マクギリス、トレーナーになる   作:アグニ会幹部

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48R 有馬記念

 クラシック級限定のGⅠレースが終了した、11月末。

 東京レース場では、世界との対決となるGⅠ「ジャパンカップ」が施行された。

 

 1番人気に支持されたのはアメリカのウマ娘、コタシャーン(Kotashaan)。

 アメリカの芝GⅠをこれまでに5勝と猛威を振るっており、前走でアメリカ最高峰の芝のレースであるGⅠ「ブリーダーズカップターフ」を制しての参戦となった。

 

 2番人気はホワイトマズル(White Muzzle)で、こちらはイギリスのウマ娘。

 GⅠ「デルビーイタリアーノ」(イタリアのダービー)を優勝し、英国最高峰の中長距離GⅠ「キングジョージⅥ世&クイーンエリザベスステークス」とフランス最高峰のGⅠ「凱旋門賞」で共に2着という実績がある。

 

 3番人気はアメリカ芝GⅠ「アーリントンミリオン」の覇者スターオブコジーン(Star of Cozzene)と、去年に引き続き外国のウマ娘が上位人気を独占。

 最も支持を集めた日本のウマ娘は、今年のダービーウマ娘ウイニングチケットで、4番人気となった。

 

『ゲート開いたッ! 第13回ジャパンカップ、スタートを切りました!

 さあ、メジロパーマーが行くんでしょうか。それともハシルショウグン、レガシーワールドも行くのか。先行争い、やはり予想通り6番のメジロパーマーが行きました。パーマーが行ったッ!』

 

 先頭はメジロパーマー、2番手にレガシーワールド。

 それを見る形で外からマチカネタンホイザ、4番手にライスシャワー、その内側に今年のダービーウマ娘ウイニングチケットという隊形になった。

 後ろには今年の凱旋門賞を勝ったアーバンシー(Urban Sea)、豪州GⅠ「コックスプレート」の覇者ザファントムチャンス(The Phantom Chance)、ホワイトマズル、昨年のジャパンカップで2着のナチュラリズムなどが控えた。

 1番人気のコタシャーンは、後方3番手からレースを進める。

 

『大逃げではありません、メジロパーマーであります。さあ、依然としてレガシーワールドが2番手。レガシー2番手、後続のウマ娘も徐々に差を詰めて参りました』

 

 前走の京都大賞典と同じように、先頭を行くメジロパーマーの背を見ながら、レガシーワールドは近づいてくる気配を感じ取っていた。

 

(───今年こそ、今年こそ負けられねぇ。誰が相手だろうが関係ねぇ……見てろよ、ブルボン!)

 

 レガシーワールドに焦りはない。メジロマックイーンにこそブッ千切られてしまったが、京都大賞典では良い走りができていた。

 チームメイトであり、未だ復帰できないミホノブルボンのためにも──このジャパンカップ、負けるわけにはいかないと彼女は考えている。

 

『ライスシャワー、マチカネタンホイザ。先頭から4番手までは日本のウマ娘がギッシリと列を作っている、さあ外国の強豪がどの辺りから襲いかかってくるのか!

 第4コーナーカーブ、府中の直線500メートルに入って参りました!!』

 

 バ群が縦に詰まって、最終コーナーをカーブしてくる。

 メジロパーマーのリードが無くなり、外からレガシーワールドが被せて先頭に立とうとするも、更にその外側に持ち出したウマ娘たちが一斉に先頭へ襲いかかった。

 

『さあ先頭はメジロパーマー、メジロパーマーが先頭!

 レガシーワールドが来た! レガシーワールド来た! ハシルショウグン頑張っている、2番のウイニングチケット! 外から白い勝負服ルアズーがやって来た、横に広がった横に広がった!! 何が来るか分からない!!』

 

 バ群は真横に広がり、10人以上のウマ娘が横並びになった。秋の天皇賞と同じ、誰が抜け出すか全く分からない展開。

 内からメジロパーマー、レガシーワールド、ウイニングチケット、ライスシャワーなど日本のウマ娘たち。

 外からは外国のウマ娘たち、ドイツのプラティニ(Platini)やアーバンシー、コタシャーン、ホワイトマズルなど、まさしく大混戦である。

 

『レガシーが僅かに先頭か! ウイニング来た! プラティニが来ている!

