メジロマックイーンの繋靱帯炎による現役引退の報は、大きな衝撃となり、同時に世代交代の波がトゥインクル・シリーズに訪れていることを象徴するモノでもあった。
そして、4日前に最大の注目を集める名優がいなくなり、王者不在の中で今年の天皇賞(秋)は発走した。
『戦国時代、第108回天皇賞(秋)スタートが切られました!
さあややバラついたスタートか、ホワイトストーンは後方から! そして勿論ツインターボ、ツインターボが行く行く行くッ!!』
「ターボエンジン、全かあああああい!!!」
ツインターボが58秒から9秒、(ツインターボにしては)それほど速くないながらも緩みないペースでレースが流れる。ツインターボから3〜4バ身ほど離れた2番手に春のマイル王ヤマニンゼファー、3番手にナイスネイチャ、4〜5番手にライスシャワーと続く形となった。
『秋の風を切り裂いて、懸命に3番のツインターボが逃げているが、さあ外からナイスネイチャ! ヤマニンゼファーもやって来た! そしてインコース、ライスシャワーちょっとスパートしているか!』
大ケヤキを越え第4コーナー、勝負所でツインターボのリードが無くなる。
外からヤマニンゼファー、更にその外へナイスネイチャが並びかけて、最後の直線に向く。
(っ──なんで……!? 1番人気、なのに──みんなに期待してもらってるのに……!!)
1番人気のライスシャワーは動きが悪い。やはり彼女に、秋の天皇賞の2000メートルは短すぎたようだ。
『さあどうか、さあここでツインターボが捕まった!! ツインターボの逃げは、早くもゴール前500メートルで壊滅している!!
先頭はここで、ヤマニンゼファーか!! ヤマニンゼファー先頭に立つか!! そして、外の方からは懸命にナイスネイチャもやって来る!! 間を割ってライスシャワー!!』
ツインターボの逃げは直線を向いて間もなく崩壊。
先頭で5人のウマ娘が横並びとなり、まさしく群雄割拠ぶりを象徴するかのような展開。ここから抜け出るのは一体誰か──抜け出したのは、ツインターボを左手に躱したマイルの王者だった。
『外からはセキテイリュウオーも飛んで来ているが、懸命にヤマニンゼファーだ!! ヤマニンゼファー!!
しかし、ここでセキテイか!! セキテイリュウオー来ている、セキテイリュウオー先頭に立つか!!』
先頭に躍り出たヤマニンゼファーを、セキテイリュウオーが猛追し並びかける。
内からは一番人気のライスシャワーもようやく伸びて来たが、ヤマニンゼファーとセキテイリュウオー、この2人が完全に抜け出した。
『さあ2人か、この2人の競り合いだ!! 2人の競り合いだ!!
セキテイリュウオーか、ヤマニンゼファーか!!! セキテイリュウオーかヤマニンか!!! インコース僅かにヤマニンかァッ!!!』
外セキテイリュウオー、内ヤマニンゼファー。
2人が並んだままでゴール板を駆け抜け、着差はハナ差──ヤマニンゼファーが凌ぎきり、マイルと中距離の二階級制覇を達成した。
彼女の次走は師走の中山、電撃6ハロンのGⅠ「スプリンターズステークス」。
史上初の三階級制覇に王手をかけた彼女が、この舞台で如何なる走りを見せるのか、注目が集まるだろう。
一方のクラシック級においても、最後の一冠をかけたGⅠレースが行われる。
天皇賞(秋)の翌週はクラシック最終戦「菊花賞」が、その次週にはティアラ三冠最終戦「エリザベス女王杯」が淀の地を沸き立たせた。
エリザベス女王杯は京都芝2400メートル。
今年は春に桜花賞・オークスを制してティアラ二冠を達成し、ティアラ三冠ウマ娘となるべく出走したウマ娘がいた。
『場内にファンファーレが鳴り渡りまして、エリザベス女王杯のゲートインが始まります。
注目、12番がベガです。果たして史上2人目、メジロラモーヌ以来の三冠成りますか。一等星ベガ、史上2人目のティアラ三冠達成なるか』
ガエリオが担当を務めるウマ娘、ベガ。
オークス後に一頓挫あり、一時は三冠は絶望かと言われていたものの、ギリギリで立て直して三冠最後の一戦に滑り込んできた。
トライアルは使えず、本番直行。この厳しい条件下であっても、春と同じように強さを見せつけられるのか。
それとも苦杯をなめて来たユキノビジンなど他のウマ娘が雪辱を晴らすのか、非常に注目された。
1番人気は夏から連勝で、前哨戦のGⅡ「関西テレビ杯ローズステークス」を制したスターバレリーナ。
二冠のベガは故障による休養明けの復帰初戦というのが不安視されたか、2番人気の支持を受けるに留まった。
『さあ大歓声であります、大歓声にスタンドが揺れている!
