マクギリス、トレーナーになる   作:アグニ会幹部

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26R 常識は敵だ

 メジロマックイーンが勝利したGⅠ「天皇賞(春)」から2週間。

 河原の芝生にトウカイテイオーは1人、何をするでもなく寝転がっていた。

 

 その傍らには1本の松葉杖があり。

 トウカイテイオーの右脚には、ギプスと包帯が巻き付けられている。

 

 憎らしいほどに青い空と、痛いほどに眩しい太陽を見上げながら、ボンヤリとトウカイテイオーは物思いに耽っていた。

 

(……何にも、無くなっちゃった。

 『三冠』も『無敗』も、次の予定も)

 

 レースから10日後に受けた検査で、トウカイテイオーの右脚には剥離骨折が見つかった。

 次走に予定していた六月末のGⅠ「宝塚記念」は当然回避となり、今後のローテーションは白紙に戻った。

 

 以前より骨折の程度はマシなモノで、今年の秋には復帰できる見込みだが──先の「天皇賞(春)」で5着に敗戦したことで、トウカイテイオーはクラシック三冠を断念した後に掲げた「生涯無敗」という夢を打ち砕かれた。

 いつかレースには復帰できる。それは良い。

 だが───

 

(───ボク、これからどうすれば良いんだろ)

 

 今のトウカイテイオーには、何も目標が無かった。

 

 トゥインクル・シリーズで走るシンボリルドルフに憧れ、トレセン学園の門を叩いたトウカイテイオー。

 シンボリルドルフと同じ「無敗の三冠」を達成したい、という夢を持っていた彼女は、それだけを目標にして努力して来た。

 怪我によってクラシック三冠を諦めたトウカイテイオーの夢は、「無敗の三冠」から「生涯無敗」に変わったが──それももう、叶わぬ夢と成り果てた。

 

 最初に抱いていた夢を全て打ち砕かれたトウカイテイオーは今、トゥインクル・シリーズで走ることの意味を見出せずにいる。

 

 走りたくなくなったわけじゃない。

 しかし──何のために走るのかが、分からなくなってしまった。

 

 ささやかな風が、トウカイテイオーの頬を撫でる。

 暖かな陽気に包まれながら、トウカイテイオーは微睡みに身を任せるように、桃色の瞳を目蓋の裏に隠すのだった。

 

 

   ◇

 

 

 5月末日、東京レース場。

 雨によりバ場状態の発表は「稍重」となったターフの上には18人のウマ娘が立ち、スタンドは十数万人の観客で埋め尽くされていた。

 

 メインレースはGⅠ「東京優駿(日本ダービー)」。

 

 クラシック世代の頂点を決定する、トゥインクル・シリーズの祭典が、今年もやって来たのである。

 

「いよいよ来たね、オルガ」

「……ああ」

 

 スタンドの関係者席で、オルガ・イツカは三日月・オーガスの言葉に緊張した様子で応える。

 

 オルガが担当するウマ娘、ミホノブルボン。

 本質的にはスプリンターと思わせるような走りをする彼女だが、その夢は「三冠ウマ娘」。

 

 第一冠「皐月賞」を見事逃げ切って勝利した彼女は、ここまで5戦5勝。昨年のトウカイテイオーと同じように、無敗のままダービーに挑もうとしていた。

 「無敗」の二文字が付いていることで、ファンの期待はますます二冠達成に向けて高まりを見せ、今日も圧倒的な一番人気に支持されている。

 

 オルガはミホノブルボンの走りに感心し、彼女ならばきっとダービーも──400メートルの距離延長もこなしてくれるだろうと思い、自信を持って担当ウマ娘を送り出した。

 送り出した、のだが──それはそれとして、やはり心配ではあるし緊張もするのだった。

 

「これはこれは。なかなか面白い顔をしているな、オルガ・イツカ」

 

 と、そんなオルガに話しかける男が1人。

 オルガと三日月はその声を聞き、面白くないと言わんばかりに眉を顰めた。

 その男とは、ラスタル・エリオンである。

 この世界では同じトレセン学園のトレーナーで、ダービーにも自分のチームからマチカネタンホイザを出走させている。

 

