<Erika side>
二ヶ月前のあの日、本来なら死んでいたかもしれなかったのに生き延びることができた。
たきなには感謝してもしきれない。
今生きていることにありがたみも感じる。
間一髪で助かったことに対する安堵もある。
……なのに最悪な気分がここ二ヶ月間、ずっと続いている。
一歩遅れていたら私が死んでいたかもしれないという恐怖ではない。
それ以上に私の失敗が原因で任務を達成できなかったことと、たきなは何も悪くないのに左遷されてしまったことに対する罪悪感と責任の重大さが私を押しつぶそうとしてくる。
罪悪感を覚えないない日はなかった。
今日も……DAにやってきた元気そうなたきなを見て復帰するのかと思うといくらか気持ちが軽くなったけど、結局その気持ちは、たきなに声をかけられずお礼も言えないまま今に至る私は最低だと自己嫌悪する。
悪口を止める勇気も度胸もない。
陰口をツラそうに堪えているたきなを見て引け目に感じ、話しかけられなかった……
なんて言い訳をする私の胸の奥底でズンッと重くのしかかり、押しつぶされそうになった。
そんなとき携帯から電話の着信音が聞こえた。
画面を開いて、発信元を見ると「フキさん」と名前が表示されている。
ほとんど任務のこと以外で電話で話す機会がない、というより直接話す機会の方が多いため久しぶりかつ突然の電話に驚きつつも、耳に当てる。
「もしもし……」
『……今大丈夫そうか?』
「はい、大丈夫、です……でも、その……どうしましたか?」
『ああ、実は、ここにたきなの転属先のリコリスが来てんだ。んで、その、なんだ……たぶん、お前のとこに行くかもしれねぇからそんときは相手してやってくれ』
フキさんからたきなという名前が出た瞬間、私の心臓がドキリと跳ね上がる。
何も心の準備もできていない状態で、重圧がズシリと心にのしかかる。
断ろうかと思った。
『あんまり自分を責めんなよ? そんじゃよろしく頼んだわ』
「あっ、フ、フキさんまってくだs……。切れてる……。ど、ど~しよぉ!?」
感情が逃げ出したくて逃げ出したくて堪らないのに逃げるなと葛藤している間に電話が切られてしまう。
みんなに心配してもらって申し訳ない気持ちもあるけどそれ以上にたきなに申し訳なくって……
こんな気持ちのまま会えないよぉ……
****
少し落ち着いて、為すようになれと天井を見てぼーっとしていると、しばらくして自室の部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。
普段ならルームメイトの篝ヒバナだけしかドアを開けない、つまりフキさんの言っていた人がノックしたんだ。
フキさんの知り合いでたきなの先輩なら私より大人びている年上の女性が来るのかな……
なんて思いつつ扉を開けると予想外。
「あ、あの……こんにちは?」
「……こんにちは」
私どころかフキさんより小柄な女の子がいた。
紺の制服を着て、おどおどした様子でパーカーを羽織っている彼女を見て、いろいろなギャップに驚いて口をぽかん開ける。
「あ、あのぅ……」
「あ、ごめんね。私より若いのに先輩のセカンドリコリスってことに驚いちゃって……とりあえず、どうぞ、こっちに」
「あ、す、すみません!」
私以上に緊張しているその子はキョロキョロと周囲を見渡して、落ち着きのない様子でいた。
どこか小動物のような雰囲気でかわいらしい。
「あの! ……フキさんから聞きました。たきなと同じところで働いてるって……」
「は、はい! 鈴仙と言います……エリカさん」
「たきなは、元気にやってますか……?」
「……DA 支部、リコリコって言うんですけどね、そこでは毎日仕事熱心ですし、飲み込みも早くて……ただ、DAに復帰したいって思いが強いみたいで……」
「そっか……」
会話が途切れ静寂が訪れる。
気まずさとたきなに対する罪悪感で息が詰まる。
その静寂をかき消すように勢いよくドアが開く。
「エリカ! たきなが来てるって…………って、その子だれ?」
「えっと、たきなの転属先の人」
「ど、どうも」
