マクギリス、トレーナーになる   作:アグニ会幹部

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2R 一日お試しトレーナー

 私がトレセン学園にトレーナーとして赴任し、トウカイテイオーにアグニカ・カイエルの姿を見てから、1週間の時が過ぎた。

 私は毎日、夕方になると練習用トラックコースに足を運び、毎日欠かさずトレーニングを行っているトウカイテイオーにスカウトをかけ続けている。

 スカウトを行うついでにアグニカ・カイエルについて語ってみたりもしているのだが、なかなか理解してもらえないし、トレーナー契約についても「え〜どうしよっかな〜?」というようにはぐらかされているのが現状である。

 

 しかし、問題はない。今はこれで良い。

 こういうことはしつこく、粘り強く続けることこそが重要だ。言葉を重ねていく中で見えてくるもの、分かってくるものもある。

 まずは私の熱意を伝えることと、彼女と向き合い続けるという姿勢を示し続けることが、何よりのアピールになり得よう。

 

 実際、彼女──トウカイテイオーのことは、話をする中でかなり分かってきた。

 彼女は「皇帝」シンボリルドルフに憧れ、このトレセン学園の門戸を叩いた。彼女の夢──野望は、シンボリルドルフと同じ「無敗の三冠ウマ娘」になること。

 

「これ言うと、笑う人もいるんだけどね。でも、ボクはやるよ。本当に本気で目指してるんだ。ふざけて言ってるわけじゃない」

 

 そして、今日も私のやることは変わらない。トラックコースを走った後、引き上げてきたトウカイテイオーに話しかけてコミュニケーションを取る。

 ここ1週間、毎日アプローチをし続けたことで、彼女とは当初より、距離が近づいているハズだ。

 

「当然だ。私としても、そうでなくては困る」

 

 夢を語ったトウカイテイオーの言葉に、私は頷く。

 

 彼女の野望は、私の野望とも合致する。

 シンボリルドルフは無敗の三冠を達成することでトゥインクル・シリーズの頂点に君臨し、絶対王政を敷いてみせた。結果のみが全てのレースにおいて、彼女は全てをねじ伏せ続けた。

 

 まさしく、私の求める力の象徴。

 アグニカ・カイエルに通ずるモノがある。

 

 私とトウカイテイオーが求めるモノ、目指すべきモノは同じだ。才能あるウマ娘だから、というだけではない──そうした点においても、私と彼女は共に戦うに相応しい。

 

「掲げた野望は、すべからく実現させなければならない。勝者こそが、時代を創り上げるのだからね。

 トウカイテイオー。君は『無敗の三冠』という野望を成し得るだけの才能を持っているし、そのための努力を惜しむことはない。それは、この数日君のことを見させてもらって、十分に理解できたよ。実に好感が持てる。

 君とならば、このトゥインクル・シリーズという覇道を駆け上がって行くことができるだろう」

 

 トウカイテイオーは目を細め、ジーッと上目遣いに見て来る。

 その目を正面から見据えていると、トウカイテイオーは「ふーん……」と言い、無邪気な笑顔を浮かべた。

 

「そんなにボクのトレーナーになりたいんだ?」

「ああ。私の意志はこの1週間で伝えた通りだ。トレーナーとして、君のサポートをさせてほしい。共にトゥインクル・シリーズの頂点に君臨しよう」

「──それじゃあさ、明日一日ボクにトレーニングをさせてみてよ」

 

 ───ほう。

 

「ホラ、ボクってすごいじゃん? だから、キミ以外のトレーナーからもいーっぱい勧誘されてるんだ。どうやって決めようかなーって思ってるんだけど、実際にトレーニング受けてみたら、何か分かるかもしれないなって思うんだ!」

 

 なるほど。確かに、選ぶ権利はトレーナーの側だけではなく、ウマ娘側にもある。

 彼女のように優秀なウマ娘ならば、尚更のことだ。

 

「分かった、喜んで受けて立とう。私としては願ってもないことだ」

「オッケー! それじゃあ明日、よろしくね!」

 

 バイバーイ、と笑顔で去ろうとするトウカイテイオー。

 しかし、私には1つ気になることがあったので、彼女を呼び止めた。

 

