この素晴らしい魔王軍に死の支配者を!   作:ちくわ部

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4話 The lich is not rich. (訳:そのリッチーはリッチではありません。ついでに言えばリッチーは商人に全く向いておらずガラクタばかり買います。ついでに言えばー・・・)

 

 緑鮮やかで爽やかな風の吹く草原に、楕円の黒い空間が現れる。

 そして中から出てきたのは二人の漆黒の騎士。片方はヘルムを片手に持ち、もう一人は2本のグレートソードを背負っていた。ベルディアとモモンガである。

 

「驚いたな・・・・これさえあれば軍隊を街に大量に送り出すのも可能なんじゃないか?」

 

 とある地点から別の地点を繋ぐことができる魔法の《転移門(ゲート)》を興味深そうに見ながらベルディアは言った。

 

「いや、それほど便利なものでもないさ。通常の転移魔法であれば自身に探知阻害の魔法をかければ、探知魔法の使用者に転移したことを知られることはないが、この魔法は出現した途端に知られてしまうのだよ」

「・・・・・・つまり普通の転移魔法より魔法で見つかりやすいってことか?」

「簡単に言えばそうだ。さて、あれが始まりの街アクセルだな?」

 

 モモンガの見る先にあるのは大きな城壁で囲まれた建物であった。

 しかし見たところ以前よりも黄緑に黄ばんでいるようだ。

 

「あれはキャベツの残骸か?もう来たのか。今年は飛んでくるのが少し早かったようだな」

 

 ベルディアは目の上に手をかざしてそう言った。

 もし事前にキャベツが飛んでくる世界であることを聞かされていなければ恐らくモモンガは困惑の声をあげたであろう。

 もはや何も言うまい。この世界は異世界なのだから。

 

「任務が終わった後に魔王城へ行くのだろう?魔王からの任務というのはどれくらいで済みそうなんだ?」

「それはわからん。どうやらこの街のあたりに降りてきた光とやらを調査しろという、何とも抽象的なものだからな・・・・・・。もしや原因は貴様だったりするか?」

 

 モモンガは天界からこの世界に送られた時の事を思い出す。空から降り注ぐ光・・・・・・はっきり言って見覚えしかない。

 

「い、いやー流石にないんじゃないか!?私なんてもう、闇そのものじゃないか!?」

「ふははは!それもそうだな」

 

 どうやら今のは冗談だったようだ。

 モモンガの存在しない心臓がバクバクと音を立てているのを感じる。

 

「そういえば私は人間に扮して街に行くわけだが、その時の名を――・・・」

 

 モモン・ザ・ダークにしようと言いかけたその瞬間、なぜ冒険者になろうとしたのかをふと思い出す。それはギルド、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーがこの世界にいるか探すためである。

 そしてモモンガの名は魔王軍幹部の一人の名となった。であればギルドに残った一人の自分の名は・・・・・・。

 

「そうだな、名をアインズ・・・・・・アインズ・ウール・ゴウンと名乗ろう」

 

 その言葉からベルディアは何かを感じ取ったのか、ふと笑い了承の意を示す。

 

「わかった。では町の調査は貴様に頼もう。もしこちらの調査が終われば、そちらに部下を遣わす。まあ、あと一週間は会うこともなかろう」

「了解した。では行ってくる」

 

 モモンガは新たなる冒険への道を歩み出す。

 そしてしばらく歩いた先でアンデッドの気配を感じとり、モモンガは後ろを振り向く。すると少し黒い空間からは一本の腕の骨が、見送りをするように振られていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「ここがウィズ魔道具店・・・・・・。案外迷うことなく来れたな」

 

 漆黒の剣士、モモンガがメモを片手に少し年季の入った店の前で呟いた。

 このアクセルという街はモモンガが思っていたよりも非常に長閑で、本当に魔王軍が迫ってきているのかと疑問に思ったほどであった。

 無事にここまで辿り着いた経緯は、街に入ってから早々どこを目指して歩けば良いか迷っていたところから始まる。モヒカンの厳つい男に「見ない顔だな。何者だ・・・?」と呼び止められ、正体がバレたのかとヒヤヒヤしながら、この街に初めて来てとある店を探している事を伝えると、このモモンガの手に持っているメモに案内図を描いて渡してくれたのだ。

