優曇華と彼岸花   作:桃玉

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<Takina side>

 

考えても考えても千束さんのことも鈴仙のこともわからない理解できない。

「命を大事に」なんて理想でしかない、馬鹿げている。

「血が怖い」ならなんで戦っているのか、あり得ない。

 

手を汚さずに人の役に立ちたいだけならリコリスなんて止めてしまえばいいのに……

どうして私が彼女たちに会わせなければならないんだろうか。

どうしてあの二人はこんな道を選んだのだろうか。

 

 

ウォールナットが居候になってから約一月が経過し、今日も相変わらず騒がしい彼女たちと喫茶店の仕事。

未だこの職場環境や仲間に馴染もうとせず、DAへの強まる想いを胸に必要な行動のみをしていた。

そうしなければリコリスとしての存在価値が薄まりそうな気がして、DAから必要とされている私がいなくなっていく気がするのがどこか恐ろしく感じて……

 

いつまで経ってもDAに復帰できないという怒り、焦り、恐怖は日を重ねるごとに強くなる。

その考えを払拭しようとさらに仕事に精を出す。

 

私の存在理由であるDAのための仕事をしたい、早く復帰してお帰りと言ってもらいたい。

DAに想いは帰結し、帰還命令を渇望している。

 

 

私に「命を大事に」と言うこの場所は合わない。

リコリスらしく「殺し、排除する」方が合っている。

 

……とはいえ、復帰するにはリコリコでの仕事を疎かにするわけにはいかない。

今日も今日とて慣れ始めてきた生活が始まる。

職場へ足を走らせ、喫茶店に着いたら店の制服に袖を通し、仕事のスイッチを入れる。

 

 

「たきな~! お店開けるよ~!」

「はい! 今行きます」

 

 

営業準備をしていると徐々に職場の同僚の顔ぶれがそろい始め、最後に千束の溌剌とした声が店内に響き渡る。

今私がすべきはDAに認めてもらえるよう仕事に力を入れること、そんな考えで私は今日も仕事をこなす。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

日が西の空へ消え始め、今日の営業の時間が終わる。

外の看板はCLOSEに裏返り、私はレジの整理を始める。

しかしそんな中、店には私たち店員以外にも多くの人が集っていた。

 

 

「というわけで、閉店ボドゲ会スタートっ!!」

「ババ抜きやりましょ、BBA抜き! ミズキさん抜きで」

「何だとぉ、上等じゃコラ! この情報の鬼と言われた私に勝負ふっかけたこと後悔しろお!!」

「おっ、今日はミズキさんもやる気だねぇ!」

「じゃあ順番決めるぞ~」

 

 

千束の宣言に常連さんから歓声が上がる。

鈴仙の挑発にゆっくりとお酒をちびちび飲んでいたミズキさんが食いつき、おちょこの中にある酒を一気飲みして完全に出来上がった状態で会場に向かう。

刑事の阿部さんや漫画家さんたち常連客がノリノリでテーブルに集まり出す。

そしてそれになぜかノリノリなクルミが仕切り出す。

 

騒がしい……

私はその営業後業務妨害も甚だしいほどの賑やかさに目もくれず、レジ係としての業務を続行する。

これが終わり次第帰宅し、銃の点検等の時間に当てるつもりなのですが……

 

 

「ね~え、たきなも一緒にやろうよ~」

「いえ、結構です」

 

 

千束さんや常連客の残念そうな声が聞こえる。

しかしボードゲームに興味はなく、やりたいと思わないことや必要のないことに付き合う時間は持ち合わせていない。

 

それに今更深い関係を構築したところで私の居場所はここじゃなくDA。

復帰するにはDA以外の不必要なモノは切り捨て集中する必要がある。

後腐れなくここを去るにもそうすべきだと思う。

 

 

「混ざってきたらどうだ」

「そうすればDAに戻れますか」

 

 

もしそうなら喜んで行ったでしょう。

どうしてこの人は、千束さんは絡んでくるのか、私と仲良くしたがるのか……

どうしていずれここを去り関係なくなる私にこんなにも優しくしてくれるのか。

 

 