 外から7番のコタシャーン!! 外から7番のコタシャーンも良い脚でやって来た!! コタシャーンだ、コタシャーンやって来た!!』

 

 外から抜け出して来るのは青と銀の勝負服、アメリカのコタシャーン。

 内ではレガシーワールドが僅かに先頭を死守しており、懸命に粘って抵抗していた。

 

「っ、まだ……まだ、抜かせるかぁぁぁッ!!!」

『凄い脚でやって来た!! 凄い脚でコタシャーンがやって来た!!

 レガシーワールド頑張る!! レガシーワールド頑張る!! レガシー頑張った、レガシー頑張ったレガシーやったッ!!!』

 

 コタシャーンが猛然と追い込んだが、レガシーワールドは僅かなリードを最後まで守りきった。

 世界の強豪たちの誰よりも早く、レガシーワールドはゴールへと飛び込んだ。

 

『勝ったのはレガシーワールドッ!!! 去年四着の鬱憤を晴らしました!!!』

 

 ジャパンカップの勝者はレガシーワールド。

 日本のウマ娘としては昨年のトウカイテイオーに次ぐ、史上4人目のジャパンカップ勝利となった。

 

「───どうだ。勝ったぞ、ブルボン」

「……はい。ありがとうございます」

「そこは『おめでとう』だぞ」

 

 レガシーワールドはこれがGⅠ初制覇。

 昨年無念の回避となったミホノブルボンに捧げる勝利、と言えるだろう。

 

 

 かくして、秋シニア三冠の内、二冠が終了した。

 

 残されたのは秋シニア三冠最後の一冠にして、年末のグランプリレース。

 一年の総決算、中山レース場芝2500メートル。

 ファン投票により出走ウマ娘が選定される、普段トゥインクル・シリーズを見ない人でも注目する大一番。

 

 世界で最も盛り上がるとも言われるレース、GⅠ「有馬記念」である────

 

 

   ◇

 

 

『1月5日の東西の金杯から始まりました、今年のトゥインクル・シリーズ。いよいよフィナーレを迎えました』

 

 12月26日、日曜日。

 今年のGⅠもこれで最後──クラシック級とシニア級、2つの路線が交わる師走の決戦、一年の締めくくりたる「有馬記念」の日がやって来た。

 

『ウマ娘実力ナンバーワンを決めます、第38回有馬記念。14人、ご紹介して参りましょう』

「───いよいよか」

 

 マクギリス・ファリドはスタンドの最前列で笑みを浮かべて、本バ場に姿を見せるウマ娘たちに注目する。

 ファンのボルテージは早くも最高潮に達しようかというところ。冷え込む冬の中山はしかし、汗ばむような熱気に包まれている。

 

『ティアラ路線のウマ娘の苦戦が続いている有馬記念ですが、ただ華を添えるだけではありません。

 何とか上位に食い込みたい、1枠1番エルカーサリバー!』

 

 重賞4勝の実力者、赤と青と緑の勝負服がエルカーサリバー。

 ティアラ路線のウマ娘ではあるが、クラシック路線の重賞にも果敢に挑戦し、既に2つを制している。ティアラ路線から23年ぶりの優勝を狙う。

 

『この秋の充実度は、まさに一気に天に昇る勢いです。

 2枠2番、セキテイリュウオー!』

 

 天皇賞(秋)ではヤマニンゼファーとハナ差の2着、白と赤と青の勝負服のセキテイリュウオー。

 本当に僅かな差で秋の盾を逃し、今度こそGⅠのタイトルを掴みたいと意気込んでいるだろう。

 

『ティアラ三冠の夢は潰えましたが、クラシック路線のウマ娘も顔負けの瞬発力が魅力。

 今日は光り輝くのか、3枠3番ベガ!』

 

 今年のティアラ二冠ウマ娘、黄に赤い縦縞が入った勝負服がベガ。

 故障もあり三冠こそ逃したが、その実力は世代随一。こちらも23年ぶり、ティアラ路線のウマ娘による有馬記念の優勝を目論んでいる。

 

