉松も、いつどこで捕まったかまでは把握できなかった。

それでも吉松が心臓を持っている以上、千束は助かるといっても過言ではない。

 

いくつかの不確定要素は否めないが、それでもきっと……

 

 

『本当にそうでしょうか……』

「……たきな?」

『嫌な予感がします。罠かもしれない』

「千束なら大丈夫だろ」

『……吉松には絶対何かある……。私、旧電波塔に向かいます』

「……わかった。たきながそう言うならボクらももっと急いでそっちに向かう。取り返しのつかない無茶はするなよ。じゃあな」

 

 

なんか大変なことになってきたな。

でも千束と鈴仙、そこにたきながいればなんとかなるだろ。

昔の三人は不安定すぎてヒヤヒヤするようなこともあったが今の三人なら……

 

 

「ああっ……彼との約束がああぁぁぁ!」

「遅いぞミズキ! まだ付き合ってないだろ! もっとかっ飛ばせ!」

「ヒイ……ヒイ……何を、酷いこと、言うなぁ、キサマぁ!」

 

 

ケースの上で揺れに振り落とされないようにしっかり掴まりつつ、ケースを押す汗だく息切れ体力なしのミズキを急かす。

ボクは頭脳担当で身体能力は残念なことに見た目相応だ。

早くヘリのところに行くにはミズキのサポートが必須だ。

たとえ元でもDAに属していたミズキのこと、ボクは期待してるぞ。

それいけ、ミズキ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Erika side>

 

作戦開始時刻まで後残りわずか。

たきな、遅いなぁ……

 

 

「……時計ばっか見て、たきなが心配なの?」

「ヒバナ……。うん、ちょっと……」

「あんな自分勝手過ぎるヤツ、どーでもいいっしょ……ねえ、フキ先輩」

「……そうだな。場の空気を乱すくらいなら大人しくリコリコにすっこんでおけばいいのにな……」

「でしょう?」

「……にしても遅ぇなぁ」

「もし遅刻してきたらどうするッスか? もしかして除籍ッスか?」

「……さあな。それは司令が決めることだ」

 

 

フキ……口は悪いけど、たぶん心配しているんだよね。

私も心配……

そう思っていると聞こえてくる足音。

 

 

「ハア、ハァ……すみません、遅れました……」

「おっ、ギリギリッスね! 遅刻したら任務から外すかどうか話してたところッスよ。よかったッスねぇ間に合って」

 

 

心配は杞憂だったみたい。

時間ギリギリだったけど帰ってきてくれたたきな。

私の知ってるたきなは予定の時間より早く行動する真面目な人だったけど……

荒い息遣い、何となく申し訳なさの滲む瞳、どうしたのかな……大丈夫かな?

 

 

「さっさと来い……任務開始だ」

「……さっき遅刻したら任務から外すって言ってましたよね。今回、私は遅刻扱いでお願いできませんか」

 

 

……それってつまり今回の作戦に参加しないってこと?

た、確かにDA復帰は本意じゃないって言ってたけど、ここに来て急にどうしてそんなことを……

鈴仙たちを助けるために、間島と会うために来たんじゃなかったの……?

 

 

「オマエ、それマジで言ってんのかぁ?」

「すみません……」

「これから真島を討伐しにいくんだぞ。日本の平和が賭かってんだ、勝手に抜けるとかバカ言うんじゃねぇ……!!」

「……すみません、それでも私、やっぱりいけません」

「どうして? たきなは鈴仙と真島を見つけるために参加したんだと思ってた……」

「もちろんその予定でした。今もそうです。鈴仙と千束を助けたい……でも二人がいるのは……」

「延空木じゃ……」

 

 

首を横に振るたきな。

鈴仙は真島に捕まっていたはずなのにどうして旧電波塔の方を見て……

 

 

 

「真島に捕まってんなら鈴仙もそこにいんだろ。何が引っかかってる」

「……さっき千束が旧電波塔に向かっていることがわかりました。そして千束のスマホにはこれが。きっと鈴仙もそこにいるはずです! どうか、行かせてください……」

 

 

たきなが見せてくれた画面には拘束された鈴仙。

焦りが滲み出ているたきなの額。

 

 

「ここでは千束も鈴仙も救えません。……二人のところに行かせてください、お願いします」

「……バカが移ったか?」

「お願いします」

 

 

深く腰を折るたきな。

事情も心情もすべて完璧に理解するなんて超能力者でもない私にはわかんないけど、たきなにとってその二人がどれだけ大事な存在だっていうのはわかった。

そしてその二人を助けたいっていう意志の固さも……

 

……私はたきなには命を救ってもらった。

だから今度は私が少しでも……

ほんの少しでもいいから助けになりたい。

 

 

「フキ、行かせてあげて。私がたきなのポジション埋めるから」

「ムリムリ、そもそもコイツがクビになったのは……」

「サクラ、わかってる。私のせいだってことは、わかってるよ……。だけど……だからこそ今度は……」

「エリカ……」

 

「今回の任務、失敗は許されない。……オマエらのせいで平和が崩れちまったらどうにかしてくれんのかよ?」

「……」

 

 

フキとサクラが否定的なのはわかる。

前回は私のせいで失敗したから今回も私のせいで失敗したら……

そう思って不安なのはしょうがないことだと思う。

 

