マクギリス、トレーナーになる   作:アグニ会幹部

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12R 一冠目

 本バ場入場の後、出走ウマ娘たちはコースでウォーミングアップを行っていたが、全員が準備を終えてゲートの裏に集まった。

 

「また会いましたね、トウカイテイオー」

 

 その中でトウカイテイオーに話しかける者がいた。

 テイオーが声のした方に視線を向けると、そこには若葉ステークスで一緒になったウマ娘が立っている。

 右耳に赤いシルクハットを被り、黄色い執事服のような勝負服を着込み、跳ね気味の黒鹿毛の髪をポニーテールに纏めている。

 

「キミは確か、若葉Sの時の───」

「シャコーグレイドです。……今日は、若葉Sの時みたいにはやらせません。今日も貴女をマークします。

 ワタシの脚で、貴女を追い抜いてみせる」

「──悪いけど、ボクは誰にも負けるわけにはいかないんだ。無敗の三冠ウマ娘になるんだから」

 

 シャコーグレイドの宣戦布告に、トウカイテイオーは笑顔で答える。そして、トウカイテイオーに宣戦布告する者がもう1人。

 鹿毛の短髪を両耳の間で纏め、和服調の赤と黄の勝負服を纏うウマ娘。トウカイテイオーよりも少し低い背丈の彼女は、自信に溢れた表情で言う。

 

「トウカイテイオー、悪いがお主の無敗神話はここまでよ。リンドのためにも、僕がこの皐月賞を勝つ!」

「──よろしく。ボクも負けないよ」

「お主、さては『よく知らないけど、とりあえず良い感じに言っとくか』とか思ってるな?

 ……コホン。僕はイブキマイカグラ。名前くらいは知ってるだろう?」

「──ああ、キミが弥生賞の。改めてよろしく」

 

 「この子、大丈夫なんか……?」と言いつつ、イブキマイカグラはトウカイテイオーと握手を交わす。

 緊張しているウマ娘もいる一方、このように挨拶を交わすウマ娘もいる。この皐月賞に出られるようなウマ娘に、レース前だからとは言え、取り乱したり冷静さを欠いたりする者はいない。

 

『トウカイテイオーとイブキマイカグラ、二強の争いとなるのか。それとも、そこに誰か割って入るのか。

 細江さんはどう捉えていますか?』

『そうですね……二強は両方とも絶対に上の方に来るとは思います。けど、この2人の一騎打ちとまでは言えないんじゃないかなと。

 人気はそこそこですけど、ヴァイスシーダーも良いと思いますし、サクラヤマトオーやイイデセゾンもすごく調子が良さそうに見えますね』

 

 スタートの時を目前にし、実況と解説の放送がウマ娘たちの耳にも入って来る。

 ウマ娘たちもそれぞれ、脳裏にスタート後の展開を思い描く。そして、その上で自らの位置取りや仕掛けどころなども、今一度シミュレーションしている頃だろう。

 

『では、簡単に展開の予想をお聞かせ下さい』

『そうですね、展開はまず行くのがホクセイシプレーとアフターミーのどちらかだと思います。

 恐らくアフターミーがリードして、3番手がシンホリスキー。その後がカネハボマイ、ビッグファイトですね。

 トウカイテイオーはその次くらいかな、と』

 

 解説に「なるほど」と頷きつつ、実況の目はスタート台に向かって歩むスターターの姿を捉えた。

 

『───さあ、スターターがスタート台に向かいます!

 10万人以上のファンが詰めかけました、中山レース場! 場内に高らかと、ファンファーレが鳴り渡ります!』

 

 スターターが上がり、赤い旗を振るう。

 曇り空の下、中山の地に関東GⅠファンファーレと、10万の観客の大歓声が木霊した。

 

『さあ、三冠の第一関門。枠入りが始まっています』

 

 ファンファーレと同時に、18人のウマ娘たちのゲート入りが始まる。

 まずは奇数番のウマ娘、次に偶数番のウマ娘という順に枠入りが進められる。1枠1番のウマ娘のゲート入りを皮切りに、次々とウマ娘たちがゲートに収まっていく。

 