先頭はこの辺りケイウーマン粘っているが、外からスターバレリーナ! 大外を通りましてベストダンシング!
ベガは苦しい、ベガ苦しい! バ群を割れるか、バ群を割れるか! 真ん中ノースフライト!!』
京都外回り、400メートルの直線コースで全員ほとんど差のないまま、バ群は横に広がった。
ベガは伸びない。スターバレリーナも脚が上がった。
そして、空いた最内から伏兵が突き抜ける。
『内からはホクトベガ!! 内からホクトベガ、後100メートルであります!! ホクトベガか、ホクトベガ!!
ホクトベガ、1バ身半のリード!!
ベガはベガでもホクトベガです!!!』
ティアラ路線最後の一冠、エリザベス女王杯はホクトベガの優勝。
2着はノースフライト、ベガは3着まで。今年もティアラ三冠は達成されず、という結果に終わった。
と、このエリザベス女王杯から、1週間の時を戻そう。
◇
天皇賞(秋)の翌週。
京都レース場では、クラシック最後の一冠──GⅠ「菊花賞」の当日を迎えていた。
今年のクラシック戦線は「三強」の体制。
ビワハヤヒデ、ナリタタイシン、ウイニングチケット──「BNW」と総称される三人に注目が集まり、実際にこの三人が牽引してきた。
一冠目、皐月賞はナリタタイシンが大外一気の差し切り勝ち。
二冠目、日本ダービーはウイニングチケットが先行抜け出しから後続の追撃を振り切った。
そして、迎えた三冠目。
ファンが一番人気に支持したのは、三強の中で唯一無冠ながら、デビューから9戦5勝、2着4回。
未だ一度も連対を外したことが無く、三強の中で最も隙が無いとされるウマ娘──ビワハヤヒデだった。
前哨戦のGⅡ「神戸新聞杯」も完勝。
「最も強いウマ娘が勝つ」と言われる菊花賞で、最も多くのファンが望むのは、三強最後の一人の戴冠である。
「また連れて来てくれてありがと、トレーナー」
「まあ、菊花賞は毎年観に来ているからな。それに、たまにはレース場に行って、現地の雰囲気というモノを味わっておくのも良いだろう」
京都レース場のスタンドの関係者席で、私とトウカイテイオーは発走の時を待っていた。
菊花賞はこれで3年連続の観戦。今年もクラシックが終わり、以降の秋のGⅠにはクラシック級のウマ娘も出走してくる。
有馬記念に来るウマ娘もいるだろう。トウカイテイオーにとっても無関係のレースではない。
「ほう。レース場でお前の姿を見るのは久々だな、マクギリス」
と。私の左横に座ってきたのは、ラスタル・エリオン。
1番人気のビワハヤヒデのトレーナーだ。その後ろにはナリタタイシンのトレーナーでもあるガエリオ・ボードウィンの姿もあり、ラスタル越しに私に向けて手を上げた。
「最近は来る機会が無かったがな」
「順調、とはとても言い難いようだな。──もっとも、その点に関しては私も人のことは言えんか」
自虐するように、ラスタルは苦笑する。
ラスタルはビワハヤヒデに高い素質があると見込み、早くからトレーニングを積ませていた。そして、満を持してデビューさせたわけだが──ビワハヤヒデはここまで、GⅠでは二着が最高着順である。
ここまで9戦、1400から2400まで幅広い距離を走ってきて、一度たりとも連対を外していないのは恐ろしい限りで、ラスタルの見込みが正しかったことの証明でもあるのだが──彼女は間違い無く、GⅠを勝てる能力を持つウマ娘だ。ラスタルはこれまでの結果に満足していない。
「昨年は朝日杯を走っていたウマ娘だというのに、いよいよ今日は3000メートルか。彼女はこなせると思うのか?」
「当然だ。むしろ、延びれば延びるほど良いのではないかと思っている。
『最も強いウマ娘が勝つ』菊花賞──この最後の一冠だけは、絶対に落とせないという一心だ。ヴィダールには悪いが、今日のレースはビワハヤヒデが頂く」
皐月賞とダービーでは2着。しかしラスタルの自信、ビワハヤヒデへの信頼はいささかも揺らぎない。
一方、ガエリオは浮かない表情で肩をすくめた。