 人は見た目で判断してはいけないとい。

 そのメモは非常に見やすく、何かの商いで図を書いているのかと疑うほど丁寧に描かれていた。だが、その見た目からして冒険者であることは間違いない。

 そして何の苦もなく目的地へ辿り着いた。

 カランカランという乾いたベルの音と共に、ドアを軋ませながら店の中に入る。中は少し薄暗く、ジメジメしていた。それはまるでナメクジの巣のように。

 

「誰かー・・・いないのか?」

 

 摩訶不思議な道具が吊り下げられ、さまざまな色と形の瓶が置かれたカウンターを覗き込むが誰もいない。しんと静まり返った部屋の中でモモンガは窓際に置かれた椅子を引き、そこへ座る。

 

「参ったな・・・・・・」

 

 ベルディアから聞いた話ではこの店主は魔王幹部の一人、リッチーのウィズという女性がいるらしい。リッチーというからにはやはりアンデッドであるわけだが、その反応もモモンガには感じることができなかった。

 

「うーむ、残念だが出直すべきか・・・・・・」

 

 そう言ってモモンガが椅子から立ちあがろうとする。

 

「あ、あのいらっしゃいませ!ようこそウィズ魔道具店へ!」

 

 するとカウンターの奥からフードを被った、見るからに女性の体格の人物が声を出す。

 思わず驚きの声をあげそうになるが、謎の感情抑制により平静さを保つことができた。

 これも最近分かったことではあるが、アンデッドの特性なのか、ある程度上昇した感情は沈静化されるのだ。これによって主にベルディアの部下アンデッドに対しては、常に冷静さを保ちながら立ち振る舞うことができて、非常に有用的であったが、その反面感情を表に出しにくいというデメリットも存在する。

 アンデッド反応がないことから一瞬モモンガは普通の人間かと考えたが、体に纏う雰囲気が人間のそれではないと、すぐさま彼女の正体を見抜く。モモンガと同じように魔法で正体を隠しているのだろう。

 

「ウィズ・・・・・・魔王軍幹部のウィズだな?」

「ど、何処でそれを・・・!?」

 

 ウィズが驚きの声を上げ、数歩後ろに下がり構える。

 彼女は人間に扮してこの街にいるのだ。このような反応になっても仕方がないだろう。

 モモンガは軽く笑い、その質問へ答える。

 

「そう構えるな。理由は簡単だ・・・・・・」

 

 そう言ってモモンガはパチンと指を鳴らして魔法でできた鎧を消すと、もくもくと背後に闇のオーラを立ち込めさせ、その名を名乗る。

 

「私が新たな魔王軍幹部の一人、モモンガであるからだ!!」

「・・・・・」

 

(あ、あれー・・・・・・)

 

 しばらく静寂がこの場を包んだ。

 その空気感にウィズが耐えることができなかったのか、モモンガよりも先に彼女は口を開いた。

 

「・・・・・・・・・あ、そうなんですね。よろしくお願いします!」

 

 彼女にはこの演技は不評らしい。どのような反応をするべきか一瞬迷っていたようにモモンガは見えた。

 どうやら何しても褒められるあの異常な空間にいたせいで、少々調子に乗ってしまっていたようだ。果たしてこの厨二テンションで他者を困らせたのはいつぶりだろうか。モモンガは恥ずかしい過去を思い出しそうになるが、すぐに意識をウィズへ向け、反省しながらウィズに謝罪する。

 

「すまない、今のはほぼ・・・・・・そうほぼ演技だ。魔王軍たるもの威厳が必要だと思ってな。萎縮させたようなら申し訳ない」

「そ、そうですか。でも、確かに幹部となれば舐められないようにするために、威厳が大切ですからね!むしろ私の方が幹部としての自覚が足りない気が・・・・・・」

「う、うむ・・・まあそういうことだ」

 

 何故かウィズまでが反省することとなってしまったが、とりあえず自己紹介は済んだ。非常に言いづらいことではあるが、本題に入るとする。

 

「それで、何のご用でしょうか?」

「ああ、情報収集のためにこの街で冒険者になろうと思ってな。何というか・・・・・・まあ、単刀直入にいうと金がないのだ。もしよければお金を貸していただけないだろうか。もちろん担保として貴重なアイテムを渡そう」

