マクギリス、トレーナーになる   作:アグニ会幹部

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35R 全世界を席巻せよ

『ゲート開いたッ! スタートを切りました!』

 

 17万人から歓声が上がり、14人の優駿が飛び出して行く。

 出遅れも出負けも無し。完全に横一線、素晴らしいスタートを以て、ジャパンカップは開幕した。

 

『第1コーナーに向かってのこれからの先行争い! さあ何が行くのか、誰が行くのか!』

 

 スタート地点から第1コーナーまでは350メートル。全く横に並んでいる14人。

 ここから、先に抜け出して行くのは───

 

『ハシルショウグン、そしてレガシーワールド!

 同じチーム、ブルボンの分もと! レガシーワールドが、果敢に先頭に立ちました!』

 

 地方から参戦したウマ娘を内からかわして、レガシーワールドが集団の先頭に躍り出た。

 レガシーワールドは横を見ず、彼女の視界に映るのは前──まだ誰もいないターフだけである。

 

 オルガとミホノブルボンも、スタンドからレガシーワールドに注目する。逃げウマ娘であるレガシーワールドにとって、すんなり先頭に立てたことは大きい。

 

「良し、行った……!」

「───レガシー」

(ブルボンみたいには、出来ないかもしれねぇが──頼まれちまったからな)

 

 回避を余儀なくされたミホノブルボンの言葉を思い返して、レガシーワールドは苦笑する。

 ミホノブルボンのような走り──レガシーワールドはセントライト記念で一度、ライスシャワーを相手にそういうことをした。

 その再現、というわけでもないが──ミホノブルボンがいなくなった以上、他の誰かに先頭を譲る気など、レガシーワールドには無かった。

 

(先頭を行くのはお前だ、ブルボン。私はお前以外を、前に行かせる気はねぇぞ……!)

 

 ハナを取り切ったのはレガシーワールド。

 無理に競りかけることはせず、他のウマ娘たちがその後ろに続いて行く。

 

『ハシルショウグン2番手、そしてドクターデヴィアス3番手!

 トウカイテイオーも外目からスーッと4番手であります! トウカイテイオーのインコースに立ちます、ヤマニングローバルとユーザーフレンドリー!

 こういった隊形で14人、第一コーナーをカーブして行きます!』

 

 トウカイテイオーは内に切れ込み、4番手前後に位置取る。

 できれば天皇賞の時のように内ラチ沿いに入りたい、と思ったのだが、1番からスタートしたユーザーフレンドリーがトウカイテイオーを邪魔するように陣取っていた。

 流し目に微笑を浮かべ、トウカイテイオーより早くコーナーに入って行くユーザーフレンドリーに、トウカイテイオーは思わず眉尻を吊り上げて引きつった笑顔を返す。

 

「……流石に、と言うべきか。海外のウマ娘はタイトな位置取りをする」

 

 ポジション争いを見ながら、マクギリスが呟く。

 

 海外では、ポジション争いが日本よりも熾烈だ。

 コーナーは内のウマ娘を外に出させないよう締めて回るし、多少タックルすることになろうとも、自分のベストポジションは決して譲ろうとしない。

 

(だが───君が慣れない和芝で行き脚がつかず、スタート直後に脚を使っていることは分かっている。少し加速し過ぎて、思ったよりレガシーワールドが速くなかったことでブレーキもかけたな。

 その上ポジション争いで消耗もして、最後の直線まで君が余力を残していられるのか。見ものだな)

 

 トウカイテイオーが内に入れなかったが、むしろ好都合だとマクギリスは歯を見せてほくそ笑む。

 無理に内に入る必要は無い。このジャパンカップで内に入り、海外のウマ娘に囲まれたら、十中八九外へは出させてもらえない。トウカイテイオーほどのウマ娘ならば、外を回して抜け出す方が安全だ。

 

『先頭に立ちますのはレガシーワールド、レガシーワールドが先頭でペースを作ります!

 外の方からハシルショウグン、インコースからスッと代わって行ったドクターデヴィアスであります!

 更にこれを見まして、ユーザーフレンドリー!』

 

 ハシルショウグンと並ぶように番手につけていたイギリスダービーウマ娘、ドクターデヴィアスが内側からポジションを上げて単独2番手に出る。

 同時に、ユーザーフレンドリーも内から更にポジションを押し上げて行き、トウカイテイオーから離れた単騎の4番手へ。

 3番手を窺う勢いで、ハシルショウグンは抵抗せず内を開けてユーザーフレンドリーを行かせ、4番手に後退。

 

『ユーザーが早め早め、先頭から3番手まで上がっている! トウカイテイオー現在5番手!

