魔王幹部の状態→モモンガ
冒険者の状態→アインズ
と、表記させていただきます。
なるべく混乱しないように描写させていただきますのでよろしくお願いします。
遊んでいる子供達の笑い声と、商いの呼びかけが響き渡る長閑な街アクセル。その中で歩く黒い服装と武装の二人組に、民衆の目が自然と集まっていた。
それもそのはず。奇妙な仮面をつけた男と、見るからに豪勢な鎧を身につけた男が街中で並んでいれば嫌でも目を引くだろう。
「新入り・・・・・・ではなくアインズ。街を一通り見回って、残るは冒険者ギルドだけであるが、他に行きたい場所や質問などはあるか?」
黒いタキシードに身を包んで仮面をつけたバニルがそう言うと、魔法で生み出した漆黒の鎧を着たモモンガこと、アインズが答える。
「特にないが・・・・・・貴様、本当に魔王軍幹部の悪魔なんだよな!?なんで商店街の特売日を知っていたり、店主と近所の婦人と仲が良いんだ!?」
街中を見回ってモモンガが知り得た情報は、この街アクセルの地理だけではなかった。八百屋のセール日から町内のゴミの日、挙げ句の果てには近所のマダムの流行まで知ることとなった。
「一応魔王軍を辞めることになったらこの街に住む予定があるというのもあるが、吾輩の行動範囲などこの街と地獄とたまに魔王城だけだからな。必然的に知ることとなろう」
「だとしても流石にマダムの流行を知ることはないと思うが・・・・・・」
「井戸端会議で出る噂話は中々に有意義だぞアインズよ」
「マダムの噂話など高が知れているんじゃないか?」
「ふん、マダムの情報網を舐めるでないぞ?遠方の国からの救援要請がその国の使者よりも早くマダムを通じて街中に情報が回っていたことなどあったからな。おっと、あそこの店はお勧めだぞ。以前吾輩がアルバイトしていた店でな、店主が中々気前がいいのだ」
次から次へと出てくるツッコミどころの多い情報。何から突っ込むべきかと考えた末に出てきたのは、一番最後に語られたアルバイトの話であった。
「アルバイト・・・・・・?」
「うむ、あのポンコツ店主の負債をなんとかするためにたまに働きに出ていくのだよ。・・・・・・む、なんだその感情は」
「・・・なあ、一応地獄の公爵見通す悪魔の肩書きを持っているんだよな?なんと言うかその・・・・・・もっとその力を使って上手くやりくりができないのか?」
若干憐みを含んだ声色でアインズは言った。
ここまでの道のりでバニルの持つ能力、見通す力について教えてもらった。曰く相手の思考から過去、これから起こりうる未来の出来事まで見ることができると言う。この力があれば未来の需要を察知することや、それに伴う供給の必要性がわかる訳である。使えば億万長者も夢ではないはずである。
「残念ながらこの見通す力はそこまで万能ではなくてな。この力を使って利益を出すとその力の反動ゆえか、回り回って利益がパーになってしまうのだ」
「ああなるほど。もしやそのせいでウィズも・・・・・・」
「いや、それは関係ない。あやつは本当に商才がないのだ」
「そ、そうか・・・・・・」
アインズの言葉をすぐさま遮りそれを強く否定する。バニルの顔はまるで心外だとでも言いたげであった。
「この力は同格かそれ以上の相手には通用せん。だから、あらかじめこの力を使ってポンコツ店主がガラクタを買うことを阻止することもできんのだ」
「む?私にその力は通用しているのか?」
「フハハハハ!もちろん通用しているとも。先程から汝の思考が手に取るように分かるぞ!」
(え、マジで?!)