『去年の有馬記念から、実に1年ぶり。

 悪夢を忘れ、奇跡の復活を目指す3枠4番、トウカイテイオー!』

 

 一昨年の無敗の二冠ウマ娘、白と青にピンクを差した勝負服のトウカイテイオー。

 昨年は大阪杯とジャパンカップを制したが、有馬記念では11着と大敗し、その後も怪我続き。結局、この有馬記念が一年ぶりの復帰戦となった。

 中365日でGⅠを制した前例は勿論ゼロ。GⅠ3勝のウマ娘が、久々の大舞台で如何なる走りを見せるのか。

 

『グランプリ初登場。天皇賞(秋)3着から、悲願のGⅠ制覇なるか。

 4枠5番、ウィッシュドリーム!』

 

 オープン入りに時間を要したものの、重賞を2勝し天皇賞(秋)でも3着と好走しているウィッシュドリーム。

 青と灰色の勝負服を纏う彼女も、この有馬記念で悲願のGⅠ初制覇を目指すウマ娘である。

 

『GⅠ2勝の実績からも、今日は期待を裏切ることはできません。

 4枠6番、ライスシャワー!』

 

 漆黒のステイヤー、黒と紫の勝負服はライスシャワー。

 天皇賞(春)では2連覇を成し遂げていた王者メジロマックイーンを破り、レコード勝利。

 秋シーズンは人気を背負いながらも惨敗が続いているが、この有馬記念では力を見せつけたいところである。

 

『このレースで、27連続重賞挑戦の新記録達成。

 豪脚を見せてほしい、5枠7番ホワイトストーン!』

 

 長く走り、重賞戦線で活躍しているホワイトストーン。

 今年のGⅡ「AJCC」勝ち以降は調子を落としてしまっているが、叩き4戦目となるここで上位を狙いたい。彼女のピンクと黄色の勝負服は、最早GⅠではお馴染みだ。

 

『気分良く走ることができれば、苦手の右回りも克服できそうです。

 5枠8番、マチカネタンホイザ!』

 

 複数の重賞勝ちの実績があり、GⅠで3着入りしたこともあるマチカネタンホイザ。

 ジャパンカップでは大敗を喫することとなったが、立て直して初のGⅠ制覇を目指す。ドイツの民族衣装を模した勝負服は、あのミホノブルボンやライスシャワーにも肉薄したことがある。

 

『ジャパンカップで世界の強豪を退け、このグランプリを制すれば、後は海外に羽ばたくだけです。

 6枠9番、レガシーワールド!』

 

 ジャパンカップを勝っての参戦となる、赤と緑の勝負服でフードを被ったレガシーワールド。

 逃げ・先行を得意とするウマ娘であり、今日のペースにも大きく関わってくるだろう。有馬記念では昨年2着の実績を持ち、勢いのままにGⅠ連勝と行きたいところだ。

 

『キャリア4戦ながら、ビワハヤヒデに競り勝ったあの朝日杯の強さは忘れていません。

 6枠10番、エルウェーウィン!』

 

 クラシック級のウマ娘、星を各所に散らした赤と青の勝負服がエルウェーウィン。

 昨年はビワハヤヒデを破りGⅠ「朝日杯ジュニアステークス」を制したが、クラシック級に入ってからは故障のため休養。約1年ぶりの復帰戦、朝日杯と同じ中山で、クラシックの無念を晴らせるか。

 

『ダービーウマ娘の意地と誇りが、今日も闘志に火を点けます。

 7枠11番、ウイニングチケット!』

 

 今年のダービーウマ娘、赤と黄に水色を差した勝負服を纏うウイニングチケット。

 秋に入ってからの菊花賞、ジャパンカップでは力及ばずの結果となっているが、今日こそは最高のダービーを制したウマ娘として、何とか意地を見せたい。

 

『2年連続、無念のグランプリ3着。今年こそは、との思いがあるハズです。

 7枠12番、ナイスネイチャ!』

 

 この有馬記念で、2年連続の3着となっている赤と緑の勝負服、ナイスネイチャ。

 重賞勝ちこそあるものの、GⅠではなかなか勝利の美酒を味わえない。得意とする有馬の舞台で、今日こそは念願を叶えられるか。

 

