優曇華と彼岸花   作:桃玉

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<Takina side>

 

最初は上手くいっていた。

千束さんはスーパーカーに興奮するくらいには騒がしく余裕綽々。

私も「危機が迫ったら撃つ、敵が来たら撃つ、最悪敵を殺せば味方は死なないのだから」という精神で落ち着いて行動できていた。

 

しかし状況は相手側のハッカーの手によって一変する。

車で空港まで護衛する手はずがその車の制御を乗っ取られ、敢えなく破棄。

多方からの攻撃を避けるため近くの廃れた建物の中へ身を隠しつつ迎撃せざるを得なかった。

…………移動手段がない今、敵から逃げ切るのは困難であり、殲滅した方が依頼を達成へ繋がると考えたためだ。

 

私たちが入った建物の中に少し遅れて敵も入ってくるのを確認し、コンクリート壁やスーツケースを盾にしながら攻撃を開始する。

 

渋々ながら千束さんの「命を大事に」という指示を守りながら行う射撃。

悪人は殺してしかるべきと考える私にはこの支部の方針は私には合わない。

急所を狙う感覚とは異なり、一撃で相手はダウンしないですし、弾も無駄に消費しますし、何より効率が悪い…………最悪な感覚。

 

それでも私の弾丸は誤差なく狙いを射貫く。

血を流す敵がひとり、またひとりと数を増やす。

そして相手の銃声が止んだ。

 

 

「千束さん、オールグリーンです。敵はどうします?」

「お疲れー! ……ってまたひどく散らかしたねぇ」

「私のせいじゃないですよ?」

「わーってるって! ……手当てしてるから護衛任せたよ」

 

 

そう言って敵の方へ包帯などを持って近寄る千束さん。

コイツらは利益で人を殺す悪人で、私たちは人のため世のためにソイツらを消すリコリスのはず。

血が苦手だと言っていた鈴仙さんがいないのに敵に配慮する意味がわからない。

そんな想いが思わず口から漏れ出る。

 

 

「何でそんな無駄なこと……」

「……たきな、私にとっては無駄じゃないよ」

「…………」

「みんなあると思うんだ、自分にとっては大切な何かが。私の場合~、みんなを救って、みんな笑顔になって、それが私にとっての一番っ!!」

 

 

そんなの、理想論じゃないですか……

否定的な意見が口からでかける。

世の中、電波塔事件のように極悪非道な輩が絶対存在する。

ソイツらのような極悪人を殺せば平和が訪れるし、善良な人々は幸せを享受できる。

 

 

「その人たちを救って、それでみんなが笑顔になるんですか……」

「そうねぇ、たきなの言いたいこともわかるよ。でも、少なくとも……この人たちにも家族がいて、家族を想って養おうとして戦ってるんだ。だから……」

「ですが……ッッ!!」

 

 

ソイツらを野放しにしたら誰が死ぬかわからないじゃないですか!

任務だと言えど悪人は殺さなければDAのためにも世のためにもならないじゃないですか!

 

……そう強い口調で言い放とうとしたのを激しい銃声の嵐が遮った。

その嵐の中心に立っているのはウォールナット。

 

目を離した隙に私たちから離れていたウォールナットが地に倒れ指一つ動かなくなる。

けたたましい音が鳴り響いていたこの場所はガラリと雰囲気を変え、風の音しか聞こえないほどに静まりかえる。

 

体のありとあらゆるところに金属の弾が刺さり、赤くないところを探すのが難しいほど流血して、遠目から確認しても死んでいることが確実な赤い体。

依頼は失敗という最悪な形で幕を閉じたのだ。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

現場から離脱した私たちは救急車両の中にいる。

ここにいるのはウォールナットの遺体と私たちだけ。

千束さんが深く頭を下げ嗚咽と雫を垂らす中、私の中に渦巻く思考と感情は淡々としていた。

 

あの時早く動けていれば、目を離さなければ護衛対象を死亡させずに済んだのではないかと自分の行動を顧みる。

護衛対象の死亡と任務失敗に関して、感情的なものではなく任務の失敗に対して次回はどうすればより良く動けるかという自分の合理的な思考を働かせる。

 

しかしその頭の片隅で、泣き疲れて目元が赤く腫れ上がりしおらしい千束を見ているとなぜだかモヤモヤとした変な感情が生まれる。

私が失敗したせいでこの人は泣いているという申し訳なさが口から漏れる。

 

