この世界に来て3日目。
今、モモンガは荒廃した城でベルディアの部下のアンデッドとチェス・・・・・のような何かで遊んでいる。
朽ちた王座のようなものにモモンガは顎に手を当てて座り、横に置かれていた机を正面に持ってきて、モモンガの魔法で作り出した黒曜石の椅子に部下アンデッドを座らせていた。崩れ落ちた城の壁から差し込む月光がモモンガを照らし出す様はまさに王者の風格とも呼べるものがあった。
モモンガが弓を持った黒い駒を動かそうとする手を止めて言う。
「ん?何故ソードマスターがそこに・・・・・・?」
(アークウィザードがテレポートさせたんですよ!)
この3日で分かったことではあるが、どうやらこの“アンデッドの声”というのは“アンデッドの心の声”らしい。これについてベルディアにどことなく聞いたところ、彼自身には何となく感情が理解できる程度のことしか出来ないという。
その後ベルディアから、もし分かったら部下からの評価を教えて欲しいと言われたが、すぐさま話題を逸らすことでそれを回避することができた。世の中知らない方がいいこともあるということだ。
因みに部下のアンデッド達には声が聞こえていることを言っていない。もし言ったら面倒なことになるのは目に見えているからだ。
何冊にも分かれたルールブックをパラパラと捲るふりをしながらモモンガは言う。
「うーん。もしや、アークウィザードの仕業か?」
(やはりモモンガ様は天才だ!)
(始めたばかりのゲームを直ぐに理解するとは・・・)
(流石魔王幹部!)
モモンガの周りを囲むアンデッドから称賛の骨と骨を叩く音の拍手が送られる。
このゲーム、一見奥が深そうに見えてクソゲーだ。
テレポートで相手の駒を盤外に送って行動不能にしたり、エクスプロージョンという魔法で試合を強制終了することが可能らしい。しかしある程度のルールを理解し、互いに同じ量の知識があれば楽しくプレイできるだろう。・・・・・・恐らく。
「やはりアークウィザードがこのゲーム最大の脅威だな」
このゲームで一番悪さをしているのはやはりアークウィザードだろう。
恐らくこのようなタイプのボードゲームの醍醐味である、限られたマスで、限られた駒の移動距離で戦うというのが、完全にぶち壊されるからだ。モモンガの体感的にはこのゲームを難化させている原因の50%ほどがこれである。逆に50%もこれ以外に難化させるクソ要素があるということだ。
時折部下アンデッドの声を聞いてゲームを進めていると、この王座の間とも言える部屋の扉が開かれる。ベルディアである。
「魔王様からの承認をいただいた。これで貴様もはれて魔王軍幹部だ」
再びカチカチと骨がぶつかり合う音が部屋の中を響かせる。それも先ほどより大きな音でだ。
そこ言葉を聞きモモンガはボードゲームから意識を引き離す。
「・・・・・・え?面接・・・・・・というか謁見とかしなくてよかったのか・・・?」
「最近、魔王様はお体を悪くされているようでな、形式張ったものは最近やっていないのだ」
突然の報告にモモンガは戸惑いを隠せなかった。そもそもそういう話ではない。
そして魔王軍に所属して早々、元社会人のモモンガは魔王軍の
「いやしかし何処の誰かもわからないような者を、そう簡単に魔王軍幹部にしていいのか!?もう少し、こう・・・・・・他の幹部と会議を開いて入れるかどうか精査したりは・・・・・・」
「私の判断で大丈夫だということは魔王様から承っている。なに、その言葉が出ることこそがまともな証拠じゃないか。なにも心配なことなどない」
確かにそう言われればそうかもしれない。ただこれは、相対的に周囲よりも社会性があるというだけの話である。社会人の常識は異世界では通じないかもしれないというのが、モモンガに少しずつ理解できてきた。
(なんか心配になってきたぞ魔王軍!?)