それに今回は失敗したときに私だけの命でどうにかなる程度の規模じゃない。

もし、テロを成功させてしまえば今まで築いてきた平和な日本が終わってしまって大変なことに……

でも、それでも、今のたきなにとってはこれからの任務より大事なことがあるから……

私も助けてもらってばかりの自分じゃいられないんだ。

 

 

「はぁぁ……ホント、馬鹿ばっかだ。この任務を降りれば、もうDAには戻れないんだぞ!」

「わかってます……」

「最後のチャンスなんだぞ……それでもか?」

「……ここでは二人を救えない、それだけです」

「……行けよ」

「フキさん……ありがとうございます。エリカも、ありがとう」

「いいの。……気をつけてね」

 

 

一礼して私たちとは反対の道、旧電波塔へ走って行くたきな。

そんな背中を見ることなく階段をのぼりだすフキ。

 

 

「ええっ、行かせるんスか!?」

「あの異分子に背中を任せられっかってんだ」

「ふーん……まっ、そうゆーことにしといてあげるッスよ」

「変に勘ぐるんじゃねぇ! 殴るぞ!」

「それは勘弁ッス~!」

 

 

照れ隠しで拳を振り上げるフキにニヤつきながら頭をかがめるサクラ。

言葉遣いはぶっきらぼうでちょっぴり喧嘩っ早いけどフキが面倒見よくて本当は優しいの、サクラも私もヒバナも、みんな知ってるよ?

 

 

「フキ、ありがとう!」

「……調子のんなよバカが。……それに実力で判断したんだ。セカンドリコリス二人分の仕事、しっかり死ぬ気でこなせよ」

「そッスよ~! そんなとこでいつまでもボーッと立ってないでさっさとしろよぉ? 早くしないと競争に負けちゃうッスから!」

「競争じゃねぇよ」

 

「エリカ、行こ」

「……うんっ!」

 

 

ヒバナの手を取り、先にいるフキたちを追いかけるように階段を上る。

心配して下の方は見なくても大丈夫。

だって私も、たきなも、全力でやるべきことをやるだけだから……

誰かの心配なんて、自分の心配なんてしてる暇なんかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

「鈴仙ちゃん、手はず通りに頼むよ」

「……千束が吉松さんを殺せなかったときのことですか?」

「ああ……」

 

 

一体何度目のやりとりなんだろう。

数を重ねていくごとに気分が落ち込んでしまう。

 

もし千束が来なかったら、その方が簡単に済むんだけどなぁ……

でも絶対そうはならない、だってあの誰でも大変なことになってるって知ったら迷わずに助けに来ちゃう千束だもん、絶対来るよね。

 

 

「千束には私を確実に殺してもらわないとならない。そうすれば千束は自由になれるのだから。……私の胸を見て殺してくれるだろうか」

「……どうでしょうね。そんなことで撃たないと思いますけど」

「でなければ君を人質にするのは?」

「それは私が嫌なのでできれば止めてほしいですね」

「そうか……」

 

 

悲しげなため息が聞こえる。

どうしても千束は誰かを撃たないといけない。

それはたとえ吉松さんの胸の傷が偽物だって、千束の心臓が胸がそこにあることが嘘だって気づいたとしても、千束が吉松さんを撃たない限り千束はアラン機関という鎖から逃げられないから……

千束がアランの束縛から解放されるには、吉松さんの言葉が嘘だってわかってても誰かを撃たなきゃ、殺さなきゃいけないんだ。

 

 

「もし……もし千束が殺さないなら、鈴仙ちゃん……君の手で殺してはくれないだろうか」

「……揃って才能を無駄にする姉妹で申し訳ありませんね?」

「二人にとって酷なことを言っているのはわかっている。だが、ただの一回、一回でいいんだ。実弾を撃たれて死ねば私はアランチルドレンの才能によって殺されたことになる。即死が嫌ならば腹でもいい。手当もしなければ失血性ショックでいずれ死ぬだろう。……頼んだよ」

 

 

千束が誰かを殺せばいい。

でも千束は誰も殺したくない。

なら、どうすればいいんだろう……

 

……答えは意外と簡単だった。

千束が誰かを殺したように見せればいいんだ。

吉松さんが言っているのはつまりはそう言うことなんだ。

 

 

「頼めるかな……」

 

 

私も千束と同じだ。

誰かを殺したくない、誰かを傷つけたくない、自分がどうなっても構わないけど誰かの苦痛は耐えられないほど嫌いだ。

だから誰かを殺すなんてできるはずがない。

 

私は千束とは違う。

千束みたいに敵の家族を想ったり自分のことを覚えていてくれたらそれが嬉しいことだなんてこれっぽっちも考えてなくて、人が死ぬのが(現実を見るのが)怖くて、怖くて……

だから銃を持つことすら怖い。

 

でも千束を救うって、誓ったんだ。

 

 

「……いいですよ。もしどうにもなりそうになかったら、そのときは私の手で……」

 

 

外に意識を向けると銃声があちらこちらから聞こえてくる。

街中から、延空木から、旧電波塔から……

千束がすぐ近くまで来ようとしているのがわかる。

 

その足音が近づくたびに鼓動が荒く加速していく。

悪夢か現実かもわからないけど、誰も傷つかない幸せな終わりを目指して時間は加速していく。

ただ、私だけが加速に追いつけずにおいていかれる感覚のみがあった。

 

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