 

「千束、さん……今回は、その……ごめんなさい」

「たきなのせいじゃない」

「……」

 

 

今回の作戦が失敗した直接的な原因は千束さんが敵を手当てしたことではない。

私が千束に気をとられ、ウォールナットから目を離したせい。

普段なら犯さないミスをしてしまったせい。

 

それもこれも彼女たちと一緒にいると調子が狂ってしまうせい。

 

リコリスなら敵はすべて殺し尽くすものだし、いくら敵に家族がいようとそんなこと知ったことではない。

しかし千束も鈴仙もそれを徹底している。

リコリスなのにリコリスらしくない考え方をして、敵ですら助けようとする。

 

優しすぎる。

 

血を見たくないだとか誰かが死ぬのが嫌だとか、そんな優しすぎる理由で……

明らかにリコリスとして異常だ(問題児)といわざるを得ない。

 

私と相反する考え。

私には受け入れられない違和感。

それらが私を狂わせる。

 

……私は仲間が死のうとDAのためであれば悼むことはあれど悲しむことなんてしない。

しかし、今まで見てきた千束とは異なり、全身に風穴を開けられたウォールナットを見て目が潤んでいる千束を見て少したじろぐ。

 

敵を治療し、味方の死を見て悲しむ。

矛盾している行動は理解に苦しむ。

それなら敵は放置すべきだ……

なのにそんな否定的な考えは彼女を見ていると霧のようにつかみ所がなくなり、よくわからない感情が喉につかえたような不快感となって現れる。

 

私は答えがわからくなって俯き、口が動かなくなる。

しかし次の瞬間、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

「もういい頃合いじゃないかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Chisato side>

 

ウォールナットを死なせてしまった後悔と懺悔……

思えば思う程、私の中にある悲しみ、怒り、イヤな感情が膨らんでいたのに……

一瞬でそんな悲しいことなんて吹き飛ばされてしまう驚くべきことが目の前で今起こった!

 

 

「ぶっぱ~! あっつい、ビールちょ~だい!」

「「ええっ?!?!」」

 

 

死んだと思っていたウォールナットの着ぐるみがモゾモゾと動き出したかと思ったら、スポンと頭を持ち上げ、中から見知った飲んだくれが出てきた!?

 

何を言ってるのかわからないと思うけど、私も何が起こったのかわからなかった!?

頭がどうにかなりそうなほどあり得ない光景に顎が外れそうになるほどびっくりしてたところに……

どこからともなくビールの缶がミズキに手渡される。

 

 

「千束! たきなさん! ついでにミズキさん、お疲れ様~!」

「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはー♡ このビール、キンキンに冷えてやがる! ……枝豆もあんのか何してくれちゃってんのよサイコー!!」

「ミズキ!? それに鈴仙!? えっ、あ、あ、なんで!?」

 

 

ミズキが着ぐるみから出てきたと思ったら、さらに鈴仙がどこからともなく現れたことで、先ほどまでのシリアスな雰囲気や悲しみの感情はどこへやら、驚きと困惑でいっぱいで何も考えられない……

そんな状況にある私にまたもや知っている声が聞こえてくる。

 

 

「落ち着け、千束」

「ええっ?! せんせ~!?」

「んぐ、んぐ、んぐ、ぷっぱ~!! やっぱり仕事終わりと禁酒明けのおビールは格別うめぇ~わ!! マジホントサイコーすぎんぞ、よーやったおっさん! でかした鈴仙!」

「感謝の極み……ってね♪」

「ちょ~いちょいちょいちょい!? 一体何なのこんな状況で落ち着けるかッ!? 誰かこの状況を説明してくれぇ~!!」

 

 

何も知らない私とたきなを置き去りに状況はどんどん混沌(カオス)になっていく。

私の困惑がピークに達しようとしてたとき、お酒が体内に注入されたミズキが機嫌良く答える。

 

 

「あぁ~! これ防弾、派手に血が出るのがみそね! マジくっそ重いけど」

「たかが半日お酒が入ってないだけで大げさな……」

「20時間ですぅ! 四捨五入して丸一日も命の源を断つなんてよくやった私!」

 

 

そう言ってミズキは着ぐるみを叩き、その度に着ぐるみに開いた穴から真っ赤な鉄くさい液体が吹き出る。

まだ状況は把握し切れていないけど、着ぐるみの中の人は無事だったということに時間差で脳が理解を始める。

 