『10戦6勝、2着4回。100パーセントの連対率を誇ります彼女が、このグランプリで初めてシニア級のウマ娘と対決します。

 8枠13番、ビワハヤヒデ!』

 

 クラシックが終わってなお、パーフェクト連対を維持しているビワハヤヒデ。

 前走の菊花賞では5バ身差の圧勝劇を披露し、今日も堂々たる1番人気に支持された。ピンクと黒の勝負服、その双肩にかかる期待は重圧か、それとも自信か。

 

『鮮やかな逃亡劇から早1年。厳しいマークの中で、今年はどういった逃げを打つんでしょうか。

 8枠14番、メジロパーマー!』

 

 大外は昨年の覇者、白と緑の勝負服のメジロパーマー。

 逃げウマ娘で、今年のペースも彼女が作ることになるだろう。ここ数戦は大敗が続いているものの、昨年制した有馬の舞台では踏みとどまりたい。

 

 以上が、今年の有馬記念に挑むウマ娘たちである。

 全部で14人。その全てが重賞を制しており、GⅠウマ娘は8人。まさしく、今年の最強を、頂点を決定するに相応しいメンバーと言えるだろう。

 

「久々の実戦だな、マクギリス」

「───ああ。思ったよりも時間がかかったがな」

 

 隣に立つラスタルの言葉に、マクギリスはターフの上のトウカイテイオーを見つめながら、目を細めて返す。

 

 ───ようやくだ。ようやく、ここまで来た。

 1年ぶりの復帰戦にして、ぶっつけのGⅠレース。相手も骨のあるメンバー。

 

 まずは無事に2周して来てくれれば、と願うべきところだが───このレースは、トウカイテイオーにとって、絶対に負けるわけにはいかないレースになった。

 

「出すからには、勝ちに行く。悪いがビワハヤヒデには負けてもらうぞ、ラスタル・エリオン」

「……ほう。大きく出たな、マクギリス。

 勝てると思うのか? 1年ぶりのレースで、今のトウカイテイオーが、今のビワハヤヒデに?」

 

 全くだ、とマクギリスはラスタルに頷きを返した。

 

 有馬記念を勝つ。トウカイテイオーはそう断言し、マクギリスもそのためにやれることは全てやったが──正直、勝算は大きくない。

 1年のブランクというハンデはそれほどまでに大きい。

 

 数ヶ月の休み明けであっても、ぶっつけ本番は厳しいというのがトゥインクル・シリーズの常識であり、それは純然たる事実だ。

 多くて数人が並んで走るだけのトレーニングと、最大18人がそれぞれ作戦を持ち、ポジションを取り合いながら仕掛け所などを考えて走るレースは全くの別物。

 だから、本番の前にはステップレースを挟むのが定石となったのである。結局のところ、実際のレースに勝るトレーニングなど無い。

 

「常識的に考えれば、トウカイテイオーの勝利はあり得ない。1年ぶりのレースなど、無事に帰って来れば御の字だろうさ。

 だが──いや、だからこそ。今日彼女が勝ったならば、それはトゥインクル・シリーズの常識を覆す勝利となる」

 

 今日、彼女が戦うのは他の13人のウマ娘ではない。

 トウカイテイオーの敵はトウカイテイオー自身であり、トゥインクル・シリーズの常識そのものである。

 

「随分と壮大な──いや、無謀な夢物語だな」

「それがどうした? 此処は夢のグランプリ、有馬記念。夢を見て何が悪い」

「──なるほど。それは確かに、その通りだ」

 

 マクギリスの開き直った言葉に、ラスタルは笑った。

 今日のトウカイテイオーは4番人気──マクギリスと同じように、彼女に夢を託したファンは決して少なくないということだ。

 

(───調整は上手く行った。作戦も練った。後は君次第だぞ、トウカイテイオー)

 