 

 モモンガはそう言ってローブの下に隠した、アイテムボックスと呼ばれるアイテムや武器などを黒い空間に手を入れて、何か良いものがないか探す。

 

「いえ、そんな担保なんていらないですよ!冒険者の登録に必要な費用は確か1000エリスほどだったので、5000エリスほどー・・・・・・」

 

 そう言ってにこやかな顔のまま、腰につけた袋でできた財布の中から金貨を取り出そうとするとその手が止まる。そしてまた財布の中を掻き回しように手で探るが、再びその手と笑顔が固まる。

 そして取り出されたのは金貨2枚。

 その手のひらにのせられた2枚を二人して覗き込む。モモンガベルディアが彼女のことを“貧乏店主”と呼んでいたことを思い出すと、嫌な予感がしてくる。

 

「ひょっとして・・・・・・2000エリスしか持っていないのか?」

「い、いえ!持っていないと言われればそうなんですが・・・・・・丁度キャベツの収穫で手に入れたお金を、今日ちょうど全部取引で使ってしまったんですよ!だからお金がないというのは間違いであって、商品を買ってくださる人がいれば・・・・・・はあ」

 

 ウィズは深いため息を吐いた後、モモンガの手に金貨を握らせようとモモンガの片手を掴む。彼女の手はまるで血の通っていないように真っ白で、黒いローブによりその色は映えていた。

 

「多分一週間くらいキャベツ生活だと思いますが・・・・・・これ、返さなくても大丈夫です」

「いやいや待て!その言葉を聞いた後で、はいそうですかと受け取るわけないだろ!」

 

 モモンガはその手を引っ張り決して受け取りまいとするが、それと同時にウィズは渡そうとその手を頑なに離さない。

 

「い、いえ受け取ってください。これが魔王軍幹部の威厳です・・・!」

「それはもはや見栄っ張りだ!」

「ほ、本当に大丈夫ですよ!丁度最近断食の最高記録を更新したばかりなので・・・!」

「キャベツ生活どころか、まともに食べれてすらないじゃないか!?くそ、どうしてもと言うのならこれと交換だ!」

 

 モモンガはアイテムボックスに掴まれていない方の手を突っ込むと、中から澄んだ水のように透明な青い結晶の塊を取り出す。

 

「これはブルーメタルクリスタルという鉱石でな。この鉱石の特徴として魔法抵抗力が大きいというのがある。武器に加工すれば結界や魔法付与された装備にめっぽう強くなるし、切れ味も相当なものになるはずだ!どうだ!?」

「そ、そんな希少なもの絶対に受け取れません!嫌です、さっさとお金を受け取ってください!」

「くっ、強情な・・・・・・!《転移(テレポーテーション)》!」

 

 モモンガが魔法を唱えるとその姿は店の入り口付近に移動した。

 それによりウィズに掴まれていた手は離されることとなる。

 

「成る程・・・・・・テレポートを使えるのを見るに実力は確かのようですね。ですがそれは私にも言えることです!《テレポート》!」

 

 ウィズも同様の魔法を唱える。しかし、彼女はその場から移動することはなかった。

 ブラフを警戒し、モモンガはウィズを観察する。

 ウィズは不敵な笑みを浮かべているが、なにも起こらない。

 

「一体何が・・・・・・・・・なにっ!?まさか・・・!」

「ふ、ふふっ。まさか戦闘と移動手段以外でこの魔法を使うとは思いませんでしたよ・・・・・・」

 

 いつの間にかモモンガの手に握られていたのは2枚の金貨。《テレポート》により移動していたのは金貨の方だったのだ。

 

「成る程・・・・・・転移魔法にこのような使い方もあるのか。面白い・・・非常に面白い!ではお返しするとしよう。《転移(テレポーテーション)》《次元封鎖(ディメンジョナル・ロック)》!」

 

 今度は金貨がウィズのすっからかんな財布の中から現れる。

 

「何度やっても同じです!《テレポート》!」

 

 ウィズは再びモモンガの手へ狙いを定めて転移魔法を発動。

 しかし皮袋の財布の、金貨2枚の重みは変わることはなかった。

 

