『今年も良バ場で、日本ダービーを迎えることができました。昨年はアイネスフウジンがレコードタイムでの逃げ切りを見せました日本ダービー、今年はどのようなドラマが待ち受けているのでしょうか。
本日も実況は赤坂、解説は細江純子さんでお送り致します。細江さん、よろしくお願いします』
『はい、よろしくお願いします』
東京優駿(日本ダービー)に挑むウマ娘たちが、ウォーミングアップを終えてスタンド前に設置されたゲートの近くに集まった頃、実況解説が開始された。
皐月賞も同様だが、スタンド前発走であることも日本ダービーというレースのポイントの一つだ。観客の歓声やファンファーレ、実況放送が間近に聞こえる中での発走。
特にダービーという舞台においては、気負い過ぎたりテンションが上がってしまったりして、平静を欠くウマ娘も時折見られる。
いつも通りの状態でなければ、力を充分に発揮することはできない。如何に平常を保つか、その精神力もダービーの舞台では問われることとなる。
『やはり何よりも、皐月賞に続いて大外、20番枠になりましたトウカイテイオー。彼女がシンボリルドルフ同様、無敗で皐月賞に続いてこのダービー──二冠を制するかどうか。非常に注目されます。
細江さんの今年のダービーの予想を簡単にまず、一言お願いしたいのですが』
『そうですね、私はレオダーバンが良いと思いましたね。人気ではトウカイテイオーに一番人気を譲っているんですが、2人の能力差自体はさほど無いんじゃないかなって思います』
事前の評価は無敗の皐月賞ウマ娘トウカイテイオーと、青葉賞を制したレオダーバンの二強体制。
次いで皐月賞2着のシャコーグレイド、皐月賞3着のイイデセゾンなどが続いている形だが、皐月賞がトウカイテイオーの完勝という結果に終わったからか、上位の2人からは水を開けられている。
『では、スタート地点で待機している赤鳩アナウンサーに、ウマ娘たちの表情を簡単に伝えて頂きましょう』
『はい、スタート地点です。ターフ全体から湿気が立ち上って蒸し暑い感じで、汗をかいているウマ娘も多いですね。
細江さんから話がありましたレオダーバンは、緊張こそすれ掛かっているという様子ではありません。
トウカイテイオーはまさしく悠然といった表情で、まさに天命を待つというような感じです』
天候は晴れ、バ場状態は良。
まさしく誰にとっても万全のコンディション。
蒸し暑さだけがどうか、といったところだろうか。
「テイオー、落ち着いていますわね」
「ああ。私の方が舞い上がっているくらいだよ」
メジロマックイーンの感心したような呟きに、マクギリスも頷く。
皐月賞後には筋肉痛があったりもしたが、全体としては極めて順調だった。トウカイテイオーの体調は完璧だ。
初の東京レース場、初の2400メートルも懸念材料にはなり得ない。マクギリスはそう確信している。
『トウカイテイオーのトレーナーは、「90パーセント以上でこのダービーを制する自信はある」と話しておりました。
果たしてその通りになるのか、はたまたこのトウカイテイオーを負かすウマ娘が出てくるのか!
ファンファーレが東京レース場に木霊致します!』
スターターがスタート台に上がり、右手に握った赤い旗を振ると、日本ダービーの発走を告げる生演奏の関東GⅠファンファーレが、府中の青空の下で高らかに響き渡る。
10万人以上の観客が詰めかけたスタンドから、地面を揺らすほどの大きな歓声と拍手が湧き上がった。
『さあ枠入りが始まりますが、特に入れ込んでいるウマ娘というのはいませんか?』
『レオダーバンが枠入りを嫌いましたが、今入ったところです。それほど入れ込んでいる様子は、先ほどもお伝えした通り無いですね』
ウマ娘たちが次々と、順調にゲートに入って行く。
奇数番号のウマ娘の枠入りが完了し、続いて偶数番号のウマ娘たちもスムーズにゲートの中へ。
『アフターミー、8番のビッグファイトも向かいます。後、何人でしょう?』
『後、トウカイテイオーを待つばかりです』
『──さあ、大外20番枠! 皐月賞に続いて、無敗で二冠を制するかトウカイテイオー!