『スタート地点にいる赤鳩アナウンサーに聞いてみましょう。各ウマ娘の様子ですが、特にこう、入れ込んでいるウマ娘はいませんか?』

『そうですね、それほど目立つウマ娘はいませんね。

 イイデサターンがちょっと入れ込み加減かなという感じですが、スムーズなゲートインです。

 イブキマイカグラも、ファンファーレが鳴ると同時に気合が乗って来ました。

 それからトウカイテイオーもですね、ファンファーレが鳴ると「ああもう時間か」と言うようにターフビジョンの方をチラッと振り返りまして、いよいよ行くぞと気合が乗って来た。そんな感じです』

 

 レース前にテンションが上がって興奮してしまい、汗が出たりする「入れ込み」が見られると、レースパフォーマンスに影響するが、そうしたウマ娘も特には見当たらない。

 ゲートを嫌がる素振りを見せるウマ娘もいたが、GⅠともなれば基本は全員慣れているので、滞り無く進んで行くモノだ。

 

『後は4人から5人、ビッグファイトとダンスダンスダンスが今、入りました。カネハボマイとサクラヤマトオー、トウカイテイオーは最後ですね』

『ありがとうございます。──カネハボマイが納まりまして、サクラヤマトオーもゲートの中へ。

 最後は大外、トウカイテイオーが行きます!』

 

 17人がゲートに収まり、最後は大外18番枠のトウカイテイオー。

 テイオーは「良しっ」と呟き、不敵にも見える笑顔を浮かべたまま、ゲートに向かって歩み寄る。

 

『さあ、枠入り完了しました。

 ───第51回、皐月賞!』

 

 テイオーの背後で、ゲートの扉が閉じられる。

 計18人、ゲートイン終了。スタンドから拍手が上がる中、ゲート上部の赤いランプが点灯し──ゲートの扉が、音を立てて一斉に開かれた。

 

『ゲート開いて、スタートを切りました!

 横一線、綺麗なスタートであります!』

 

 一年に一度、出走ウマ娘たちにとっては一生に一度の大舞台。

 クラシック第一冠たるGⅠ「皐月賞」、2分ちょっとの夢の時間が、遂に始まった。

 

『正面スタンド前、大観衆が見守る中、第1コーナーに向けての先行争い!』

 

 中山レース場、芝2000メートルのスタート地点はスタンドの右側、第4コーナーの入口付近。

 まずはホームストレッチを駆けて行きながら、第1コーナーまでの直線コースを使ってのポジション争いが発生する。

 最後の直線が310メートルと短い中山レース場においては、この第1コーナーまでに取るポジションが、勝敗にも直結する極めて重要なモノとなる。

 

『逃げ宣言アフターミー、そしてレガシーオブゼルダ、その後ろにカネハボマイ! ビッグファイトも行きました!』

 

 前に行ったのは3人。

 内枠からは逃げ宣言をしていた2枠4番アフターミーがスタートを決め、そのままの勢いで先頭に立つ。

 その外側に4枠8番レガシーオブゼルダ、1列後ろには外枠から8枠16番カネハボマイが上がる。

 それに続く形で、8枠17番ビッグファイトも4番手に付けて行く。

 

『注目のイブキマイカグラは、後方から4番目!

 そしてトウカイテイオーは中団、外目を通っております!』

 

 6枠11番イブキマイカグラは後方に下がり、大外枠からのスタートとなったトウカイテイオーは、バ群の真ん中辺り、その外側に陣取った。

 

(オッケー、良い感じ……!)

 

 他のウマ娘を傍目に、トウカイテイオーは笑みを浮かべる。

 大外枠を引いた時点で、多少の距離ロスは覚悟の上で外側を回ることは事前の作戦会議で決定していた。

 前が壁にならず、自分のタイミングで仕掛けられるポジション──ここまでは予定通りである。

 

『第1コーナー、ゆっくりと右手にカーブしていきます!』

 

 態勢が固まり、18人の選ばれしウマ娘たちが、稍重の青い芝を踏みしめながら第1コーナーのカーブへ入った。

 ここからはコーナーで息を入れながら、必要に応じてポジションを動かしたりしながら、仕掛けの時を待つのである。

 

『思い切って逃げます、アフターミーのリードが2バ身から2バ身半有ります!

 レガシーオブゼルダが2番手につけました!

 そしてカネハボマイが3番手、内々ビッグファイトが付けています!

