百鬼夜行連合学院忍術研究部所属副部長の一日   作:パンツ大好きマン

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スケバンスレイヤーという女

 

 

キヴォトス。この地では当たり前のように戦車に乗り、銃火器を携行する少女である生徒が日々通う様々な学園が存在する。三つの有名どころな学園として暴力的なゲヘナ学園、お嬢様学校であるトリニティ総合学園、そして新進気鋭のミレニアムサイエンススクール。

 

 此処はその何処でもない学園。キヴォトスの中でも独自の文化を育み、最近では観光事業に注視されている百鬼夜行連合学院の一画だ。

 

 今日の陽射しは少し強めだが、百鬼夜行の桜の木の下では木漏れ日が心地よいぐらいだ。百鬼夜行中心部の六角形の巨大な中央広場では中央の噴水の周囲に綺麗に整備された桜の木が植えられている。用事で実質的な百鬼夜行連合学院の中枢部である百鬼夜行陰陽部本館へ向かう途中で中央広場を横切っていたところで偶然知り合いと出会う。

 

 桜の木の下で枕を置いて寝ている少女がいたのだ。頭には黒のショートへアーで童顔気味な彼女はその幼さの残った顔とは対照的にダイナマイトボディ。寝る時に暑いからか赤色を中心に改造された制服は胸の横や首元、腋が大きく露出されたデザインでみじろぐ度に下着が見えそうでハラハラしてしまう。今日は寝ている彼女の周囲に動物や見物客もいない様子から眠ったのはつい先刻のようだ。

 

「こらっツバキ。寝るなら修行部の部室で寝なさい」

 

「……んん? あ、ふぁ〜〜あ……あれ? ムクロ……なんでこんな所に?」

 

「そのこんな所で寝ているツバキに言われたくないね。前にも言ったでしょ。外で寝たら危ないし蚊にも刺されちゃうよ」

 

「平気だよ? 危ない人が近くに来たら気配で分かるし……ムクロって時々ミモリみたいな事言うよね」

 

「部長が暢気だと副部長は同じような苦労を抱えてるってことさ」

 

 その後少々雑談してお別れを言う。こういう付き合いは大事だ。スカートに着いた芝生の汚れをさっと手で払って今回の目的地である陰陽部本館へ急ぐ。ちょっと約束の時間から遅れてしまったかもしれない。

 

 陰陽部の本館で学生証を出して身分確認を済ますと奥に通された。畳張りの時代劇の将軍家の謁見の間を思い起こす荘厳な一室。奥の壁の中央には陰陽部のマークである太極図をアレンジしたデザインがどーんと描かれていて正直格好良い。

 

 見た感じ今日は陰陽部の部長であるニヤさんの姿は無かった。内心ホッとした。彼女は悪い人では無いけど糸目で何考えているか分からないし交渉するには骨が折れる。

 

「あ、いらっしゃい」

 

 出迎えてくれたのは座布団の上でお手玉をしている少女。青髪に透明感のある儚げな印象の美少女で百鬼夜行連合学院では知らぬ人はいないまでの超有名アイドルであるチセちゃんだ。

 

「お、オフッ。ちっチセちゃん様におかれましては御機嫌いかがでありましょうか?」

 

「ん? 私? ……元気」

 

 にっこりと輝く笑顔には彼女のために喜んで身銭を投じるファンのいる理由も分かろうものである。かと思えば何かを思い出すかのように天井を見上げて呆然とする姿は見ていて飽きない。

 

「はぁ……チセちゃん可愛い」

 

 つい心の声が漏れてしまったのかと思ったけど、どうやら違うらしい。その声はチセちゃんの後ろから確かに聞こえてきた。現れたのは狐耳を生やして金髪の少女。チセちゃんのような可愛い系と違って美人系の彼女は陰陽部の副部長である桑上カホ。

 

「おっとゴホン。貴女が今回忍術研究部の申請書の必要書類を提出予定の藤木戸ムクロさんですね? 別に部活動認可の申請書類ならば必要書類さえ揃っていれば認可致しましたのに……」