落ち着いています! ゲートに、納まりました!』
トウカイテイオーが悠々と、自信に満ち溢れた笑顔を浮かべながら、大外の20番枠に華奢な身体を納めた。
全員のゲート入りが完了した瞬間、拍手が湧き起こり───いよいよ、待ちに待った2分半への扉が、一斉に開かれる。
『ゲート開いて、第58回日本ダービー! スタートを切りました!』
東京優駿(日本ダービー)が、遂に開幕した。
スタンドから大きな歓声が上がる。12番のコガネパワーが少し出遅れた形となったが、他はスムーズに揃ったスタートを決めた。
『トウカイテイオー、なかなか上手いスタートであります!
「「良し」」
マクギリスとシンボリルドルフが、それぞれ呟く。
スタートが済めば、まずはポジション争いだ。20人が第1コーナーへ団子になって向かう。
スタート地点から最初のコーナーまではおよそ350メートル。ホームストレッチの半分ほど、約20秒から30秒で、重要な最初のポジションが決まる。
『スーッと各人が内へと切れ込んで行きます! 逃げ宣言アフターミー、そしてホクセイシプレー! シンホリスキーも行きました!
第1コーナーに向かいます! トウカイテイオーは1、2、3、4、5、6、7──8番手! 外目8番手で第1コーナーにかかります!』
(──オッケー。予定通り、先行策!)
皐月賞でもハナを切って逃げた6番アフターミーに続き、18番ホクセイシプレー、5番シンホリスキー、3番レオサイレンスなどが先頭集団に取り付いていく。
スタンドに別れを告げ、第1コーナーをカーブ。
大外から斜めに切れ込み、皐月賞よりも少し前のポジション──先行策を取ったトウカイテイオーは、口元を緩めて笑う。
「カイチョー、見ててね!」
『トウカイテイオーは8番手で、第1コーナーをカーブして行きます!』
歓声を背にバ群は第1コーナーを出て、第2コーナーとの中間点にかかっていく。
「──トウカイテイオーが位置を上げた。
これは作戦通りなのか、マクギリス?」
「ああ。ダービーポジション、とやらを信じる気は無いが──走るリズムを重視した上で、好位に取りつけるようならば行けと言ってある」
「……初の距離だというのに、随分と強気なことだ」
ガエリオの質問にマクギリスは答え、ラスタルの言葉にも不敵な笑みを浮かべた。
一種の通説、セオリーとして、「ダービーを勝つには10番手以内に付けなければならない」と言われており、それが「ダービーポジション」である。
──もっとも、今となってはほぼ死語に近い言葉だが。
『先頭に立っているのは逃げ宣言アフターミー、そしてシンホリスキー2番手であります。そして外目をつきまして、ホクセイシプレーが続いています。
更に3番のレオサイレンスが3番手、その外目をつきましてイイデサターンの方であります。
ワンモアライブが中団で、そのワンモアライブのアウトコースが20番のトウカイテイオーです!
トウカイテイオーは現在6番手から7番手で、向正面に入って行きます!』
第2コーナーをカーブし、長いバックストレッチへ出て行く18人。
ここから第3コーナーに向かって坂を上る。
バ群の体勢はあらかた固まった。ここからはペースを把握しながら、如何に冷静に進んで行くかだ。
呼吸の1回1回が、最後の直線での1メートル、2メートルの伸びに繋がって来る。
「ダービーは『最も運の強いウマ娘が勝つ』──そう言われてるわね」
「ああ。……大外を引いた時点では、テイオーの運は良いとは言えないだろうが、ここからどんな走りを見せるか」
マルゼンスキーの言葉にシンボリルドルフは頷く。
皐月賞では大外から完璧なレースを見せたトウカイテイオー。この東京2400メートル、ダービーではどうか。
『さあ、もう一度先頭から見てみましょう。
先頭は6番のアフターミー、そして5番のシンホリスキー、アウトコースを通りましてホクセイシプレー。
その後ろから14番のイイデサターン、更に3番のレオサイレンス。
そして7番のワンモアライブの外側に20番のトウカイテイオー、トウカイテイオーです。
その後ろでありますが、ちょっと切れまして9番のロングタックルがいます。11番レオダーバンはこの位置、更にもう1人イイデセゾン。
1番のイイデシビア、更にその外側につきましてイブキノウンカイであります』
(トウカイテイオー。私と同じくらいの位置にいるものと思ったけど、今日は少し前に行った。
──けれど、返って好都合)
トウカイテイオーよりも内側、少し後ろの位置で追走するレオダーバンは、視界の右端にトウカイテイオーのポニーテールを捉えながら目を細めた。
ここならトウカイテイオーの位置が、動きが完璧に見える。逆にトウカイテイオーは、レオダーバンを見ることができない。
(貴女を抜かせれば、それで勝てる。この東京2400には、私の方が詳しい。コースのことは研究して、青葉賞で走って知り尽くしている……!)
