今年のクラシック戦線が終結し、この後の秋のGⅠ戦線はシニア級ウマ娘とクラシック級ウマ娘の戦い、そしてジュニア級では来年のクラシックを占うレースが行われていくことになる。
菊花賞の前には、盾を巡って争われる日本中距離GⅠの最高峰とまで言えるレース──GⅠ「天皇賞(秋)」が、東京レース場で行われていた。
主役は前哨戦である京都芝2400メートルのGⅡ「京都大賞典」を、2着に3バ身半差をつけて完勝したメジロマックイーン。
東京芝2000メートルにおいては圧倒的に不利とされる外枠に放り込まれながらも、当日のメジロマックイーンは圧倒的な支持を受ける一番人気となり、発走時刻を迎えた。
『ゲートが開いて、第104回の天皇賞!
さあここからが大変、二コーナーまでの先手争い。先陣争いですが、外からマックイーンが行った!!』
メジロマックイーンはスタート直後、真っ直ぐに内に切り込んで先頭に立った。
スタンドがどよめき、歓声が上がる。2コーナーを曲がる頃には、前に2人ほどウマ娘を置いて、メジロマックイーンは3番手に控える形となった。
小雨の中で湿った土を蹴り上げながら、18人のウマ娘が不良バ場を駆けて行く。
そして、第4コーナーで再び先頭に並びかけたメジロマックイーンは、残り200メートル地点で完全に抜け出し、後続をあっという間に引き離した。
『先頭完全にマックイーン! マックイーン抜けた! マックイーン抜けた!
勝ったのはメジロマックイーン!! 強すぎる!! 強すぎる!!!
メジロマックイーン、天皇賞春秋連覇!!! 3人目の春秋連覇、メジロマックイーン!!!』
なんと2着に6バ身差をつける圧勝。
この一戦を以て、メジロマックイーンは正真正銘、現役最強の座に上り詰めた──
───と、思われたが。
場内の着順掲示板には、「審議」の二文字と青いランプが点灯していた。
『お知らせ致します。東京レース場、第10レースは第2コーナーで6番ムービースター、8番プレジデントシチー、9番メイショウビトリアの進路が狭くなったことについて、審議を致します』
小雨の場内に、抑揚の無い落ち着いたアナウンスが響き渡る。
1位入線のメジロマックイーンが強気な先行策を取り、斜行めいた形で最初のコーナーに突入したことに原因があるようだった。
左手を上げたメジロマックイーンを祝福する一方で、場内の誰もが固唾を飲んで、着順に直接影響するかもしれない審議の結果を待ったが───その結論は誰もが予想し得ない、驚くべきものとなった。
『お待たせ致しました。東京レース、第10レースの審議について、お知らせ致します。
第1位に入線した13番メジロマックイーンは、第2コーナーで急に内側に斜行し、6番ムービースター、8番プレジデントシチー、9番メイショウビトリアの進路を妨害したため、第18着に降着とし、着順を変更の上、確定致します。
従って、3着までの着順は1着10番、2着14番、3着2番となります』
メジロマックイーンは、何と最下位への降着処分を受けることとなった。
この前代未聞の制裁は、大いに議論を呼ぶことになる。
確かにメジロマックイーンはポジションを取りに行ったことで結果的に斜行し、それによって内のバ群が押し込まれて過度な密集状態となり、あわや転倒寸前になったウマ娘もいた。
しかし、GⅠの舞台で2着に6バ身差もつけた以上、不利や無理なポジション取りを抜きにしてもメジロマックイーンの勝利は揺るがなかっただろうという見方や、そもそもスタート直後100メートルの時点でほぼ直角に近いコーナーがある東京芝2000メートルのコース形態自体が問題という意見も多く挙がった。
いずれにせよ、今年の天皇賞(秋)は日本最高峰の栄誉を誇るGⅠにあるまじき、非常に後味の悪い決着を見た。
それから1ヶ月後には、海外からウマ娘が参戦する国際招待競走、GⅠ「ジャパンカップ」が開催。
1番人気はまたもメジロマックイーン。
結果的に降着になったとはいえ、秋の天皇賞で圧倒的着差の1位入線を果たしたことは紛れも無い事実。400メートルの距離延長も、間違い無くプラスに作用するだろうと見られていた。
創設から十数年、海外勢に勝ち越されているこのジャパンカップにおいて、現役最強ウマ娘として日本の意地を見せてほしい──そうした願望もあっての1番人気だった、のだろうが。
『マックイーン出て来たか! マックイーン出て来たが、外の方からゴールデンフェザントが突っ込んで来る! ゴールデンフェザントが突っ込んで来た!
