マクギリス、トレーナーになる   作:アグニ会幹部

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6R メジロはメジロでも

 メジロマックイーン。

 

 ガエリオ・ボードウィンが担当する、メジロのウマ娘。

 4月3日生まれの芦毛で、今年2月3日にメイクデビュー戦(阪神ダート1700メートル)でデビュー。

 デビュー戦を快勝するも、骨膜炎(ソエ)のため1勝クラスのゆきやなぎ賞(2月・阪神芝2000メートル)、続くあやめ賞(5月・京都芝2200メートル)でも惜敗を期す。

 

 これを受け、ダービーには間に合わないと判断されたメジロマックイーンは、目標を秋のクラシック最後の一冠「菊花賞(きっかしょう)」に変更。

 

 メジロマックイーンは夏合宿の後、9月には1勝クラスの渡島特別(函館ダート1700メートル)2着を経て、次の木古内特別(函館ダート1700メートル)でようやくの勝ち上がり。

 2勝クラスの昇級初戦となった大沼ステークス(函館芝2000メートル)を突破するも、3勝クラスの嵐山ステークス(京都芝3000メートル)では、先行するも直線で進路を確保することに失敗し、惜しくも2着。

 

 そして、当の目標レースである菊花賞。

 

 出走自体が危ぶまれる事態にはなったものの、上位のウマ娘が出走回避したことで、メジロマックイーンは無事に菊花賞に出走することが可能となった。

 

 トゥインクル・シリーズの本場である英国の「イギリスセントレジャー」を元とするクラシックGⅠの一つ「菊花賞」は、右回りの京都レース場・芝3000メートル。

 

 前哨戦となるトライアルレースは3つ。

 GⅡ「ラジオ日本賞セントライト記念」、中山芝2200メートル。

 GⅡ「神戸新聞杯」、阪神芝2000メートル。

 GⅡ「京都新聞杯」、京都芝2200メートル。

 

 距離設定がいずれも中距離であるため、クラシック級のウマ娘にとって3000メートルという長距離のレースは、初めての挑戦となることも多い。

 

 

 11月。

 私がトレセン学園のトレーナーとなって早くも半年以上が経ち、トウカイテイオーのメイクデビュー戦も1ヶ月先まで迫っている頃──私とトウカイテイオーは、メジロマックイーンの出走する「菊花賞」を観戦するため、京都レース場に立っていた。

 

 しかし、天気は生憎の雨。

 水を含んだバ場の状態は「(おも)」と発表され、私も傘を広げている。

 

「……トレーナー。今日はどうして、わざわざレース場まで見に行こう、なんて言ったの?」

 

 私の右に立ち、カッパを着たトウカイテイオーが、珍しいねと言わんばかりに問うてくる。

 ──確かに、レース場に来るのは久しぶりだ。

 トウカイテイオーと共にとなれば、それこそシンボリルドルフが出走したサマードリームトロフィーの予選レースを見に行った時以来になるだろうか。

 

「1年後、君は無敗の三冠をかけてこの場に立つ。菊花賞の空気を知っておいて、損はないだろう。

 それに──いや、何よりこのレースには、君も気にしているメジロマックイーンが出走する」

「──確かに、マックイーンはライバルだけどさ」

「彼女にとってはこれがGⅠ初出走になる、応援してやると良い。

 ……なあ、ガエリオ?」

 

 と。

 私は自分の左横で、緊張のあまり顔が青ざめ、吐き気すら催しているメジロマックイーンのトレーナー、ガエリオ・ボードウィンの背を傘の持ち手で叩く。

 

「や、やめろマクギリス……吐く、吐いてしまう……」

 

 ガエリオは前屈みになり、柵に身体を預けて俯いている。背を叩いた衝撃で、食べた物が出て来てもおかしくはない。こんなところで吐かれても困るのだが。

 我が友人ながら、なかなか無様な姿だ。

 仮にもトレーナーとして俺の先輩と言うなら、もう少しシャキッとしていてほしいモノだ。

 

「もー、トレーナーのキミが緊張しててどうすんのさ」

「トウカイテイオーの言う通りだ。お前が気負っていては、メジロマックイーンにとってもプレッシャーになろう。トレーナーとして堂々としろ」

「わ、分かっている……分かっているが、俺も担当ウマ娘がGⅠに出るのは初めてで……うっ」

 

 戻ってくるモノを必死に堪えるガエリオ。

 ……もういっそ吐かせた方が楽になれるのではないか、これは。

 

『さあ、やって参りました! 本日の京都レース場、メインレースはクラシック最後の一冠「菊花賞」! 芝3000メートルです!