これは自分とトウカイテイオーの戦いだと、レオダーバンは考えていた。
トウカイテイオーより強いウマ娘は、今日のレースにはいない。トウカイテイオーをかわすことは、即ち1着でゴールすることだと、レオダーバンは目算している。
『3コーナーの坂! 各ウマ娘、優駿が駆け上がってこれから4コーナーに向かいます!
トウカイテイオーは依然として7番手、トウカイテイオー7番手の好位置をキープしております!』
バックストレッチから第3コーナーにかけて高低差2メートルの坂を上り、下りながら大ケヤキの向こう側を通過し、第4コーナーとの中間点へ。
先頭は変わらず逃げ宣言のアフターミー。
ホクセイシプレー、シンホリスキー、イイデサターン、ワンモアライブなどが続いて、トウカイテイオーはバ群の外を回っている。
後ろには7番ワンモアライブ、更にトウカイテイオーをマークするレオダーバン、13番イイデセゾン、2番シャコーグレイドといった並びだ。
(ッ、やっぱりこの時期の東京の内は掘れてる──どこかで外に出したいですが)
内ラチ沿いのバ群の中団からやや後方辺りを追走するシャコーグレイドは、如何に内から外に出るかを考えながら走っていた。
日本ダービーが行われるのは、4月末から始まる春の東京開催の12日目。日本ダービーまでには様々な重賞や平場のレースがあるため、酷使されている芝コースはかなり内側が掘れ、傷んで走りづらい状態になっている。
距離ロスを覚悟で外側の綺麗な芝コースを走るか、多少走りづらさはあってもロスの無い経済コースを走るか──その選択も、勝敗を分ける要素になる。
(ケヤキを越えた中間点──そろそろ、上がる!)
『さあ、トウカイテイオーが早くも6番手から5番手に上がって来る!』
前がバテ始めたところで、トウカイテイオーが楽な足取りでポジションを前へ上げ始めた。
釣られるようにバ群全体が加速しながら、第4コーナーに差し掛かる。
「───さあ、ここからが正念場だ……!」
シンボリルドルフが期待に口元を緩ませる。
紛れが少なく誤魔化しの効きづらい、真に能力を問われる真っ向勝負の舞台──東京の最終直線、525メートル!
『逃げ宣言アフターミー頑張った、さあトウカイテイオーは外! トウカイテイオーは外から!!』
トウカイテイオーはバ場の真ん中を選択。
既に視界は開けている。前には誰もいない。在るのは、まだあまり使われていない綺麗なバ場──全てが整った。
「トウカイテイオー、行くよ!!」
一際力強く、左脚を踏み込む。重心を低くし、跳ねるようにトウカイテイオーが前へと飛び出した。
『残り400を通過した!! 残り400メートル!!
トウカイテイオーが突き抜ける!! トウカイテイオーが来た!!』
トウカイテイオーのスパートに大歓声が上がる。
前にいたウマ娘とわずか数歩で距離を詰めるトウカイテイオー。残り400メートル、しかし逆に言えば、まだ400メートルもある。
このスパートは、トウカイテイオーの自信の表れか。
「──早い! けど、捕まえる!!」
──その後ろから、トウカイテイオーをずっと見ていたレオダーバンも飛んで来る。
後ろから内を通って一気に追い上げ、トウカイテイオーに並ぶほどの勢いだ。内のレオダーバン、外のトウカイテイオー。
『さあレオダーバンも来ている!! レオダーバンも来ている!!
トウカイテイオー!! レオダーバン!!
トウカイテイオー!! レオダーバン!!』
(これなら追いつく……!)