「ふーん、この子が……」
現れたヒバナが不躾にまじまじと鈴仙を観察するように見る。
鈴仙が恥ずかしそうに視線をそらす。
「あなた……もしかしてフキさんと昔ペアだった子?」
「え、ええ、まあ、一月も組んでませんが……」
「やっぱり~そうだと思ったんだよねー! 昔模擬戦見たけど凄かったよね……ってそうじゃない。たきなが模擬戦するらしいよ!」
「模擬戦?」
「うん、そう。たきなが勝ったら復帰するのかも! だから見に行かない?」
たきなが戻ってくる。
その言葉を聞いた瞬間、俯いていた顔が少し上がる。
私は見に行きたくて「一緒に行かない、鈴仙?」と聞こうと思ったけど、鈴仙の方を見ると私とは逆に顔が俯き、影が差していた。
「……鈴仙?」
「あの……たきなは、戻れないと、思います」
「それ、どういうことよ?」
その言葉に驚き何も言えなくなる私の代わりにヒバナが聞き返す。
「たきなが左遷された理由は……きっと、独断専行が一番の原因じゃないと、思うんです」
「どういうことっ!?」
思わず声を荒げ、立ち上がってしまう。
私は、たきなが機関銃を撃って敵を殲滅して、情報が得られなかったから左遷されたのかと、私のせいでそうなったのかと思っていたのに、訳がわからなかった。
「私、ミカさんと司令、あとフキさんの話、聞いたんです。……銃取引の存在自体があのときなかった。……敵をどうしたとしても情報は得られなかった。……つまり、その、DAが、ラジアータが情報を誤ったという不都合を隠蔽するために、そうしたんじゃないかなって。そうすれば辻褄が合うし、そう思うんです」
「……たきなは、帰ってこれないの? 楠木司令に言っても?」
「ダメだと、思います……」
「そんなっ……たきながあの時一番……なのにこんなことってある?」
「エリカ、泣かないでよ……あんたのせいじゃないって」
「でも……でも……!」
次の言葉を探すが頭が真っ白になり何も浮かばない。
ヒバナが慰めてくれるけどその言葉は私の罪悪感を消してはくれない。
目からポロリと涙がこぼれ、それを隠そうと顔を手で覆う。
無力感や罪悪感で、胸が痛い。
そんな私の耳に優しい声が流れ込んでくる。
顔を上げると鈴仙の赤い瞳が私を覗き込み、吸い込まれそうになる。
その瞳は私の目と同じ潤いが宿っていた。
「……私はDAのリコリスのことは何も知りません。でも、リコリコのみんなのことならここの誰よりも知ってる。……たきなはDAのために、貴女のために、平和のために、って理由で行動したのかもしれないけど、それだけじゃない。自分の正しいことを信じて自分の行動原理に従って、何より自分の意思で決めたことなんだ。……だからエリカさんには泣かないでほしい……たきなの意思を否定しないでほしい」
さっきまでのオドオドとした雰囲気はなくなり、まるで別人みたいだ。
その言葉は私を慰めることなく、でも、私のくよくよした考えを捨て去るには十分だった。
涙が止まり、まだ謝れていないという罪悪感は残っているものの、晴れやかな気分になる。
「本当ならDAに戻ってきてほしいなぁ」
「私も、DAに戻ってほしいって、そう思います。それに、
「そっか、戻れないのか~……残念だな、エリカ?」
「も~、揶揄わないで!」
心の憑きものが剥がれ落ち、少し元気になった。
そんな様子を見てヒバナがニヤニヤして少しウザったい。
「……それで、模擬戦、見に行く?」
「うん! 行く! 鈴仙は?」
「私は……お迎えの車、手配しないと」
「そっか、残念」
「そ、それじゃ……!」
「今度来たときはちゃんと歓迎するから、また来てね」
人見知りが戻ったのか体を小さくし、ドアまで行き小さく手を振って出て行った。
直後、さっきまでの嵐のような体験を思いだし、ふふっと笑う。
「いいやつだったね。かわいいし」
「そうだね……優しい子だね」
<Takina side>
リコリスなら誰しもDAのために最善を尽くそうと行動する。
そう思っていた。
だから私も今までDAのために最善を尽くそうと行動し続けた。
その結果、私は京都からDAの本部がある東京への転属が決まった。