 ウォーミングアップで走ったトウカイテイオーの姿を見て、マクギリスは勝算が少し増えた、と感じていた。

 あの走りは、良い時のトウカイテイオーだ。膝を高く上げる、弾むような歩様。トウカイテイオーの状態は間違い無く良い。

 この有馬記念、万全の状態で彼女を出走させるまでが、マクギリスの仕事だった。そして、マクギリスはトレーナーとして、その仕事をやりきった。

 

 常識を打ち破る奇跡を、起こすことができるのか。

 後は、トウカイテイオー次第である。

 

 

   ◇

 

 

 本バ場入場が終わり、観客がレースを見るためにスタンドへ移動して、人が疎らになったパドック。

 そこにポツンと1人、芦毛の長髪を靡かせるウマ娘──メジロマックイーンは立っていた。

 

(……テイオー───)

 

 両手を胸の前で重ね、握りしめる。

 パドックに出て来たトウカイテイオーの表情に、陰りは全く無かった。彼女はいつものように、自信に満ち溢れていた。

 そして、トウカイテイオーは本バ場に向かって行って──メジロマックイーンも、レースを見るために移動しようと思ったのだが、足が震えて動かない。

 

(……テイオーを信じたい。でも──怖くて、見られない)

 

 トウカイテイオーは言った。奇跡を起こすと。

 ──トウカイテイオーはそれが出来る、最高のウマ娘であるということは、メジロマックイーンが一番良く理解している。

 

 だけど──もし、トウカイテイオーが負けてしまったら。

 

 トウカイテイオーのレースを見ることは楽しみでもあり、それ以上に怖い。不安で仕方が無い。鼓動が速くなって、心臓が重圧で押し潰されそうだった。

 

「───こんなとこにいたのか、マックイーン」

 

 と。俯くメジロマックイーンの背に、彼女のトレーナーが──ガエリオ・ボードウィンが声をかける。

 メジロマックイーンは振り向いて、ポツリと呟く。

 

「……トレーナーさん」

「レースが始まっちまうぞ。行こう」

「───ですが……」

 

 歯切れ悪く、俯いたままのメジロマックイーン。

 その心境を察して、ガエリオは頭を掻きながら言う。

 

「気持ちは分かる。結果を見るのが怖いんだろ」

「──!」

「レースは残酷だからな。勝者はただ1人、それ以外のウマ娘は全員が敗者になる。自分の応援するウマ娘が、勝ってほしいウマ娘が負けるとしたら、そんな瞬間はできれば見たくない。

 そいつが今日のレースのためにどれだけ努力してきて、どんな想いで走っているのか、知っていれば知っているほど、負ける瞬間を見ることは辛くなる。応援してるウマ娘の事前のインタビューとかトレーニング映像とか、見てれば見てるほど、結果なんて出てほしくないと思う。

 夢が打ち砕かれる瞬間なんて、誰も見たくない」

 

 だが、とガエリオは──トレーナーは断じる。

 

「そいつの頑張りは、絶対に見てやらなきゃならない。結果がどうなろうと、ウマ娘たちはみんな全力で、がむしゃらに走ってるんだ。

 例え負けても、その悔しさをバネに、前に進んでいく。それがトゥインクル・シリーズを走るウマ娘たちで、俺たちはそんなウマ娘たちが引退するまで応援して、見守り続ける。

 応援してるウマ娘が勝てば勿論、最高に嬉しい。負けたとしても、よく頑張ったと、次は勝ってほしいとエールを送る。見る側の俺たちには、それしかできないからな」

 

 レースに出走するウマ娘たち、その誰しもにファンがいる。多かれ少なかれ、応援している人は必ずいる。

 夢を叶えられるウマ娘は1人だけ。夢を託すファンたちも、夢が叶う時があれば、破れる時もある。

 

 特にグランプリレースはそうだ。

 アナタの夢、私の夢が走る──その夢が叶うかは、また別問題だ。みんな、夢を見たいのである。

 

「なあ、マックイーン。お前はずっと、俺の夢だった。叶えてくれる時もあれば、破れちまう時もあったけどな──俺はお前で夢を見られて、ずっと楽しかった。

 だから、今度はお前も夢を見てみないか? 今年の有馬記念、お前の夢は何だ?」

「……決まっています。(わたくし)の夢は────」




次走「夢をかける」
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