ジャパンカップでのトウカイテイオーの復活。
シンボリルドルフ以来の日本のウマ娘による勝利は、様々なメディアで大々的に報じられた。
(「日本の夢ふたたび叶う」───か)
トウカイテイオー本人は、無人のトレーナー室で新聞の一面を眺めていた。
久しぶりに勝てたことは嬉しかった。シンボリルドルフから託された、みんなの夢を叶えることができた。それは良かった。
良かったが、同時にこうも思うのだ───
(───今のボクの夢は、何なんだろう)
と。
「無敗の三冠」も「生涯無敗」も無くなってから、トウカイテイオーは自分の夢を見い出せていないままだ。
同期のウマ娘たちと話して、これからは怪我なく走れれば……とは思っているし、レースに出る以上は勝ちたいとも思っている。
だけど、それは「夢」とも少し違う──何となく、トウカイテイオーはそんな気がするのである。
何のために走るのか、と言えば「勝つため」だ。
じゃあ、どうして勝ちたいのか。勝ってどうしたいのか。
勝つことで、応援してくれているファンの人の期待に応えたいというのは勿論あるが──それだけじゃないような気もする。
「来ていたのか、トウカイテイオー。
───どうした? 物憂げな顔をしているが」
トレーナー室のドアが開き、部屋の主であるマクギリス・ファリドが入って来た。
勝手にトレーナー用の執務机を占拠しているトウカイテイオーの表情が、あまり晴れやかなものでないと気づいたマクギリスは、トウカイテイオーに問うた。
「ねぇ、トレーナー。トレーナーはなんで、トレーナーになったの?」
それに、トウカイテイオーは聞き返した。
マクギリスは「いきなりどうした」と言いたげな顔を見せたが、その質問の意図は聞かず、返答する。
「何故、か──トレーナーになったこと自体に、何か理由があるわけではないな。正直に言ってしまえば、ただの成り行きだ。だが、トレーナーとしてどうしたいか、というのはある。
トゥインクル・シリーズの頂点に立つ。それが私がトレーナーをする理由だよ。……もっとも、君のおかげでほぼ達成したも同然だがね」
「ふーん……じゃあ、なんでトゥインクル・シリーズの頂点に立とうと思ったの?」
更に突き詰めて問うトウカイテイオー。
マクギリスは一瞬考えてから、口を開いた。
「そうすることによって、栄誉栄達を思いのままとするためだ。この世界で、トレーナーという身で『力』とされるものを得るためには、トゥインクル・シリーズを制覇することが最も手っ取り早いからな。
権力、武力、財力、知力──力の形は様々あるが、力を持つ者が全てを制する。力が無ければ、人は生きていくことすらできない。逆に力があるならば、自分は愚か他者さえも意のままにできる」
それがマクギリス・ファリドという男が持つ価値観だ。孤児として生まれ、他人を蹴落とし、利用し利用される中で這い上がってきたマクギリスにとって、「力」は唯一信じることのできるモノだった。
「……なんか、過激じゃない?」
「過激、か。確かに、この世界においては少し極端な持論かもしれんが、そう的外れなことでもないとは思っているよ。
ある意味、トゥインクル・シリーズは私の考えが具現化されているような場所だ。能力のあるウマ娘は栄光を手に入れる。能力の無いウマ娘は
確かに……と、トウカイテイオーは頷く。
トゥインクル・シリーズの中に身を置くトウカイテイオーにとって、マクギリスの思想は完全に理解できないと言うほどのものではない。
「───しかし、何故いきなりそんなことを?」
「いや、何となく気になってさ。答えてくれてありがと、トレーナー。
それより、次走は有馬ってことで良いんだよね?」
軽くはぐらかされた、とマクギリスは感じたが、それ以上踏み込むことはなく、トウカイテイオーの言葉を首肯した。
天皇賞(秋)、ジャパンカップ──と来れば、もう年内に出るべきレースはただ一つ。
日本中が注目するクリスマスのグランプリレース、秋シニア三冠最後の一冠たるGⅠ「有馬記念」しかない。
「ああ。中山自体は皐月賞で体験しているが、2500メートルは君にとって初めての舞台になる。距離の心配はしていないがね。
──とはいえ、枠順に大きく左右されるレースだ。今の調子を日々のトレーニングで維持しながら、後は大外枠を引き当てないことを祈ることしかできんが」