あの時の嬉しさと言ったら、親に認められ、褒められ、仲間に祝福され、人生の絶頂だった。
同時に親からの期待を感じとり、期待に応えたいという気持ちが膨らんだ。
そしていつの間にか期待に応えることが義務となり、責任を感じ、気づかないうちに重圧となっていた。
東京に来て、顔馴染みもおらず、頼る人もいない私はただひたすらDA の期待に応えるために、合理的で冷静たろうとして感情を押し殺し、同僚と馴染もうとせずに、ただひたすら最善を突き進んだ。
私は期待に応えたかっただけ。
頑張りを認めてほしかっただけ。
よくやったと言ってくれるだけで良かっただけなのに……
「あんたの席はもうないっスよ」
やめて……
「復帰……そんなことを言った覚えはない」
信じてたのに、そんなこと言わないで……
「諦めろって言われてるのまだわからないっスか?」
違う! 私は頑張って……
「あの時ぶん殴られたので理解してなかったのか? だったら言葉にしてやる」
もう、何も言わないで……
「お前はもうDAには必要ないんだよ!」
わかりたくなかったのに私は最初から期待も何もされていなかったのだと理解してしまう。
独断での行動が多かったから、統率を乱し同僚の言葉に耳を傾けなかったから、一方的で邪魔で疎ましい私は誰にも必要とされていなかった。
親の期待に応えたい一心だったのに、全てが無駄だったと悟り、頭が真っ白になる。
果ての無い暗い悪夢に堕ちて、自力で戻れない。
誰も手を伸ばしてくれない。
腕を振り払われ、家族に捨てられたような喪失感に襲われ、さらに深く絶望に堕ちる。
こんな悪夢、早く覚めてほしいと思って走っても、藻掻いても、目は覚めない。
誰か、助け……
****
「ここにいたんだ」
残酷な悪夢が非情な現実に戻る。
夢や希望の象徴として色鮮やかだった思い出の場所が、今は無機質な白黒に見える。
その場所、噴水からは静かに水が出ており、そして私の後ろから千束さんの声が聞こえるが振り返れない。
意識が明確になるにつれ悲しさが溢れてくる。
DAに拾われた私たちリコリスにとって、ここの寮でくれることが憧れ。
ここが目標だった……
「制服に袖を通したとき、私も、うれしかった。……そんな意外そうな顔しないでよ、みんな最初は同じだよ」
「DAに必要とされているあなたにはッ、今の私の気持ちなんて……。……自分の意思でここを捨てたあなたにはわからない!! 私はこの場所以外で私自信に価値を、意味を見いだせないッ!! ここが全てで、ここでしか必要とされない、ここでだけ必要とされればいい!! ……そう思って今までやってきた……のに私は居場所を私は奪われた……」
私にはもう、居場所がない……
存在意義が消滅して全てがどうでもよくなる。
私は千束と違ってここだけが拠所だった。
だから必要とされなくなった私に価値はなく、死んだも同然だ。
思えば思うほど悲しく、つらく、眼が熱くなる。
ただの八つ当たりで、でも、全部自分の失敗のせいだってわかっていて、それで期待もされてなくって、それでも壊れた心から濁流は押し寄せてくる。
「……ごめんなさい」
体を背け、目の前がぼやける。ぽつりと情けなさがこぼれる。
そんな私の肩の辺りにひとつの温かい小さな手が置かれ、不思議な感じがして、激しく流れていた感情が落ち着いてくる。
「たきなのことを必要としている人は街中にたくさんいる。私も鈴仙もみんなたきなが必要なんだ……。居場所はある。お店のみんなとの時間を試してみない? それでもここがよかったら戻ってくればいい」
千束の言葉が私の心を揺さぶる。
私の体は千束にふわりと私全体を覆うように抱擁され動かなくなる。
その腕と胸から伝わる血液の優しい暖かさがやってくる。
「……たきな、今は次に進むとき。誰かの期待に応えるために悲しくなるなんてつまんないって。たきながあの時ああしてなかったら、私たちは出会えてなかったよ。失ってできた意味もあるって。じゃなきゃ私はたきなと出会えなかった」
冷え切った感情が温かみを取り戻し、凝り固まった価値観が崩れていく。