 ヤングシゲオー、そしてシンホリスキーがアウトコース5、6番手であります! 更にイイデサターンがついています!』

 

 第2コーナーを曲がり、向正面へと進出して行く18人。

 そして1000メートル──早くも半分の地点を通過。

 

「60秒4──稍重にしては少々速めか」

 

 スタンドで担当ウマ娘のトウカイテイオーを見守るマクギリスが、ストップウォッチを片手に呟く。

 前半はアフターミーとレガシーオブゼルダ、カネハボマイ等が競り合いになったおかげで、2ハロン目(スタート後200〜400メートル)の通過タイムが10秒台とペースが加速したが、以降は12秒台で刻まれている。

 

『そして、その外側にトウカイテイオー!

 現在は7番手から8番手、中団であります! 外目外目、バ場の良いところを選んで、トウカイテイオーは行っております!』

 

 作戦通りだ、とマクギリスはほくそ笑む。

 せっかく外枠を引いたなら、バ場の良い外側をずっと走っていれば良い──前日までの作戦会議で、マクギリスはテイオーにそう言った。

 距離ロスを一切気にしていない、ある意味では暴論と言える作戦だが、テイオーの能力ならば問題は無いとマクギリスは判断している。

 そもそも、いずれは菊花賞──3000メートルを攻略しなければならないのだから、2000メートルのレースで距離ロスを気にしているようでは、菊花賞制覇など出来はしないだろうという考えだ。

 

『更にホクセイシプレーであります、今日はあまり行きません! ダンスダンスダンス、サクラヤマトオーと8枠のヴァイスシーダーが、やや後方から中団という辺りでしょうか! イイデセゾンも追い込みウマ娘であります!

 そしてイブキマイカグラは後方から4番目、5番目であります! 先頭までは7バ身から8バ身!』

 

 7枠14番サクラヤマトオー、7枠13番イイデセゾン、イブキマイカグラなどの有力なウマ娘は、テイオーの後方に控える選択をした。

 

『さあ18人、それほど差はありません!

 9バ身から10バ身の圏内で、第3コーナーです!』

 

 1枠1番イイデシビアを最後方に、バ群は向正面を過ぎ、第3コーナーに向かって行く。

 バ群の外側、中団に待機するトウカイテイオーは、コース沿いに立てられた距離を示すハロン棒を傍目に、周りのウマ娘たちの息遣いに耳を澄ませる。

 同時にテイオーは、トレーナーと行った作戦会議の内容を思い出していた。

 

《今回は積極的に前に行きそうなウマ娘が複数いる。特にアフターミーは逃げ宣言をしている以上、必ず先頭へ立とうとするだろう。

 トウカイテイオー、ペースはどうなると思う?》

《──速くなる?》

《そうだ。特に2ハロン目は、逃げウマ娘同士の競り合いが起きて速まる可能性が高い。アフターミーが意地でもハナを取りに行くつもりならば、尚更だ。

 スタート直後、全力で前に行くウマ娘がいるようならば、先行策は取らずに下げると良い。大外枠からバ群の外側を走るなら、その辺りの融通も効くだろう》

 

 マクギリスは前半のハイペースを読みつつ、それを踏まえて後半の策も練っていた。

 

《本番は競りかけられたとしても、アフターミーが譲らずにハナを取り切ると考えられる。つまり、ペースを握るアフターミーは1周目のホームストレッチの時点で少なからず脚を使い、体力を消耗する。

 とすると、向正面から3・4コーナーにかけて彼女はどうする?》

《……ペースを落として、息を入れようとする》

《その通りだ。彼女の体内時計の精度がどれほどかは分からないが、仮に2ハロン目を10秒台で飛ばしたならば、どこかで休まなければ間違い無く息切れする。

 走りながら秒数を測るわけにはいかないが、必ずどこかで1ハロン13秒台のペースにまで落としたいハズだ。そうしなければ、彼女の息は最後まで保たなくなるならな。

 ───そこで、だ》

 

 悪い笑顔を浮かべながら──正直あの時のトレーナーの顔は悪役でしかなかったとテイオーは思う──マクギリスが言った言葉を思い出し、テイオーはそれまで以上に脚に力を込め、踏み込んだ。

 3、4コーナー中間。トウカイテイオーの仕掛けによって、レースが一気に動き出す。

 

『さあ、トウカイテイオーがスーッと上がって来た!

 トウカイテイオーが外から上がって来た!』

(((トウカイテイオーが、動いた……!)))