 「最も強いウマ娘が勝つ」と言われるこのレース、栄冠を掴むのは果たして誰か!

 実況は本日も赤坂、解説は細江さんでお送り致します! 細江さん、よろしくお願いします!』

『はい、よろしくお願い致します』

 

 場内に実況解説放送が流れ始め、コースの中心に設置されたターフビジョンに地下バ道からコースに繋がる出口が映し出された。

 いよいよ、パドックを経て地下バ道から出走ウマ娘たちが姿を現す。

 発走予定時刻まで、もう20分と無い。

 

「そろそろだ。いい加減しっかりしろ、ガエリオ。

 メジロマックイーンは追い切りも良かった。お前が信じなくてどうする?」

 

 ガエリオの襟首を背中側から掴み上げ、強引に持ち上げて背筋を伸ばさせる。

 これでようやく、ガエリオも己が頬を叩いて気合を入れ直し、ネクタイを締め直して覚悟が決まったようである。

 

『さて細江さん、今年のクラシック戦線は皐月賞をハクタイセイ、ダービーをアイネスフウジンが勝ち、ここまで二冠を分け合う形となっています。

 しかし、皐月賞ウマ娘ハクタイセイはダービー後に屈腱炎が判明し、長期休養。ダービーウマ娘アイネスフウジンも屈腱炎により引退を余儀なくされたため、今日の菊花賞には皐月賞ウマ娘もダービーウマ娘も不在。

 誰しもが勝てばGⅠ初勝利という、混戦模様となりました』

『そうですね……ハクタイセイもアイネスフウジンもこの三冠最後のレースにいないことは、非常に残念だと思います』

 

 そう。今年のクラシック戦線は、皐月賞ウマ娘が怪我により休養、ダービーウマ娘も春の内にターフを去ってしまうという事態になってしまっている。

 おかげで菊花賞は混戦。──これもまた、トゥインクル・シリーズ。どれだけ強かろうと、怪我で引退を余儀なくされることもある。厳しく残酷な世界だ。

 

『さあ、出走ウマ娘たちの本バ場入場です!』

 

 音楽と共にウマ娘たちの入場が始まり、実況の紹介と共に拍手がスタンドから上がる。

 3000メートル。未知の舞台に挑む17人のウマ娘たちが、GⅠレースでしか着ることの許されない思い思いの勝負服を身に纏い、ターフに姿を現し始めた。

 

 その中で、一際大きな注目を浴びるウマ娘がいる。

 

『もう銀メダルは要らない! この菊花賞でこそ、GⅠのタイトルを何としても取りたいでしょう! 大外枠でも1番人気、8枠18番メジロライアン!』

 

 1番人気のメジロライアン。

 皐月賞で3着、ダービーでは2着。菊花賞トライアルの京都新聞杯を勝利し、素質は十分に示して来た。満を持しての戴冠が期待されている。

 

『2番人気はホワイトストーン、3番人気はアズマイーストと続いています。

 細江さんの予想は如何ですか?』

『はい、やはりメジロライアンですね。今日の彼女は一段と気合が入っていて、体調も良さそうに見えます。

 GⅠ級の力はありますから、ここで最後の一冠を取ってほしいと思います』

 

 6番のウマ娘が出走取消になり、今年の菊花賞に出走するのは17名。

 その中で、メジロマックイーンは4番人気。──前走、3勝クラスで惜敗している割には高い人気だと言えなくもないが、彼女の素質を知っている身としては過小評価の気もするといったところだ。