「トウカイテイオー。明日のために、1つだけ確認しておきたいことがある。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──そう言っていたな?」

「──? そうだけど……それがどうかしたの?」

「いや、それだけを確認したかった。わざわざ呼び止めてすまなかったな。

 私にチャンスを与えてくれて、ありがとう。こちらこそ、明日はよろしく頼む」

 

 トウカイテイオーは私の質問の意図が解せない、と言わんばかりに首を傾げていたが、手を振って彼女と別れる。

 そして、私はトラックコースを離れ、とある場所へと向かった。

 

「失礼する」

 

 扉をノックし、了承を得て入室する。

 そこは、トレセン学園の生徒会室。扉の正面には執務机が置かれ、窓から差し込む夕日を背に、本校の生徒会長が座している場所。

 

「おや。貴方は先日、テイオーをスカウトしていた──」

「改めてご挨拶を。私はマクギリス・ファリドだ。

 ───『皇帝』シンボリルドルフ。貴女に1つ、頼みたいことがある」

 

 

   ◇

 

 

 翌日。

 いつもより少しだけ早く、練習用トラックコースを訪れると、そこには既にトウカイテイオーが立っていた。

 

「あっ、来た来た。やっほー!」

 

 私の姿を認めると、トウカイテイオーは笑顔で両手を持ち上げ、ブンブンと手を振ってくる。

 私も片手を上げてトウカイテイオーに応え、彼女の下へと歩み寄る。

 

「随分と早いな。最終時限が終了してから、10分と経っていないハズだが」

「『無敗の三冠ウマ娘』になるためには、時間を無駄にしていられないからね! ねぇねぇ、今日はどんなトレーニングするの?」

 

 待ちきれないと言わんばかりに、トウカイテイオーはピョンピョンと跳ねる。元気が有り余っているようで何よりだ。

 

「今日は芝コースを使った、1600メートルの併走トレーニングを中心にする。

 とはいえ、感覚としては併走というよりかは模擬レースが近い。そのつもりで臨んでほしい」

「レースって、誰かと一緒に走るってこと?」

「ああ。これ以上ない相手に依頼しておいた。誰が相手になるかは、来てからのお楽しみということにしよう。

 ──約束の時間までは、まだ30分ほどある。まずは軽くウォーミングアップをし、身体をほぐして準備を整えてくれたまえ」

 

 ひとまずトレセン学園の敷地を1周するジョギングを指示すると、トウカイテイオーは「オッケー!」と言って飛び出していった。

 ──ジョギングというよりランニングではないか、と思えるほどのスピードだが、彼女にとってはアレがジョギングなのだろう。

 

 そして、トウカイテイオーが戻って来る頃には──トラックコースには、見学者が大勢集まっていた。

 

「ただいまー! ──って、何これ? すっごい人! 本当のレース場みたいじゃん!」

「ご苦労だったな、トウカイテイオー。

 ──これが何かと言えば、当然今日の模擬レースを見に来たギャラリー達だ」

 

 学年を問わず、トレセン学園の生徒たちが集まっている。

 ──いや、生徒だけではない。教師やトレーナーたちまでも、ギャラリーには混ざっている。

 

「お帰り、テイオー。待っていたよ」

 

 と、今回の併走相手がトウカイテイオーに声をかける。

 その姿を見て、トウカイテイオーは喜び驚いた。

 

「カイチョー!? 今日の相手ってカイチョーなの!?」

「ああ。昨日、彼に頼まれてな──聞かされていなかったのか?」

「全然知らなかったよ! やったー、カイチョーと一緒に走れるんだー!」

 

 模擬レースの対戦相手は、シンボリルドルフ。

 もはや言うまでもない。史上最強との呼び声も高いウマ娘だ。

 

「キミ、カイチョーを連れて来るなんてやるじゃん! でも、カイチョーで釣ろうとしたってそう簡単にはいかないんだからね!」

「まさか。かの『皇帝』をエサにしようだなんて、そんな失礼で大それたことなど考えてはいないさ。

 私がシンボリルドルフ会長を呼んだ理由は、彼女が君が目標とする存在そのものであり、最強のウマ娘だからという一点のみだよ。

 君はこれから、彼女と同じ場所へと至らなければならないのだ。そのレベルを今の内から体感しておくことは、君にとって良い経験になるだろう」

 