 

 テイオーが涼しい顔で、ポジションを上げて行く。

 後方に控え、テイオーをマークしていたウマ娘たちは思ったよりも早い仕掛けに驚きながらも、テイオーの脚を考えればある程度の距離にはいないと追いつけなくなると考え、テイオーに合わせてポジションを上げ始めた。

 

 しかし、一気にギアを上げたテイオーのスピードには追いつけず、テイオーはアッサリと進路を確保できた。

 

「───そうだ、それで良い」

 

 テイオーが仕掛けたことで、スタンドのボルテージもどんどん上がって行く。

 その中で、マクギリスは笑みを浮かべた。

 

(アフターミーはずっと12秒台のタイムを刻んでいた。ここまでペースはほとんど緩んでいなかったということになる。

 今トウカイテイオーが仕掛けたことで、ペースが落ちることはもう無くなった)

 

 レース中、上がり12秒台のペースが全く落ちずに維持される。

 クラシック級2000メートルのレースで、前に行ったウマ娘にとって、これはかなり苦しいペースだ。バ場が重ければ尚更のこと。

 ───逃げ、先行策を取ったウマ娘は、これからの直線で間違い無く垂れる。トウカイテイオーより前は完全に潰されたと言っていい。

 

『トウカイテイオーが先頭グループに並ぶ!

 さあ、イブキマイカグラはまだ中団であります! イブキマイカグラはまだ中団!』

 

 あっという間に、トウカイテイオーが先頭集団に並びかける。

 一方、テイオーとの二強と目されているイブキマイカグラは、ポジションこそ上げてはいるがまだまだ中団──といったところで、先頭が第4コーナーに差し掛かった。

 

「ッ、しくった……!」

『さあ、中山の直線は310メートルであります!』

 

 イブキマイカグラが舌打ちをする中、先頭集団は最終コーナーをカーブし、中山の短い直線に入る。

 実況も述べた通り、中山の直線は310メートルとかなり短い。──4コーナーを曲がる時点で、ある程度前のポジションに付けておかなければ、先頭までは届かない可能性が高いのである。

 

「───一冠目、行くよ!」

 

 直線に向くと同時、トウカイテイオーが更に加速をかける。スパートとまでは行かないが、それでもテイオーのスピードは他のウマ娘を大きく上回る。

 

『カネハボマイわずかに先頭でありますが、外の方からトウカイテイオー!

 そして、そしてシンホリスキーが来ている!』

 

 先行抜け出しを図るシンホリスキーに、トウカイテイオーが余力を保って並びかけ、かわして行く。

 そして、後方からはテイオーの仕掛けに合わせて少しずつポジションを上げていたイブキマイカグラが、バ群を割ってスパートをかける。

 

「行かせるかァッ!!!」

『さあ直線の力比べ、イブキも来ている! イブキも来ている!! イブキマイカグラ!!

 しかし、トウカイ先頭に立ったか!! トウカイテイオー、先頭に立ったか!!』

 

 スパートをかけたトウカイテイオーがバ群からあっさりと抜け出し、たちまち先頭に立つ。

 1バ身から2バ身ほどリードを取り、残り200メートルの標識を通過する。このままトウカイテイオーが逃げ切るか──と、思われたが。

 

 そんなトウカイテイオーの背後から、トウカイテイオーと同等の脚色で上がって来るウマ娘が1人。

 

「今度は逃がさない、トウカイテイオーッ!!!」

 

 トウカイテイオーの後ろにずっと付け、トウカイテイオーが切り開いた進路を使って、トウカイテイオーを猛追するのは───

 

『外の方から、2番のシャコーグレイドも突っ込んで来るッ!!』

 

 ──若葉Sでもトウカイテイオーを猛追したウマ娘、シャコーグレイドだ。

 直線で容易く先頭に立ったトウカイテイオーと、それを背後から追うシャコーグレイド。

 奇しくも若葉Sと同じ展開が、皐月賞でも再現されることとなった。

 

『さあトウカイテイオー、わずかに先頭か!! 並びかけるシャコーグレイド!!

 シャコーグレイド、トウカイテイオー!!!』

 

 シャコーグレイドが、驚異的な末脚でトウカイテイオーに並びかけて来る。

 ───しかし、その瞬間は、わずか一瞬のこと。

 

「勝つのは、ボクだ!!!」

 

 中山の直線、最後の急勾配。

 坂に差し掛かったところで、トウカイテイオーとシャコーグレイドの明暗が分かれた。

 

 ほんの少し、シャコーグレイドの脚色は鈍り。

 トウカイテイオーの脚色は、全く鈍らなかった。

 

『トウカイテイオーが抜け出す!!