 さあちょっと順番の入れ替わりが激しいが、向正面に入って行きました!』

 

 第2コーナーをカーブして、長いバックストレッチへ。ここでようやくウマ娘たちのポジションが少し落ち着いたようで、隊列が大体固定される。

 しかし、先頭はそうではない。

 

『先頭2人並んでいる! インコースにレガシーワールド、アウトコースはドクターデヴィアス!

 その後ろ、ユーザーフレンドリーが現在3番手! ちょっとバ群が切れてここにハシルショウグン、外目をつきましてトウカイテイオーであります!』

 

 レガシーワールドとドクターデヴィアス、2人のウマ娘がピッタリと並び、競り合いながらバ群を引っ張る。逃げウマ娘にとっては体力を消耗する展開だ。

 

(ペースは大体平均くらい、のはず。──ここなら、前を見ながら行ける)

 

 一方でトウカイテイオーは先行策、5番手の外を追走。まだまだ息は乱れず、落ち着いている。

 そして、そんなトウカイテイオーを見る形で、後方のウマ娘たちは続いて行く。

 

『更に2人、内にナチュラリズム、外ヤマニングローバル。ヴェールタマンド、レッツイロープ、レッツゴーターキン。その後ろにはクエストフォーフェイム、13番のヒシマサル。

 後方ジッと待機であります、ヒシマサルが最後方という展開で3コーナーの坂を上がって、これから下りにかかって行く14人!』

 

 1000メートル通過は1分ちょうど。

 しかし、レガシーワールドとドクターデヴィアスが競り合っていることで、1ハロンごとのタイムは落ちず、常に11〜12秒台が掲示されている。

 道中のペースが緩まない、後続にも息を入れさせない展開。ミホノブルボンの逃げが作り出すようなペースに似通っているだろうか。

 

『依然としてレガシーワールド、レガシーワールドが先頭。ドクターデヴィアス、ドクターデヴィアスが2番手でユーザーフレンドリーが3番手。

 トウカイテイオーも少し上がって来たかというところで、3コーナーから4コーナー。大ケヤキの向こうを通過している!』

(───クソ、ちょっと手間取った……!)

 

 結局、レガシーワールドは先頭を守り切り、ドクターデヴィアスが諦めて2番手に後退。

 レガシーワールドとしてはここでペースを落としたいところだが、それを見抜いているのか、ユーザーフレンドリーに加えてその後ろのトウカイテイオーが距離を詰めて来た。

 トウカイテイオーを斜め右前に見ながら、下がって来るハシルショウグンをかわしながら、ナチュラリズムも内に入り込んでポジションを少し上げる。

 

「……ここからが、正念場だな」

「ああ」

 

 2人のジャパンカップ王者も見守る中、14人は3コーナーと4コーナーの中間点を過ぎ、最終コーナーへ差し掛かってくる。

 

『変わらずレガシーワールドが先頭。ドクターデヴィアスか2番手、ユーザーフレンドリー3番手。

 トウカイテイオーも上がって来ている、トウカイテイオー上がって来ている! ナチュラリズムも良い位置だ! ナチュラリズムも良い位置だ!』

 

 バ群が先頭から後方まで、10バ身圏内に詰まる。

 先頭のレガシーワールドが内ラチ沿いに1人分のスペースを開けたままカーブに突入し、その後ろには内を突くナチュラリズム。

 外にはドクターデヴィアス、更にもう1人分外に回すのがユーザーフレンドリー。

 トウカイテイオーはユーザーフレンドリーを前にして、少し肩が上下しているように見えるドクターデヴィアスが下がって来てもかわせる位置を取り──加速しながら、最終コーナーを迎える。

 

『さあ、第4コーナーカーブ!

 府中の直線、500メートルに入って来た!』

 

 17万人近い歓声が、14人を歓迎する。

 彼女らの眼前には、斜めに差し込む夕焼けの光を浴びて、スタンドの影が落とされた、どこまでも続くかのようなターフの直線。

 

 残り525メートル。

 決戦の時間は、たったの30秒。

 

───勝負です!!