「ね~え~たきな~! 一緒にゲームやろ! ミズキがさっきババ引いてこぉ~んな顔しててさっ! だから、ねっ?」

「……もう帰ります」

「じゃじゃじゃあ明日はどう?」

「千束、グイグイ行き過ぎ。それに明日は……」

「明日は定休日ですよ。着替えるんで」

 

 

そう言って私はドアの前にいた千束さんを退け、着替えるためにドアを閉めた。

しかし更衣室の外の千束と鈴仙の賑やかな声がドアを貫通する。

 

 

「ええ~、いいじゃん、お休みの日なんだから遊ぼうよ! 何で止めるの鈴仙!」

「何でって……。お休みの日くらいゆっくりしたいじゃない?」

「っか~! これだから日陰の少女はっ! ……たまには着替えて外出るのもいいもんだよ?」

 

 

DAの外のことなんてどうでもいい。

命の恩人兼育ての親がいる冷たい暗殺部隊本部への復帰への意志は固い。

 

 

「千束、DAから連絡があったがライセンスの更新まだだろ。明日予約入れておいたから行ってこい」

「ええ~、先生明日ぁ~ッ!? 急すぎるよぉ……明日は水族館行く予定だったのにぃ」

「流石千束、タイムスケジュールに余裕余白がない……!」

「おい鈴仙、それは褒めてんのかァ?」

「……千束らしいなって思っただけだよ」

 

 

ドアから聞こえる会話を聞く限り千束さんが明日DAに行くらしい。

呼び出されもしないのにDAには行きづらいが、千束さんの付き添いという名目でなら……

そう思った私は着替え半ばでドアを全開しこう言った。

 

 

「私も同行させてください。お願いします……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<Reisen side>

 

たきながDAに連れて行ってくださいと言い出した日の翌日。

雨模様で気持ちがなんとなくどんよりと沈む中、私と千束とたきなの三人は電車に揺られ、DA本部に向かっていた。

目的は、千束はリコリスのライセンス更新、たきなは楠木司令に直談判、私は暇潰s千束の監視役。

 

本当は先週の休日にすでにライセンスの更新は済ませてきたので二人と一緒には行かないつもりだったんだけど、千束がライセンス更新の最終日直前である今日までほったらかしにしており……

 

ライセンスの更新や訓練、リコリスとしての義務を除けば唯一DAでお世話になった先輩(フキさん)に挨拶するくらいしか用事はないし、先週行ったばかりだったからもう一度挨拶しにいくのも何だかなと思い行くのを躊躇っていたところ、ミカさんから……

 

 

「こっちのことは私とミズキ、それからクルミに任せて、年齢が近いもの同士楽しんできなさい。どうせ暇だしな。あと千束の監視も頼んだ。前回はおやつをつまみ食いして測定不可だった項目があったらしいからな」

 

 

……と言われ、渋々了解し二人と一緒に電車に乗り込む。

その時に「ボクに手伝わせる気か!?」と文句を垂れていたリスがいたが気にしない。

 

ミカさんの言うとおり電車に揺られながら千束の監視、もとい、千束が隠し忍ばせていた駄菓子を全部回収して私物化するのであった。

今日の天気は生憎の雨で仄暗く、灰色の空は見てるだけで下がる気分を無理矢理上げるためにおいしい千束セレクトの飴ちゃんを舐める。

そんな私の横でジュルリと言いながら見つめてくる千束。

 

 

「ねぇ~、私にも一つちょうだい? というか返せよぉ、全部私のだぞ~!」

「そう言って健康診断に引っかかってたのは何処の誰だったかな?」

「それは、そのぉ……。はぁ~あ、ただでさえあそこに行きたくないのに、こんなどんよりした雲見てるとやる気起きねぇ体動かしたくねぇ寝ててぇの三拍子……甘いものでも食べたい気分なのに」

「雨だから飴でも? ……な~んて」

 

 

私の渾身のギャグ。

効果は今ひとつだ。(場がしらけた)

 

 

「うぅ~寒っ……。雨だからかな、急に冷えてきたね。……じょ、冗談だって! だからそんな飴玉隠さないで! ちょっと一個くらい私のやる気スイッチを押すと思って、ね! 鈴仙!」