有馬記念の舞台は、中山レース場の芝2500メートル。
小回りのコースを2周するため、コーナーが多く息を入れやすく、距離適性に関しては走り方次第である程度の誤魔化しが効くコースでもある。
最も心配するべきは枠順──有馬記念は、コース形態と出走人数の都合上、外枠が極端に不利なレースなのである。少なくともフェアな舞台とは言い難い。
皐月賞、日本ダービー、天皇賞(春)、そしてこの前のジャパンカップもそうだが、トウカイテイオーは大外枠を引き当てがちだ。
しかし、有馬記念は大外枠を引いた時点で絶望的。フルゲートの大外枠から有馬記念を勝ったウマ娘は、過去を見ても1人たりともいない。
まず、枠順抽選で内枠を引き当てることを祈るところから始めなければならない。ある意味、日本ダービー以上に運を問われるレースである。
そして、日本中の注目が集まる有馬記念を勝つことは、トゥインクル・シリーズにおける最高の栄誉の一つとも言える。
普段トゥインクル・シリーズは見ないが、有馬記念だけは見るという人も多い。日本ダービーや天皇賞とは違う名誉が、有馬記念にはある。
トゥインクル・シリーズの頂点に立つ、というマクギリスの目的からしても、是非とも一度は制覇しておきたいレースである。
「冬に入って来て、体調を崩しやすい時期だ。体調管理にはくれぐれも気をつけてくれたまえ」
「オッケー! トレーナーのためにも頑張るよ!」
◇
───と、トウカイテイオーは言っていたが。
この世の中、ままならないものである。
「……本当に大丈夫なのか、トウカイテイオー。正直、私は今の君を出走させたくないのだが」
「心配し過ぎだよ、トレーナー。怪我したわけでもないし、今は何ともないんだから」
有馬記念、当日。
じゃあ、行ってくる! と控室を出て行ったトウカイテイオーの背に、マクギリスは「無理はするな、回ってくるだけで良い」と声をかけた。
トウカイテイオーが強がっているだけだということを、マクギリスは知っている。
トウカイテイオーはレース当週に行われる最終追い切りの後、体調を崩した。
天皇賞(秋)前に熱を出して倒れた、というほどのものではないが、ここ数日は胃腸の調子が悪く、薬を飲んでいる。
有馬記念はファン投票の結果により、優先出走権が与えられるレース。
トウカイテイオーは17万以上の票を集め、見事ファン投票一位に選出された。
彼女の走りが多くのファンの心を動かしていることの証左であり、今日も1番人気。
非常に多くの期待を集めていて、トウカイテイオー自身もファンの応援に応えたいと言うことで、多少の不調を押してでも出走することになった。
規定的にもレース出走を取り消せるほどの不調ではないので、マクギリスとしても送り出すしかない。
(……こんなことで、君に何かがあったとしたら、そんな馬鹿げたことはない)
万全の状態で担当ウマ娘をレースに送り出すことができないのは、トレーナーとして言語道断。
もうレースを見たくもない、と思うほどだったが、かと言って見ないわけにはいかない。
マクギリスはとにかく無事に終わってくれ、と祈る心持ちで、レースのファンファーレを待つことになった。
「……どうした、テイオー」
トウカイテイオーの異変は、シンボリルドルフも感じていた。
バ場入りの際、トウカイテイオーが平常の歩き方をしていない──弾むようなステップを踏んでいないということに、気づいたのである。
ウォーミングアップのために軽く走る姿を見ても、ジャパンカップの時のような軽快さがない。
『14万3000人を超えるファンの方が集まっております、中山レース場! GⅠのファンファーレが
マクギリスやシンボリルドルフの心配をよそに、発走時刻を告げる関東GⅠファンファーレの生演奏と詰めかけたファンの歓声が、晴れ渡る冬空に響き渡った。
年の瀬のグランプリ有馬記念、秋シニア三冠最後の舞台には、非常に豪華なメンバーが揃った。
1ヶ月前のジャパンカップを制した昨年の二冠ウマ娘トウカイテイオーを筆頭に、今年の菊花賞ウマ娘ライスシャワー、昨年の菊花賞ウマ娘レオダーバン。
今年の宝塚記念を勝ったメジロパーマー、マイルチャンピオンシップ連覇を果たしたダイタクヘリオス、秋の天皇賞ウマ娘レッツゴーターキン──とGⅠウマ娘が6人出走。