……でもそれと同時にさらによくわかんないことがあるんだよなぁ。

元々聞かされていた依頼内容はウォールナット(ミズキだったけど)を空港まで護衛して逃がすことだったはずだし、何より……

 

 

「あの、ウォールナットさん本人は?」

「そ~だよ、どこ行った!?」

「『ここだ』」

 

 

着ぐるみの頭と前方の助手席のあたりから声が重なって聞こえ、思わず助手席からする声の方に振り向く。

 

 

「君たちの働きによって目標は達成できた。ご苦労だったな」

 

 

今まで話していた機械的な音声ではなく可愛らしくもどこか不貞不貞(ふてぶて)しい偉そうな声が聞こえ、金髪が見える。

のぞき込むとそこにいたのはVRゴーグルのようなものをかけた……ロリだった。

 

 

「私は考えるのをやめt……」

「お~い千束~? 千束~? 大丈夫?」

「ちくわ大明神」

「て、店長!? 千束が壊れました!?」

「……大丈夫だ」

「そうそう。こういう時はたたけば直る! テヰ(てい)ッ!」

「いてっ……わたしゃ昭和のテレビか!?」

「ほらね?」

「店長! 治りました! 一体どういう仕組みで……」

 

 

危ない、危ない。

想定外すぎて理解しようとしていた頭がパンクして、思わず理解することを放棄するところだった。

 

 

「で、ウォールナットさんは? どこぉ?」

「ん」

 

 

ミズキが金髪幼女の方に顎をしゃくる。

……まっさか~バカ言ってんじゃないよミズキ~。

こんな幼女が天才ハッカーなわけ……

 

 

「…………マジ?」

「マジ。んぐ、んぐ……」

「オイ、ボクのどこを判断して天才ハッカーじゃないと思ったか言ってみろ? ……はぁ、まあいい。追っ手から逃げ切る一番の手段は死んだと思わせること。そうすればそれ以上捜索されない……」

「ではわざと撃たれたんですか」

「彼のアイディアだ」

 

 

たきなの質問に対してその子が運転席の方を指さしながら答えると、先生が依頼の成功のせいか、機嫌良さそうに手を上げてその言葉に応じる。

混乱して頭から煙が立ちそう……

「つ、つまりドユコト!?」と声を上げようとしたとき鈴仙が私の両手を握り言葉を伝える。

 

 

「つ・ま・り! 誰も死んでないし、千束たちはちゃんと依頼主を守れたってこと! ……よく頑張ったね」

「よ、よかったぁぁ゛、みんな無事でぇ゛……!!」

 

 

思わず握られた手をほどき鈴仙に抱きつく。

優しく抱きしめる腕が背中を撫でる。

その慣れ親しんだ暖かさが私を安堵させる。

その慣れ親しんだ声が誰も死んでいないこと、みんな助けられたことを教えてくれる。

 

私、救世主さんみたいに人を救うことができたんだ。

私の憧れの人、救世主さんみたいに……

 

鈴仙を抱きしめる手に力が入る。

その時に涙腺が緩んだように感じたのはきっと気のせい。

泣くわけなんかない……

だって今私はこんなに嬉しいんだから!

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「落ち着いた?」

「うん……ありがと、鈴仙」

 

 

少し落ち着き、鈴仙の胸から埋めていた顔を起こす。

顔は少し湿っていたけど、きっと汗だ。

 

 

「あ~あ、最後はハリウッド並みの大爆発を用意してたのに~、無駄になったかぁ」

「早く終わってよかったじゃないか」

「そうそう! 終わりよければすべてよしってね」

 

 

鈴仙とミズキと先生の会話を聞くと思わず呆れ、いつもの雰囲気に流されて笑顔に自然と戻る。

何よりみんな生きてる!

 

顔も名前も思い出せないけど、救世主さんと約束したんだ。

人の役に立って、私を救ってくれた貴方のようになるって。

 

……救世主さんみたいに私もなれたかな?

私を救ってくれた人のように人を助けることができたかな?

 

 

「想定外の自体にきちんと対応して、見事だった」

「も~、死なせちゃったと思ったし、あぁ、も~よかった、よかったああ!!」

 

 

声をかけてくれたたきなとウォールナットに対しても思わず抱きつく。

こんのぉ! 人の気も知らないで澄ましたかわいい顔してぇっ!

