鬱蒼と茂る森の中モモンガがアンデッドの反応に向かって進んでいると、複数のアンデッドが隊列をなして歩いているのを発見する。
「止まれ」
先頭を歩く漆黒の鎧に身を包みヘルムを脇に抱えた男が、後ろに続くアンデッドに呼びかける。その声は、首の上からではなく、抱えられたヘルムから発せられた。
首の無いアンデッド、デュラハンである。
「そこに居るのはわかっている・・・・・・。出てきたらどうだ?」
デュラハンがそう言い暫くして、彼が呼びかけた真反対の茂みがガサガサ音を立てて動く。
その瞬間そのデュラハンはこっそりと音のする方向に首を持つ。
「ふ、ふむ。やはりそこにいたようだなぁ!!正体を現すがいいっ!!」
モモンガはその姿を目の前のデュラハンに見せると、呼ばれた相手のことを分析する。
デュラハンはギラリと怪しく刀身を光らせながらモモンガのいる方向に大剣を向けていて、どうやらデュラハンの第二の象徴とも言える馬はいないようだった。
「やはり・・・・・・。その首、デュラハンか」
「ギャー!ガイコツ!!」
「・・・・・・え?」
現れたのは漆黒のローブに、様々な色の輝きを放つ指輪をつけた長身の骸骨。薄暗い茂みから出てきたその姿は誰もが驚き、恐れ慄くだろう。
モモンガは困惑する。否、するしかなかった。
すると、モモンガがアンデッドになったことによってか、デュラハンの背後にいるアンデッド達からの感情が伝わってきた。
(・・・・・・俺初めてベルディア様のところに配属されたんだけど心配になってきた)
(安心しろ新入り。戦闘の時“だけは”頼りになるからな)
(あらやだイケメン)
(え?あのローブかっこよくね?)
(わかる。あの角とかのアンバランスな感じにならず、ちゃんと着こなしてるのスゲー・・・・・・。俺だった絶対様になってないわ)
(イケメンで高身長とか羨ましすぎ!)
(それに対してベルディア様は・・・・・・はぁ)
(それな。あんなのだから死刑になるんだよ)
どうやら後ろのアンデッドは部下らしい。が、部下からの信頼度は、会社で嫌われている上司そのものだった。
「あ、んん!何だ、ただのアンデッドか・・・・・・・・・いや待て!貴様ただのアンデッドじゃないな!何者だ!気配を隠しているようだが、隠しても隠しきれないオーラがあるぞ!」
(そうそう、ベルディア様と大違い)
(見た目からもうオーラ出てるんよ)
(いやガチでオーラ出てんじゃん。黒い霧みたいなやつ。カッケー、俺も出せるかな)
一体このデュラハンの部下からの謎の信頼は何なのだろうか。だが、黒い霧のようなオーラというのは心当たりがない。そう思ったが一つだけ思い出すことができた。
「ああ、すまない。スキルの《絶望のオーラ》が発動していたようだ」
(かっけええええええ)
(やっぱベルディア様とはちげぇや!)
(俺、あの人の配属になりたかった・・・・・・)
(言うな。俺もだ)
どうやらユグドラシルではボタンでの切り替えでスキルの発動ができたが、今では感情によっても発動してしまうようだった。非常に便利である反面、生活に支障が出ないかなど心配なことが増えてしまった。
そしてこの上司にあたる人物は何故こんなにも信頼がないのだろうか。
「・・・・・・あー、ベルディア・・・でいいのか?」
「ほほう。この俺を知っているというのか。貴様の名は?」
実際は部下がペラペラ喋っているのを聞いただけだが、聞かれた本人は満足げだ。
「私はモモンガ・・・・・・」
そう言ってモモンガはしまったと、口を押さえる。一応ユグドラシルではプレイヤーネームだったからこそこの“モモンガ”という名前は不思議に思われなかったわけだ。
しかしここはゲームではなく現実。この名を現実で口にするのはこの部下アンデッド達に失望を与えるのと同意義であろう。
(ん?モモンガ?)
(モモンガ・・・ってあのモモンガ?)
(いやあれしかないだろ・・・・・・)
(これは大魔獣モモンガーからとった名前か?)
(こんなに似合ってる名前ねーよ!やっぱカッケーっす!モモンガさん!)