その他にも昨年の有馬記念3着のナイスネイチャを始め、イクノディクタス、レガシーワールド、ヒシマサル、ヤマニングローバル、ホワイトストーンなど重賞戦線で活躍するウマ娘たちも顔を揃えている。
1番人気は3枠5番のトウカイテイオー。
2番人気に8枠16番のライスシャワー、3番人気にはジャパンカップ5着のヒシマサルが支持された。
『最後に大外16番、菊花賞ウマ娘ライスシャワーの枠入りを待つばかりです。
第37回有馬記念、ライスシャワーがゆっくりと16番ゲートに入って行きます。さあ、16人枠入り完了しました!』
ライスシャワーがゲートに納まり、スタンドから歓声が湧き起こる。音を立ててゲートの前扉が開かれ、16人が一斉にスタートした。
「うわあっ……!」
「っと……!?」
───足を滑らせ、つんのめりながらスタートしたトウカイテイオーを除いては。
トウカイテイオーはフラついたままスタートを切ることとなり、隣の枠に入っていたレガシーワールドに接触した。
レガシーワールドは「悪い……!」と謝意を込めて一言告げてから先行していったが、トウカイテイオーはスタートダッシュがつかないまま。
内回り3コーナーまでの距離が短い中山2500メートル、既に隊列は大まかながら決まりつつあり、トウカイテイオーは先行することができなかった。
『ゲート開いて、グランプリロードへスタートを切りました!
さあトウカイテイオーは、最後方から! トウカイテイオー、最後方から進みます!』
実況も驚きを含んだ声で、トウカイテイオーの位置取りを伝える。
これまで先行策を取っていたトウカイテイオーが、まさかの後方追走。スタンドもどよめいている。
「───なんてことだ」
マクギリスは表情を険しくする。
体調が万全でないからか、単に運が悪かったのか──完全に出鼻をくじかれたトウカイテイオーのポジションは、後方2番手の外目。
マークをされている以上、内ラチ沿いにはもう入れさせてもらえないだろう。
『さあ先行争いです。最初の4コーナーからずーっと直線にかけて行きますが、まず3・4コーナー。
メジロパーマーが行きました。メジロパーマーが行きました。これは予想通り。そしてやはり、レガシーワールドが2番手。ダイタクヘリオスが3番手。
そしてトウカイテイオーは、後方から2番手。15番手でまず1周目、スタンド前にかかって参ります。トウカイテイオーは最初の直線を15番手で、1周目にかかって参りました』
バ群が3・4コーナーから、1周目のホームストレッチに向かって行く。
更なる逆境に立たされたトウカイテイオーのことなど露知らず、先頭に立つのは勿論メジロパーマー。
宝塚記念を人気薄で逃げ切ってみせた実績もある。今日も15番人気と、春のグランプリウマ娘にあるまじき低評価に甘んじているが───
「私は、私らしく──爆逃げするッ!」
本人は評価を裏切ってやろうと、率先してペースを作って行く。狙いは勿論逃げ切りのみ。
同期のメジロライアンがターフを去り、メジロマックイーンは怪我により休養中。
メジロパーマーは2人に比べるとメジロ家に期待されてはいなかったが、彼女にも意地というものがある。
『さあ先頭はメジロパーマー、ペースを作ります。メジロパーマーが先頭、レガシーワールドが内の2番手で、ダイタクヘリオスが外目の3番手。
大歓声が湧き上がります。みんなの夢を乗せて、16人がまず第1コーナーにかかります』
16人がスタンド前を横切り、どよめき混じりの歓声を背に受けながら、1コーナーに入って行く。
ダイタクヘリオスの後ろにはレッツゴーターキンやライスシャワー。内ラチ沿いにナイスネイチャ。イクノディクタスの姿もバ群の中団付近にある。
『さあトウカイテイオーは、依然として後方から2番手から3番手。ヒシマサルはトウカイテイオーをマークでしょうか、ここで最後方に下がりました。
1コーナーから2コーナーに向かいます16人、ペースを作っているのはやはりメジロパーマーで、向正面の直線コースであります』
トウカイテイオーは結局ポジションを上げていくことなく、4コーナーに入る時と大差ない位置で1コーナーを右にカーブして行った。
───上げていかない、と言うよりは「上げたくても上げられない」というのが正しいが。
(……ッ、速い───!)