「千束さん、健康診断の前の糖分摂取は血糖、中性脂肪、肝機能等の測定に影響が出ます。大人なら我慢してください」

「たきなまで勘弁してよぉ。はぁぁぁ……はぁぃ」

 

 

直談判の言葉を考えるためにメモ帳に釘付けだったたきなにそう言われ、千束が肩をがっくりと落として元気のない様子で返事をする。

お目付役を任された私は渾身のギャグが滑って千束に寒がられてちょっぴりショック。

 

千束も余程悲しいのか、それともふざけてるのか「悲しみのー、向こーへとー、辿りー着けるならー、僕はーもうー、要らなーいよー、ぬくもりも明日もー」って棒読みで歌っている。

「ちょっとだけなら……一緒に食べよ?」って言いたいのを我慢しつつ電車の揺れに身を任せた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

電車を乗り継ぎ、迎えの車に乗り、とある山の奥に位置するDAの本部に到着した。

入り口には監視カメラがあり、私たちを見張っている。

厳重な警備・警戒態勢を敷いており、圧迫感で息苦しい。

そんな入口を通過し、荷物検査、身体検査をクリアした私たちは受付をする。

 

 

「私はライセンスの更新で、たきなは……」

「楠木司令との面会を希望します。可能でしょうか」

 

 

用件を伝え、どこに行くべきかの指示を聞いている間、私は「特に用事ないしなぁ……これからどうしよう」とこれからの予定をぼんやりと考えていたら、千束やたきな以外の声も聞こえてきた。

朝の雨と低気圧でぼーっとした頭なのにどうして人の悪意には敏感なのかな、この耳は……

 

 

味方殺しの……

DA 追い出されたんでしょ?

組んだのみんな病院送りにするんだって

ええ~コワ~い!

指令無視したんだって

なんでそんなことするの?

 

 

事情も何見知らない、ただの憶測がたきなの心をかき乱し、私の頭痛も酷くなる。

人間は自らの意見を肯定する正義があれば、残酷で非道な行為を簡単にしてしまう。

 

悪意のない害意に満ちた言葉が吐き気を催させる。

ただのたわいない噂話だとわかっていても、醜く歪んで嘲笑っているヤツらの口から悪意が垂れ流されるという印象が拭えない。

 

 

「……何だあいつらぁ」

 

 

千束もその声に気づいて顔をしかめる。

今にも我慢ならずアイツらの方へ突っ込んでいきそうな怒りと不快を感じる。

 

私もたきなのことを何も知らないような奴らに悪口叩かれるのを黙って見ているのは面白くない。

口を挟もうか、足を動かそうか、手をあげようか……

顔を顰めていると、顔を暗くしたたきなはその場から離れようと背を向ける。

 

 

「……私訓練所に行ってます」

「ちょ、ちょっと、たきなぁ!」」

 

 

一瞬千束と誰かの声が重なる。

その声がした方へ目を向けたけど、小走りする音だけでそこにはもう誰もいなかった。

 

結局千束の伸ばした腕も声もたきなには響くことなく虚しく空振る。

声が届かない距離まで逃げるように走って行くたきなを見ることしかできない。

 

たきなに元気になってほしくて、追いかけたくて……

でも慰めにしかならない言葉しか思い浮かばず、追いかけられなくて……

 

DAに復帰してほしいという気持ちと一緒にいたいという感情。

自分本位な思考と感情がごちゃ混ぜになる。

 

 

「……千束。私、どうすればいいかな……」

「……きっと今のたきなには一人の時間が必要だよ。私たちが頼りないと思われているのは、ちょ~っと悲しいけど今はたきなのことを待とう。……もしDAに戻りたいって気持ちがあるなら、尊重したいし、協力するって言ったしね。ただ……」

「ただ……?」

「……たきなはDAに戻りたがってるけどさぁ、ここに戻るのは本当にたきなのためになるのかなって。わかるでしょ? ホントなんでここがいいかなぁ……」

「どーかん。でもたきなが復帰したがってるうちは、私はDAに戻ってほしいなぁ……」

「そりゃまた何で?」

「波長が不安定で怖いから」

「波長ねぇ……私にはわかんないなぁ」

 