マックイーンは現在3番手! 200を切りました、マジックナイトとゴールデンフェザント! アメリカ代表のゴールデンフェザントだ!!
ゴールデンフェザント、1着でゴールイン!!!
マックイーン敗れました!! マックイーン勝てないッ!!』
1着は7番人気、ただ1人アメリカから参戦した芦毛のウマ娘、ゴールデンフェザント(Golden Pheasant)。
メジロマックイーンは日本のウマ娘の中では最先着したものの、結果は4着。道中スローペースからの瞬発力勝負というレースになり、メジロマックイーンには不利な展開になったとはいえ、またも日本は世界の壁に跳ね返される結果となった。
日本のファンは、今年も日本のウマ娘が誰一人として立てなかったジャパンカップのウイニングライブを見て、打ちひしがれたことだろう。
タマモクロスもオグリキャップも、メジロマックイーンですら勝てないジャパンカップ。
シンボリルドルフに続く、世界の壁を破壊するウマ娘が現れることを、ファンは熱望している。
───と、秋の中距離GⅠに挑んだメジロマックイーンは、彼女自身の体調などに問題があるわけではないにも関わらず、様々な不運から結果を出せない状況にあった。
「何でだ……何でこうも上手く行かないんだ……!」
と、トレーナーであるガエリオも、この微妙に歯車が噛み合わない状態に頭を抱えている。
しかし、終わったことをいつまでも嘆いていても仕方がない。切り替えて年末の大一番、GⅠ「有馬記念」に向けて調整を進めて行くらしい。
現役最強と謳われるウマ娘として、次の有馬記念こそ落とすわけには行かない。三度目の正直に期待したいところである。
「見て見てトレーナー! ボク、もう病院行かなくて良いんだって!」
一方、トウカイテイオーの怪我は完治し、通常のトレーニングを再開できる段階まで来た。
「何よりだ。少しずつ、トレーニングを再開して行くとしよう」
トレーナー室に自分の足だけで歩いて来て、元気にステップを踏むトウカイテイオーを見て、私は口元を緩ませた。
トウカイテイオーの復帰は、医者の言った通り来年の春を予定している。トウカイテイオーは有馬記念のファン投票でも人気を集めるだろうし、出走の申し出がURAから来るかもしれないが、それは謹んで辞退させて頂く予定だ。
急いで無理をする必要は無い。トウカイテイオーが無敗を貫き通すためにも、じっくりと身体を作り直していかなければならない。
「ひとまず、来年の3月末か4月くらいにレースに出られるよう、調整したいと考えているよ。春に出る具体的なレースはまだ決めていないが──私個人としては、海外遠征も視野に入れて色々と考えている」
「海外!? 何それ、どこ行くの!?」
「今のところは何も決めていないが──行くとすれば日本のレース場と芝がよく似ている国が良い。例えば、アメリカやオーストラリアか」
トウカイテイオーの力は、海外の強豪にも決して劣るものではないと私は考えている。トウカイテイオー世界進出──随分と夢のある話だ。
国内のジャパンカップですら海外ウマ娘たちに好き勝手やられているのに何を言っているのか、と思われるかもしれないが、世界の大舞台で活躍する日本のウマ娘の──トウカイテイオーの姿は、いつか見てみたいものである。
「しかし、これはあくまで私の勝手な考えに過ぎん。もし君から何かリクエストがあれば、それを尊重するつもりだ。
選択肢はそれくらい広く持っている、という意味であると捉えて、話半分に受け取っておいてくれ」
とはいえ、トウカイテイオーは一度怪我をしている身。言わば足元に爆弾を抱えている状態である。
その点は改めて、肝に銘じなければなるまい。
「カイチョーも海外に行ったことあるもんね。行けそうなら行ってみようよ」
「無敗を守ることを考えれば、険しい道になるがな。
何より、まずは国内で結果を残さなければ、海外遠征など戯言にしかならん。骨折でそれまで持っていた競走能力を失ってしまうウマ娘もいるが──そんなことは一切無いということを、見せつける必要がある」
「うん。やってやろうよ、トレーナー!」
とにかく、重要なのは復帰戦だ。