「そう、私の名はモモンガその人である!」
そんなことはなかった。
しかし大魔獣モモンガーとは何なのか。この自分でも強面だと思うこの体に似ているのだとしたらこれはこれで怖い。
「ふん、モモンガか。どこの“骨の”馬かもわからんが・・・・・・貴様何者だ?」
(わざわざ骨を強調して言うところがつまらん)
(おいおい、今日だけでどんだけ評価下がってくんだ?)
「アインズ・ウール・ゴウン・・・・・・これに聞き覚えは?」
(おお!またかっこいい要素出てきた!)
(組織名か?)
(俺は聞いたことないなー。お前は?)
(いや知らん。ただ分かるのは、かっこいいってことだけだ)
「ふん、知らんな」
「そうか・・・・・・この名はかつて知らない者がいないほど、世界に轟いていたのだがな」
(うおおおおお!やっぱかっこいい!)
(魔王軍幹部の名が掠れちまったじゃねえか!)
(もうこの人が魔王軍幹部でいいだろ)
ここは異世界だから当たり前、というべきかやはりかつての栄光あるアインズ・ウール・ゴウンについては知らないようだった。
そしてモモンガは部下アンデッドの会話内容から、今の状況をようやく理解した。
恐らく目の前にいる漆黒の騎士こそが、人類の敵である魔王の手下、魔王軍幹部なのだろう。
「私は魔王の指示により、駆け出し冒険者の街アクセルへ調査に赴いていたのだが・・・・・・。貴様はなぜここに?」
「理由は・・・・・・特にない。ただ強いアンデッド反応があったから来ただけだ」
一応モモンガは魔王を倒すためにこの世界に召喚されたらしい。だがこの体は何処からどう見ても魔王軍側である。そう、はっきり言って人類側、魔王側、どちらにつくか分からないのだ。ここはあまり余計なことを言わない方が賢明だろう。
「ほう。気配を消していたつもりだったが、どうやら俺から溢れ出るオーラを消しきれていなかったようだな・・・・・・。だが魔王軍幹部であるこの俺様を見つけ出すとはなかなかのやり手だ」
(何だろう・・・。ベルディア様凄く痛々しい・・・・・・)
(はあ、どうしてこうもモモンガ様と違うのか・・・・・・)
(はいはい、魔王軍幹部ごっこはおしまいにしましょうねー)
ベルディアがヘルムの下で不敵に笑うと、背後の部下達の目が可哀想なものを見る目に変わる。先ほどから聞こえてくる部下アンデッドの言葉全てが、ベルディアへの罵倒に繋がる言葉なのだが、彼にはこの声が聞こえないのだろうか。
「くくく、どうだ?貴様さえ良ければ、我らが魔王軍に入ってみるというのは?」
(お?)
(まじか!)
(お願いします入ってくださいの間違いだろ?)
(魔王軍へのお誘いキタ――(゚∀゚)――!!)
(これはベルディア様有能)
「え・・・・・・大丈夫なのかそう簡単に勧誘して?ひょっとしたら私が勇者の手先かも知れんぞ?」
(正論)
(これはベルディア様無能か?)
(やっぱり、お願いします入ってください!だったか)
(でもまあ突然勧誘されるとこうなるよな)
突然の誘いにモモンガは戸惑って思わず半分本音で聞いてしまう。
この質問は半分事実のようなもので、少々リスキーではある。だが何故ベルディアが急にモモンガのことを魔王軍に誘ったのかは聞く必要がある。
「いや、その容姿で勇者の手先はないだろ・・・・・・。理由としてはまあ・・・・・・実際のところ魔王軍もカツカツなのだよ」
ベルディアが小さく呟く。
どういうことなのだろうとモモンガが首を傾げる。天界らしき場所で見た資料の情報とは違うようだ。
「魔王軍側が優勢ではないのか?」
「近年ニホンジンとやらが、絶大な力を持った武器や防具を持って、何処からともなく現れてくるのだ!忌々しいっ!」
そのニホンジンとやらは間違いなく、モモンガのような天界から送り込まれた日本人のことだろう。このベルディアの言い方からしたら天界の思惑通りになっているようだ。
「そいつらが我が軍の戦力を次から次へと削り取ってゆくのだ。この前も別の幹部が死にかけたという報告がきたな・・・・・・。ようやくの思いで倒してもその代わりが現れ、倒してもその代わりが次々と現れるのだ!もうやってられん!・・・・・・まあそういうことだ。今我々はなりふり構っていられないのだよ」
モモンガの心の天秤が、少し魔王軍側から人類側へ傾く。
これはもう少し踏み込んで聞くべきだろう。
「もし私が魔王軍に入ったとしよう。その時の私の扱いはどうなるのだ?」
「はっきり言って、貴様の力を見ない分には分からん。魔王軍は実力主義だからな。だが貴様の力に見合った地位を手に入れられるのは間違いない」
「力、か・・・・・・。どのように示せばいいんだ?」
「なかなかやる気じゃないか。もし今やるというのなら、その隠している気配を見せてみろ。私も騎士になって長いからな。気配だけで力を測ることができるのだよ」
このベルディアの言い方からして、気配だけで力を測ることができるというのは、スキルというよりかは技術に近いだろう。
モモンガは気配を隠しているつもりはなかった。しかし指につけている探知系魔法など情報魔法を阻害する指輪の存在を思い出す。
「ああ、これかな?」
モモンガが指輪を外した瞬間、周囲の空気感が変わる。
「なっ・・・!これは一体・・・・・・!」
(うおおおお!何だこの魔力!消えそう!)
