百鬼夜行連合学院忍術研究部所属副部長の一日   作:パンツ大好きマン

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大好きな人だから

百鬼夜行2

 

 

 朝からしとしとと雨が降り続いている。曇天の空に踏み出す一歩はいつもより小さい。傘をさすのはあまり好きじゃなかった。どれだけ気をつけて歩いても服の端は濡れちゃうし泥はねなんかもしちゃう。

 

「何より……忘れるのがなぁ」

 

 安いビニール傘なので愛着もないのが拍車をかけているのだと思う。かといってお高い傘を買っても、ビニール傘の癖が残っててもし何処かに忘れてしまったらと思うと怖いな。高いから無くした時のショックも大きいだろうし、そもそも傘をさすのが嫌いなのだからそこまでする価値も無い。

 

 結論、やっぱり高い傘を買う必要無し。

 

 思考が結局一巡りしたあたりで百鬼夜行連合学院の校舎に到着した。基本的にキヴォトスの学園では普通の授業もあるがBDで自主学習なんかも多いので部活動を優先する生徒がほとんどだ。本日の授業は午前中に終わったので昼からは旧校舎で忍術研究部の部室に移動。

 

 すると3年であり忍術研究部部長の千鳥ミチルが部室の机でうんうん唸っていた。アライグマのような耳と髪飾りがトレードマークの彼女だが今日はその耳もへにゃっと折れている様子。

 

「……部長。またネタ切れですか?」

 

「あっ、ムクロォゥ。今週のみちぅチャンネルのネタがまだ決められてないのぉ……」

 

「前回の木の葉隠れの術は結構再生数伸びてたじゃないですか? あの方針で行きましょうよ」

 

「だめだめ! あれは結局動画最後の木の葉隠れの術に使った木の葉を使った焼き芋が美味しそうってコメントしか無かったし。私の求めているのはもっと洗練した忍者としての魅力を前面に出した動画っていうか……」

 

「クリエイターとしてのこだわりは大変結構なのですが、定期投稿曜日まで後二日しかありませんよ。せめて今日中にネタは決めないと撮影と編集がギリギリになってしまいますが……」

 

「……だから必死に考えてるの。ムクロはなんかアイディアない?」

 

 机に突っ伏して水筒のお茶をストローで啜る部長。こういう何気ない仕草が可愛いのは卑怯だろう。私はそんな風に感じている仕草はいっさい表面に出さないまま答えた。

 

「なら……そうですね。ここは忍術研究部の後輩達であるツクヨとイズナを出演させませんか? 今まで動画ではお手伝いとして画面端に映ることはあっても本格的に出ることはありませんでしたし」

 

「え〜〜。でもツクヨは多分出たくないと思うなぁ。今でもカメラ撮影手伝ってもらってるわけだし、私も嫌がる子に無理に出演してもらうのは違うもん」

 

「確かにツクヨは断るかもしれませんね。まぁお願いしてダメなようなら私も無理は言いません。でもイズナだったら絶対オーケーですって」

 

 それまでは否定の色が強かったけど、『イズナなら確かにそう言うかもだけどさぁ』と少しばかり視線を宙に浮かばせて思考の波に耽るミチル。片手で水筒の中の氷をかちゃかちゃと手持ち無沙汰にストローでかき回していた。揺らいでる。いけそうだ。

 

「タイトルは『忍術研究部期待の新人!?部長に忍術勝負で惨敗か!?』で行きましょう」

 

「……ムクロってそういう俗っぽいの好きだよにぇ」

 

「私も本当はこういうの好きではありませんがこのぐらい露骨な方が数字取れるので仕方ありません。ほとんどの視聴者層である生徒の年齢を鑑みればそういった需要があるのは事実ですしね」

 

「うぅ……でも私が求めてるのはちょっと違うっていうか……」

 

 勿論知っている。部長は自身のチャンネルで忍術研究部の活動を周囲に認めてもらいたいだけなんだ。再生数や登録数が増えるのは嬉しいけどその為だけに再生数を伸ばすだけの動画内容にしたくないのだろう。忍者のことをキヴォトス中のみんなに知ってもらいたいし、私含めて忍術研究部の後輩達が自信を持って忍術研究部所属であることを誇れるように。だから好きなんだ。正式に部活活動として申請するのも馬鹿にされるんじゃないかと、今まで申請してなかった臆病だけど小さな部長の事が。

 

 それはそれとして──

 

 ミチルが忍者としての天才的な才能を持つイズナと忍術勝負でボロボロに負けて泣く姿も見たい!!

 

 ──それも嘘偽りない私の本音だった。

 

「あっ、部長殿!副部長殿! お疲れ様です!ニンニン!」

 

「お、お疲れ様です。え、えっと……ニンニン」

 

 部室のドアが鈍い音を立てながら噂の二人が入ってきた。今日も元気いっぱいのイズナと、その後ろからちょっと腰を屈めながら遠慮がちに入ってきたツクヨ。最初は部室に入るのもおっかなびっくりな感じだったけど、1年生の二人もだいぶ百鬼夜行連合学院の雰囲気になれてきたみたいだ。

 

 早速動画出演の件を伝えてみると案の定ツクヨはハッキリとした否定の言葉は無かったものの、明らかに態度が嫌だと示していた。それは仕方ない。

 

 しかしイズナは、

 

「えっ!? イズナも参加してもよろしいのですか?」

 

と前向きな反応を見せる。しめたとほくそ笑む私。

 