 

 直線を向いた瞬間、ユーザーフレンドリーが仕掛けた。

 欧州の芝から推進力を生み出す剛脚が、府中の地を力強く蹴り上げる。

 

『レガシー頑張る! レガシー頑張る!

 そして、外の方からユーザーフレンドリー!』

 

 ユーザーフレンドリーがたちまちレガシーワールドに並びかけ、先頭に躍り出た。

 レガシーワールドも止まっているわけではないが、横に並ばれて更に苦しくなったようだ。

 

「クソォォォオオオオオオオ!!!」

悪いですが──ここから、粘らせてもらう!

 

 ユーザーフレンドリーは末脚で勝負するウマ娘ではない。欧州でも前目につけて、直線で他のウマ娘を競り落とすレースをして来た。

 この軽い芝で末脚勝負をしても、勝てる見込みは低い。ならば、スタミナで最後まで押し切る───

 

 

いいえ。勝つのは欧州(あなた)じゃない

 

 

 ───その時。ユーザーフレンドリーを、内からかわして行く影が一つ。

 

……何!?

『インコースにナチュラリズム! ナチュラリズムがやって来た!!』

 

 南半球のダービーウマ娘、ナチュラリズム。

 経済コースを通り続け、先行しながら溜めた脚が、一気に解放され──外から抜け出したユーザーフレンドリーを、抜き去ったのである。

 

(あの子、動いた───!)

 

 それを傍目に見ながら、トウカイテイオーはユーザーフレンドリーに、更に外から並びかける。

 ナチュラリズムがわずかに先頭で、そのほんの少し後ろでは内からレガシーワールド、ユーザーフレンドリー、トウカイテイオーがほぼ横一線に並ぶ構え。

 

 速い、とトウカイテイオーは思う。

 ナチュラリズムの息はまだ、乱れる気配が無い。彼女は間違いなく、ゴールまで止まらないだろう。

 キレる脚が無いユーザーフレンドリーは、こうなると伸びて来れない。

 このままなら勝つのは彼女、ナチュラリズムだ。

 

 だが、行かせるわけにはいかない。

 

《私はもう一度、日本のウマ娘がジャパンカップを──いや、君が勝つところを見たい》

 

 シンボリルドルフの言葉が、トウカイテイオーの脳裏を駆け巡る。

 右側に視線を向けると、そこにはスタンド満杯の大観衆と、背中を押されるような大歓声。

 

《ジャパンカップを再び日本のウマ娘が勝つことを、皆が望んでいる。ジャパンカップ制覇は、皆の夢だ。

 私の夢は他でもない、君に託したい》

 

 先頭集団に観客の視線が集まる。

 抜け出しているナチュラリズムと、それに並びかける勢いのトウカイテイオーに。

 

「────来い、テイオー!」

 

 その観客の視線の中には、シンボリルドルフのモノもある。彼女は祈るように、願うように、トウカイテイオーの名を口にする。

 「皇帝」を継ぐ「帝王」。彼女に、世界の壁を打ち砕いてほしいと。皆の夢を、現実に変えてほしいと。

 

(……!)

 

 瞬間。トウカイテイオーは、夕日の中に幻視した。

 

 先頭を走る赤いマントを。揺れる鹿毛を。

 緑色の軍服に襷掛けをし、涼しげに抜け出して世界を置き去りにした、在りし日の「皇帝」の背を。

 

 永遠なる皇帝。

 あの時、日本は世界に届いていた。

 

 

(────行こう)

 

 幻視は一瞬。一完歩にも満たぬ僅かな時間。

 驚くほど落ち着いた気持ちで、トウカイテイオーは次の一歩を踏み出し───皇帝の背を、追いかける。

 

『さあトウカイテイオー!! トウカイテイオー抜けて来るか!!』

 

 トウカイテイオーがスパートを開始した。

 後方待機していたウマ娘たちも、これに合わせるように次々とスパートをかけ、上がって行く。

 

『400を切った!! 残り400だ!! 14人が横に広がった!!』

 

 スタート直後と同じように、バ群が横に広がる。

 先頭は僅かに最内のナチュラリズム、並びかけるはトウカイテイオー。

 

本当に来た、日本のウマ娘が……!