「──何の用だよ」

「たまたま見かけたから、話をしてみようと思ったまでだ。他意は無いから安心すると良い。

 ミホノブルボンには相当ハードなトレーニングを課したようだな。あんな厳しいメニューをこなして鍛え上げられるウマ娘など、そうはいない」

「アイツ自身の要望だ。……5本目は止めたけどな」

 

 ミホノブルボンはスタミナを鍛えるため、トレセン内の坂路コースで厳しいトレーニングを行っている。

 その厳しさたるや、彼女を「坂路の申し子」などと呼ぶ者がいるほどで、オルガは彼女がやり過ぎないようにしたり、トレーニングの負荷を調整したりと苦労しているようだ。

 

「バルバトスのパイロット──三日月君、だったか。君も担当ウマ娘のダービー出走にこぎ着けたようで何よりだ。

 しかし、春先まで怪我をしていたというのに、いささか出し過ぎではないか? スプリングステークスから皐月賞、NHK杯を挟んで使い詰めているな」

「……ライスがいっぱいレースに出たいって言うから。

 アイツ、何回か使った方が調子良くなるみたい」

 

 一方、三日月が担当するライスシャワーも、このダービーには出走することになった。

 怪我からの復帰戦となったスプリングSは4着、皐月賞とNHK杯は八着と、ここまではあまり振るわない。

 今日も人気は低いが、一部のコアなファンには「距離延長はプラス」と捉えられている。

 

「なるほど。ミホノブルボンがダービーで──2400メートルの舞台でも勝てるのか、彼女の走りを楽しみにしているよ。

 ……どうでも良いが、今日はマクギリスとヴィダールは来ていないのか?」

「そう言えば、今日は見てないよね」

「ああ。トウカイテイオーは怪我しちまったし、メジロマックイーンは1ヶ月後に宝塚記念だしな」

 

 マクギリス・ファリドとガエリオ・ボードウィンの両名の姿は、今日の東京レース場にはない。

 ──それから、オルガはラスタルに質問を返す。

 

「アンタ、その後ろのウマ娘は何だ?」

 

 オルガが指差すのは、ラスタルの後ろに着いている女性だ。ボリュームのある白い髪──芦毛だろう──に、赤い縁の眼鏡をかけた長身のウマ娘である。

 ターフを見ていた彼女は、オルガと三日月の視線に気づいたようで、身体を90度回転させて2人に一礼し、眼鏡に片手を当てて位置を直しながら名乗った。

 

「失礼、ご挨拶が遅れたな。

 私はビワハヤヒデと言う──よろしく頼む」

「来年のクラシックで、私が期待しているウマ娘だ。

 悪いが、来年は彼女と共にクラシックを貰うぞ」

 

 芦毛に眼鏡のウマ娘──ビワハヤヒデに、オルガと三日月はそれぞれ「よろしく」と言葉を返す。

 トレセンの中でも屈指の大チームを率いるラスタルが、ダービーの見学に連れてくるほど期待するウマ娘とあり、名前を覚えておこうとオルガは思う。

 

『昨年とは打って変わって、生憎の雨となりました東京レース場。稍重のバ場で、今年の日本ダービーの発走時刻を迎えようとしています』

 

 そうこうしている内に、場内に実況放送が流れ始めた。オルガと三日月とラスタルは、出走する自分の担当ウマ娘たちが待つゲート裏に視線を移す。

 ミホノブルボンは落ち着いた様子、ライスシャワーは緊張を解すかのように頬を両手で叩いている。

 

『1番人気はミホノブルボン、圧倒的な支持を集めていますが──今回は初の2400メートル戦です。

 かつては朝日杯からスプリングS、200メートルの距離延長すら不安視された彼女ですが、このダービーの距離適性、というのはどうなのでしょうか?』

『そうですね……私は問題無いのではないか、と思っています。この中間はアクシデントもありましたが、彼女は想像を絶するほど過酷な坂路トレーニングをこなして、心肺機能を鍛え上げて来ました。

 今日のバ場を考えても、後方のウマ娘が瞬発力を発揮するのは難しいでしょうから、やはり前に行くであろうミホノブルボンに展開が向くのではないかなと思います』

 