 

「トレーナーさん」

 

 ターフに出て、準備運動がてらの試走を終えたメジロマックイーンが、こちらに駆け寄ってくる。

 ガエリオは咳払いをしつつ、メジロマックイーンに言う。

 

「マックイーン。───勝ってこい!」

「勿論ですわ。またとないチャンスを得た以上、メジロのウマ娘として、恥じない走りをして見せます」

 

 それでは、とメジロマックイーンは黒い勝負服の裾と芦毛の長髪を翻し、向正面(むこうじょうめん)の発走地点へとゆっくり歩いて行った。

 その背を見届けつつ、ガエリオに言う。

 

「──お前の動揺は、察されずに済んだようだな」

「からかうな。……ああ、俺も覚悟を決めたよ。俺はマックイーンを信じるだけだ」

 

 そう。ここまで来たら、トレーナーにできることは祈ることと信じることしかない。

 それにメジロマックイーンは、トレーニングの際にメジロライアンに先着している。チャンスは十分以上にあると見て良い。

 ──メジロライアンも、負けるとすればメジロマックイーンだと考えているだろう。

 

 出走ウマ娘たちがゲートの後ろに移動し、スターターが台に登る。

 降りしきる雨の中で、迎えた発走予定時刻の15時40分。スタート台の上でスターターが赤旗を振ると同時、関西GⅠファンファーレが鉛色の空の下で観客の拍手と歓声と共に、暗い淀の地に木霊した。

 

『さあ、第51回「菊花賞」のファンファーレが鳴り響きました。雨の下、枠入りが始まっています。

 最後に8枠18番、1番人気のメジロライアンがゲートの中へ──17人、態勢完了!』

 

 スタート地点は向正面、スタンドの反対側。

 メジロライアンがゲートに納まり、鉄の扉が音を立てて一斉に開かれた。

 

『さあ、ゲートが開きました!

 ……おっと、好スタートはニチドウサンダーです! 後は一斉、まずニチドウサンダーが好スタートで飛び出しました! 後ろにアズマイースト、これを追ってマイネルガイストが行きました!』

 

 5枠10番ニチドウサンダーが好スタートを切るも、並びかけて行った5枠11番マイネルガイストが外側から捲り上げて先頭(ハナ)を奪う。

 続く3番手には6枠13番のオースミロッチが上がるものの、こちらは掛かり気味のようで、本来望む形ではなさそうだ。大舞台で緊張しているのだろうか。

 

『12番がセンターショウカツ! それからその後ろでありますが、16番がグローバルエース! これが4、5番手といったところ!

 それからアズマイースト絶好の位置、その内に2番のメジロ、マックイーンの方であります!』

「マックイーン、良い位置だね」

 

 トウカイテイオーの呟きに頷きを返す。

 メジロマックイーンの脚質は「先行」──集団の先頭のすぐ後ろから中団辺りにつけ、直線で抜け出す鉄板の王道戦法。一番強いと言われることもある脚質である。

 今日の彼女は2枠2番、バ場状態を考えれば絶好の内枠を引いている。

 一方の大外枠を引いたメジロライアンは、メジロマックイーンから少し離れての後方、外側につける。こちらは後方集団からの「差し」狙いだ。

 

『いよいよ、1周目のホームストレッチに入って参ります! さあ、傘の花がこの17人を待ち受ける、1周目のホームストレッチ!』

 

 菊花賞は3000メートルの長距離レースであり、京都レース場の外回りコースを一周半することになる。

 ここで観客の歓声に惑わされたり、緊張のあまりパニックになって動いてしまうウマ娘もいるが、如何に体力を温存し自分のペースと呼吸を保っていられるかも、勝負を分ける鍵となる。

 

 雨の中の大歓声。

 スタートから第3コーナーと第4コーナーを曲がって来る間に、隊列が一通り形成されて、ひとまずの落ち着きを見る。

 

『仮柵が外されまして、内バ場が非常に良くなっている緑の絨毯! しかしこの緑の絨毯、たっぷりと雨を含んでいます!』

 