 強い相手と走ることこそ、ウマ娘にとって最高のトレーニングになる。シミュレーションを100回行うのも良いが、実戦を行わなければ得られないモノもある。

 

「併走トレーニングとはいえ、走る以上は負けるわけには行かない。───全力で来い、テイオー」

「勿論だよ!」

「──では、早速だが始めようか。あまり待たせては、観衆の顰蹙(ひんしゅく)を買いかねん。君」

「はい、私ですか? 何でしょう」

 

 コース内に立っていた適当なウマ娘に声をかけ、片手で持てる赤い旗を渡す。

 レース場において、発走委員がスタート台上で掲げる物と同じ旗だ。

 

「悪いが、スターターを担当してくれないか? 『よーい』の掛け声と共にこの旗を真上に上げ、『スタート』で勢い良く振り下ろしてくれれば良い」

「ええ、分かりました。──気まぐれの風が、私に向かって吹いたようですね」

「ありがとう。……良いレースを期待しているよ」

 

 微笑を浮かべる長髪のウマ娘に旗を渡し、トウカイテイオーとシンボリルドルフにそう言った後、私はラチの下をくぐってコースを出る。

 そして、スタート地点兼ゴール地点の真横に立ち、コース内に走る2人以外の者が立っていないことを確認し、頷いて旗を持ったウマ娘に合図を送った。

 

「それでは、僭越ながら───よーい、」

 

 赤い旗が上がると、2人が腰を落としてスタート態勢に入る。スターター役のウマ娘はそれを確認し、勢い良く旗を振り下ろす。

 

「スタート!」

 

 瞬間、2人は同時に芝を蹴り、飛び出した。

 経験の差か能力の差か、スタートダッシュはシンボリルドルフの方が速い。ギャラリーの歓声が上がる中で、シンボリルドルフはトウカイテイオーをかわして内ラチ沿いのポジションを取る。

 

(まずはついて来い、テイオー)

(ッ、離されたらダメだ……!)

 

 トウカイテイオーはシンボリルドルフの斜め後ろ、シンボリルドルフの蹴り上げた土が飛んで来ない位置を取り、コーナーをカーブして行く。

 

 芝コース、1600メートルが舞台。

 

 距離区分としては「マイル」であり、トウカイテイオーが目指すクラシック三冠レースと比べると短いものの、トウカイテイオーはまだジュニア級だ。

 身体が完成していないジュニア級の内に長い距離を走るのは負担になりかねないため、今回の模擬レースでは距離をマイルに設定している。

 

「──ほう。追走にも手間取るだろうと見ていたのだが、食らいついているな」

 

 ジュニア級でのデビューすらしていない、入学から間もないトウカイテイオーと、シニア級を戦い抜いてドリームトロフィーリーグへと駒を進めているシンボリルドルフでは、基礎的な身体能力のレベルが違う。

 シンボリルドルフについて行くことは難しいかもしれないと予想していたが、トウカイテイオーは存外涼しい顔でシンボリルドルフに追走している。

 

 少々トウカイテイオーをみくびりすぎていたか──と反省半分、感心半分で1コーナーから2コーナーの中間地点を走る2人の背を眺めていると、唐突に隣から、聞き覚えのある声をかけられた。

 

「話を聞いた時は驚いたぞ、マクギリス。ジュニア級のデビュー戦すら迎えていないウマ娘が、シンボリルドルフと併走しようとはな。勝負にならないだろう」

 

 聞き覚えがあるとはいえ、聞きたくもない声。

 私は嫌悪感を隠すことなく、私に声をかけてきた、私の名前を知る男──かつて、私の野望を打ち砕いた男の姿を横目にする。

 

「何故、貴様がこんなところにいる?