 

「いえ、こういう事は直接対面しご挨拶と共にお願いするのが筋というものですから。……部長は急用で欠席してしまい代行として副部長の私が挨拶している時点でその礼に欠けてしまい、本当に申し訳ありません」

 

「その気持ちで十分ですよ。さて……早速必要書類の件なのですが」

 

「はい。此方に『部としての実績証明書』と活動に関する他の部活からの保証書3枚です」

 

「……はい、確かに確認させていただきました。正式な認可が降りるのは2〜3日かかるでしょうが部活動としてはもう活動していただいても問題ありません」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 ようやく正式に部活動として認可されて私は胸がいっぱいになった。二週間前部長のミチルが前々から何か言いたげにこっちを見ていたので問い詰めた所、忍術研究部が正式に部活動して申請してないと聞かされた時は本当に驚いた。

 

 道理で前々から部活動の新入部員を募集していた時に変な目で見られていた筈だ。少女忍法ミチルっちなんて名前で動画サイトでチャンネル登録したり、コミセンで同人誌を出しておきながら正式に部活動の申請をしていないなんて考える筈ないだろ大体! 

 

 いかん、思い出すと怒りが湧いて来た。後で絶対部長の耳を引っ張ってやる。

 

「忍術? 常闇に スケバン倒す すれいやー」

 

 チセちゃんのお得意の諺にドキッとした。

 

「チセちゃんは最近の噂にも詳しいね(本当に可愛い)」

 

「う、噂とは?」

 

「あら? ご存じ無いのですか? 忍術研究部なら今話題のスケバンスレイヤーの噂ぐらい聞いた事ありませんか?」

 

「……すみません。最近は忍術研究部の認可書類集めに躍起になっていたものでして」

 

 カホさんがいうにはなんでも昨今、問題を起こしたスケバン達やヘルメット団なる集団を襲う謎の覆面を着けた忍者装束の人物がいるらしい。ついた呼び名はスケバンスレイヤー。彼女らはそれぞれの学校の自治活動を行う組織の手からも捕まっていなかった。そんな姑息な彼女達を夜毎に襲撃して捕縛。自治組織の前に突き出すということを繰り返しているそうだ。

 

 各学園の自治組織からしても自分達の領分を犯し、基本的に学園外での特別な理由もなく移動して業務を奪われることで自らの無能を突きつけられているようだと、そんな存在を許すわけにはいかない。捕まえた者には賞金さえ出すという声もあるようだ。

 

「どうしたの? 顔真っ青」

 

「いえ、何も問題無いですはい。それではそろそろ失礼します」

 

「? えぇそれでは」

 

 不思議そうにチセとカホは視線を合わせた後、急いで去っていくムクロを見送った。二人には背中に大きく伸びた黒髪が腰の辺りで一つに纏められた彼女の後ろ姿は酷く焦っているように見えた。

 

 

 百鬼夜行連合学院旧校舎の一室にあるのは忍術研究部の部室だ。最早古い校舎なので隙間風も多く機材もボロっちい。それでも此処で過ごしてきた皆との時間が、思い出が空虚な場では無くしてくれている。

 

 しかし、今はそんな癒しの場所ですらムクロにとっての心の安寧に一助にはならなかった。

 

「あ、お帰りなさい! 副部長! 我々忍術研究部の申請は……どう? なりましたか……?」

 

 いつもなら直ぐに帰ってくる副部長の声が無い。イズナにとって忍術研究部の副部長である藤木戸ムクロはいつも親切で丁寧な対応をしてくれる先輩だ。そんな彼女は部室の隅に置いてあるPCに向かってカタカタとタイピングしている。いつも少女忍法ミチルっちで投稿する動画を編集してアップロードする中古品だけどそこそこ性能は悪くない。

 

「副部長……? 何をしておられるんです?」

 

「あ〜……ちょっとねぇエゴサというか何というか。そういえばイズナちゃん知ってる? スケバンスレイヤーとかいう人のこと?」

 

