この素晴らしい魔王軍に死の支配者を!   作:ちくわ部

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1話 天界にアンデッドは存在するのか

 

「・・・・・一体ここは?」

 

 モノクロのタイルが、宇宙のように無限に続く暗闇にまで広がり、小さな光の粒が浮かび上がる謎の空間で、禍々しい衣装に身を包んだ骸骨は上を見上げて呟く。その無限に広がる暗闇に浮かぶ光の粒は夜空の星を彷彿させた。

 骸骨の名前はモモンガ。

 仮想世界で現実世界にいるかの様に遊べる体感型ゲーム、DMMO-RPGのゲームの一つである“ユグドラシル”のプレイヤーだ。もちろん、このモモンガという名前も本名ではなくゲームの中の名前である。

 ユグドラシルは西暦2126年に大ブームとなった、非常に自由度の高さに好評のある有名“だった”ゲームである。

 10年以上の時が経った今ではもはや全盛期の見る影もなくサービス終了となってしまい、彼はその最後を見届けるために、拠点であるナザリック地下大墳墓の玉座にて終わりを待っていたはずであった。

 

「アップデートか?・・・・・にしても告知や情報も一切なかった。そう考えるとバグやサーバーの不調も考えられるな」

 

 長年一人でゲームをプレイしたことにより癖となった独り言を呟きながら、運営からの情報を確認すべくコンソールを開くために手を伸ばす。

 しかしその手はコンソールに触れることはなかった。コンソールが開かなかったからだ。

 モモンガは慌てて他の機能を呼ぼうと、

システムの強制終了、チャット機能、GMコール、強制終了を試すがどれも反応がない。

 

「・・・・・どういうことだ!」

 

 モモンガはユグドラシルの終わりを綺麗に迎えることができないことに対しての怒りをあらわにし、椅子の肘置きへその骨の拳を叩きつける。

 しかし、その怒りは直ぐ様押さえつけられるかの様に消え去る。そのことについてモモンガは疑問を抱くが、それ以上に今の状況に対しての疑問と困惑が大きかった。

 

「なんとかしないと・・・・・・って、何をすればいいんだ?」

 

 外部との連絡手段や、この場から抜け出すための移動手段を一通り試したが無駄に終わった。あとすることと言ったら、この空間内を探索することしかモモンガには思い浮かばなかった。とはいえここには目の前に意味ありげに置かれた白い椅子と、白い椅子のセットとなって隣に置かれた机しか存在しないのだが。

 モモンガは椅子から立ち上がり、机の引き出しを開ける。そうすると、中からは重要そうな羊皮紙と複数の本が出てくる。

 

「転生予定者リスト2012年7月15日版?なんだこれ。とんでもなく古いな」

 

 モモンガは引き出しの中の、参考書ほどの厚みのある小豆色のカバーの本を取り出して読み始める。

 

「・・・・・03時18分。大山裕司18歳、夜中に目が覚め水を飲もうと階段を降りている最中、視界が悪く階段に置いてある本に気づかず、それを踏んで滑り階段から転げ落ちて死亡。03時23分。田中太郎21歳、夜勤の帰りの運転中に居眠りをし、ドリフト3回転を決めて首の骨を折って死亡。・・・・・・え?まじでなんだこれ」

 

 ペラペラとページをめくっていくが、書いてある内容はどれも似た様なものばかり。それは死亡時刻順に纏められていた、死亡した者の死因と時刻が書かれた本だ。

 このリストに載っている人物は比較的若い人物が多く、それと同時に男が多い傾向にある。

 

「・・・・ーー07時34分。佐藤和真16歳、トラックに轢かれたと勘違いしてショック死・・・。いやなんなんだこれ」

 

 この本の内容が事実であるかは不確かであるが、冗談で書かれたにしては非常に精巧にできている。

 続いてモモンガは他の本を取り出す。これは本というよりもパンフレットに近い造形をしている。

 

「異世界転生案内および契約書?突然業務的になったな・・・。なになに?初めての異世界転生案内(引きこもり向け)。引きこもり向け・・・・・?神サマ親切サポートサービスが、初めて転生しちゃうみんなをばっちりサポートしちゃうぞ・・・・・・安心してレッツ新しい人生・・・キミも今日からスーパー・・・ヒーロー・・・」

 

 ふざけた書き方であったが、それが嘘かの様に内容は非常に業務に従事した形式で書かれていた。そのせいかモモンガは社会人の癖で、パンフレットの内容を最後まで目を通してしまう。

 

「強い道具を渡して魔王討伐をサポート。そして異世界で不自由のない様に言語、ある程度の情報をインストールしてサポート・・・」

 

 パンフレットの内容は、魔王のいる世界に日本人を転生させ、討伐してもらうというものであった。

 どうやらその異世界とやらは魔王の手によって侵略されつつあり、その地で死んだ者はその世界で再び転生することを拒むらしい。それにより、この世界の魂の総量が減少。このままでは人口も減ることになってしまうとのこと。

 そこで転生者の日本人の登場である。

 

「・・・異世界で死んでも責任は取らないことと、脳に言語をインストールした際頭がくるくる●°ーになる可能性があって、それに関しても責任を取らない。これを隅っこに小さく書くところからして、なかなかのやり手だな」

 

 モモンガは感心する様に唸る。

 この本を読むことでモモンガは今の状況を少し理解する。今、モモンガは魔王を討伐する転生者としての立場でここにいるのだろう。そして、神や天界という単語からして、ここは死者が送られる天国に準ずる場所であると推察する。