「そ、そうか・・・・・・。それで結界とやらはどうすればいい?」
「結界に関しては魔王城案内を兼ねてまた別日にしよう。遥か遠くの魔王城からわざわざコイツらを引き連れて歩いてきたのに、着いてすぐ引き返すというのも面倒だからな。それに俺にはこの始まりの街付近の調査がある。魔王城に行くならそれを終わらせてからだ」
「となると、私の仕事は今のところないというわけか・・・」
ベルディアは部下アンデッドを指して言う。彼は使い魔である首なし馬に乗り、瞬間移動のスキルを駆使して半日かけて魔王城へとモモンガのことを報告しに行ったらしい。この瞬間移動スキルは使い魔に騎乗している者のみが扱えるようで、多人数での使用はできないようだ。
モモンガは杖の持った駒を指差しテレポートと呟くと、大量にあるシンプルな駒の内の一つを相手陣地の安全な場所に移す。
「この状態ではこの・・・冒険者だったか?コイツを別の役職に変えることができないのだったな?」
(そうです。次のターンでその駒を動かせれば転職が可能です)
部下アンデッドの白い駒がモモンガの駒の隙間を縫うように通り抜け、黒いアークウィザードの駒が倒される。
「冒険者・・・・・・冒険者か」
この冒険者という駒は相手陣地の一定のマスを越えると転職が可能、つまり別の駒になれるのだ。
この3日でモモンガはベルディアを通してこの世界のことを色々知ることができた。
まずこの世界はゲームに似ていてレベル、職業、スキルなどが存在する。とはいえモモンガの知るユグドラシルとは違うシステムではある。
例えば
ユグドラシルでは
また、ユグドラシルでは複数の
それに対しこの世界では職業は一人につき一つ。適正があれば、だがどんな職業にもなることが可能だ。
「冒険者とは何なのだ?」
「ん?それは職業の方か?それともギルドの方か?」
「・・・ギルドの方だ」
実際のところ冒険者について全く知識がないため、どちらも聞きたかったが、見栄を――・・・ではなく無知を晒すというのは危険だという判断の元、モモンガはベルディアに聞く。
「何だ、と言われたら俺も完璧に答えられん。あれは何でも屋と言ったところか?人間どものことは詳しく知らんが、冒険者ギルドで依頼を受けて仕事をするらしい。勿論冒険者というからにはどこか秘境の地を目指して冒険に行ったりするらしいがな」
「ほう、それは面白い」
そこでモモンガは閃く。冒険者となり人間達から情報を手に入れれば良いのでは無いかと。魔王軍だけではなく人間からも情報を手に入れれば、効率は倍以上である。
それにこの世界は色々おかしい。最近ではそろそろキャベツが飛んでくる季節だという部下アンデッドの独り言(?)を聞いた。この未知の世界を探索するのは面白いに違いないのである。
「・・・・・・よし、決めたぞベルディア。私は人間の街に行って冒険者になる」
「・・・・・・はぁ!?」
モモンガは手に持つ冒険者の駒をアークウィザードに変えて一マス前に進める。
「魔王軍の仕事に私情を含めた情報収集をしたいと思ったからな。それに・・・・・・面白そうじゃないか」
「ま、まあ仕事は比較的自由だとは言ったが・・・・・・そんな装備で大丈夫か?」
どこをどう見ても人間とは思えない体。悪人と言われても素直に頷いてしまうような服装。もしこの格好で冒険者になれたのならば、今度は冒険者ギルドの管理体制を疑わずにはいられないだろう。
「それに関しては大丈夫だ、問題ない」
椅子から立ち上がりパチンと指を鳴らすとモモンガの姿は、所々金色のラインの入った漆黒の鎧に身を包まれた。真っ赤なマントと2本の大剣を背中に佇むその姿は、元の姿の印象と真逆と言っていいほど違っていた。
(すげえええカッケー!!)
(もはやベルディア様の上位互換では?)