 ───アリアンロッド艦隊司令、ラスタル・エリオン」

 

 ラスタル・エリオン。

 かつて私の政敵として在り続け、私の障害となり続けた忌々しい男が、灰色のスーツを着て私の隣に立っていた。

 

「その肩書も、久々に耳にしたな。

 何故か、と聞きたいのは私の方だ。全く奇怪なことだが、ふと気づいた時にはこうして、トレセン学園のトレーナーをするハメになっていたというわけだ。

 ──そう怖い顔をするな。私とお前は同じ立場だ。争う理由は無い。同じトレセン学園のトレーナーとして親睦を深め、互いに協力していこうではないか」

 

 ラスタルは立派に生やした髭を撫でながら、余裕綽々に豪快な笑みを浮かべた。

 ──まさか、オルガ団長や三日月・オーガスと出会う前に、この男の姿を見ることになるとはな。これまでに覚えが無い、なかなかイレギュラーな展開だ。

 

 私はラスタルから視線を外し、併走をする2人を見ながら、適当に言葉を交わすこととした。

 

「なるほど。貴様も私と同じ、というわけか」

「そういうことだ。()()なってから、それなりに時間も経過している。

 担当するウマ娘がいないのなら、私のチームでサブトレーナーとして受け入れてやっても構わんぞ?」

「生憎だが、今は素質あるウマ娘にアテがある。丁重にお断りさせて頂こう」

 

 シンボリルドルフが残り800メートルのハロン棒の横を通過した瞬間、手元のストップウォッチを操作してタイムをチラリと確認する。

 前半800メートルは47秒と少し──マイル戦としてはかなりのスローペースだが、仮にこれが中距離レースならば平均程度である。

 当然シンボリルドルフはマイラーではないので、彼女としてはいつも通りか、少し遅めに走っているくらいだろう。

 

「それがあのウマ娘、というわけか。

 流石にルドルフも手加減しているようだが──とはいえ、入学したてでルドルフに追走できるとは、大したものだな。私のチームに勧誘してみたくなる」

「……ラスタル、貴様は───」

「如何にも。シンボリルドルフのトレーナーを担当している。彼女は私が担当したウマ娘の中で、最も優れたウマ娘だよ」

 

 驚きはあるが、ラスタルのことなどどうでも良い。

 2人が最終コーナーに差し掛かり、いよいよレースが佳境を迎えようとしている。

 

「よーし──行くよ、カイチョー!」

 

 最終コーナー手前。トウカイテイオーが、スパートをかけ始めた。

 およそ1バ身ほど開いていた間隔が、徐々にだが縮まって行く。シンボリルドルフは傍目にトウカイテイオーの姿を確認しながら、トウカイテイオーに先んじて第4コーナーをカーブし、最終直線に入って来る。

 

「───抜かせんぞ!」

 

 そして、シンボリルドルフはこれまでとは全く違う絶大な力で芝を踏み込み、一気にスパートをかけた。

 

 グンッ、と押し出されるかのような伸び。

 ギアが何段も切り替わり、風をすら置き去りにするように──シンボリルドルフは、トウカイテイオーとの差を再び開いた。

 

「な───!?」

 

 トウカイテイオーが驚きを露わにする。

 またも差が1バ身に広がった。──いや、1バ身どころではない。

 

 1バ身半、2バ身、2バ身半、3バ身──1完歩ごとに、シンボリルドルフとトウカイテイオーの差は広がって行く。

 

 トウカイテイオーとて、ジュニア級ウマ娘とは思えないほどの脚を使えているにも関わらず、シンボリルドルフはトウカイテイオーを瞬く間に突き放してみせた。

 

「──全力には程遠く、とうに一線を退いてなお、これか。流石は七冠ウマ娘だ」

 

 思わず感嘆の言葉が漏れる。観客の盛り上がりも最高峰に達している。

 そのまま、シンボリルドルフはトウカイテイオーに大差をつけてのゴールを果たした。

 ジュニア級ウマ娘を相手にドリームトロフィーリーグのウマ娘が勝つことは当然のことであるが、それでもなお会場は大歓声に包まれた。

 

「皆、声援感謝する」

 

 シンボリルドルフは息も切らさず、観客に手を振って歓声に応える。

 タイムは1分34秒と少し、上がり3ハロン(残り600メートル地点からゴールまでのタイム)は34秒強。勿論、全力を出せば更に縮まるだろう。

 道中のペースがかなりスローであったことから、相当脚は溜まっていたであろうというのに、この程度のタイム──完全に流していたレベルであり、明らかに全力とは程遠い走りだった。

