<Chisato side>
「まぁたここかぁ……」
この機械の心臓になって、初めて戦ったのが
真島もこの時にいたらしいけどどうも記憶にないなぁ……
そんなことより鈴仙とヨシさんを助けないと。
「気をつけ行けよ?」
「うん、わかってる……ありがと、せんせー」
「……二人のことは任せたぞ?」
「もちのろんよ、すぐ終わらせてくるんだからこの千束さんに任せておきなさい! ……しっ、それじゃあ、行ってくるわ!」
「ああ、行ってこい、千束」
東京の街を一望できるほど高いこの塔。
先生に見送られながら私は、私と因縁のあるこの場所に再び足を踏み入れた。
……人の気配がない。
みんな延空木に行ってるおかげで敵がいたとしても人目を気にせず銃を使えるぜ!
というわけで銃を構え、攻撃されないか警戒しながら足を進めてエレベーターに乗った。
流石に現役リコリスでも最上階までは心臓が持たんからね……
行けるところまでつれてっておくれ。
と思っているとエレベーターが止まる。
流石に最上階まではラクさせてはくれないかぁ……
ここで止まったってことはこの先に真島が張った罠が……
……って、うっわ……
予想通り敵さんわんさかいる~!?
先生の言うとおり私を誘い出して倒すための罠なのか!?
……でも敵さんの配置はまばらだし、私がどこにいるかもわかってないみたいだし、真島は出てこないし一体どういうこった?
まあ道中に敵が一人もいないってのも不気味すぎるけどフツーもっとこう、銃弾の嵐で手厚い歓迎とかしてくれるもんじゃないの?
それをしないなんて真島、それでも映画好きかぁ?
あらかたぶっ飛ばしたと思うんだけどそれでも出てこないことに違和感を覚える。
でもおかげでヨシさんと鈴仙を探すことに専念できる!
今まで通ってきた道にはいなかったからきっとこの先にいるはず……
「ヨシさ~ん! 鈴仙~! 千束が来ましたよ~……!」
いくら呼んでも反響する声だけで二人の声は返ってこない。
ここにいないとなるともう展望台の方しか残ってないよね……
待っててね、今そっち行くから……
****
「ヨシさ~んっ、レ~セ~ンっ、いたら返事して~!」
「千束~こっち!」
鈴仙の声だ……!
階段を上ってようやく聞こえた!
急いで声の聞こえる方に……
「来てくれると思っていたよ、千束……」
「ヨシさん! 鈴仙! よかった、二人とも無事で……!」
「もう、心配しなくていいのに……。もっと自分の命を大切にしてよ」
「バカ鈴仙! どこの誰が無茶したせいだと……」
でも二人が無事でホントに、本当によかった……!
あの写真を見た瞬間どれだけ心臓が止まる思いだったか……
思わず胸をなで下ろそうとしたとき、突然モーターの動く音があたりに響き、外からの光が遮られる。
一瞬気が抜けてちゃったせいで何が起きているのか判断が遅れたけど、これは……
真島の仕業だろうと思い警戒を高め、銃を構える。
そこにさっきまで私たち三人以外、誰もいないと思ってたのに足音がコツコツと聞こえてくる。
見覚えのあるシルエット、聞き覚えのある声。
延空木を襲撃している主犯が、因縁の相手がそこにいた。
「……よう、ヒーロー?」
「真島!!」
シャッターが閉まりきり、暗闇に包まれる。
私をこっちにおびき寄せたのは延空木襲撃を邪魔されないようにするためだと思ってたけど、どうしてここに……
そんなことに頭を動かそうとしてけどそんな暇なかった。
真島めぇ、バカスカこっちに弾撃ちやがって……
そんなに撃ったら修理代も火薬代も馬鹿になんないんだかんな!
ヨシさんに当たったらどうしてくれんのよ。
「ほらほらぁ! 避けると憧れのヨシさんに当たっちゃうぜ、ヒーロー? 約束なんだろぉ?」
「くっ……!」
激しい銃撃を鞄で受ける。
いつもなら避けられるけど今は後ろに守りたい人がいる……
もどかしいけど防御に徹するしかない……
「千束、私が吉松さんを避難させるから……」
「そぉれはありがたいけどっ、そんな状態でいけんの……ッ!」
「もちろん。……千束こそ私がいなくなっても戦えそう?」
「あたぼうよっ、むしろ何も気にしなくていいからやりやすくなるわっ!」
「了解、任せたよ」
真島の銃はリボルバー式、再装填のときがチャンスだ!
銃声が一発、二発……そして最後の一発。
銃撃が止んだ。
鈴仙がヨシさんを連れて真っ暗な中を歩いて行く。
こういう暗闇でも鈴仙なら最短ルートで真島を避けていけるはず……!