「対抗心なら、ウイニングチケットの方に燃やしてくれ。
……正直、今日はタイシンを出させたくなかったくらいなんだよ」
「───タイシン、って皐月賞を勝ったナリタタイシンのことだよね? 何かあったの?」
「盛大に体調を崩したと、そう聞いている。確か、肺出血だったか」
「出血!? それ大丈夫!?」
トウカイテイオーの疑問に答えると、彼女は驚きを露わにした。
無論、全然大丈夫ではない。体調を崩したナリタタイシンは前哨戦を走ることができず、結局ぶっつけ本番でこの菊花賞に挑むことになった。
「アイツがどうしても、と言って止められなかったのを後悔してる。ある程度は回復したんだが、完調には程遠くてな」
ため息を吐くガエリオ。ナリタタイシンの不調だけではない──彼のもう1人の担当ウマ娘であるティアラ二冠ウマ娘ベガも怪我をし、ティアラ三冠を逃した。
順調なのはメジロマックイーンだけ、という状況。単なる偶然、巡り合わせではあろうが、ガエリオの心労はかなりのモノがあるだろう。
「───と、そろそろスタートだな」
話している内に、スタート時刻がやって来た。
スターターがスタート台に上がり、生演奏の関西GⅠファンファーレが、薄曇りの淀の空に鳴り渡る。
『7番のビワハヤヒデが入り、9番のウイニングチケットも入りました。ゲート入りはスムーズ、後はナリタタイシンだけになりました。
さあ、ナリタタイシンが入りますとスタート態勢が整います!』
ビワハヤヒデは4枠7番、ウイニングチケットは5枠9番。大外の8枠18番がナリタタイシンである。
ナリタタイシンがゲートに納まり、いよいよ最後の一冠へ続く3000メートル──淀の坂を越え、強さを問われる3分がスタートした。
◇
音を立て、銀色の扉が開かれる。
英国はセントレジャーに範を取るGⅠ「菊花賞」、3000メートルの旅が今年も始まった。
『さあスタート、まずまずのスタートを切りました18人。下がったのはナリタタイシン、下がったのはナリタタイシン。
注目の先行争い、先行争いでありますが、何が行くんでしょうか』
一斉に飛び出す18人のウマ娘。
まずナリタタイシンがいつも通り最後方へ下がり、外回りコースの淀の坂を上りながらの先行争い。
『おっと、外からリワードプランダーとそれからサンブリッジシチーですね。この辺りの先行争いになりました。
ネーハイシーザーは3番手、1番のシュアリーウィン、マイネルリマーク。それから外からスーッとタマモハイウェイ、引っかかっています』
第3コーナーを曲がり、坂の下りにかかりながらポジションが決定されていく。
12番のネーハイシーザーを外から躱して14番のリワードプランダーと16番のサンブリッジシチー、外枠の2人が内へ切れ込みながら主導権を握りにかかる。3、4人が先頭を争う形だ。
『あっ、7番ビワハヤヒデは上手く外へ出しました。7番のビワハヤヒデは上手く外へ出しました』
ポジション争いで前のウマ娘たちがゴチャつく中、ビワハヤヒデは内枠からバ群の外目へと持ち出した。
──菊花賞の3000メートル、長距離でバ群の外側を回ることは、強いウマ娘でなければ自殺行為に等しい。外を走るということは、それだけ距離をロスするからである。
(……それでも勝てると。それだけの自信がある、ということか)
満足げに頷くラスタルを傍目に、マクギリスは目を細めた。ビワハヤヒデは前から5番手から7番手といったところにつけた。
一方、ウイニングチケットはバ群の中団辺り。
ビワハヤヒデを前に見ながら、こちらも少しバ群の外目に持ち出して、18人が第四コーナーをカーブし、最初のホームストレッチへと向かってくる。
『ウイニングチケットは後ろの方、ウイニングチケットは内へ入っていくのか。それとももう、最初から外へ出すのか。この辺りが注目するところでありますが、9番ウイニングチケット。
ビワハヤヒデの方は、ビワハヤヒデの方は、もう3番手です! ビワハヤヒデの方は掛かっているんでしょうか、18人ほぼ一団です。ビワハヤヒデの方が3番手であります』