普通に考えれば阪神芝2000メートルのGⅡ「産経大阪杯」など、何かしらの重賞レースになるだろうが──トウカイテイオー健在、と世間に示すためにも、良い状態で彼女をレースに送り出せるようにしなければな。
◇
12月後半。
1年の総決算たるGⅠ「有馬記念」が迫る中、中山レース場ではジュニア級GⅠ「朝日杯ジュニアステークス」が行われようとしていた。
阪神レース場で開催されるGⅠ「阪神ジュニアステークス」と並び、ジュニア級の王者を決定するGⅠレースであり、来年のクラシック戦線を占う上でも非常に重要な一戦になる。
──とはいえ、今年から阪神ジュニアステークスはティアラ路線のウマ娘限定のレースに変わったのであるが。
そこに担当ウマ娘を送り出す男が1人、臙脂色のスーツを身に纏って、中山レース場のスタンドにいた。
「……オルガ、緊張してるの?」
「なっ、バ……バカ言うんじゃねぇよミカ、き、緊張なんてしてるわけねぇだろ……」
トレセン学園の新人トレーナー、オルガ・イツカ。
自分の担当ウマ娘が初のGⅠに挑む──彼自身も担当ウマ娘をGⅠに出走させることは初めてであり、随分と緊張した面持ちだ。傍らに立つ三日月・オーガスへの返答も、分かりやすいほど声が震えている。
「ミホノブルボンなら勝てるよ」
「──ああ、分かってる。分かってるんだが……」
当然、記念出走などではない。オルガは勝てると思って自分の担当ウマ娘を送り出している。
彼の担当するミホノブルボンは、ここまで2戦2勝──どちらのレースにおいても上がり最速のタイムをマークしており、この舞台でも1番人気に支持されている。かのマルゼンスキーなどと同じ、無敗での朝日杯制覇が期待されている格好だ。
「随分と緊張しているようだな、オルガ・イツカ。いや、初のGⅠとなれば無理もないが、トレーナーが堂々としなければウマ娘への示しはつかんぞ」
と、ガチガチに緊張しているオルガに言う者が1人。オルガはその男の声を聞いた瞬間、表情を険しくする。オルガの様子を見て、三日月も喧嘩腰になる。
「……何、アンタ」
「おや、そう言えば君と会うのは初めてになるな──ガンダム・バルバトスのパイロット。
ではまず、自己紹介をしよう。私はラスタル・エリオンだ。よろしく頼む」
その男とはラスタル・エリオン──かつてオルガ達と対立したが、この世界では同じトレセン学園のトレーナーを務めている。
ベテランのトレーナーとして多くの有力なウマ娘たちを担当し、彼の率いるチームはトレセン学園の中でもトップの勢力を誇る。オルガ達にとっては同僚でありライバル、ということになる。
「ラスタル? どっかで聞いたような───」
「アリアンロッドの頭目をやってた奴だよ。俺たちをマクギリス共々、皆殺しにしようとした奴だ」
「───ああ。俺たちに何の用?」
「そう構えないでほしいモノだな。この世界において我々は、協力すべき同僚という奴なのだから。
君たちに対して行ったことで許しを乞う気は無いし、謝罪をする気も無いが──割り切って付き合うのが『大人』というモノだろう」
三日月の殺気のこもった視線を受け流しながら、ラスタルは笑みを浮かべてオルガに言う。
「まずは朝日杯まで漕ぎ着けたようだな。しかも、今までミホノブルボンは『無敗』を保っている。
ひとまずは合格だよ、オルガ・イツカ」
「ああそうかよ。評価を頼んだ覚えはねぇがな」
ラスタルの評価に対して、オルガはぶっきらぼうに返す。この世界で殺し合いをする理由は無いし、ミホノブルボンの移籍を認めてもらったこともあるが、かと言って仲良くお話ししたいということも無い。
「しかし、この戦いとて結局は通過点に過ぎん。最終目標は『菊花賞』──京都の3000メートルなのだからな。
私のチームのウマ娘が出ていることもある。ついでだ、この朝日杯でミホノブルボンが1600メートルまでをこなせるかどうか、見届けさせてもらおう」
「勝手にしろ。──テメェが自分のチームから誰をぶつけて来ようが、ブルボンは止まらねぇ。
三冠のために、ここを負けてはいられねぇからな」
オルガはラスタルに視線を合わせず、ただコースの方を見ている。ラスタルも「言いたいことは言った」とばかりに、オルガから視線を外す。