 ミホノブルボンは「逃げ」のウマ娘だが、直線が525メートルと長いこの東京レース場では、後方脚質のほうが有利になる。逃げ切りは絶望的、と言われるほどである。

 しかし、この稍重のバ場が差し・追込の有利を崩す要素になる可能性も大いにあるだろう。

 

『やはりミホノブルボン、逃げますでしょうか?』

『はい、ブルボンは行くでしょうね。彼女がどういうペースを刻むのか、どういうレースメイクをするのか──非常に楽しみですね』

『淀みの無い逃げで、危なげなく皐月賞を制していますミホノブルボン。果たして、400メートルを克服しての無敗の二冠はなるのか。

 さあ、参りましょう! 日本ダービーのファンファーレです!』

 

 スターターがスタート台に上り、赤旗を振る。

 雨天の府中市に、生演奏の関東GⅠファンファーレが鳴り響き渡った。

 

『先ほどミホノブルボンは逃げるだろう、という細江さんの予想をお聞かせ頂きましたが、他のウマ娘については如何ですか?』

『そうですね、ミホノブルボンがスタートで遅れるようなら、自分が行っても良いと思っているウマ娘もいるでしょうね。彼女の枠からして、出遅れるとハナを取るまでにかなり脚を使うことになりますから』

 

 今日のミホノブルボンは7枠15番。

 昨年のトウカイテイオーの8枠20番ほどではないが、かなりの外枠であり、無理無く先頭に立つためには好スタートを決めるのが必須になるだろう。

 

 そして、この15番枠から日本ダービーを勝利したウマ娘は、過去1人としていない。

 

 枠順抽選前、オルガは内枠の偶数番が良いと思っていたのだが、実際に与えられたのは外枠の奇数番。

 距離不安も指摘されているミホノブルボンにとって、外枠から距離のロスを強制されるのは望ましいことではない。完璧なスタートを決められなければ、その時点でミホノブルボンは苦境に立たされるだろう。

 

『さあ最後に18番、大外スタントマンがゆっくりとゲートに収まって──第59回、日本ダービー!

 態勢完了であります!』

 

 出走する全員のゲートインが完了。

 そして、栄光へ向けての2分半が遂に始まった。

 

『ゲート開いたッ! スタートを切りました!

 さあブルボン、ミホノブルボン良いスタート!!』

「良し!」

 

 日本ダービー、発走。

 ミホノブルボンが好スタートを切り、オルガはその瞬間にガッツポーズを見せた。

 逃げウマ娘はスタートを成功させなければ話にならない。第一関門はまず突破、というところだ。

 

「ライスも良いスタートだね」

『第1コーナー、400メートルまでにまず先頭に立つのか!

 スーッと行く! ライスシャワーと一緒に、15番ブルボン! ミホノブルボン行ったッ! やはりブルボンが行った!』

 

 2つ隣の枠、13番から好スタートを切ったライスシャワーと並んで前へ行き、ライスシャワーを外から被せるようにかわして行くミホノブルボン。

 絶好の加速で迷いなく内側へと切れ込んで行き、ミホノブルボンがバ群の先頭へと躍り出ると、スタンドからは歓声と拍手が沸き起こる。

 

(先頭に到達。1ハロン12秒台を維持する、逃げ切り態勢に移行……!)

(ブルボンさんに、ついてく……!)

『ミホノブルボンが17人を従えて、これから第1コーナー先頭で、レースを進めようとしております!』

 

 ミホノブルボンは自分に適したペースを意識しながら、第1コーナーを真っ先にカーブして行く。

 そのミホノブルボンをマークする作戦を取るライスシャワーは、内に1人ウマ娘を見ながらも、ミホノブルボンの背中を追って2番手から3番手で第1コーナーを迎えた。

 

『ミホノブルボンが先頭に立ちました。ライスシャワー、内から4番のマーメイドタバンが付きます。

 9番のホクセツギンガが外目から、3番手から2番手を窺います。

 ブルボンが行きました。このまま2400メートル、ミホノブルボン一気に逃げ切ることが可能なのでしょうか。

 ブルボンが3バ身から4バ身、後続を引き離して向正面に行こうとしております』

 