おとなしく千束さんの手で撫で回されろぉ!!

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「なあ、いい加減機嫌を直したらどうだ?」

「むー、別に不機嫌じゃないですよーだ。……でも事前に教えてくれてもよかったんじゃないですかねぇ」

 

 

騙していたという件に関して未だに不服で異議を申し立てたい気持ちでいっぱいだったから先生の言葉を無視して、頬杖をしながらふて腐れ、文句を垂れ流す。

事前に教えてくれたらこんなヒド~く落ち込まずにすんだし、悲しくもならなかったし、何で教えてくれなかったのかとそっぽを向いていると鈴仙の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。

 

 

「いや、ごめんね? 悪かったなぁっては思ってるけど……」

「あんた芝居下手だし。むしろたきなと一緒に自然なリアクションしてもらったほうがい~じゃない? ほお~ら、こーんな♪」

「えっ? え、あっああああぁぁぁあああああ?!?! 何それぇ~っ!?」

 

 

ニヤニヤと気色悪い顔をしているミズキが見せつけてきた写真を見ると顔全体が赤く、熱くなる。

そこには私が悲しくて顔を歪めている写真が……

スマホの画面をスライドさせるたびにじゃんじゃんといっぱい出てきた!?

ちょ!? ミズキ! スマホの画面をスライドさせないで!?

そしてみんなに見せびらかせないで、というか見せつけんな!!

 

 

「ちょちょ、おま、やめて! いつ撮ったのソレっ!? 消せ、今すぐに消して!!」

「ほ~れこの写真が恥ずかしいのかぁ? それともこれかな~」

「あ、私と千束のツーショット…… ミズキさ~ん、後でその写真送っておいて、永久保存するから~」

「ミズキ? ま、まさか鈴仙に送ったりしないよね?」

「……ニヤリ」

「ちょ、ミズキさん、いやミズキ様、ホントやめて、送らないでぇ! 鈴仙はそんなこと頼むな、見るな、あっち向いててぇ!!」

 

 

その阻止をのらりくらりと巧みに躱すミズキ。

スマホには鈴仙に抱きついたときの、子供みたいに鈴仙の胸の中で嗚咽を漏らしている写真……超ハズカシッ!

泣き顔バッチリ撮られてるじゃん!?

鈴仙はなぜか嬉しそうで微笑みを浮かべているし。

も~本当になんなの~!?

 

 

「あっ!」

「とったど~!!」

 

 

ミズキから携帯を奪い取った!

苦い顔をしながら眉間にしわを寄せて携帯とにらめっこ。

私の変な顔写真を消すことに躍起になっている。

 

 

「コレとコレ……うっわ、こんな写真まで!? これも消して消して消して……」

「ちょいちょい、千束?」

「なに? ご覧の通り私忙しいんだけど……」

「あの、アレ……」

「うん? どれ……? あ!」

 

 

鈴仙に肩をぽんぽんされ、指の方を確認するとミズキが「ほほほ~れ」とUSBメモリーのようなものを見せびらかすように振ってた。

 

 

「ミ、ミズキさん? それって……」

「あんまり情報担当をなめんなぁ? ぜんぶこっちにも移行しておいt……「ふん!」パシ……ああっ!?」

「それも廃棄処分して消しま~す!! これでキレイさっぱり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Takina side>

 

今回の作戦は私と千束さんが護衛に失敗することを前提に計画されていた。

そのことを私たちは知らず、結果的に今回の作戦は成功したとはいえ、私たちの行動に問題があったことには変わりない。

千束さんはみんな死ななくてよかったと泣いて喜んでいるが、私はそうは思わない。

 

 

「やっぱり、命を大事にって方針無理がありませんか」

 

 

今回のミスのきっかけは「敵を殺すかどうか」で揉めたこと。

ウォールナットを見失ったこと。

 

もしあの時ウォールナットが殺されていなくても、千束さんが手当てをしていたせいで別行動をとらざるを得ない状況だったせいで私は思うように動けなかったと思う。

 

 

「あのとき、敵より護衛を優先していれば今回のような結果にはならなかったはずです。それに……」

 

 

それに、私が今回のようなミスを犯さなくても、敵を殺さないことで依頼失敗のリスクは高まると思う。

何より、今回のようにアマではなくプロが大勢の集団だったらと考えると……

 

 