スタンドからの歓声を浴びながら、バ群はゴール板の前を通過して、第1コーナーへと入っていく。
ビワハヤヒデは早くも3番手付近、王道の先行策を取っている。ウイニングチケットはビワハヤヒデの背中を睨みながらも、差しを狙う構えであろう。
『ウイニングチケットの方はちょうど中団といったところでありますが、第1コーナーです。おっと、マイヨジョンヌがちょっと窮屈になって下がった。
ツジユートピアン辺りがいます、第2コーナーへ向かいます。これが9番ウイニングチケットです』
第2コーナーを曲がり、向正面へ入っていく。ここから2周目、ゆったりと上りながら高低差4メートルの坂へと再び突入する。
『もう一度先頭から整理しておきましょうか、先頭は3番ツジユートピアンです。
ツジユートピアンが先頭、シュアリーウィンが2番手、3番手ようやく落ち着いたビワハヤヒデ。7番ビワハヤヒデ、まだちょっと掛かり気味かなぁというところ』
(……落ち着け。まだ、焦るところじゃない)
ボリュームのある芦毛の髪を靡かせながら、ビワハヤヒデは慎重に息をして、気持ちを落ち着かせる。
絶対に落とせない三冠目。1番人気の支持も受けた。クラシック無冠のままで終わる訳にはいかない──プレッシャーが気持ちをはやらせるが、長距離は折り合いが肝心。
研究の末、ビワハヤヒデはそれを重々承知している。
『その後ろネーハイシーザー、そしてタマモハイウェイ17番。そしてその後ろでありますが、おっとここに9番のウイニングチケットがいた。ウイニングチケットとビワハヤヒデはそんなに離れていません』
ビワハヤヒデについて行くように、背中を常に捉えながらウイニングチケットは追走する。
──ハッキリ言って、ウイニングチケットにとって3000メートルはベストではない。
故に、最初はポジションにこだわらず中団から進め、道中でのスタミナの消耗を抑え、徐々に徐々にポジションを上げていくという作戦を取る。
「……ネーハイシーザーが下がっているな」
「そのようだな。──何か起きたか?」
2番手付近を走っていたウマ娘が、急にズルズルと後ろへ下がっていく。内ラチに沿ってポジションがどんどんと下がり、最後方のナリタタイシンにすら追い抜かれようという様子で、マクギリスとラスタルが厳しい表情で睨む。
『激しく、目まぐるしく順位が入れ替わっている。これはナリタタイシンであります。ナリタタイシンでありますが、おっと1人故障か、1人故障なんでしょうか。
第3コーナーをカーブして、おっと1人故障。ネーハイシーザーは故障した模様であります。
後17人はネーハイシーザーを置いて第4コーナーへ向かいます、いよいよ第4コーナーでありますが、もう少しもう少し先頭集団を見てみたいところ』
しかし、そうこうしている内にレースは進んでいる。
二度目の第3コーナー、坂を上りきった17人は下りにかかり、一気にペースが上がっていく。
「───行くぞ!」
ここで、ビワハヤヒデが動いた。
バ群がギュッと縦に縮まる中、外目につけていたビワハヤヒデがロングスパートを開始する。
「来た……!」
トウカイテイオーが呟く。彼女は、このタイミングで仕掛けることがどういうことかを知っている。
まだ第4コーナーの手前、ミスターシービーやメジロマックイーンほどではないにせよ、残り600メートルはある。自信が無ければできない勝負、相当な早めの仕掛け。ここで仕掛けて後続を振り切れるのは、本当の強者のみ。
『ビワハヤヒデ先頭に出てきた、ビワハヤヒデが先頭に立った!』
そして、早くもビワハヤヒデが先頭に躍り出る──ところで、最終コーナーをカーブ。残り400メートルのハロン棒を通過して、バ群が最後の直線コースへと向いた。
芦毛が先頭に立つ。それを追うウイニングチケットは、まだ詰まったバ群の中。
『おっとウイニングチケットはどの辺りにいるのか、ウイニングはまだ後ろか!』
(ッ、まずったかも──!?)