 

私たちと一緒になるとたきなの心が激しく揺れる。

DAばかりに向いていて心ここにあらず、目の前のことがちゃんと見えていない。

今の私たちとは波長が合わない。

こんな状態だといつか取り返しのつかない事態になる。

 

なんて難しく考えてたら千束が肩をバシバシ叩いてくる。

 

 

「もぉ~眉間にしわ寄せない難しく考えない! 本当に助けが必要になったら私が行くから心配すんなって!」

「そう、だね……」

「よろしい!」

 

 

千束が暖かくって、なんとなく頬を掻きつつ曖昧に返事をする。

そんな私の返事に満足したのかニコニコと笑う千束の声に被せるように誰かの声が聞こえてきた。

 

 

「うっせーぞ、千束!」

 

 

声だけでわかる。

DAにいたとき唯一お世話になった小柄な先輩(春川 フキ)がそこにいた。

 

 

 

 

****

 

 

 

 

「ああ! フキー! 久しぶり~! 元気してた?」

「……オマエは相変わらず脳天気そうな面してんな」

「ええ、元気でやらせてもらってますよぉ? リ・コ・リ・コ・で♪」

「オマエ、先生と一緒だって自慢か? いちいちムカつく言動とらなきゃ話せねえのか? ああんっ?」

「んなわきゃないでしょ! あんたが売ったケンカだろぉん?」

「いつ私がケンカ売ったって? 大体な! 廊下で騒ぎ立てんな! 鈴仙も困ってんだろ!」

「いつ、誰のせいで、困ってるんでしょうねぇ!」

「いま、オマエのせいでだよ!」

「何だぁ? やんのかコラぁ?」

「上等だ、かかってこいや!」

「さすが漫才うまいですね!」

「「漫才じゃねぇ!!」」

 

 

息ぴったりのやりとりを見て思わず感心する。

初めて見たときはあわあわして何もできず眺めていることしかできなかったけど、もはや恒例行事で、この二人が鉢合わせると毎回毎回ケンカが勃発して、でもどこか二人とも生き生きしてる。

 

 

 

「二人とも仲いいですよね」

「「良くないわッ!!(良くねぇよッ!!)」」

 

 

ケンカするほど仲がいいという言葉は真実らしい。

フキさんも千束と同様ライセンスの更新手続きに来たようで、受付で手続きが終わり、更衣室に向かうところだったみたいだ。

 

 

「……にしても鈴仙、また痩せたか?」

「近所のおばちゃんみたいなこというのやめてくださいよ~! 痩せてません! むしろ太ったくらいです! ……たぶん」

「そか、ならよかったが……そんで、オマエら、ここに何しに来た?」

「何か用事なきゃ来ちゃ駄目なんか? ああn」

「千束はライセンスの更新です。私はそのお目付役で……」

「チッ……やっぱそーか。ったく、オマエの相棒は自己管理ができてねぇから大変だな。頑張れよ」

「ありがとうございm」

「あれれぇ~? おかしいぞぉ~? しっかり者のフキさんも最終日の今日ライセンスの更新なんですって!」

「うっせ。テメェとは違ってちゃんと忙しかったんだ。……なんだ、たきなも来てただろ? アイツは?」

「あ、はい! 何か楠木司令に直談判してDAに戻してもらおうって……」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、フキさんの口から大きなため息が吐かれる。

 

 

「ハァ、あのバカ……どうせそんなこったろうと思ったよ」

「そう、何でこんな冷たい場所がいいんだろね?」

 

 

殺しばっかやってるDAに戻りたい理由。

陰口を叩かれて、それでもここにいたがる理由。

 

 

「親の役に立ちたいんだろ。大体のリコリスは育ててくれた恩義に縛られてるんだ。オマエだって少しくらい拾ってくれたことに対する恩は……」

「あ~……。でもさ、期待に応えたくて頑張ってるのに頑張りを認めてくれないのは悲しすぎるでしょ」

「命令無視に機関銃を仲間がいる方に向けてぶっ放したたせいだ。それだけのことをしでかしたら見向きされること自体なくなる。アイツの自業自得だ」

 