その言葉にアインズは一瞬固まり、焦りの感情が溢れ出てくる。しかし、それもアンデッド特有の感情抑制によりみるみる抑えられていく。
(俺以上の実力の持ち主がこの世界にこうも近くにいるとは思わなかった!しかも今も頭の中覗かれてんじゃ・・・・・)
「それは面白い。・・・・・・では、今私は何を考えているか、当ててみるがいい」
アインズはそう言い放つと漆黒のヘルムの下から覗く赤い眼光をバニルに向けると、突如二人の周囲の空気が変わる。まわりの人間はそのアインズの発する圧から逃れるべくその場から離れ始めた。
しばらく見つめ合う二人。しかしすぐさまバニルは観念したかのように口を開く。
「・・・・・・ふっ、流石新入りの魔王軍幹部といったところか。吾輩の嘘もバレバレのようだな。貴様から悪感情を頂こうと思ったが、なんの感情も得られん」
「そ、そうだな。流石に分かりやすすぎるぞ、うん」
「ククク、久しぶりにからかい甲斐のある者と出会った。次会う時、必ず汝からの悪感情、非常に楽しみにしているぞ。・・・・・・そろそろだな、ではまた会おう。愉快な仲間ができることを祈っているぞ」
急用があったのか、手をひらひら振って突如去っていくバニル。
冒険者ギルドに案内してくれるのではなかったのかと、アインズは困りながら周りを見渡すと、目の前にある比較的大きな建物が目につく。そして看板に書かれた文字をアインズは読む。
「冒険者ギルド・・・・・・」
扉を開くとそこは酒場と受付場のようなカウンターの入り混じったような光景が目に飛び込んできた。やはりと言うべきか、鎧やローブを身に纏った人がほとんどである。
新参者だからであろうか、アインズは施設の中の四方八方から視線を向けられるのを感じる。
「いらしゃいませ。お仕事であれば奥のカウンターへ、お食事であれば空いているお席へどうぞー」
通りがかりの女性ウェイトレスの案内に従いカウンターへと進むと、4つの受付カウンターが現れる。何故か金髪の受付嬢のカウンターが長蛇の列となっているが、アインズは気にすることなく他の空いているカウンターへと向かった。金髪の受付嬢の隣のカウンターである。
ショートカットの黒髪の受付嬢は隣のカウンターをチラリと見て少し驚いたような顔をすると、すぐさま営業スマイルで接待を開始する。
「こんにちは、本日はどうされました?」
「冒険者の登録をしてほしいいのですが」
「畏まりました。では1000エリス頂戴いたします」
バニルから貰った貨幣を渡すと、冒険者の説明がされる。
もしここで金がなかったらどんな惨めなことになっただろうかと考えながらアインズは話を聞く。
「冒険者というのはモンスターなどの討伐から調査、商人の護衛など様々な仕事を請け負う人のことです。よく何でも屋と言われますが殆ど事実でして、仕事の中にはペットの捜索やスキルの伝授なんかもあります。そして、冒険者には職業というものがございます。こちらをご覧ください」
そうして取り出されるのは一枚のカード。見た目やカードに書かれている内容から身分証明書であることが見て取れる。そして説明されるのはステータスについて。なんとこの一枚でレベルから職業、スキルまでもが見れるのだ。しかもステータスの割り振りなどもこのカードでできる。つまり物体化してステータス画面ということだ。
「まるでユグドラシル・・・いや、ゲームみたいだな」
「いかがなさいました?」
「いえ、すいません。独り言です」
「質問があれば遠慮なく仰って下さいね。では続いてステータスを確認いたします。こちらのカードに触れて下さい」
アインズは受付嬢に促されるまま、ガントレットを嵌めた手でカードに触れる。
◇ ◇ ◇
「なあアクア。そろそろあの募集の張り紙剥がさないか?」
緑のマントを着た黒髪の青年が、アクアと呼ぶ青髪の美少女に言った。彼の名はカズマ。不幸な事故(?)により死亡し、この世界で魔王を打倒する使命を持つ転生者である。
カズマの目線の先には一枚の用紙があり、そこには“急募!“の文字が書かれていた。