 そして、ここが今回の菊花賞のポイントだ。

 レース場のコースには「Aコース」「Bコース」というように、複数のコースが設定されていることがある。

 菊花賞の舞台となる京都レース場の場合は、AからDまでの4つのコースがある。

 この4つのコースの違いは「外ラチから内ラチまでの距離」、即ち「バ場の横幅」だ。

 横幅はAコースが一番広く、Dコースが一番狭い。その差は直線で10メートルもある。

 AからD、どのコースを使用するかに合わせて、バ場の内側に仮柵が設置され、コースの横幅が変わる。

 

 どうしてこんなことをするのかと言うと、レースを行うたび、ウマ娘たちによって踏みしめられたバ場が足跡などによってデコボコになってしまい、荒れるからである。

 特にバ場の内側、距離ロスの無い最内は誰もが走りたがるため、開催日数を重ねるにつれて荒れていく。荒れたバ場は走りづらいためスピードが出づらい一方、外側のあまり使われない部分のバ場は芝が綺麗で走りやすい。

 芝が荒れ過ぎることによる、有利不利を少なくするための措置である。

 

 今は内側に備えられていた仮柵が外され、横幅が最も広いAコースが使用されている。

 これによって、それまで使われていなかったバ場の内側を走れるようになった。

 当然、先週まで使われていなかったバ場の内側は芝の状態が良いし、先週も使われていたバ場の外側は芝の状態が悪い。

 

 これを踏まえ、最後の直線でどのようなコース取りをするのか。

 そこにウマ娘たちの各自の作戦と、最終直線400メートルに入るまでのポジション──位置取りの成果が現れる。

 

『メジロライアンは絶好の位置、ちょうど中団! 外、外を通ってちょうど中団であります!

 先頭は11番のマイネルガイスト、オースミロッチは2番手に上がりました! 続いてアズマイーストであります! ユートジョージがいて、ホワイトストーンは内、内を通って後ろから4、5人目といったところ!』

 

 歓声と拍手を浴びながら、17人の優駿たちは第1コーナーから第2コーナーを曲がり、今一度バックストレッチ──向正面に入って行く。

 

『もう一度、先頭から整理しましょう!

 先頭にマイネルガイスト、2番手に6枠の2人! オースミロッチが外、14番が九州出身のヨシノトップ! その外からセンターショウカツはやや掛かり気味、メジロマックイーンが絶好の手応え!

 不気味な2枠の2人、後ろにアズマイースト! グローバルエースがいて、その外から──おおっと18番のメジロライアン、良い感じで上がって参ります!

 10番がニチドウサンダー、それから5番ツルマルミマタオーを引き連れて、メジロライアンが外、外を通ってジワーッと差を詰めた! レッツゴーターキン、1番のホワイトストーン、その外へユートジョージ! 9番がメルシーアトラ、17番ホワイトアロー、4番は乾坤一擲、直線追い込んで来るかシンボリテーバ!

 さあ、これから17人、これから坂を上ります!』

 

 菊花賞、もう一つのポイントがここ。

 第三コーナー手前、心臓破りとも言われる淀の坂。京都レース場の「名物」だ。

 

 高低差4.3メートル。

 向正面の中程から第3コーナーにかけて上り、第3コーナーから第4コーナーにかけて一気に下って行く。坂というよりかは丘、というイメージだろうか。

 ここで体力を消耗しては最後の直線400メートルで持たないため、基本的には「ゆっくり上ってゆっくり下る」というのが鉄則となる。

 

 ──もっとも、よりにもよって坂の途中で仕掛け、坂の下りで早くも先頭に立つとそのまま逃げ切り、19年ぶりのクラシック三冠制覇を達成したウマ娘などもいるので、あくまでも「基本的には」だが。

 

「……ここまでは順調だな」

「ああ──勝負はここからだけどな……」

 

 ガエリオは気が気でないと言わんばかりに祈っているが、私の目にはここまでのメジロマックイーンのレース運びは完璧に映る。これで沈んだら少しまずい、というレベルには完璧なレースをしている。