進路が無い。ウイニングチケットが冷や汗を流す一方、抜け出したビワハヤヒデの前に壁は無い。
「菊花賞は、私が貰う───!!!」
芝を踏みしめ、芦毛の怪物がラストスパートをかける。
ダービーウマ娘はまだバ群の中にいるが、前を走る2人の間、1人分も無い隙間を突くことになった。
(ここしかない──外に行ったら、間に合わない……!)
『おっとウイニングも来ている来ている! おーっと苦しいところに入ったウイニングチケット!』
ウイニングチケットは焦っていた。
理解していたからだ。差が開いたら、それで終わり。絶対にビワハヤヒデには追いつけない。彼女に勝ちたければ、絶対に離されるわけにはいかないのだと。
だが───バ群を抜け出すのに、時間がかかりすぎた。
『先頭はビワハヤヒデ、ビワハヤヒデ先頭! ウイニングチケット割って来れるか! ラガーチャンピオン来ている、ラガーチャンピオン来ている!
さあウイニング来たぞーっ!! ウイニングチケット2番手か、外からステージチャンプか!! 外からステージチャンプだ! 外からステージチャンプ!!』
「ッ……待てぇぇぇええええええっ!!!」
ダービーウマ娘が追う。しかし、ビワハヤヒデと後続の差は、既に5バ身から6バ身と開いている。
内からはようやくバ群を割って抜けて来たウイニングチケット、外からもウマ娘たちが追いすがるが───ビワハヤヒデは、とにかく冷静だった。
「────勝った」
確信があった。もう誰も、自分には追いつけないと。
先頭を走るビワハヤヒデは、完全に後続のウマ娘たちを置き去りにした。
『完全にビワハヤヒデ!! 完全にビワハヤヒデ!!
菊の舞台で、無念を晴らす!!! ビワハヤヒデ1着ッ!!!』
決着。第54代の菊花賞ウマ娘はビワハヤヒデ。
2着ステージチャンプとの差は、5バ身も開いていた。
『2着ステージチャンプ! 2着ステージチャンプ! ウイニングチケットは3着! ウイニングチケットは3着!
菊の舞台で、春の無念を晴らしたビワハヤヒデ!! 完勝、完勝です!!』
5バ身差の余裕。2着に0.9秒もの差をつける、まさに完勝。圧勝と言っていい横綱相撲。
──加えて、この勝利にはオマケも付いて来た。
『3分4秒7! 3分4秒7、これはレコードタイムか! 勝ち時計は3分4秒7、上がりの3ハロンは34秒6!
レコードタイム! ライスシャワーの3分5秒のレコードを破りました! レコードタイムです!!』
昨年打ち立てられたライスシャワーのレコードタイムを破り、菊花賞史上初の3分4秒台の時計を叩き出した。
「最も強いウマ娘が勝つ」菊花賞において、彼女はその強さが史上においても屈指のモノだということを証明してみせたのである。
「───強い……!」
「……ビワハヤヒデ。間違い無く、彼女がこの世代の『最強』だな。この中では間違い無く、頭一つ抜けている。夏を越えて、更にスケールが大きくなった」
トウカイテイオーが息を呑み、マクギリスは感心する。
その横でラスタルは満足げに笑みを浮かべて席を立ち、ウィナーズサークルへと下りていった。
「───む。今、誰か私の頭が大きいと言ったか?」
「え? 勘違いじゃない?」
「……絶対気のせいでしょ。もし本当だったらどんな地獄耳してんのアンタは」
ビワハヤヒデが耳をピクリと動かし、ウイニングチケットが首を傾げ、ナリタタイシンがツッコむ。
しかし、ビワハヤヒデはスタンドを──スタンドの関係者席を睨みつけた。
「いや、確かに聞こえたぞ。頭がデカいと」
「ホント? アタシは聞こえなかったけど……タイシンは?」
「この歓声の中でそんなの聞こえるわけないでしょ」
「絶対に言った! 関係者席から聞こえたぞ! 私の頭はデカくない! 髪のボリュームが少し多いだけだ!」
「うっわ、こうなるとメンドいんだよねハヤヒデって」
「アハハハ、菊花賞を勝ってもいつも通りかぁ」
ナリタタイシンが呆れたように呟き、ウイニングチケットが笑う。一方のビワハヤヒデはスタンドを睨み続ける。
──今年のクラシックを牽引した「BNW」の三人は、実のところ大の親友同士でもあったのだった。
次走「有馬記念」