単純について行けていない。メジロパーマーが作り出している緩まないペースに。
『1コーナーから2コーナーに向かいます16人。ペースを作っているのはやはりメジロパーマーで、向正面の直線コースであります』
先頭でバックストレッチに出て行くメジロパーマー。ダイタクヘリオスが2番手に上がって、レガシーワールドは3番手に後退する。
「パマちんウェーイ☆ 爆逃げコンビも最後だし、アッゲアゲで行くよー!!」
「……オッケー!!」
ダイタクヘリオスはレガシーワールドを躱すに留まらず、リードを取って逃げているメジロパーマーに並びかけようとする勢いで上がって行く。
今日がトゥインクル・シリーズのラストランとなるダイタクヘリオス。最後の最後まで、彼女は笑顔で走り、ズッ友メジロパーマーの背中を押すのである。
(──こりゃあ、マトモについて行ったらヤバいか)
メジロパーマーもダイタクヘリオスに応え、ペースを落とす素振りは無く──3番手で2人の様子を見ていたレガシーワールドは、この逃げに付き合ったら潰されると判断して、無理に追いかけない選択をした。
『ダイタクヘリオス、完全燃焼するかこれが2番手。5バ身から6バ身開きまして、オースミロッチが3番手、レガシーワールド4番手。
更にレッツゴーターキン、フジヤマケンザンであります。インコース1番ナイスネイチャが見えます、これがほぼ中団であります』
内のメジロパーマー、外のダイタクヘリオス。
2人が3番手以下とのリードを広げて行って、その差はみるみる広がる。5バ身、6バ身、7バ身──どんどん間隔が大きくなり、バ群も縦に伸びていく。
『更にライスシャワー、ホワイトストーン、ヤマニングローバル、ムービースター。
そして後方から、4人目から5人目がトウカイテイオー。───ちょっとスパートしているか、ちょっとスパートしている!』
後方から4〜5番手まで、少しポジションを上げながら外目を追走するトウカイテイオーは、早くもスパートするような姿勢を見せていた。
まだ向正面の中間地点。いくら何でも早すぎると、分かってはいたが──こうでもしなければ、今日のトウカイテイオーはマトモについて行くことすらできないのだ。
(───身体が、重い……!)
やはり体調不良が祟ったか。
いつもの余裕は全く無いまま、それでも少しでも前に行こうと、トウカイテイオーは足掻いていた。
人気投票で1位に選ばれた。1番人気を背負っている。夢のグランプリたる有馬記念で、多くの夢を託された。
不甲斐ない走りなどできないと、トウカイテイオーは焦りを胸に抱いたまま、ひたすらバ群の外を回させられている。
「……良い。無理するな。無事に、無事に回って来れば──それだけで良いはずだ」
マクギリスは唇を噛む。目を逸らしたい気分だったが、それだけはトレーナーとしてやってはいけない、とコースを睨み続ける。
今日のトウカイテイオーでは、勝負にならない。体調もそうだが、そもそもスタートで後手を踏み、先行できなかった時点で今日のレースは終わっている。
3枠5番という内枠の有利も、出遅れてバ群の外目に付くしかなかった時点で失われているのだ。
もうトウカイテイオーは来ない。マクギリスにはそう分かってしまった。
だが、彼女はまだ懸命に走っている。彼女の走りから目を逸らすことは、トレーナーとしての責務を放棄することと同じである。
『さあ、16人が縦長に広がっている! 前2人が依然として抜けている、大逃げであります2人! メジロパーマーとダイタクヘリオス!』
場内、スタンドの13万人から起きるどよめきは、どんどんと大きくなっていく。
爆逃げするメジロパーマーとダイタクヘリオス。そのリードの拡大は留まることを知らず、何と15バ身から20バ身ほどにまで広がっていたからだ。
『さあ3番手以下まで15〜6バ身ある! 早く追いかけなければならない!! ここは3・4コーナー中間!! 後続の14人が早く差を詰めないと、とても前の2人は捕まりそうもないッ!!』
メジロパーマーとダイタクヘリオスは、絶大なリードを保ったまま、何と早くも最後のコーナーに差し掛かろうとしていた。
『メジロパーマー大逃げ!! 宝塚の再現なるか!!
残り400メートルの標識を、メジロパーマーとダイタクヘリオスが切ったァッ!!』
実況の声が高くなり、焦燥感が高まる。半分悲鳴のような叫び。しかし、まだまだリードは縮まらない。
3番手以下のウマ娘に15バ身ほどの差をつけたまま、メジロパーマーとダイタクヘリオスが並んで、最終コーナーをカーブする───!