隠密能力と音による周囲の知覚があれば暗闇でも問題ないし、というかむしろ暗闇だからこそ光る。
問題は私の方なんだよなぁ……
守りたい対象がいなくなったから銃弾を回避することはできるようになったし、だから大丈夫だって鈴仙に啖呵切っちゃったけど、正直この暗闇の中、私の目の良さを封じられたまま鈴仙と同じように耳がいい真島を相手にするのは分が悪いというか圧倒的不利な状況なわけで……
……愚痴ばっかり言っててもしょうがないか。
少なくとも鈴仙のおかげで状況は良くなった。
本領発揮はできないけど、真島だけに集中して思う存分暴れられる!
暗闇という圧倒的不利な状況なのに鈴仙が私に全部任せてくれた。
そのせいで何だか顔が緩む。
「しょうがないなぁもう……いっちょやってやりますかっ!」
****
後ろも前も全方位が暗闇で隠れる場所もない。
死角ばかりのこの状況では絶対勝てないことくらいわかってる。
だから防壁代わりに金属製の棚のような物を押しだし、できた壁に背をつけて真島の攻撃方向を絞る。
いつ攻撃がやってくるのかわからない。
鈴仙との模擬戦を思い出すなぁ……
何とか反撃しようとしてライトで真島を探してもなかなか見つからない。
鈴仙みたいに光が当たってる場所の外側から攻めてるんだ……
少しでも見えれば避けられるのに、ほとんど何も見えないせいで近づかれて気づいた瞬間致命的な一撃でもされたら……
そうなる前にできれば私から攻めたいんだけどどうせ当たらないわ。
ぱっやカウンターを決めるしかないのかぁ……?
そんなことを思っていると不意な方向からの一撃。
気づけなかった……!?
避けられな……
「ハッ!!」
「ぐ……っ!! お返し……!」
蹴られた衝撃で手に持っていたライトが離れたけど、致命傷じゃない……!
一瞬真島が見えた。
そこに向かって一発、二発、弾を打ち込んだけど真島の姿はもう暗闇に隠れて見えない。
ライトがなくなった今、少しでも真島を視覚に捉えn……!
「ガッ……ゲホっゲホっ」
攻撃は単発じゃなかった……!
死角からの攻撃が連続して打ち込まれて受け身もできず、防御もままならず後ろに飛ばされ、背中を地面に打ち付け、肺の空気が押し出される。
「どうした、アランリコリス、お得意の回避はぁ?」
「ハア……ハァ……お前、わかって言ってんだろっ!」
「もちろん。視覚が全てだろッ!」
声のする方に、攻撃があった方に発砲しても手応えがない。
あんにゃろー、ずっと同じ場所にいてくれればいいのにぃ……
「相手の微細な動きで射線と射撃タイミングと判断する。すげぇ
「そういうアンタもやるじゃない? どんだけ耳いいのよ……」
「さっすがアランリコリスだっ!! 何でもお見通しだなッ!」
「グッ……あがッ!」
何なのコイツ……ッ!?
拳銃持ってるんだから使えば一瞬で終わるのにさっきからバカスカ蹴ったり殴ったり……
そもそも学校で人に暴力を振るっちゃイカンって習わなかったのかぁ?
不気味なヤツめ……
「ヨシさんから聞いたよ、くだらない意地で才能を潰してるってな。……だが、俺はお前のそういうところ好きだぜ? 俺も誰かの言いなりになるのは大嫌いなんだ」
「一緒にすんなッ! 私は人の役に立ちたくて……」
「……なら、俺と手を組まねえか? 一緒にアランをぶっ殺そうぜぇ? 人助け、したいんだろ?」
「困ってるいい人ならね? アンタら悪党が困ってても手ぇ貸すか!」
「ひっでぇこというなぁ……俺たちゃあ世界のためを思って行動してるんだぜ?」
テロをして日本を混乱の渦に陥れる……それのどこが人助けになるってのよ。
それに世界の人を救うために才能を支援してくれるアランを壊すことは絶対……
「なあ、オマエも気づいてるだろ? アランは頭のおかしいキチガイ集団だってこと。俺みたいな戦争屋、お前みたいな暗殺者に支援するなんてどう考えても狂ってる。DAもだ。日本の平和を維持するだぁ? 嘘つけ、お前らがやってるのは独善的で偽善的な犯罪だ。孤児を集めて暗殺者にする狂った組織をぶっ潰したい俺は、国民の手による正しい世のあり方を望む俺ははたして悪か?」
だから何だって言うの?
私は私のやり方があるの、アンタにどうこう言われる筋合いないわ!