「ニンニン! 勿論ですムクロ殿! 今話題のスケバンスレイヤーといえば現代の忍者と噂される御仁。私の好きな柴犬ワン蔵監督シリーズとは毛色が違いますが、かの御仁も同じ忍者を愛する者! いずれお会いして思う存分語り合いたいです!」

 

「……あっそう」

 

 嬉々として語るイズナに何も言えなくなってしまった。PCで調べると出てくるわ出てくるわスケバンスレイヤーの噂話。東に悪いスケバンあれば行って退治してやり、西に生徒を虐めるトリカスいれば吊し上げと色々と噂は出てきた。

 

 真実に迫るものもあれば、根も葉もない噂話も多い。シャーレの先生も生徒の靴を舐めたりと、生徒に首輪をつけて夜の学園を散歩したりと噂されてて私も距離をとっていたけどこれは考えを改めないといけないかもしれない。きっと先生も言われなき噂に困っている被害者の一人なんだろう。

 

「お、お疲れ様です副部長」

 

「ん? ムクロ来てるじゃん。どうしたのそんなに必死な顔で画面を見て?」

 

 同じ忍術研究部のツクヨと続いて部長であるミチルもやって来た。何も知らずに御機嫌な様子のミチルを見ているとなんだかムカムカしてきた。

 

「ちょっといきなりなにぃするのぅムクロぉう! わたしぃのホッペがちぎれぅ!」

 

「ご乱心!? 殿中でござる! ムクロ殿が殿中でござる!」

 

「あ、あわわ。私いったいどうしたら……? 副部長、とにかく落ち着いてください……!」

 

 

 これは私の青春の物語。なんやかんやで憎めない部長と可愛い二人の後輩達と送る日常のお話。

 

 

 

 

──だと思ったか?

 

 

 

 

 ネズミが薄汚れた路地から何者から逃げるように走り出てくる。厚い雲で月も姿を見せぬウシミツアワー。街中は街灯で照らされているが此処はヴァルキューレのパトロール区域からも外れた僻地だ。瓦礫だらけの石畳にまばらに設置されたランタンだけが唯一の光源。スケバン共の集いやブラックマーケットの商人共の密会には絶好の場所。その隅で不敵な笑みを浮かべながら話し合う人相の悪いスケバン3人組がいた。

 

「おい、例の現金輸送車襲撃の予定はどうなった」

 

 アフロ気味に染めたブロンド髪のスケバンがそう口火を切った。そのバストは豊満だった。

 

「ああもうだいぶ進めてる。後は細かい襲撃時間と逃走経路の担当ヴァルキューレに袖の下を渡せばいいだけだ」

 

 美しい黒髪をサイドテールで纏めたスケバンがマスクの下でモゴモゴと続く。お腹を曝け出し、ミニスカートから伸びる美脚は青少年のなんかが危ない。スカートには『我絶死覇火我異威々』と刺繍されていて実際カワイかった。

 

「でもよ……本当に大丈夫か? 最近あのスケバンスレイヤーがこの辺りでも出るって聞くぜ」

 

 イケイケな二人のスケバンの気を削いだのは3人目のスケバン。人相は悪いが根っからの悪人というほど悪行に慣れないスケバンでそのバストは平坦だった。その言葉に気を悪くしたのは残りの2人のスケバン。舐められたら終わりなスケバン社会で弱気な態度はムラハチにされても仕方ないのだ。

 

 此処らで周囲に気合を入れさせる為に見せしめにボコるかと二人の脳裏に浮かび始めた時だった。ランタンが衝撃音と共にいっせいに倒れて、闇がスケバンたちを包み込む。

 

「何だッ!?」

 

「敵襲か?」

 

 スケバンといえど今までヴァルキューレや学園の自治組織から逃げ延びてきた強者揃い。直ぐに銃器の安全装置を解除し、銃口を向ける相手を探す反応は早い。漸く目が暗闇に慣れた頃に平坦スケバンはランタンを破壊したのが手裏剣だと気付く。それが意味するのは襲撃者の正体。

 

「ス、スケバンスレイヤーだ!?」

 

 その声に空が答えたのだろうか? 月を覆っていた厚い雲がサッと流れて綺麗な月が姿を現す。そこでスケバン集団が月明かりに照らされてビルの屋上に佇む人影に気付いた。全身鉄錆色の忍者装束に顔の下半分を隠す面頬には『助』『殺』の二文字が刻まれている。スケバンスレイヤーのエントリーだ!