 

「転生・・・。つまり死んだのか?もしそうだとしてもなぜこの体なんだ?」

 

 モモンガは10年以上共にした、自分のアバターであったはずの身体を見やる。

 大きな宝石のついた指輪をはめた骨の手。胸部の開けたローブから覗く肋骨に、人間の体であれば内臓がある、お腹に浮かぶ赤い玉。今の体はどこをどう見ても現実世界の自分とは似つかない。

 その疑問を解決しようと再び引き出しから羊皮紙の束を手に取る。

 

「これがサポートの一つ、異世界転生の特典か」

 

 ドラゴンを召喚するスキル、燃えないものすら燃やして切ることができる剣『フレイムブランド』、魔法を吸収する闇属性が付与された防具『ナイトシューティングスター』。その他さまざまな武器やスキル、装備がその紙束には書かれていた。

 どれもアイテムコレクターのモモンガの心を引く物であったが、モモンガからしてみればどれも強いとは決して言えないものばかりであった。

 

「ふーん、魔法を無効ねぇ。物理の方面に対してはどうなんだか」

 

 少しの時間、パラパラ捲りながら羊皮紙を見てモモンガは言う。

 現物を見たいところではあったが、今はそんなことをしている場合ではない。

 モモンガは羊皮紙とパンフレットとリストをしまうと、今度は二段目の引き出しを開ける。一段目のより大きいことと、一段目で多くの情報が得られたところから、なかなか期待できそうだ。

 

「・・・・・は?なんだこれ」

 

 中からは出てきたのは、ポテトチップスと高そうな酒瓶などの趣向品。そしてゲーム好きのモモンガでも名の知らないほどの、古いレトロゲーム機であった。

 ゲーム機の取っ手の部分には黒く滲んだ字で『アクア』と書かれていたが、掠れすぎていてモモンガには読むことはできなかった。

 少なくとも取っ手など、文字が消えそうになる部分に持ち主の名前を書くべきでは無い。

 

「・・・・・杜撰(ずさん)というかなんというか。恐らく、本来ならここで対面する様に座って転生に関する説明を受けるんだろうな。全く、責任者は一体どこにいるのやら」

 

 二つの椅子を交互に見た後、モモンガは趣向品を手に取ってため息をつく。

 

「無いよりはマシかもしれないが、凄く欲しいと思うスキルや道具もなかったしなぁ。これ持って異世界に行くか・・・」

 

 そう口にした瞬間である。モモンガは淡い青色の光に包まれ、自分の体が浮かび上がっていることに気がつく。

 

「え!!ちょ、待って!冗談、冗談だ!お菓子とお酒持って異世界行くの!?そんなら普通に特典選びたかった!そうかわかった!今から現実世界に帰るんだよな!?流石にお菓子持って異世界はーー・・・」

 

 そう言い残してモモンガは異世界に通じると思われる光の門へ吸い込まれる。

 そしてモモンガはその空間から姿を消したのであった・・・・

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 暫くして、その空間に光と共に羽の生えた女性がゆっくり落ちる様に現れる。

 

「転生予定者は・・・やっぱりいないわよね。アクア様を転生特典として選んだ人の次のページに挟まれてたから一応確認しに来たけど。エリス様にも聞いたけど結局わかんなかったなー、これ。やっぱアクア様が適当に挟んだんじゃ無いのかしら」

 

 彼女が手に持つものは転生予定者リストのページの一部であった。その紙の文章の一部は赤色のマーカーでラインを引かれてこう書かれていた。

 

 2138年 04月01日 00時00分 鈴木悟34歳 大北ネオアーコロジーにて大規模なー・・・・

 

 

「おかしいわねー。なんで今日の分のリストにまだ未発行の2138年の分、しかも細かい情報があるんだろう・・・。まあいいか、来なかったし。あー緊張する!はじめての転生者案内!」

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 太陽が輝く青い空の下、草原に広がる緑の世界に爽やかな風が吹いている。穏やかな日差しの下、野生の花々が揺れ、草原の風は漆黒のローブを揺らす。

 その生の満ちる青い草原と、死の象徴とも言える髑髏。その二つは実に対照的で、芸術性すら感じられた。

 

「・・・・・・どう見ても元の世界じゃないな、うん」

 

 酒瓶と菓子袋を手にモモンガは小さく呟く。

 未だかつてお酒とお菓子を手に異世界転生した人間がいただろうか。そう考えながらモモンガはこの長閑な草原を見渡す。そこは光化学スモッグにより空一面が薄暗い黒雲に覆われておらず、大地も化学汚染で干上がり草一本も生えていない大地が広がっていなかった。

 すると、モモンガのいる小さな丘の先に街と思われる建造物を発見する。

 

「こっちに行った方が良さそうではあるが・・・・・・後ろの気配も気になるな」

 

 そして背後遠方の森林には無数のアンデッドがいるのを感じる。

 どうやらこの体でもユグドラシルの頃のようにアンデッドの存在を感知できるようだ。

 

「一つの気配だけ強力な力を感じるな・・・・・・」

 

 一瞬街の方に行こうかと考えるが、これほどの強大な力を発するものがあると、自分と同じようにこの世界に飛ばされた者ではないかと考えてしまう。

 

「街の方はいつでも行けそうだ。となると、こっちに行くべきだろうな」

 

 そう呟きながらアンデッドの反応がある方向に向かって歩みを進める。

 





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