(やべえ、これ魔王様超えてんじゃね!?)
(あっ、俺消え)
(うわああ!新入りぃーー!)
変わったのは明らかに空気感だけではなかった。木々はざわめき、森中に生き物はその強大な力の気配を察知してその気配から逃れようと森を走り回る。静かであった森は
部下アンデッドの言葉を聞きすぐさまモモンガは、すぐに指輪をはめなおす。
モモンガの目の前にはぜいぜいと息を荒くしているベルディアがいた。
「ほ、ほう。なかなかやるじゃないか。これなら幹部クラスはー・・・・・・え?あちょっと!お前たち何処に行くんだ!」
いつの間にかモモンガの後ろには部下アンデッド達が集まり隊列を組んでいた。
部下のアンデッド達は揃いも揃ってごまをするジェスチャーをする。
(モモンガ様!一生ついていきます!)
(やっぱ持つべきはかっこいい上司っすよねー、へへっ)
(いやー、出会った瞬間からビビッと来たんすよね。ええ)
「こっ、こいつら・・・!・・・・・・はあ、まあいいだろう。改めて言おう。モモンガ、魔王軍への入団・・・否、魔王軍幹部になって欲しい。その力があればニホンジンすらも敵ではないぞ?」
「幹部か・・・・・・そうだな、最後の確認だ。仕事の内容は?」
モモンガにとってここが一番重要なところである。
ある程度上に行くと逆になるが、会社では立場が上になる程責任が多く仕事が増える。つまり幹部の地位のまま魔王軍に入ると、幹部級の責任のある仕事をすることになるということだ。
今までにやったことのない責任重大な仕事を押し付けられても困るだけである。
「あー・・・実際のところ、結構自由な感じだ。魔王軍の幹部も俺含めて7人ほどいるが、人間どもと前線で戦っているのは俺ともう1人で、別2人は妨害工作をしている。そして残りの3人は・・・まあ知らん。残り3人は全く魔王軍の仕事をせず顔もあまり合わさないからな。俺は戦うのが好きだから率先して戦闘系の仕事をしているが、やはり苦手な奴はいる。そういうのは妨害工作に回るんだ」
「・・・・・・え?仕事をしないのに幹部になれるのか?」
「仕事をしないというのは嘘になるか。一応魔王城の結界を維持するという、幹部にしかできない仕事があってな。最悪それさえこなせば幹部のままだ。・・・・・・個人的には貴様は俺と一緒に前線に出て行って欲しいが、嫌ならば結界の維持をするだけというのも可能だ。どうだ、他に何か質問はあるか?」
仕事内容、時間共に自由。何とホワイトな仕事場なのだろうか。
モモンガの心の天秤が魔王軍側に大きく傾く。
「面白い、いいだろう。魔王軍に入ろう・・・・・・ただ一つ条件がある」
「条件?俺のできることならしよう」
世界規模で脅威を晒しているという魔王軍。これだけの後ろ盾があれば可能だろう。
「アインズ・ウール・ゴウンについての情報を収集して欲しい」
モモンガが提案する条件。それはこの世界に来ているかもしれない、かつての仲間を探すことである。
因みにカズマとの絡みはちゃんとあるので安心してください。
むしろ途中からそっちがメインになるかも。