三日月は2人の駆け引きについては知らないが、元々ラスタルのチームに所属していたらしいミホノブルボンをオルガが担当するにあたって、何かがあったことは察している。経緯を聞くより前に、まずはミホノブルボンのレースを見守ることにした。
「───始まるよ、オルガ」
場内に関東GⅠファンファーレが響く。
そんなファンファーレも、スタンドの大観衆からの歓声さえもほとんど届かない向正面で、出走ウマ娘8人の枠入りが始まった。
舞台は中山レース場外回り、芝1600メートル。
1コーナー奥のポケット地点からスタートし、2コーナーから外回りコースに突入。3コーナーで内回りコースと合流し、4コーナーを曲がるトリッキーな形状のコースである。勿論、最後の直線は約310メートル。
コース全体の高低差は約5メートルで、向正面から4コーナーまで下り坂が続く。
ゴール前200メートル地点には高低差約2メートルの急な上り坂があり、地力の問われるコースと言えよう。
『ミホノブルボンがゆっくりと歩いて行きます。
それからマチカネタンホイザ、最後に8番のスーパーソブリン』
「────」
身体のラインがハッキリと出る白いタイツ、胸元には黄色の輪が描かれた桃色のネクタイ。全身に銀色の装飾が光る、ロボットかのような勝負服に初めて袖を通したミホノブルボンは落ち着いていた。
2つ隣のウマ娘が「えい、えい、むん!」と謎の掛け声を発していても、その集中は全く乱れない。
『さあこれで8人、ちょっと嫌ったかスーパーソブリン。
7人は既にゲートの中、納まっています。もう一度挑戦、納まりました。ゲートイン完了です!』
周囲に立つ職員が旗を振り、ゲートが開かれる。
8人のウマ娘は、遅れず一斉に飛び出した。
『ゲート開いてスタートが切られました、第43回朝日杯ジュニアステークス!
さて先行争い注目でありますが、マイネルアーサーが行きました。マイネルアーサーが行った。そして、ミホノブルボンも早めに2番手に上がって行きます』
ミホノブルボンは勢いに乗って先行し、全力でハナを切りに行ったウマ娘の後ろ、2番手につけた。
ラチ沿いの最内を走る先頭のウマ娘と違い、内ラチからは1人分開けた状態で走って行く。
「良し……!」
(位置取り完了。ペースを維持しての追走に移行します)
オルガが拳を握り、ミホノブルボンも最初のミッションは成功だと判断した。
内を1人分開けておけば、前のウマ娘が失速しても邪魔になることがない。途中で外に持ち出すなど、進路を切り替えなければならなくなる心配も無く、ペースの維持にのみ意識を割くことができる。
ここまでは理想的な、思い描いた通りの展開だ。
『3番手からエーピージェット、ヤマニンミラクルは4番手。5番手、中団よりちょっと後ろという感じでマチカネタンホイザ行っています。
その外を通りましてシャートストーン、その後ろスーパーソブリンにハヤテオーシャンという態勢であります』
バ群が第2コーナーに差し掛かり、右側へとカーブして行く。
隊列は大きく変わらず。ミホノブルボンは前のウマ娘に身体半分ほど並びかけるくらいのポジションを維持し、心の中で正確にタイムを数える。
(800メートル通過、47秒。平均ペースと判断)
『さあ3・4コーナーの中間を過ぎました。400の標識にこれからかかろうというところ!』
向正面から坂を下りながら、第3コーナーから第4コーナーへと入る。中間地点でバ群が縦に詰まる。
『マイネルアーサー依然として先頭でありますが、ヤマニンミラクルが早くも上がって来た! ミホノブルボンに並んで参りました!』
水色と赤の勝負服を纏ったウマ娘、ヤマニンミラクルが最終コーナーを曲がる勢いそのままに、ミホノブルボンの外に持ち出す。
しかし、ミホノブルボンは焦らない。内のウマ娘をチラリと見て、彼女の脚色が既に鈍っていることを見抜きながら、あくまで自分のペースを維持する。
最終コーナーをカーブし、8人が短い直線に躍り出る。
『さあ、最後の直線であります!
先頭はマイネルアーサー、ここでミホノブルボンが先頭に立った! ミホノブルボン先頭に立った!