「ええ〜。私あの募集書結構気に入ってるんですけど。あれのお陰でめぐみんとダクネスが加入した、思い出の一つじゃない」
「とは言ってもなあ、これ以上掲示してもパーティーに入らないだろ・・・・・・。おお、めぐみん丁度いいところに。掲示板から俺たちの募集書を剥がしてくれないか?」
カズマは、ちょうど掲示板に掲載されているクエストを見に行こうとした、幼さを感じる容姿の赤いローブを着た少女に向かって言った。
「おや、もう剥がしてしまうのですか?」
「ああ、多分パーティーに加入する人もいないだろうしな。・・・・・・それにこれ以上問題児が増えても困るし」
「おやおやカズマ。言いたいことがあればはっきり言ってもらおうか?」
「いんや、何にも言いたいことなんてないぞー。・・・・・・って、なんだあれ。有名人でも来たか?」
冒険者ギルドの入り口付近に一瞬ざわめきが起こるとともに静寂が訪れる。
「か、カズマ!見てくださいあれ!カッコいいですよ!」
「すげえ装備だな・・・・・・ベテランか?」
ガチャガチャと鎧の音を立てて現れるのは身長180cm程の漆黒の鎧で体を覆い隠した、赤いマントと2本のグレートソードを背中に装備した人物だ。
「受付に行きましたね。あれ?あれって冒険者登録じゃないですか?」
「あら本当ね。ベテランじゃなくて新人さんってこと?」
「ふん、やっぱり新人だな。あの4つの受付の中であの受付のお姉さんを選ばないとは・・・・・・」
「ダクネスに負けずとも劣らない見事な鎧です。赤いマントと大きな双剣が紅魔族の琴線に触れますね」
そして手続きが一通り済んだのか、カードが職員の手に渡ると驚きの声が響き渡る。
「なっ、なんですかこれ!?見たことないですよ、こんなステータス!それに珍しい職業!すごいじゃないですか!」
その言葉に興味を示したギルド内中の目が漆黒の鎧を着た人物に向く。何故だろうか、カズマには聞いたことがあるようなセリフであった。
「この駄女神を選ばなければ、今頃俺がああいう風になっていたのだろうか」
誰にも聞こえないような声でそう呟き、後悔の籠った目でアクアを見る。しかしその視線と声に気がついていないアクアは、呑気に話題の中心にいる人物を見る野次馬に混ざろうと、カウンターへと近づいていった。
「ねえねえめぐみん、後であの人のステータスこっそり見ない?私とどっちがステータス高いかとっても気になるわ!」
「いいですね!珍しい職業というのも非常に興味をそそります!」
「おいお前らあんまり人様に迷惑かけるなよー。・・・・・・にしてもかっこいいなあの装備」
◇ ◇ ◇
(やってしまった・・・・・・!)
アインズは頭を抱えるまでのことはしないものの、呆然とクエストの張られる掲示板の前で立ち尽くしていた。しかし、側から見ればその光景はどのクエストに行くかどうか悩んでいる人そのものである。
やらかし。それはステータスを見られてしまったことだ。
アインズの中でのステータスというのは、自分だけが見えるものであり親しい仲間内以外では共有することのないものだと認識していた。よくよく考えればこの冒険者カードは身分証明書となるため、冒険者ギルドの中で情報は共有される。このミスはひとえにこの世界を自分の知るゲームと同じように考えてしまったということが原因である。
とはいえステータスのことについてギルド内全体に聞こえるように言うのは、如何なものであろう。プライバシーの侵害ではなかろうか。
「ううむ・・・・・・」
「ねえめぐみん。さっきからあの人私たちの募集書みてない?」
「気のせいですよ。すいません、ちょっといいですか?あそこの黒い人の職業って分かります?」
幸運にもステータスばかりに目が入っていたようで、その他の情報を一切知られることはなかった。アインズがアンデッドであり、魔王軍幹部であることも知られていないはずだ。
当初、あまり目立たないようにこの世界の情報を集める予定だったが、この状況では予定の変更をせざるを得ない。
「聞きましたかアクア!カースドナイトですよカースドナイト!呪われし騎士です!」