全てのウマ娘を抜き去り、2人が先頭に立つ。
レオダーバンはまだトウカイテイオーに並んでいないが、今の勢いならば追い抜ける。そう確信した──が。
「まだまだッ!!」
トウカイテイオーは、もう一段ギアを上げた。
更にトウカイテイオーが加速する。全力のスパートをかけるレオダーバンよりも、圧倒的に。
『トウカイテイオー先頭!!
レオダーバン!! トウカイテイオー!!』
(───そんな、バカなこと……!!)
レオダーバンを、バ群を完全に置き去りにする。
一歩一歩、みるみる内に離れて行くトウカイテイオーに、レオダーバンは愕然とした表情を浮かべる。
そんなハズは無い。
こんなにも、違うハズが無いと。
「うおおおおああああああああああ!!!」
『レオダーバン!! トウカイテイオー!!
トウカイテイオー抜けた!! トウカイテイオー抜けたッ!!』
絶叫しながら走るレオダーバン。
彼女もまた、内から伸びて来るイイデセゾンや外に回ったシャコーグレイドなど、3着以下のウマ娘を寄せ付けない走りを披露している。
だが──トウカイテイオーは、更にその前にいた。
もう届かない。
絶対に追いつけない。
大外枠から外を回り、バ場の真ん中を突き抜ける。
こんなレースをされては、他のウマ娘には為す術など無い。圧倒的な実力、絶対的な能力が無ければ不可能な走りだ。
天才はいる。悔しいが。
『トウカイテイオー二冠目前!! 3バ身、4バ身リード!! 圧勝です!!
トウカイテイオー、二冠達成ッ!!!』
トウカイテイオーが今、誰よりも早く──1着で、ゴール板を駆け抜けた。
『そして、無敗の二冠達成であります!!!
見事、まさに横綱相撲!!! トウカイテイオー、三冠のプレッシャーを跳ね除けまして!!!
第58回、日本ダービーを制しました!!!』
スタンドの観衆から、大歓声が上がる。
日本ダービー──二冠をかけた戦いは、トウカイテイオーの圧勝に終わった。
「「「「「テイオー! テイオー! テイオー! テイオー! テイオー!」」」」」
『まさに道中危なげの無い、好位置6番手から7番手をキープ! 早くもテイオーコールが始まっています!』
10万の大歓声が、テイオーコールへと変わる。
無敗の三冠ウマ娘シンボリルドルフを含めても、史上4人目の無敗の二冠ウマ娘の誕生。
二冠ウマ娘自体は史上17人目となる。
『細江さん。いやあのトウカイテイオーの位置が私も非常に気になったんですが、まさに危なげの無いポジションを進んで、直線抜けて来ましたね』
『そうですね、7番目くらいだったと思います。
4コーナーになる時が速かったですね。一気に仕掛けて、それを見てレオダーバンも仕掛けて。
レオダーバンが内、トウカイテイオーが外というところで並んだんですけど、そこで突き放されてしまいましたね。もうトウカイテイオーの強さには、つくづく頭が下がります』
ターフビジョンに番号と着差が点灯する。
写真判定なども無く、すんなりと着順は上がった。
1着、20番トウカイテイオー。
2着、11番レオダーバン。
3着、13番イイデセゾン。
4着、12番コガネパワー。
5着、14番ソーエームテキ。
皐月賞の時よりも更に2着との着差は広がり、何と3バ身もの差をつけていた。
初の2400メートル、初の東京レース場もなんのその。むしろ彼女にとって、最も良い条件なのではないかとさえ思わせる。
『これでまた、トウカイテイオーはシンボリルドルフに一歩近づいたと言えるんでしょうか?』
『そうですね。イブキマイカグラのようなこともありますから、そんなに楽観した物の言い方はできないですけれど──このまま順調に行けば、本当にどんな馬が出てきても、三冠ウマ娘は彼女なのではないでしょうか』
「───レオダーバンを、一気に突き放すとはな」
感心半分、ため息半分と言った声で、担当ウマ娘をあっさりと引き離されたラスタルは呟いた。
二強などという事前の評価は、トウカイテイオーを過小評価していた。蓋を開けて見れば、トウカイテイオーの方が2枚も3枚も上手。
3バ身差は完璧な差だ。着差以上の強さを、トウカイテイオーは見せつけた。