『直線は310メートル!! 中山の直線は短い!!
メジロパーマー逃げる!! メジロパーマー逃げる!! メジロパーマー、ダイタクヘリオス!!』
最後の直線。依然としてリードは10バ身ある。
あくまでマイラーであるダイタクヘリオスは、ここまで2200メートルを走ってきて息が切れている。
逆噴射しながらも思い切り息を吸い込んで、襲いかかってくる後続集団に沈んで行きながら、ズッ友の背に向かって叫んだ。
「パマちん行っけぇえええええええ!!!」
「任せろぉおおおおおおおおおおお!!!」
『残り200メートル!! メジロパーマー、メジロパーマーが逃げ切るのか!!
後方集団が突っ込んで来た!! メジロパーマー先頭!! メジロパーマー先頭!! メジロパーマー先頭!!
さあレガシーも来ている!! 外の方からナイスネイチャ、内を通ってレガシーワールド!!』
(……クソ、行かせ過ぎたか──!?)
後続集団の猛追。中団かそれより前に控えていたウマ娘たちが、一気に末脚を伸ばして突っ込んで来る。
しかし───あまりにも、楽に逃げさせ過ぎた。
『メジロパーマー、レガシーワールド並んでゴールイン!!!』
レガシーワールドに並びかけられたところで、メジロパーマーはゴール板を通過した。
ほぼ横並び。さあどちらが勝ったか、というところだが──レガシーワールドは、駆け抜けてから笑うしかないと言わんばかりの表情で舌打ちした。
「チッ───やられた」
3着にはナイスネイチャが入り、結局は中団以前にいたウマ娘たちによる決着。
前に行ったがそのまま残るレースとなり──後方に控えていたハズの有力なウマ娘たちは、掲示板に載ることすら叶わなかった。
『やはり前残り! メジロパーマー、そしてレガシーワールド! ヒシマサルも、トウカイテイオーも! そしてライスシャワーも、どうしたんでしょうか!
意外な展開であります! 去年のダイユウサクに続いて、今年も波乱となりました!』
第37回有馬記念、終結。
1着は15番人気のメジロパーマー。
2着は5番人気のレガシーワールドで、3着に4番人気のナイスネイチャ。
4着が10番人気のレッツゴーターキン、5着は11番人気のオースミロッチという結果に終わった。
3番人気以上のウマ娘が全員掲示板にすら載れないという異常事態。
2番人気のライスシャワーは8着、3番人気のヒシマサルは9着に惨敗していた。
そして──1番人気だったトウカイテイオーは、何の見せ場も無いまま、11着に大敗した。
「ッ、ハァ……ハァ……ハァ、ハァ───」
ゴール後、トウカイテイオーは息を切らしたまま俯き、膝に両手を付く。
最早失態、などというレベルではない。トウカイテイオーの有馬記念はスタート直後に1秒も経たず──いや、始まる前から既に終わっていた。
「……大丈夫ですか、トウカイテイオー」
「ありがと───君こそ、大丈夫?」
「…………あまり、大丈夫ではないかもしれないです」
同期の菊花賞ウマ娘であるレオダーバンに声をかけられ、トウカイテイオーは彼女の肩を借りながら、意気消沈といった様子で地下バ道へと消えて行く。
レオダーバンはここが怪我明けの復帰戦となっていたが、彼女も13着。後先考えない逃げを打ち、距離不適でバテて沈んだダイタクヘリオスにすら、2バ身半遅れてのゴールとなっていた。
ひっそりとターフを後にするトウカイテイオーの姿を見て、マクギリスは歯を食いしばる。
拳は爪が皮膚に食い込み、血が滲むほど握りしめられた拳を、自らの太ももに叩きつけた。
「───クソ……!」
情けない。不甲斐ない。
トウカイテイオーほどのウマ娘に、あのような負け方をさせるなど、あってはならないことだ。
また一から仕切り直さなければならない。
トウカイテイオーをこのまま終わらせてはならないと、マクギリスは強く思っていた。
(もう一度、彼女に栄光を手にさせる。絶対に)
自分の野望などはどうでも良い。とにかく、彼女に再びの勝利を──と、マクギリスは誓ったのだった。
次走「もう一度、貴女と」