 

 一方、トウカイテイオーはシンボリルドルフから2秒以上遅れてのゴール。

 入学直後の、まだまだ身体が鍛え上げられていないジュニア級ウマ娘としては大健闘と言えるが、流石に頂点への道のりは遠い。

 

「ご苦労だったな、トウカイテイオー」

 

 膝に両手をつき、俯くトウカイテイオーにタオルを差し出すとともに、労いの言葉をかける。

 1600メートルのコースを全力で走りきり、息を荒げたトウカイテイオーは、呼吸を整えながらもシンボリルドルフの方を見た。

 

「───あーあ、負けちゃったなぁ。やっぱり、カイチョーはすごいや」

 

 強くて、カッコよくて──と、トウカイテイオーは羨望の眼差しをシンボリルドルフに向ける。

 そこには屈辱であるとか、悔しさというモノは感じられなかった。単なる憧れ──いや、これは最早、一種の諦めのようにすら見える。

 

「……トウカイテイオー。それだけか?」

「それだけ、って──何のこと?」

「今、君が思うことはそれだけなのか?

 君は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 タオルを口元に当て、汗を拭うトウカイテイオーに、そう問いかける。確固たる事実を突きつける。

 トウカイテイオーは、私に言われたことで初めて、そのことに気がついたようだった。

 

「──そりゃ、そうだけどさ。

 でも、カイチョーが相手じゃ仕方ないよ。カイチョーはボクの憧れで、一番すごいウマ娘なんだから」

「なるほど。──本当に、自分を打ち負かしたことで大歓声を浴び、注目を集めているウマ娘の姿を見て、何とも思わないと。君はそう言うのか?」

 

 この質問に、トウカイテイオーはほんの一瞬、表情を揺らがせたが──直後、タオルを投げ返して来た。

 

「───ボク、今日はもう帰るよ。じゃあね」

 

 シンボリルドルフから視線を外し、私とも目を合わせることなく、トウカイテイオーは去って行った。

 その背を見送った私に、ラスタル・エリオンが鬱陶しくも話しかけてきた。

 

「……素質あるウマ娘とはいえ、やはりシンボリルドルフ相手では相当厳しかっただろう。併走トレーニングとしては、破綻していたようにも思えるが」

「いや、これで良い。私の狙いは達成されたからな」

「だろうな。やはり、そうだったか」

 

 ラスタルは納得したように頷いた。

 タオルを簡単に畳みながら周囲を見渡すと、先程まで相当な数がいた観客は半分以下にまで減っている。

 そして、下級生たちと話していたらしいシンボリルドルフが、私たちのところへやって来た。

 

「すまなかったな、ルドルフ会長。君には、嫌な役回りを務めさせてしまった」

「構いませんよ。片手間にひねり潰してやってほしい、と言われた時は少し驚きましたが──()()()()()()()()()()()()()、というのが、今日の目的なのでしょう?」

「ああ」

 

 シンボリルドルフの言葉を、短く肯定する。

 敗北を知らない、という者は強者に見えるが、実際のところは大きな弱点を抱えているモノだ。敗北を知っている者しか持たない「強さ」は、間違い無く存在している。

 

 しかし、トウカイテイオーが「無敗の三冠」を目指している以上、トゥインクル・シリーズのレースで負けさせるわけにはいかない。

 故に、せっかく一日お試しでトレーナーをやるからには、とそれを今日やってやることにした。

 

 中等部に入学して間もない少女には酷であるようにも思うが、この程度で折れるなら、所詮はその程度。どの道、頂点には上っていけないだろう。

 圧倒的な強者に踏みにじられ、蹂躙されてもなお這い上がっていける者だけが、純粋な力のみが輝きを放つ舞台で生きていける。

 私はそうやって生きて来た。鉄華団の者たちもそうだった。

 

「──彼女は、気づきかけているようだったからな。

 今日はまだ終わっていない。仕上げとして、もう一手ほど打つことにしようか」




次走「契約、成立……!?」
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