「発動しない?もしやこれは転移阻害魔法でしょうか・・・・・・?」

「その通り。ふむ、どうやら魔法体系は違えど効果は発動するようだな」

 

 モモンガはわざわざ貴重な魔法発動用アイテムを使い、周囲一帯の瞬間転移魔法の発動を封じる魔法を展開する。モモンガの魔法がウィズの魔法に干渉するかの実験を兼ねたものだったが、うまく作動したようだ。

 もはやこの戦いは魔王軍幹部の威厳のための戦いではない、意地をかけた低俗な争いになってしまった。

 

「知らない魔法、知らない術式・・・・・・ふふっ。どうやら私を本気にさせてしまったようですね?・・・・・・もう少し遊ぶとしましょう。私の知らない魔法、教えてくださいね?」

 

 ゆったりした印象のウィズの目が妙にキリッとしたものに変わる。

 それに対してモモンガは、異世界の魔法を知れる良い機会だと頭の中で次々に作戦を組み立てる。

 

「ふん、それはこちらの台詞だ・・・・・・出し惜しみするんじゃないぞ?」

 

 モモンガが黒いオーラを発すると、それに呼応するように、ウィズの周りに魔力が漏れ出し、パキパキと音を立てて床が凍り始める。やがてそれは床一面にまで侵食し、ゆっくりと部屋中を包み込もうと広がる。

 

「《ゴーストハンズ》!」

「《骸骨壁(ウォール・オブ・スケルトン)》!」

 

 半透明の無数の手が凍りついた床から生え、モモンガの元へ迫り来る。それを見たモモンガは防御のためスケルトンの塊を生成するが、壁をすり抜けモモンガの懐に金貨を入れようと勢いは変わらなかった。しかし、それに対して対策を講じていないモモンガではない。

 

「《星幽界の一撃(アストラル・スマイト)》!」

 

 モモンガは非実体に効果的な魔法を放つと、その腕は金貨が床に落ちてチャリンと聞き心地の良い音を奏でるとともに離散する。

 

「なるほど、霊体での攻撃か。これは一本取られたな」

「・・・一本取られたと言う割には簡単に対処していらっしゃいましたが?」

 

 モモンガは床に落ちた2枚の金貨をチラリと見る。

 このまま床に落ちた硬貨を守り続ければ、ウィズが金貨を持つこともモモンガが持ったままでいることもないベストな状態で、防衛戦に徹することになるだろう。

 再び計画を練り直そうとウィズから金貨の位置とモモンガの位置を、周りを観察しながら計算していると、とあることに気がついてしまう。

 

「お、おい待ってくれ」

「どうしました?怖気付いたのですか?であれば早くこの金貨を――・・・」

「いや、そのだな・・・・・・商品は大丈夫なのか?」

 

 見渡せばいつの間にかウィズの魔力によってできた冷気は、商品の棚にまで迫っており、幾つかの瓶に入った液体が白く変色していた。特にウィズの近くにあるポーション類の入れ物は厚い氷に覆われており、先ほどまで青く光り輝いていた魔道具の火は消えていた。

 この店のことを全く知らないモモンガでも状況を理解した。全く大丈夫ではなさそうだ。

 

「あわわわわ・・・・・・。ど、どうしましょう!もしあの人が今帰ってきたら私・・・!」

 

 その言葉と同時に店の扉がガチャガチャと音が鳴る。

 ドアノブの動いた音を聞いたウィズは、ただでさえ真っ白な顔が顔面蒼白という言葉を通り越して、今にも消えてしまいそうなほどに薄くなった。

 

「む?なんなのだ一体・・・テレポートが使えないと思って歩いてきたら店が閉まっているとは。これでは無駄足を――・・・っと、なんだか開いているではないか。もうこの家も古いからな。おーい、ポンコツ店主よドアの建て付けが・・・悪く・・・なっ・・・て・・・・・・」

 

 そしてドアを開けて入ってきた謎の仮面を被った、黒いタキシードの男が店の惨状を目にしてその言葉を止める。もちろん、ドアがなかなか開かなかったのはウィズの発した冷気によりガチガチに凍ったためで、テレポートが使えなかったというのはモモンガの魔法による阻害のせいである。

 店内に微妙な空気感が流れる。

 これがモモンガと第2、第3魔王軍幹部との顔合わせであった。

 

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