 ミホノブルボンは追走するライスシャワーまでリードを作った状態で、第2コーナーを曲がって向正面に出る。

 一歩一歩踏みしめながら、正確無比な体内時計でラップを刻みながら、ミホノブルボンは進んで行く。

 

『先頭から見ていきましょう、先頭はミホノブルボンが立っています。その後ろ3バ身くらい距離があります、外目を突きましてホクセツギンガ。

 そして13番ライスシャワー、インコースはマーメイドタバン。その後方でありますが、ナリタタイセイがいる。インコース、6番ウィッシュドリームであります。

 更にセキテイリュウオーがいる、外からヤマニンミラクル』

 

 3週間前のダービートライアル、GⅡ「NHK杯」を優勝したウマ娘がナリタタイセイであり、本日は2番人気。

 ヤマニンミラクルは昨年のGⅠ「朝日杯ジュニアステークス」で、ミホノブルボンにハナ差まで迫ったウマ娘だ。

 

『スーッとゴールデンゼウス、内から1番カミノエルフが上がっていった。更にその後方でありますが、11番のゴッドマウンテン、18番のスタントマン。

 マヤノペトリュースとマチカネタンホイザも後方待機であります。外目を突きましてブレイジングレッド、更に10番アストロゲイト。

 こういった態勢で、早くもブルボンは3コーナーの坂を上りきっています』

 

 これにダービートライアルの「青葉賞」勝ちのゴールデンゼウス、GⅢ「シンザン記念」覇者の追い込みウマ娘マヤノペトリュースなどが続いて行く。

 第3コーナーをカーブし、大ケヤキの側を先頭で通過して行くミホノブルボン。相変わらず淀みの無い締まったペースを刻み続けているが、2番手へのリードは1バ身ほどにまで詰まって来ていた。

 

『3・4コーナーの中間地点、大ケヤキの向こう。ブルボンが依然として先頭、ミホノブルボン先頭。

 そしてライスシャワーが2番手、ライスシャワーが2番手。内々マーメイドタバン、さあ有力なウマ娘たちが、ブルボンにここから襲いかかる!』

 

 4コーナーを前にし、残り600メートルとなったところで、レースが動き出す。

 後続のウマ娘が一気に押し上げてきて、コーナーに入る前にバ群が密集する。後ろから気配を感じたところで、焦ってペースを上げてしまう逃げウマ娘もいるのだが、ミホノブルボンは狼狽えない。

 

(1600メートルから1800メートル、12秒台で通過──続いて、1800メートルから2000メートルの計測を開始します。

 第4コーナー、残り525メートル……!)

 

 ミホノブルボンは一度大きく息を吐いて、左脚を踏み出して内ラチにピッタリ沿うように最終コーナーを曲がっていく。

 右側にはスタンド、左側には内ラチとゴール板、ターフビジョン。前方には、長大な直線コース。

 

『第4コーナーカーブ、府中の直線は500メートル!

 直線は500メートル、ミホノブルボンが先頭! ブルボン先頭! ブルボン先頭で、間もなく400メートルの標識を切る!』

(決勝線視認。2000メートル通過、12秒。

 ───ここからが、勝負……!)

 

 ミホノブルボンが一際力強く、湿ったターフを踏みしめる。まだ余力がある、まだ自身の息が乱れていないことを確認し、ミホノブルボンは心の中で頷く。

 残り4000メートル。ここからの2ハロン、12秒台から11秒台を出せるか。それが勝負である。

 

『400を切る、ここからはブルボン未知の世界! ここからは未知の世界、しかしミホノブルボン先頭! ブルボン先頭であります!

 マーメイドタバンとライスシャワー、外の方からマヤノペトリュースがやって来た! マヤノペトリュースがやって来た!』

「ブルボンさんを、追い越す……!」

 

 ライスシャワーがスパートを開始した。

 右側から追い込んで来るウマ娘は気にしない。目標は前のみ。ミホノブルボンのみを見据えて、ライスシャワーは細い脚で芝を蹴り上げ、ゴールへとひた走る──!

 

『まだしかし、2バ身から3バ身!