そしてその内、真ん中を通りましてエーピージェット上がって来る! 外を通ってヤマニンミラクル追い込むが、ミホノブルボン先頭!』
内のウマ娘をかわし、ミホノブルボンは先頭に躍り出た。
後ろから差して来ようとするウマ娘の気配を感じながら、スタンドからの大歓声に背中を押されるかのような感覚を覚えながらも、彼女はあくまで冷静だ。
(今週の中山レース場は芝の内側が荒れているため、内からの差しは届かないと判断。残り200メートル、まだ私には余裕があります。ペースも設定通り──)
そして、ミホノブルボンは冷徹にも思える瞳を、外に向けた。
視線の先には、自分に並びかけて来ているウマ娘、ヤマニンミラクル。
ここまでミホノブルボンは淀みないラップを刻んで来た。最後までそのペースを維持し、後続を振るい落とせば、勝利を掴めるだろう。
(───ラストミッション。貴女を振り切ります)
芝を力強く踏み込み、息を吸い込んで、全力で蹴り飛ばす。
外のヤマニンミラクルも早めに並びかけて来たとはいえ、脚は残している。だが、現状はミホノブルボンの方が僅かに前にいるのだから、ここから同等の脚を使えば、絶対に追い抜かされることはない───!
『ミホノブルボンが先頭だ! ミホノブルボンが先頭だ! 外を通ってヤマニンミラクルが追い込む! ヤマニンミラクル追い込む!
しかし、ミホノブルボンが僅かに先頭!!』
「行け、ミホォォォッ!!!」
ミホノブルボンとヤマニンミラクルが並んだまま、三番手を2バ身突き離しての壮絶なデッドヒート。
流石に最後は少し脚色も鈍ったが、オルガの叫びに応えるように、ミホノブルボンは最後まで外から抜かせなかった。
『ヤマニンミラクルが追い込むが、ミホノブルボンです!!!』
2人がゴールへ、もつれ込むように入線する。
差して来たヤマニンミラクルを、ミホノブルボンはハナ差で僅かに、しかし確実に完全に抑え切った。
『勝ったのはミホノブルボン!! 栗毛のウマ娘、デビュー3連勝です!!
勝ちタイム、1分34秒5!』
「よっしゃああああああッ!!」
オルガはスタンドの最前列で、盛大にガッツポーズを決めた。ミホノブルボンは早くも息を整え、汗を拭いながらも涼しい顔でオルガの元へと歩いて行く。
「GⅠレースを勝利しました。ありがとうございます」
「そりゃこっちのセリフだ、ブルボン。てか、こっからじゃねぇのか? 目標は三冠なんだろ?」
オルガの言葉に、ミホノブルボンは頷いた。
「はい。最終目標には、クラシック三冠達成が設定されています。
これからもよろしくお願いします、マスター」
「おう、俺の方こそな」
ミホノブルボンが差し出した手を、オルガも握り返す。
この勝利が、オルガとミホノブルボンにとって、GⅠ初挑戦で初めての戴冠となった。
ミホノブルボンは歴代の名だたるウマ娘たちに次ぐ無敗の朝日杯制覇で、一気にクラシック戦線の主役に躍り出た──が、これはあくまで通過点でしかない。
彼らが見据えるのはクラシック三冠。
しかも、ただの三冠ではない──ミホノブルボンの三冠には、未だ「無敗」という言葉が付く。
「……良くなるのはまだ先の話だとはいえ、マチカネタンホイザが相手にならんとはな。ミホノブルボンの才能はこの距離でも通用する、ということか」
ラスタルは感心したように、そう呟いた。
やはりミホノブルボンのスピードは、この世代の中でも抜けたものがある。懸念すべき距離の問題も克服しつつあるのだろう。
ミホノブルボンには、本当に来年のクラシック三冠を取られてしまうかもしれないと、ラスタルは思い始めていた。
一方で、ミホノブルボンの挑戦は純粋にトレーナーとして興味深いことだった。
(鍛錬によって、持って生まれた距離適性をどこまで延ばすことが出来るのか──実験、と言うと聞こえが悪いが、ミホノブルボンはその貴重な実例になるだろう。来年が楽しみだな)
ラスタルは微笑を浮かべ、コースに背を向けてスタンドを後にした。
(───俺たちも、ライスも負けてられないな)
そして、オルガとミホノブルボンを横目に見ながら、三日月は大きな目を僅かに細めるのだった。
次走「見据えるは春の盾」