初めて会ったとき、「旧電波塔が壊れてできた意味もある」と千束が言っていたのを思い出す。
あの時も、今も、その意味はわからないけど、今は不思議と悪い気がしない。
私の行動がなかったら、同僚を亡くし、この出会いもなかった。
その言葉を反芻していると不思議な浮遊感を覚え、目に色が入ってきた。
景色は回転しその度に色は変わるけど、そんなことどうでもよいほど太陽のように明るくて蝶のように鮮やかな紅白色。
その色が私を深く暗く冷たい海の底から引っ張りあげた。
その顔はひどく眩しく輝いていて、冷たさを和らげる。
「遅くない、まだ途中だよ。チャンスは必ず来る。そのときしたいことを選べばいい。…… 私はいつもやりたいこと最・優・先! 今は、たきなに酷いこといったあいつらをぶちのめしたいのでぇ、ちょっと行ってきますよ」
演習場の方へ行く千束を呆然と眺める。
私は君と会えてうれしい……か。
初めての出来事にうまく感情と状況を整理することができずにその背中を、千束が歩いて行ったことで色付いた道を眺めた。
<Reisen side>
車の用意も終わり、一息ついたときにふと先ほどのやりとりを思い出す。
意思を否定しないで、か……
たきなの考えを代弁するなんて烏滸がましすぎて、自分勝手に何言ってるんだろうと自嘲する。
でも、同時に「これからはちゃんとたきなのこと知りたいな」という思いが強くなる。
現在聞こえる激しい戦闘音。
千束がいればすぐ終わると思ったから、いつでも二人を迎えにいけるように演習場に近づき、近づくにつれ、たきながいないことに気づく。
終わる気配のない銃声。
演習場に走ってくる足音。
千束なら一人でもすぐ終わらせられるはずなのに戦闘の音は途切れない……
フキさんが予想以上に粘っているのか、それとも千束が不調なのか。
どちらかの理由が当てはまっていたとしてももっと重要な理由がある。
千束はたきなのことを待ってるんだ。
「鈴仙さん……!」
私の手前で足音が止まり、綺麗に透き通った声が聞こえる。
振り返ると不安定さが消えた、
「早く行ってあげて……千束が待ってるよ!」
「はい!」
一切の曇りなし、色褪せた世界に鮮やかさに彩られたかのような晴れやかな返事。
DAのためじゃない、自分の思いがために走り出す。
自覚し始めた自分の思いは閉じこもっていた殻を破り捨て、麗容な濡烏の揚羽が羽化した。
「……絶対勝ってきてね」
「ええ、もちろん。絶対、勝ってきます、鈴仙」
私たち、リコリスに降り注ぐ多くの理不尽。
他の一般の人たちが幸せを享受できるようにその理不尽に耐える私たちがいる。
私たちが不幸を背負い込むことで平和が維持されている。
耐えても認められず、報われることもなく……
不条理を跳ね返すことはできない。
でも今のたきなは少し違う。
理不尽を受け入れ、新たな幸福を手に入れようとしている真っ最中なのだから。
見えなくなったその背中に向けて私の願いを乗せ、餞の言葉を送る。
「行ってらっしゃい、たきな」
誰が死ぬのが怖い。
仲間が死ぬのはもっと怖い。
たきなにも千束にも傷ついてほしくないし死んでほしくない。
だからここで勝って証明してほしい……
二人は最強だって証明して、安心させてほしいんだ。
……なんて言いつつ今回の戦いの勝敗に不安は露ほどもない。
後は私たちの居場所、リコリコへ帰るだけ。
****
今回の勝負は千束の卓越した洞察力で相手の射線と射撃タイミングを見抜く程度の能力とたきなの途中参加からのフキさんに拳を叩き込むという想定外の動きを取り入れることによるファインプレイ(?)で、結果圧勝だった。
逆に、そうじゃないと今後不安だし、私が困っちゃう。
「……お前、模擬戦なんだぞ。後ろから撃てばよかったんだ。それを突っ込んできて殴るなんて馬鹿げてる!」
「これでお相子ですね」
「チッ、やっぱりお前使い物にならねえリコリスだよ! 命令違反に独断行動、二度と戻ってくんじゃねえ!」
フキさんが殴られたことに対して文句を吐いている。
その言葉をたきなはにやりと笑って受け流す。