 

 完全に抜けた、と思っていたナチュラリズムは、自分に並んで来たトウカイテイオーを傍目に見る。

 その姿を見て思い出すのは、かつてジャパンカップに挑んだニュージーランドの女傑の言葉。

 

 世界最速のウマ娘は言っていた──敵はヨーロッパでもアメリカでもなく、日本のウマ娘だと。

 

 

───なら

 

 ナチュラリズムは歯を食いしばり、トウカイテイオーを睨みつける。

 負けられない。負けたくない。日本に来たのは勝つため、ただそれだけだ。

 

勝負だ、トウカイテイオー!!

 

 ライバルの名を叫び、もう一段加速するナチュラリズム。

 トウカイテイオーも応えるように、更に加速した。

 

『先頭はナチュラリズム、ナチュラリズムが先頭!!

 そしてトウカイテイオー、トウカイテイオー頑張っている!!

 トウカイテイオー!! ナチュラリズム!!』

 

 全く横並び。

 もうスタミナとかスピードとか、そんなモノは関係ない。勝敗を決めるのはただ一点──根性だ。

 

『200を切った!! トウカイテイオー、トウカイテイオーか!! ナチュラリズム!! トウカイテイオー!!

 トウカイだトウカイだ、トウカイテイオーだ!! トウカイテイオーが来たァッ!!』

 

 先頭は2人。並んだまま坂を駆け上がり、残り200の標識を通過する。

 後10秒と少し。決着の時はすぐにやって来る。

 

まだ、まだ……まだ、まだ終わらせるな!! 捻り出せ!! 絞り出せ!! 1センチでも、1ミリだけでも前に行け!!

(──────────)

 

 ナチュラリズムとトウカイテイオー、その心中は全くの真逆だった。

 自身を鼓舞し、身体に残ったスタミナの全てを引きずり出すナチュラリズムに対して、トウカイテイオーは全力疾走しながらも心は酷く落ち着いていた。

 

 歓声が遠くなる。世界から色が抜けて行く。

 隣のナチュラリズムすら、遠く離れて行くような──不思議な感覚の中、自分のことだけはハッキリしている。

 

「────アレは」

 

 スタンドのマクギリスは、トウカイテイオーの様子がいつものレースとは違うことに気づき、呆然とトウカイテイオーの走る姿を見つめていた。

 

「……ありゃあ、まさか」

「───『領域(ゾーン)』」

 

 その感覚を知る者たちは、トウカイテイオーの気迫を感じ取っている。

 驚いたように目を見開くカツラギエース。納得したように呟くシンボリルドルフ。

 

「そうだ、皇帝(わたし)を超えろ───」

 

 そして──皇帝は笑い、歓喜とともに叫んだ。

 

 

「全世界を席巻せよ、トウカイテイオー!!!」

 

 

 その声が届いたか。

 トウカイテイオーは笑って、かつての皇帝の背を追い抜いた。

 

『トウカイテイオーか!! ナチュラリズムか!!』

 

 ほんの少し、トウカイテイオーがナチュラリズムの前に出る。しかし、ナチュラリズムもまだ下がらず、すぐに全く並ぶ。

 

抜かせるかああああああああッ!!!

 

 抵抗するナチュラリズムの絶叫をかき消すように、トウカイテイオーも絶叫した。

 

「行っけええええええええええッ!!!」

 

 最後の一歩を同時に踏み出す。

 ゴール板まで1メートルを切る。この一歩で、全てが決まる。並んだ2人の脚が、地面を蹴り上げ───

 

 

『トウカイテイオーだ!! トウカイテイオーッ!!!』

 

 

 クビ差。

 日本のトウカイテイオーが、ナチュラリズムを競り落とした。

 

『トウカイテイオー右手が上がった!! トウカイテイオーやったッ!!

 外国の強力なウマ娘を、ねじ伏せましたッ!!』

 

 ゴール直後、トウカイテイオーは勢い良く右手を突き上げる。

 見せつけるように。宣言するように。

 日本の夢は再び実現した。今ここで、トウカイテイオーが実現させたと。

 

『復活を遂げました!! トウカイテイオーです!!