 

確かにフキさんの言うとおり、今回の騒動はたきなの行動が原因で、DAがたきなを扱いきれないから左遷させられたとミカさんから説明を受けたが、それだけじゃないと思う。

憶測にしか過ぎないけど、何となく不可解なつっかえを感じるんだ。

そんなことを考えていると千束がむっとした表情をする。

 

 

「む、そんな言い方ないでしょ!」

「事実だ。それにアイツのせいで病んでるやつだっていることを思えばだな……」

「…………もしかしてたきなが助けた仲間?」

「察し良いな。ああ、左遷を自分のせいだって思い込んで根詰めすぎてんだ。任務に影響が出そうでまともに使えやしねぇ。エリカはあの一件以来不安定な部分がある。私がオマエのせいじゃねぇっつっても聞かねぇんだ」

 

 

たきなは命令無視して機関銃を味方に向け、一歩間違っていたら味方を殺すところだった。

それと同時に敵を倒し味方を救った。

そのエリカさんは自分のミスのせいで迷惑をかけ、たきなの左遷のきっかけを作ってしまった。

自分に非しかない彼女はたきな以上にツラいだろう。

 

 

「……なあ鈴仙、暇な時にでも行ってくれねぇか? 外部からの言葉なら聞いてくれるかもしれん」

「でも……私、何も言えませんよ?」

「何でもいい、エリカが立ち直るきっかけがほしいんだ」

「……機会があったら、ですかね」

「ありがとな」

 

 

フキさんが目配せに対して私の返答は微妙なものだ。

どうしてたきなに慰めの言葉しか思い浮かばなかった私が何を励ませるのか。

 

 

「……たきながDAに戻れる可能性は?」

「……アイツも悪いヤツじゃないんだろうが下は上の決定には逆らえない。それが不変の鉄則だからな」

「そんな殺生な……何とかなりません?」

 

 

フキさんが頭を横に振る。

楠木司令の本意はわからないけど、私たちがどうこうしたところでたきなの復帰は叶わないってことはわかってしまった。

思わずため息が漏れ出る。

 

 

「無理なことわかっただろ? それにオマエらはどっちかって言えばDAより自分たちの方に戻ってきてほしいだろ」

「いや、私は……」

「仲間にするのが怖いか?」

 

 

「……聞いてたんですか」

「悪い、聞こえちまったんだよ…………だが、たきなのことを好きだろ。別にいいじゃねぇか、それだけの理由で仲間になってやれよ」

 

 

的を射た発言が言い淀む私の体をビクリと震わせる。

フキさんの言葉にすぐに頷けない自分が嫌いだ。

だんまりしている私に千束が呼びかける。

 

 

「鈴仙……別に今すぐじゃなくてもいい。ただ、たきなにはDAじゃない、新しい居場所が必要なんだよ」

「……わかりました」

「ありがと」

 

 

たきなのことを受け入れようとしても気持ちが追いついていない。

どんなに虚勢を吐いても血を見ると体はこわばるし、強がりを言っても誰かの死に対する恐怖は拭えない。

それでも千束の一押しは私を少しだけ前進させた、ような気がする。

 

 

「……さ~てさてさて! 気分を入れ替えよう! 試しに私とフキでスポーツ成績勝負とでもいきますか!」

「そんなくだらねぇことやっかよ……」

「ええ~ノリ悪いなぁも~……。あ、さては私に負けると思ってびびってんな!」

「誰がビビるか、ボケ!」

「そうだっ! 鈴仙もさ、このまま一緒に着替えてさ、走ろうよっ! ねっ!」

「え、ええ!? そ、それはちょっと……」

「え~、でも運動不足でしょ?」

「そ、そうかもだけどぉ……」

「そうだな……運動は大事だぞ?」

「フキさんまでっ!? ご、ご勘弁を~~……!」

 

 

瞬発力ならともかく、シャトルランとか持久走とか、死ぬほど嫌いだぁ。

それに更衣室に入った瞬間身ぐるみ剥がされて二人のおもちゃになるのは目に見えている。

私は逃げるように更衣室に入っていく二人の先輩から離れた。

 

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