「あら、あの人呪われてるの?じゃあ私が解呪してあげるわ!」
「なっ、ダメですよ!ただの騎士じゃなくって、呪われているからいいんです!」
ここでアインズは思案をやめる。ただここで掲示板を眺めているだけでも注目されているのだ。なんらかのアクションを取らなければこの視線を外すことはできないだろう。
どうにかしてこのギルド中の注目から逃れようと、アインズは掲示板に貼られている内容へ意識を向ける。そこには雑に書かれたパーティー募集の紙が貼られていた。
(和気藹々としたアットホームなパーティー・・・・・・ん?上級職限定だと?メンバーには気高きアークプリーストと、アークウィザード、
どうやらこの募集しているパーティーは上級職の人員で構成されているようだ。だが、どう見てもこの募集の紙は胡散臭すぎるし、字が所々違っていたりする。
ちなみにアインズの職業は『
(身の丈を知らない初心者がレア職業の仲間を募ろうとしているのか、はたまた募集用紙の書き方が下手くそな上級職パーティーなのか)
募集の紙を見つめていると、視界の端に紅色の格好をした少女が目を赤く光らせながらこちらを見つめているのに気づく。少しその少女を見つめ返すと、口の端を少しあげニヤリと笑う。
「あなた、ただ者ではないですね?」
「ほう・・・・・・?何故そう思うのですか?」
その瞬間、アインズはその少女に警戒心を強める。その少女からは周りの冒険者とは比にならないほどの魔力を感じ取ったからだ。
そして怪しく光る目に眼帯。これは魔眼の類ではなかろうか。アインズの知る魔眼の力のほとんどは相手の能力やステータスを看破する能力であり、アインズの正体を見破ることさえできるかもしれない能力を持っている。
「ふふふっ。ギルドに入ってきた瞬間分かりましたよ、普通の人とは違う何かを持っていると。・・・・・・それはそれとして、私たちのパーティーに興味がおありのようで」
種明かしはしないということだろうか。だが、この物言いからしてアインズの正体は見破られていないようだ。
「ん?パーティー・・・・・・ああ、成る程。これはあなたのパーティーの募集だったのですね。上級職限定となると、あなたも上級職についていということでしょうか?」
「いかにも!私は知性と魔力溢れるアークウィザードを生業としているのです!」
募集の紙に書かれている内容は本当のようだ。であれば募集書の端っこに紹介として追加で書かれた、残り二人アークプリーストと
「あなたは上級職のカースドナイト・・・・・・というわけでいかがでしょう。是非我々の仲間に入り、ともに闇への探究をしようではありませんか!」
その言葉を聞いたアインズの周りの冒険者は、まるでギルドに入った時と同じようなリアクションで戸惑いの声と驚きの声が上がる。
「おいマジかあそこのパーティーに入るのか・・・」
「いいんじゃないか?仲間の殆どが上級職だぞ?」
「いやあそこのパーティーは・・・」
どうやらこのパーティーは上級職の集団であることからも少し有名なようだ。またもや目立ってしまう。
そこで、注目を避けるべく断ろうとしたアインズは思いつく。そう、いっそのこと目立ってしまえばいいのだ。
アインズが有名な冒険者となった時、仮にアインズが魔王軍幹部のモモンガと同一人物と知られても、双方ともに恩を売っておけば人類側と魔王軍側で中立的な立場を取ることが可能になるからだ。
「面白そうですね・・・・・・とはいえこの場で即決することはできません」
「いえいえ分かってます。どうぞ私たちのパーティーメンバーとお話ししてから考えてください!」
そこでアインズは面接するために他の仲間の元に向かったのであった。
だが、アインズは気づくことはなかった。訝しげな表情を浮かべる自称女神に、捕まえたと言わんばかりの表情を浮かべるアークウィザード、そしてこのパーティーは悪い意味で有名であることを。
評価、感想ありがとうございます。
作者としてはここ好きが結構参考になったりしますので、気軽にしてくれると嬉しいです。