 勝ち時計が、2分24秒6ッ!!』

 

 スタンドからの大歓声は、これまでにないほど大きくなっている。歓喜と祝福が、地面の震えとともに、ゴールを越えて減速するトウカイテイオーに伝わって来た。

 

───アレが、トウカイテイオー……

 

 競り負けたナチュラリズムも、どこか晴れやかな気持ちで歓声を聞きながら、トウカイテイオーを見る。

 敗北はした。だが、全力の勝負をした結果だ。悔いはない。

 ナチュラリズムは口元を緩め、トウカイテイオーの背に言葉を投げかけた。

 

……また来年。次は私が

 

 1着、トウカイテイオー。

 2着にナチュラリズム、3着はディアドクター。

 

 外国のウマ娘たちを抑え込んでの勝利。

 日本のウマ娘によるジャパンカップの制覇は、シンボリルドルフ以来の偉業となる。

 

「───帝王は、皇帝を超えたか」

「……楽しみだな」

 

 笑みとともにそう告げるシンボリルドルフに、カツラギエースも笑顔を向けて言う。

 3人目の誕生。これで潮目は変わる、間違いなく──2人には、そういう確信があった。

 

 日本のレースを、日本のウマ娘が勝つ。

 当たり前のことだが、これまでジャパンカップにおいては、当たり前のことではなかった。

 

 ここからはそれが変わる。日本のウマ娘たちは強くなっている。トウカイテイオーの勝利は、その証明。

 

「──スーパースター、とは彼女のことを言うのかもしれないな。見事だ、トウカイテイオー」

 

 マクギリスは満足感に包まれながら、笑って頷く。

 ナチュラリズムが抜け出し、並びかけて粘りこまれた時は少し焦ったが──着差以上の強さを、トウカイテイオーは見せてくれた。

 

 やはりトウカイテイオーは強い。最高のウマ娘だ。

 今更確認するほどでもないことだが、改めてマクギリスはそう感じていた。

 

「───4着。すげぇな、アイツ」

「はい。流石です」

 

 オルガの言葉に、ミホノブルボンは少し口元を緩めて頷いた。

 レガシーワールドは4着。一度はユーザーフレンドリーにかわされたが、そこから粘りに粘ってもう一度差し返し、日本のウマ娘ではトウカイテイオーに次ぐ着順になった。

 

「ッ……ハァ、ハァ、ハァ……クソ……ッ!!」

 

 本人は悔しがっているが、GⅠ初挑戦、それもこのメンバー相手にこの着順は悲観すべきものではない。

 彼女はまだクラシック級。ここから更に強くなるだろうと、オルガは感じ取っていた。

 

───6着、ですか

 

 掲示板を見上げて、ユーザーフレンドリーは息を整えながら嘆息する。

 適性の差、ということなのだろうが、彼女にとって掲示板にすら入れない完敗は初めての経験だ。

 勝者の姿を遠くに見て、ユーザーフレンドリーは口元を引き結び、袖で目元を乱暴に拭った。

 

お見事でした。……またいつか、勝つ

 

 聞こえてはいない称賛の言葉を残して、ユーザーフレンドリーは他の敗北したウマ娘たちに続くように、地下バ道の入口へと消えて行った。

 ターフに残り、スタンドの目の前へ歩いて来たトウカイテイオーを、観客たちが迎え入れる。

 

「「「「「テイオー! テイオー! テイオー! テイオー! テイオー!」」」」」

 

 テイオーコールに応え、もう一度トウカイテイオーが右手を上げると、呼ぶ声は歓声と拍手に変わる。

 

『見事、史上最強と言われます外国招待ウマ娘をねじ伏せまして、第12回ジャパンカップ。

 トウカイテイオーが制しました!』

 

 

   ◇

 

 

「───やっぱり貴女はすごいですわね、テイオー」

 

 と、独り言を呟くウマ娘が1人。

 メジロ家の療養所の一室。自室でテレビを通じて、トウカイテイオーの勝利を見届けた、メジロマックイーンである。

 

 昨年、メジロマックイーンが敗れたジャパンカップ。

 昨年以上の世界の強豪を相手に、トウカイテイオーは素晴らしい走りを見せ、これを競り落とした。

 

 メジロマックイーンの口元には、誇らしげな笑顔。

 ライバルが栄光を掴んだ。メジロマックイーンとて、負けてはいられない。

 来年の春には、またメジロ家の悲願たる舞台が──春の盾をかけた天皇賞がやって来る。

 あの舞台で、前人未到の3連覇へ。完全なる復活へ。

 

「……(わたくし)もまた、貴女のように。もう一度、頂点に立ってみせますわ」

 

 もう一度、現役最強の座に返り咲いてみせる──と、メジロマックイーンはトウカイテイオーの走りを見て、決意を新たにするのだった。




次走「ボクの夢は」
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