 

「どうもスケバンの皆さん。スケバンスレイヤーです」

 

 両手を合わせて深く一礼。そもそもスケバンスレイヤーの名前が広く知られる事になったのは自ら名乗る挨拶を欠かさなかったせいでもある。

 

「てめぇが噂のスケバンスレイヤーか……やっちまえ!!」

 

 しかし、そんな挨拶を返すような礼儀正しいスケバンたちでは無い。直ぐに暗闇を照らすマズルフラッシュが散発する。集中砲火をスケバンスレイヤーは素早い身のこなしで射線を切り、一足飛びに射線の最前線に立つスケバンの目の前まで距離を詰めた。標的を一瞬見失う程の速度での突撃に焦ったスケバン達はフレンドリーファイアーも気にせずに最前線の味方ごと銃撃を続ける。

 

「痛ッ!? やめろお前ら! 撃つのを……ぐえっ!?」

 

 スケバンに密着して盾代わりにしたスケバンスレイヤーは鳩尾に一撃を入れて、スケバンを気絶させた後集団にその死に体を投げる。堪らず退がる集団にスケバンスレイヤーは懐から拳銃を取り出し発砲。つづいて二射、三射。しかしスケバン集団もそれなり以上の実力者。9mm拳銃弾では近距離で急所でも狙わなければ威嚇にすらならない。

 

「へっ、こいつ大した事ないぞ!」

 

 スケバンたちの機運が高まるのが感じる。そう判断したスケバンスレイヤーは持っていた拳銃を放り投げて空手のポーズをとる。そこから始まったのは蹂躙だ。あくまで拳銃は相手の被害を減らすための手加減用の武器。相手がそこそこの耐久力があると分かりさえすれば空手で本気を出せる。

 

 銃火器を持つ手を捻り上げ、チョップで二、三人をキックで4、5人を纏めて薙ぎ払う。死屍累々の山をロープでまとめていると路地の奥からヴァルキューレ車両のサイレンの音が響いた。どうやら時間をかけすぎてしまったらしい。

 

「そこの不審者、いえスケバンスレイヤー! 犯罪者逮捕のご協力には感謝していますが、貴女のやっていることは立派な犯罪です! 大人しくお縄についてください!」

 

 一人急いで飛び出してきたヴァルキューレの生徒が話す内にも奥の通路では石畳を鳴らす靴の音がどんどん増えている。しょうがない。ヴァルキューレへ運ぶ手間が省けたと考えよう。両手を挙げるフリをして地面に煙玉を投げつける。

 

「あっ、これは煙幕!? 動かないでくださいと本官は言ったではありませんか!」

 

 煙を貫くように弾が飛び交う。本来なら直ぐに逃げたい所だけど見事逃げたい場所に先撃ちされてしまっている。不意に動いては逆に危険だ。

 

 仕方ない……ここは。

 

 

 煙が晴れるとそこには倒れたスケバン達。どうやらスケバンスレイヤーは取り逃してしまったらしい。その代わりに端にはスケバン達に捕まって連れてこられたのか両手足を縄で縛られた生徒がいた。

 

「大丈夫ですか?! 本官が直ぐに解いて差し上げますね」

 

 しかしよっぽど固く縛られているのかなかなか解くことが出来ない。

 

「……確かヴァルキューレの応援車両に緊急用のチェーンカッターがあった筈! 少々お待ちください!」

 

 きっと怖くて直ぐにでも解放されたいであろう彼女の為に急いで戻ってきた時、彼女の姿はそこにいなかった。まるで最初からそこには誰もいなかったかのように忽然と姿を消していた。

 

 

 

 

「は〜しんど……やっぱり二足の草鞋はしんどいな」

 

 

 

 

 

 

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