そもそもアンタの方がヤバいことしてる自覚はないのかねぇ……
「おっと、他人様が話してるときに発砲とは、交渉決裂か?」
「いつから交渉に応じようとしてるって思ってたのよ……」
「オマエの妹は割と乗り気だったぞ?」
「どうだか? 本当にそう思ってたのかはこの後本人に聞くからそろそろ倒れてくれないかなッ!」
「……ガッカリだ。もっと戦いを楽しみたかったのによぉ」
この戦闘狂めぇ!
さっきギリギリ見える範囲だったのに、また闇に紛れて……
鈴仙との模擬戦だったら「この私から一本とるなんて、やるなキサマ」とか軽口をたたいていたかもだけどそんな余裕、全然ないわぁ……
背後から声が聞こえてもすぐにどっか別の場所に隠れて、男ならもっと堂々と真正面から戦ってくれよ!
反射で振り返って打ち込んでも当たらないし、代わりに背中に拳が叩き込まれるし……
そんな本当に顔を顰めたくなるような厳しい状況だけど勝算はある。
たきなが言ってたみたいに私の弱点は目だ。
暗闇も駄目だし眩しすぎても見えなくてどうしようもないほどの弱点だ。
でも真島が鈴仙と同じように地獄耳なら、鈴仙の弱点と同じなら……
耳元で大きな音を出せば一時的にでも音が聞き取れなくなる!
大丈夫。
つまり私らしく全身全力でやればきっと何とかなる。
反撃のチャンスはやってくる。
「もう一度聞く、一緒に来ねぇか?」
「もう一回言うよ、お断り!」
「残念だ……ま、仕方ねぇか、これにて遊びは終いってな」
真島が銃を構える。
もしそのまま暗闇に紛れて撃たれたら……
万事休すかぁ~!?
そんなこと思ってると転がっていたヨシさんの携帯が三回鳴った。
そしてワン切り……
……まさかね?
たきなはDAにいるはずだし、私の場所もヨシさんの携帯番号も知らないはず。
……そう思っていたけど、いい意味で予想が裏切られ、三寸先も見えないような闇に希望の光が窓を突き破って入ってくる。
その奥に見える黒くて長い髪の人型を見つけて、思わず皺寄せていた眉間と口元がニヤリと緩んだ。
<Reisen side>
守るべき人を背にした千束は防戦一方。
少なくとも足手まといになる私たちはいない方が戦えるはず。
だから吉松さんを連れて静かに第二展望台へ上っていく。
「こっちですよ」
「ありがとう鈴仙ちゃん。素晴らしい耳だね。……ミカが君のことを隠していた理由がよくわかるよ」
「後天的な才能でもアランが支援してくれるなんて思ってませんでしたよ」
「それでも元々人よりは良かったと言っていたじゃないか。それに事故に遭って才能が開花するなんて事例も聞く。アランは神からのギフトならばいつでも支援する」
「……神様の
激しい銃声。
気持ち悪い……
どっちも間違ったことは言ってないし自分のためじゃなくて誰かのため、世界のためって頑張ってるのに……
どうしても互いに受け入れられなくて傷つけ合おうとしているのが気持ち悪い。
こんなに非道い贈り物、本当に神様がくれたのかな……
少なくとも私が思い描く神様は人道ある高貴な方だと思うんだけど。
「少なくとも君の耳はギフトだと私は思うよ」
「聞きたくないものまで聞こえても?」
「ああ、そうだとも。むしろ嫌な部分は自らの手で消せる。真に選ばれた人間のみが生を謳歌できる
ディストピアの間違えでしょう?
いつか見たことがあった「誰もが手を取り合える理想郷」は夢で、千束が誰かのためになれば嬉しいなって言って行動してたのに結局現実になることなんてなくて幻のままだった。
DAに管理されて得られた平和、選民することで得られる平和なんて理想から遠く離れてる。
この醜い現実が夢で目が覚めたら美しいほど平和で争いのない現実だったら良かったのになぁ……
「平和のためにアランチルドレンが世界には必要なんだ」
「……何か真島に手を貸したい気分。千束が負けちゃうからやらないけど」
「ああ、すまない。いらないところまで話してしまった。今の私にアランの何たるかを話す資格はないのにね。理想郷の話は忘れてくれ」
「……理想かぁ。まあ忘れておきましょうか」
「ああ、そうしてくれ」
今どれだけ理想を思い描いたところでどうにもならない。
千束の心臓が壊れたのも現実で、吉松さんが殺されようとしてるのも現実で、嫌なことは全部現実だ。
でもいいこともたくさんあった。
みんなと出会えたことも現実で、新しい心臓があったのも現実だ。
曖昧な現実で頑張るしかないんだ。
夢じゃ千束を救えないんだ、ツラいほど眠くてもまだ眠るなよ……
苦しくて現実から逃げたくなっても逃げるなよ……
……よし、大丈夫だ。まだ頑張れる!