今までのたきなじゃあり得なかった行動だ。
「た~きな~、迎えの車来たって!」
「私が手配しておきました」グッ
「おいてっちゃうぞ~! おいていかなけど!」
千束の呼ぶ声にたきなが振り向くと、私はドヤ顔で親指をあげる。
たきなは慣れない感じで親指を上げ、DAに背中を向けて、私たちの方へ駆け出した。
それにしても相変わらずフキさんはツンデレだ。
「DAよりもリコリコの方が今のオマエには合ってる。せいぜい三人で仲良しごっこやってるんだな」くらいにしとけばいいのに……
徹底的にたきなのDAへの未練を断ち切らせるように言葉を荒くして本心を爆発させてるのを見ると面白くてニヤニヤしちゃう。
捻くれて素直じゃないところがある意味チャームポイントなフキさんを見て、千束も影の方でボソッと「もっと素直になればいいのに……」とほっぺを膨らませている。
もしかしてどっかでたきなをDAに未練なくリコリコに行かせるように口裏合わせしてたのk……いや、たぶんないし、どっちかって言うと……
「たきなは DA にいらねえよ!」
「あーそうですか! なら私がもらっちゃいますー!」
「「……決闘じゃコラッ!!」」
……って流れの方が自然だ。
ありえないほど簡単に想像できる展開を想像して思わず吹き出してしまう。
「何だぁ? 今私のほう見て変なこと想像してなかった~?」
「い、いや、何も考えてない、よ?」
さすが同期のファーストリコリス、何だかんだ言って相性バッチリ連携上手!
……とか思ってないですって!
****
戻ることへの執着が消え去った古巣を背にし、車から下り、電車に乗り換える。
空を見ると紅くまぶしく輝く夕日が沈みつつある。
そんな中千束は頬杖をしてふて腐れた様子で、私が没収したお菓子を電車に乗るとき強奪し返して、飴玉を転がしていた。
「ねえ、千束? 何でまだ拗ねてるの? 千束のお菓子は全部返したじゃん」
「……たきながさぁ」
「私ですか!? ……何です?」
「私を狙って撃ったろ、ん」
千束は飴を突き出すようにたきなの方に伸ばし、たきなは渡された飴を受け取り、口に放り込む。
たきなは窓の方を見て少し考え、夕日を見ながら応える。
「……きっと避けると思いましたから。……本当に不思議で、非常識な人ですよ、千束は」
「……でも、スカッとしたな!」
千束はにかっとその笑顔を向ける。
「ええ」
たきなはその笑顔に対してにやりと、したしてやったり顔を見せた。
文字通り理不尽を相手に殴りつけてやった清々しい顔。
力強い私の好きな目。
その瞳に映る夕日の輝きが反射してまぶしかった。
****
ピロン
千束の携帯から着信音が鳴る。
「おお? 誰だ誰だ先生たちからだぁ! 二人とも見てみ」
「なになに?」
そう言って私たちは千束の携帯をのぞき込む。
『ボドゲ大会、延長戦中! 間に合いそうなら返信PLZZZ!』クルミからどや顔コロンビアポーズ写真付きの連絡が送られてきた。
純粋に楽しんでいるクルミのしてやったり顔とコロンビアポーズの写真。
クルミの顔と周りに写る参加者の悔しさと楽しさが混じる顔を見て今すぐにでも混ざりたくなる!
「どぉする?」
「もちろん参加で! たきなは?」
私と千束の顔が期待に染まり、たきなの反応を伺う。
少し考えた様子のたきなの口が開く。
「……帰ってからが楽しみですね」
「「つまり、参加するってこと!?」」
「はい」
「鈴仙!」
「はーい笑って~!」
「ほら! たきな近う寄れ」
私は隊長の意図を察して携帯のボタンを押す。
私と夕日に照らされて儚げに写る少女二人の写真。
「鈴仙、写真うまく撮れた?」
「もちろんバッチリ! 千束と違ってちゃんとみんなの見切れないで写ってるよ~」
「ちょ!? 私がいつ見切れた写真撮ったって? ……ってめっちゃいい写真じゃんグッジョブ!! でも追加で打っちゃえ~!!」
「ホント不思議な人たちです……」
たきなの呆れたような、でも楽しそうな表情が見える。
そして千束が携帯に追加で打ち込んだのを確認して、思わず笑みがこぼれた。
『三人でいくぜ!!』