 残り200だ、2200を通過した!!』

「行けえええええええッ!!!」

「ライス……!」

 

 オルガと三日月も、最後の直線で先頭争いをする担当ウマ娘に激を送る。

 残り200メートル。本当に最後の、最も重要な1ハロン。長い長い10秒強。

 

『ブルボン先頭!! ブルボン先頭!! ブルボン先頭だ!! 3バ身から4バ身!!』

(残り、100───!)

 

 ミホノブルボンのリードは3バ身。

 先頭を走るミホノブルボンは減速しないばかりか、更に後続を突き離そうとしている。

 

「まだ、まだ……!!」

 

 少し離されながらもライスシャワーも懸命に前を追って、追い込んで来たウマ娘に並びかけ、必死に競り合っている。

 そして、遂にダービーのゴール板に、今年のダービーウマ娘が到達した。

 

『恐らく勝てるだろう!! 恐らく勝てるだろう!! もう大丈夫だぞ、ブルボン!!

 2400、3バ身から4バ身リードで逃げ切ったッ!!!』

 

 先頭でゴールインしたのは、ミホノブルボン。

 

 2400、何のその。府中の直線、何のその。

 終始先頭に立ち続け、精密機械のように1ハロン12秒台のペースを刻み続けたサイボーグが、後続の追撃を振り切って世代唯一の戴冠を果たした。

 

『6戦6勝ッ!!! 去年のトウカイテイオーに続いて、またもや無敗の二冠達成であります!!!』

「──ッ……届か、なかった……」

 

 2着はライスシャワー。

 粘りに粘り、最後まで末脚を伸ばし続けて追い込んで来たウマ娘を競り落としての、小さな身体に似合わぬ根性でもぎ取った勲章である。

 

『色々なことが言われました! 色々なことが言われましたミホノブルボン!

 しかしミホノブルボン、自分の力を信じて、外枠スタートから2400を逃げ切りました!

 一昨年のアイネスフウジン以来、史上10人目のダービー逃げ切り勝ちであります!』

「うおおおおお!! ミホォォォ!!」

「……頑張ったかな」

 

 オルガが叫び、三日月はライスシャワーの健闘を讃える。ラスタルはそれを傍目に、16番人気ながら2着に激走した黒薔薇の少女に注目していた。

 

「───ライスシャワーか。菊花賞、ともすれば……」

「……トレーナー、何か?」

「2着のウマ娘──彼女の名は、覚えておくといい」

 

 その呟きを耳にしたビワハヤヒデの問いに、ラスタルはそう返した。

 一方、場内では引き上げて来るミホノブルボンに対し、拍手と歓声が上がっている。

 

「「「「「ミホノ! ミホノ! ミホノ! ミホノ! ミホノ!」」」」」

『引き上げてくるミホノブルボンに、スタンドからミホノコールが上がっています!』

「……ステータス『高揚』を確認。声援に感謝します」

 

 ミホノブルボンは息を整えながら、コールに対して右手を上げて応える。

 すると、コールは歓声へと変わった。讃えられ、拍手に迎えられるミホノブルボンの様子を、ライスシャワーは拍手しながら見つめていた。

 

(すごい……ライスもいつか、あんな風に────)

 

 雨の中にありながら、東京レース場は昨年と同等か、それ以上の熱狂に包まれた。

 鍛え上げて来た信念という名の鎧が、不安要素を全て跳ね除けた。ミホノブルボンの無敗の二冠達成という形で、今年の日本ダービーは幕を下ろす。

 

 そして、夢は秋の京都へ──菊花賞へ続いて行く。

 

 昨年のトウカイテイオーが無念の故障離脱となり、挑戦すらできなかった「無敗の三冠」への夢。

 「皇帝」シンボリルドルフに次ぐ「無敗の三冠ウマ娘」誕生への希望を、ファンは抱くことになった。

 

 

   ◇

 

 

「───来年は、あの場に立ってみせる」

 

 赤縁の眼鏡を輝かせて、確かに一言。

 歓声と拍手に包まれるミホノブルボンと、彼女の立つ東京コースを見下ろしながら、ビワハヤヒデは決意を口にする。

 

 彼女の目は、1年後のダービーを捉えていた───




次走「秋へ向かって」
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