「でもぉ、そうされてたら私らが困ってたんだよねぇ」

 

 

ミズキさんの言うことは理解できます。

しかし、それは私たちの方針が弱いことを示しているように思う。

 

そのせいで本当は救えたはずの命が救えなくなる。

少数を救って多数を見放すことになる。

その間に仲間が死んでしまう。

そうなる前に銃を手に取り、殺す必要が私たちにはある。

 

 

「でも~、目の前で人が死ぬの、ほっとけないでしょ?」

「私たちリコリスは殺人が許可されています! ……敵の心配なんて」

「敵の心配はしてないよ。ただ私たちがそうしたいってだけ」

 

 

血を見るだけで気分が悪くなってしまう鈴仙はともかく……

千束、あなたは一体何でそんな(かたく)なに殺しを否定するのですか……?

リコリス(暗殺部隊)なのにどうしてすべてを救おうとするのですか?

 

 

「まあとにかくあの人たちも今回は敵だっただけだよ。誰も死なないのはよかった、よかった」

「そういう話じゃ……」

「ほらみんな、もうその話は終わりだ。私たちも、騙すような作戦をして悪かった」

 

 

店長に言葉を遮られ、強制的に話を終わらされる。

続けざまに自家製のほのかに甘い和菓子を目の前に出す。

私もよく試食させられているおいしいおやつ。

 

 

「あ~、せんせ~! 甘いもので買収するつもりぃ?」

「いらないか?」

「ううん、食べますぅ♪ ささ、たきなに鈴仙! 座布団座敷に敷いて一緒に食べよ~!」

「……はい」

「食べよ~!」

「相変わらず切り替え早いわね~」

 

 

これで話が全部終わった訳ではない。

でも任務中一切食事をしていない私の頭はエネルギーを欲していた。

……取りあえず、座布団を出しましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

ミカさんのおいしいおやつを食べようとテンションを上げて押し入れを開け、座布団を出す。

押し入れの上の段には居候となったハッカーがいるが無視して早く食べようと準備を進める。

私は人数分の座布団を出してそっと戸を閉めた。

 

 

「ちょちょちょ?! なんかいたよねぇ?!」

「いましたけど?」

 

 

別に騒ぐほどのことでもないだろうに、千束はいつも見ていて飽きないなと思う。

たきなを見てみると特に驚くこともなく私の出した座布団を運んでいた。

 

 

「何さっきの!?」

「え、聞いてない?」

 

 

面白いほど目を開いて驚いているから本当に何も聞かされてないんだろうな……

私は座敷でくつろぎ……いや、独り酒盛りを再開しているミズキに聞こえるように大きな声を出す。

 

 

「ミズキさ~ん、千束たちにこのこと伝えてないの~?」

「ああ、言い忘れてたわ。ソイツ、ここで匿ってほしいって! 今言ったから~!」

「……つまり天才ハッカーはここの居候になったってこと」

「ああ~、座敷童かなんかだと思ったああ!」

 

 

ミズキさんの適当さはいつになっても変わらなくて安心する。

 

そうこうしていると店の入り口から誰かが入ってくるのがわかった。

ミカさんの様子がわずかに変化した気がし、耳を澄ましてそこにいる人物を特定する。

 

 

「おお、いらっしゃい」

「やあ、ミカ、また来たよ」

 

 

いらっしゃったのは、千束のファンこと吉松シンジさん。

何か一仕事終えたのか清々しい気持ちを感じた。

 

 

「賑やかだね」

「……最近よく来てくれるね」

「君のおはぎは旨いからね。前はコーヒーもまともに淹れられなかったのに」

「十年も経てばな。……最近忙しいんじゃないのかい?」

「ようやく仕事が一段落したところさ。掃除に手間取ってね……リスのようにすばしっこいやつだったよ」

 

 

ミカさんと吉松さんがこの前以上に仲よさげな雰囲気でいる。

 

やっぱりミカさんと吉松さんって恋人的な関係なのかな……

もしそうならお似合いの二人だと思うし、健全な恋愛感情を育んでいってほしいなぁ。

ミカさん、私二人の友情と恋慕を応援しています!

 

 

というわけで私はミカさんが用意してくれていたコーヒーとお菓子のセットを邪魔しないように静かに持って行く。

もちろんコーヒーは私の大好きな飲み方、思い出の味と香りであるミルク砂糖マシマシで……

 

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