「おめでとうと言っておくぞ、マクギリス」
「──それはまだ早いな。彼女の目的は此処ではないのだから」
ラスタルの言葉を、マクギリスは受け取らない。
彼の脳裏には、早くも菊花賞に向けたプランが組み上げられ始めている。トウカイテイオーにとっては、この日本ダービーですら、通過点に過ぎないのだ。
『見事トウカイテイオー、6戦6勝。
さあ今、セトホーライとイイデシビアに祝福の握手を受けておりましたトウカイテイオー。ゆっくりとスタート地点に戻って来ます』
「───完敗です、トウカイテイオー。おめでとう」
「ありがと」
シャコーグレイドを始め、一緒に走ったウマ娘たちから称賛を受けつつ、トウカイテイオーはスタンドの方を向き──右手を空へと突き上げた。
その先には2本の指が立てられている。
「「「「「テイオー! テイオー! テイオー! テイオー! テイオー!」」」」」
『去年はアイネスコールでした。それが今年はテイオーコールに変わっております、東京レース場!』
これで「二冠」──しかし、トウカイテイオーの夢はまだ途中。
更なる夢は、秋の淀の舞台へと引き継がれる。
『勝ち時計が2分25秒9。ダービーレコードとはなりませんでしたが、見事な時計であります。
そして、内容も見事でした。トウカイテイオー、勝って当然といった感じでしょうか。後は三冠目、菊花賞へ無事に出走してほしいという気持ちです』
クラシック第二冠、東京優駿(日本ダービー)はトウカイテイオーが勝利し、無敗の二冠を達成した。
次なる舞台──三冠のかかる舞台は京都レース場、11月の芝3000メートル、超長距離GⅠ「菊花賞」。
最後の決戦は6ヶ月後。
史上2人目の「無敗の三冠」に挑戦する権利を得たトウカイテイオーは、どんな走りを見せるのか。
「あの子、本当にスゴいね。夏を無事に越せれば、やってくれるかな」
「ああ──私たちも、サマードリームトロフィーで無様な走りはしていられないな」
二冠ウマ娘の誕生を見届けた三冠ウマ娘たちも、瞳を闘志に輝かせて、笑みを浮かべるのだった。
◇
ダービー当日、夜。
日が沈んでからのレース場では、ウイニングライブが行われる。日本ダービーを戦ったウマ娘たちのパフォーマンスを見ようと、多くの観客がそのステージを待ち望んでいた。
雲が出て来て、昼間と一転して暑さも落ち着いて来た中──遂に、ダービーのウイニングライブが始まった。
ギターソロから入り、アップテンポのバンド演奏がスタート。ステージにはダービー3着までのウマ娘が立ち、ダンスを踊りながらマイクを前に歌い始める。
そのパフォーマンスをスタンドから見ながら、マクギリスは誇らしげに笑みを浮かべた。
(流石はトウカイテイオーだ。完璧なパフォーマンス───)
と。
マクギリスはトウカイテイオーのダンスに、僅かな違和感を覚えた。
(───何だ?)
トウカイテイオーの動きに注目する。
その違和感の正体に気づいた時、マクギリスの口元からは笑みが消え、エメラルドグリーンの瞳は大きく見開かれた。
「……………左脚、か?」
頬に冷や汗が伝う。嫌な予感が、最悪の可能性がマクギリスの脳内に駆け巡った。
左脚を僅かに、庇うような仕草。
注視しなければ分からないだろうが、左脚が震えているように見える。左脚を上げる振り付けの時も、明らかに脚の上がり具合が悪い。
柔軟な身体を持つ彼女にはあり得ないほど、脚が上げられていない。あんな脚の上げ方、カルタが見れば即座に指摘し指導するだろう。
「──────まさか、いや……そんな」
マクギリスは観客の歓声が、トウカイテイオーの歌声が遠くなっていく感覚を覚えた。
気のせいであってくれ。彼女も2400を走った後だ、疲れているだけだ──そんな楽観的観測は、トウカイテイオーのパフォーマンスを見れば見るほど、マクギリスの中からかき消されていく。
トウカイテイオーの笑顔が、あんなにも頼りないのは──強がっているようにしか見えないのは、マクギリスにとって初めてのことだった。
星空はいつの間にか、雲に覆われていた───
次走「それでも夢は、諦めない」