(不敬だぞ!モモンガ様に!)
(もはや比べることが不敬なのか・・・・・・)
「お、お前何者なんだ・・・?」
「それは・・・アインズ・ウール・ゴウンについて分かったら教えてやろう」
「ふっ、ますます情報収集に力が入りそうだな。・・・・・・そうだ、手合わせをしてみないか?最近裏方の仕事ばかりで鈍っているんだよ」
ベルディアが鞘から剣を抜き出そうとすると、モモンガがそれを遮るように言う。
「すまないな。本業は魔法使いでこれの方はからっきしなんだ。まあズルをすれば勝てるかもしれんがな」
「む、それは残念だ。だがなるほど・・・・・・初心者のフリをして初心者向けの冒険者ギルドのあるアクセルの街に潜入するということか。魔法とは便利なものだ」
「そ、そういうことだ」
実際は、モモンガの頭の中にパッと変装できるものを思いついてやっただけであるが、どうやら周りからは好評のようだ。
「いいだろう。これであれば人間どもにはバレないな。だがしかしあれがないな・・・」
一切肌(骨)を見せない鎧を目にしたベルディアは納得したように言うが、モモンガに足りないものがあるらしく、どうにかしようと悩んでいるようだ。
「貴様、金は持っているのか?」
これ以上にない尤もな質問である。確かに世界が違えば硬貨も違う。だがそのことについてモモンガは一ミリたりとも気づくことはできなかった。
「こ、これではダメか・・・・・・?」
モモンガがどこからともなく取り出したのは金色に輝く硬貨だった。精巧に女性の横顔の彫られた黄金の金貨をベルディアは手に取り、じっくりとそれを眺める。
「知らない金貨だな・・・・・・換金するとするならば使えると言えるだろう。この美しさならば高く買い取られるんじゃないか?ただ換金する場所があるかは知らんな」
「そうか、それは面倒なことになった」
まさかの事態にモモンガは頭を抱える。
恐らく冒険者ギルドで冒険者になるからには、とある組織に属すことになるため、手数料や登録料、会費などの費用がかかるに違いない。ただ、無一文で冒険者ギルドを登録しに行くという恥をかかずに済んだのは幸運だというべきだろう。
(ん?そういえばあの街にあの方がいらっしゃらなかったか?あの方であればどうにかしてくださるはずだ)
(おお、あの方であればベルディア様より役に立つ)
(確か店を構えていなかったか?商業の伝はありそうじゃないか)
(この言葉をモモンガ様に送れないのが悔やまれる・・・・・・)
部下アンデッドの思考がモモンガの頭に流れ込んでくる。
一体“あの方”とは誰なのだろうか。聞こうにも聞けないのでモモンガが、部下アンデッド達からの言葉の意図を汲み取りベルディアに聞くこととした。
「そういえば街に魔王軍の手先がいたりしないのか?であれば助けを求めることができそうじゃないか」
(勝ったな・・・・・・)
(ナイスアシストモモンガ様!)
(やっぱモモンガ様しか勝たん!)
(モモンガ様バンザイ!)
その言葉を聞いた部下アンデッド達は、カタカタと体の骨を鳴らしながら喜びを体で表した。そんな中、ベルディアが忘れていたと言わんばかりに大声で言った。
「・・・・・・いた。いたぞ!貧乏店主が!!」
「ふむ、どうやらうまく行きそうだな。というわけですまないベルディアの部下君。私はせっかちでな、勝負はお預けだ」
(いえいえ!モモンガ様のご意向のままに!)
そう言ってモモンガがアークウィザードを指でコツンと小突き、エクスプロージョンと呟くと全ての駒が勝手にパタリと倒れる。
「新たな冒険の始まり、だな」
モモンガが上を見上げると、いつのまにか城の屋根のヒビから漏れ出す月光は、太陽の暖かい光へと変わっていた。
もうちょっと魔王軍要素入れたかった・・・・・・。