「うんうん。それで今考えてるのがイズナと部長との忍術対決なんだけど……」

 

「ぶ、部長とですかっ!?」

 

「あの部長と……!? イズナちゃん……頑張って」

 

「イズナは未だ忍術修行の身、流石に部長殿が相手では勝負にならないかと……」

 

「──えっ? ま、まぁねぇ。私も忍術研究部の部長だからにぇ。まだまだイズナとツクヨに負けてられないよぉ」

 

 一年生達の純粋な憧れの視線に耐えきれなかったのか虚勢を張る部長。後ろからだとよく見えるがうなじから冷や汗が流れていた。この調子だと実力差があり過ぎて動画映えしないからという理由でお流れという方向性に進みそうだ。それは宜しくない。

 

「そ、それじゃあどうします? 動画の内容は?」

 

「問題はそこだよツクヨ。まさか我が忍術研究部の部長が代案も無しに断るわけないだろうけど」

 

 矛先を再び向けられてミチルは怯んだ。ヒクヒクとアライグマの耳を小刻みに動かしながら必死に表情に出ないように平静さをアピールしようとしてる。

 

「も、も、勿論だよ。部長として代案の一つや二つぐらいは……にぇ」

 

「流石部長です! イズナお見それしました!」

 

「す、ごいです! 部長」

 

「それは大変興味深いねぇミチル……その代案について教えてくれない?」

 

 旧校舎で造りが古いとはいえそこそこのスペースが忍術研究部の部室には存在する。しかしミチルにはその4人で使うには広い空間が急速に狭まったように感じた。ヒタヒタと迫る副部長ムクロの姿。アーモンドのような大きな吊り目がちの瞳が真っ直ぐミチルの視線を捕らえて離さない。ミチルにはゆらりと一歩踏み出す度に腰の辺りで纏めた黒髪の束が催眠術の糸のように思えた。

 

「え、えっとぬぇ……そうっ! 水遁の術──」

 

「それは二ヶ月前に収録したよミチル部長?」

 

「──ってのはやったから、ら、ら、雷遁の術ってのはどう?」

 

「雷遁の術!? イズナも知ってます! あのカマボコ突風伝でも人気の忍術です!」

 

「あ、あの雷でズバババァってやっつけたりする派手な忍術ですよね? 私も部長に貸して貰った漫画で見ました」

 

 雷遁の術。カマボコ突風伝では主人公こそ使わないがライバルキャラも扱う忍術の一つで、雷という特性上避ける事が困難なうえに火力も高く、故に雷遁を扱う忍者は強キャラも多く物語上ではかなり優遇されている忍術だ。

 

 しかしミチルはどうやって雷遁に挑戦しようというのだろう? それが気になる。

 

「それはねぇ……」

 

 あ、駄目だ。これ絶対何も考えてないやつだとすぐ分かった。それと同時に私の灰色の脳細胞に電流走る! ミチルっちチャンネルのネタにもなり、ミチ虐にも使える画期的なアイディアが!

 

「実は部長……いいアイディアがあるんですよ」

 

「ムクロ……目が怖いんだけど」

 

 

 

 

『は〜い今日も少女忍法ミチルっちやって行くよ〜。ニンニン!』

 

『ニンニン! 皆さん宜しくお願いします』

 

『そう! 今日は副部長のムクロにも協力して貰ってるよぅ!』

 

 カメラに向かって大袈裟な身振り手振りでアクションするミチルに比べて、副部長のムクロは些か淡白な表情だ。普通なら動画の入りはもう少し話の枕を膨らませて、小ボケをしたり盛り上げたりするのが基本だがそんな流れをスルーする。今回の動画内容のネタ出しが遅れた事へのささやかな復讐だ。

 

『それで今回は何をするんですか? ミチルっちさん?』

 

『今日皆に見せるのは雷遁の術だよ!』

 

 そう言ってミチルが取り出したのは一見普通のペン。

 

『それは……ただのペンでは?』

 

『ところがこのペンは普通と違ってね。なんとペンのヘッドを押すと電流が流れる仕組み! それも握っている間はずっと流れるんだよ』

 

 当然私ムクロはそんな事は知っている。だってこのペンはミレニアムの友達から格安で譲って貰った試作品。どういう理由でこんなもの作ったのかは知らないけど、雷遁の修行の為に開発されたものではないことはきっと確かだ。

 

 おおよそ試験勉強の時に寝てしまわないように微弱な電気を流すことで強制的に覚醒させ続けるのが狙いか。それならガムでも噛んでればいいんじゃないかなんてヤボな質問は無しだ。

 

 思いついたから“造る”。彼女たちにそれ以上の理由はいらない。

 

『つまりそのペンを使って耐えることで忍び耐える者である忍者の雷遁へ挑戦しようというのですね流石部長です!』

 

『う……ん。そういうこと……ムクロが無理やり押し進めたんじゃん

 

『何か?』

 

『い、いやっ何でもないにょ。それじゃあやってみよう!』

 

『はい! という訳で部長には2年生レベルの課題をそのペンで電流に耐えながら達成して貰います。制限時間内に部長はクリア出来るのか!? スタート!』

 

『え゛ッ!? も、もう!?』

 

『ほらもうタイマー進んでますよ』

 

『……えぇい南無三!! ふ゛み゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛ん!?』

 

 

 

「流石部長! 電流を受けながら勉学まで出来るとはこのイズナ! 感服いたしました!」

 

「う、うん。そうだねイズナちゃん。……副部長何であんなにニコニコしてるんだろう?」

 

 

 

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