 イブキは届くのか、届きそうもない!!』

 

 猛追を振り切って、後続を突き放す。

 坂を駆け上がり、その頂上へと辿り着く。

 その先に在る物は、ただ一つ──ゴール板だけだ。

 

 

『勝ったのはトウカイテイオー!!!

 帝王伝説の幕開けッ!!!』

 

 

 皐月賞、決着。

 トウカイテイオーが、誰よりも先にゴール板を駆け抜けた。

 

『第51代皐月賞ウマ娘は、トウカイテイオーであります!!

 シンボリルドルフが成し遂げた、あの無敗の皐月賞!! トウカイテイオーも同じく、無敗で皐月賞を制しました!!

 これは強いッ!! これは強いッ!!

 トウカイテイオーであります!!』

 

 大歓声が中山レース場を支配する。

 勝ちタイムは2分1秒8。2着のシャコーグレイドに1バ身差をつける、トウカイテイオーの完勝だ。

 

「───良し」

 

 マクギリスは息を深く吐きながら、拳を握りしめた。その口元には、笑みが浮かんでいる。

 

「……おめでとう、と言ってやろうか?」

「その言葉は菊花賞まで取っておけ、ガエリオ。

 ──彼女にとって、ここはあくまでも通過点だ」

「強がりな奴だ。勝ってくれて安心してるくせにな。

 大外枠を引いた時のお前の血の気の引いた顔、忘れてないぞ」

「言うなよ。メジロマックイーンの菊花賞の時のお前ほど、動揺してはいなかったさ」

 

 ガエリオのからかいに言葉を返しつつ、マクギリスの脳裏では早くもダービーに向けての計画が練られ始めている。

 クラシック二冠目、日本ダービーは約1ヶ月後。

 トレーナーとしては、皐月賞制覇で浮かれている場合ではない。

 

「『無敗の三冠』──テイオーなら、本当に成し遂げてみせそうですわね」

「……すごいね、オルガ」

「ああ……ここまで担当ウマ娘とたどり着け、なんてな……」

 

 メジロマックイーンが微笑む一方、三日月とオルガは場の雰囲気に軽く圧倒されていた。

 大勢の人がこれだけの熱量を注ぐトゥインクル・シリーズ。その頂点たるGⅠレースに、自分たちがトレーナーとして携わったウマ娘を勝たせる──そんなことは、トレセン学園に来たばかりの2人には、まだ夢物語のように思えるのだった。

 

「あの時の子が、本当にここまで来るなんて──チョベリグね」

「──『帝王伝説の幕開け』か。風光明媚だな」

「……あの子、やっぱり面白いね」

 

 マルゼンスキー、シンボリルドルフ、ミスターシービーは、それぞれ口元を緩めて無敗の皐月賞ウマ娘をスタンドの上階から見下ろしている。

 彼女たちの目に、トウカイテイオーの姿はどのように映っているのか。

 

「───結局、追いつけませんでしたか。

 おめでとうございます、トウカイテイオー」

「……ありがと。キミこそすごかったよ」

「トウカイテイオー、おめでとう──だが、次は僕が勝つ! NHK杯で決着をつけよう!」

「いや、ボクはそれ出ないよ……?」

「なぬ!? ではダービーでお主に勝つ!」

 

 シャコーグレイドとイブキマイカグラ、2人のウマ娘から賞賛を受け取りつつ、トウカイテイオーはスタンドに目を向ける。

 レース場に集った人々の視線を一身に受ける中、テイオーは笑顔を浮かべ───右手を上げ、人差し指を1本、天に突き立てた。

 

 それは、シンボリルドルフが皐月賞でやったことと同じ。

 その指は「一冠」を表し──ここから2本、3本と立てる指の本数を増やしていく、という宣言だ。

 

 再び、スタンドから大歓声が上がる。

 「三冠獲り」の宣言。それは、歴史への挑戦状。

 

「アゲアゲね」

「ああ───次は、日本ダービーだな」

 

 クラシック三冠、一冠目──「皐月賞」の栄光は、トウカイテイオーの手に渡った。

 そして、皐月賞の上位5人のウマ娘には、二冠目となる「東京優駿(日本ダービー)」への優先出走権が与えられることとなる。

 

 トゥインクル・シリーズで最も長く、熱い一日。

 ダービーまで、後1ヶ月。




次走「選抜レース」
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