****
「五月蠅い……」
「真島君と千束の戦闘が激しくなったのかな?」
「ええ……そうですね。下の方で真島と千束がドンパチやってるのが五月蠅くって、眠気なんか吹っ飛んじゃいますよ……ホント……五月蠅い……」
拳が肉に当たる気持ちの悪い音。
耳鳴りがして、変な悲鳴に聞こえてくる始末だ。
錯覚って怖いよね……
それに加えて裂けそうなほどに激しく鼓動する心臓が五月蠅い。
それでもまだ大丈夫。
「千束は無事だろうか。あの暗闇の中では彼女の才能を生かせない……光がない中千束は真島君を倒せない」
「……そこは大丈夫ですよ。千束は強いですから、負けるなんてことないですよ」
「だが暗闇という窮地だ。有利なのは真島君の方だ。……少なくとも殺す殺さないに捕らわれて敵う相手じゃない」
「つまり、何が言いたいんです?」
「……千束は真島君を殺せると思うかい?」
千束は誰も殺さない。
ゴム弾でも当たり所が悪ければ殺せるのにいっつも気を遣ってる千束が誰かを殺すなんて一生ない……
それこそ一生のうち最後の時でも撃たないと思うよ?
それに……
「きっと殺しませんよ……」
「……どうしてそう思うんだい」
硬いものに金属が当たり爆ぜる音。
さっきまで銃と千束と真島の声以外なかったのにガラスがバラバラに砕け散るような、そんな音。
「たきなが来た」
ガラスを割って壁を撃ち破って入ってきたおかげで完全な暗闇じゃなくなったはず。
それに
……どんなに安心しようとしても満たされない心。
欠けてて、不安定で、ふとした拍子に崩れて元に戻らなくなるような心だけど、二人に対する信頼がひどく心を安心させた。
****
私の心とは反対に憂いが見える吉松さんの瞳。
焦点が合っていない光を失った目、呼吸は浅く速く……
自分が死ぬことを恐れず、作戦が失敗することにひどく怯えた音が聞こえる。
「真島君を殺さないのなら……代わりに私のことを撃ってくれる、そうだろう?」
「え……?」
「どうして千束が撃たないと言い切れる。私の代わりに生きてくれれば……。そうだ、きっと千束は私のことを撃ってくれる。千束には人を幸せにする才能がある。私のために私を殺してくれる……」
「吉松さん……」
下を向いて独り言で自分自身に言い聞かせて……
都合のいい夢を見ているんだ。
私にそっくりだ。
……どうせ叶わないのに。
「鈴仙ちゃんもそう思うだろう?」
「……どちらにせよ大丈夫です。最終的に私か千束が真島でも吉松さんでも……つまり誰かを殺せばいいんでしょう? ……殺して見せますよ。千束に生きてほしくて今ここにいるんですから。だから安心してくださいね?」
「……少し正気を失ってたようだ。……千束の銃で逝きたいという思いが先走ってしまった」
「それは……アランチルドレンに殺されれば天国にでも行けると思って?」
「……そうかもしれない。私は自分の犯した罪の購いをしたいんだ。千束にも機関にも感じている罪の意識を払拭したい……。さながらアランチルドレンから
吉松さんが思い描く最高の終わり方は千束がアランチルドレンとしてその才能を殺しに使ってくれる、そして吉松さん自身を殺して貰うことなんだろう……
罪悪感のせいで死を求めるようになって、現実から逃げようとしてる。
でもそれと同時に純粋に千束の幸せを願う吉松さんもいるのは確か。
今までアラン機関の一員として信仰を尽くしてきたのにその信条を捨て去り自分の心を壊してまで千束の自由のために殺されたいと願う想いを止めることは私にはできない。
だって自分以上に千束の幸せを願ってるんだから。
私と同類な吉松さんの考えを否定できない。
いくら別のいい方法を言ったって千束に殺されることに執着してそれ以外のことを考えられてない。
たったそれだけの目的のために千束の心臓を破壊して、新しい心臓を作らせて、千束のための
自分のせいで大切な人が死ぬのなら、自分が犠牲になれば大切な人が死なないで生きていてくれるのなら……
そんな自分勝手な思想。
千束も吉松さんも
そんな自己犠牲的な思想を否定すること何て私にはできない。
「私が吉松さんを撃ったら、千束に恨まれますけど、それで千束が助かるのなら……千束が望む最高の形でこの物語を終わらせられるのなら……」
でも千束も私もそんな誰かが傷つくなんてこと望んでない。
だから
「