 逃げるマイネルガイストから距離を取ってペースを保ちながら、仮柵を外され綺麗な状態のバ場の内側を内枠を生かして走り、完璧に折り合っている。

 後は坂を下った先の最後の直線400メートル、この重バ場の中でどれほどの脚を使えるかが勝負だ。

 

 そして、3コーナーを過ぎて坂の下りに差し掛かった時──メジロライアンがスーッと外から、ポジションを前へ前へと上げ始めた。

 

『さあ、ライアン動いた! ライアン動いた! 坂の下りでライアン動いた! ライアン動いた!

 マックイーンはまだ後ろ!』

 

 メジロマックイーンを捕まえるために、直線に入った時点である程度は前にいなければならないと考えたか。

 メジロライアンが(まく)るように上がって行き、それに合わせて他のウマ娘たちも一気にペースアップして行く。

 しかし、メジロマックイーンはその中においてもペースを崩さない。ペースアップに追いつけていないのではなく、彼女はただ機を見計らっている。

 

『ホワイトストーンはまだ来ていない! ライアンが3番手に上がって来た! メジロライアン3番手、これと一緒にアズマイースト!

 そしてメジロマックイーンも来ている! メジロマックイーンも来ている!』

 

 メジロライアンが大外を回って先団に取り付き、大歓声に包まれて17人が最後の直線コースに向く。

 メジロマックイーンもこの中、先頭に立つ勢い。前にウマ娘はおらず、視界は開け、進路は既に確保されている。

 

『ホワイトストーンはバ場の真ん中を突っ込んでくる! さあ、マックイーン先頭に立ったか!』

 

 最終直線。全員がラストスパートをかける。

 その中から一気に、黒い勝負服を纏って芦毛を靡かせ、メジロマックイーンが突き抜けて来た。

 

「行けーッ、マックイーン!!!」

 

 ガエリオの叫びに応えるかのように、メジロマックイーンは重バ場も何のそのとばかりにグングンと、凄まじい勢いで伸びて行く。

 

『マックイーン先頭、マックイーン先頭!! そしてメジロライアンでありますが、内からホワイトストーンも差を詰める!!

 さあマックイーンか、マックイーンが先頭に立った!! メジロ両者の争いか!!』

 

 メジロマックイーンが走るはバ場の内側、仮柵から解放された美しさを保つ芝。

 常に最内を回って距離ロスを避け、満を持してのスパートで他のウマ娘を引き離す。完璧なレースだ。

 

「───決まったな」

 

 対してメジロライアンは、伸びてこそいるもののメジロマックイーンとの差は縮まらない。

 バ場の外側を回らされたツケが出ている。大外枠の全てが、裏目に出てしまっているようだ。

 

『一角を、一角をホワイトストーン崩したか!! ホワイトストーン崩した、2番手に上がった!!』

 

 メジロマックイーンと同じく綺麗な最内を伸びて来ているホワイトストーンもメジロライアンを差し返すが、それでもメジロマックイーンまでは至らない。

 ホワイトストーンもメジロライアンも、その脚色は決してメジロマックイーンに劣るモノではないが、そもそもメジロマックイーンよりも後方につけていた以上、同じ脚色では足りない。

 

 当然、メジロマックイーンの脚を超える末脚を披露しなければ、彼女を後ろから追い抜くことなどできない。

 そして、それほどの脚を持つ者は、このメンバーの中には誰もいなかった。

 

『マックイーン先頭だ!! マックイーンだマックイーンだ!! メジロでもマックイーンの方だ!!

 メジロマックイーンッ!!!』

 

 決着。

 メジロマックイーンは誰よりも速く、ゴールへと飛び込んだ。

 

『メジロマックイーン、ガッツポーズ!!!

 メジロデュレンに続く菊花賞制覇です、メジロマックイーンです!!!』

 

 メジロライアンを破っての栄冠。メジロマックイーンが、右手で軽くガッツポーズをして見せた。

 

 大歓声がメジロマックイーンを讃える。

 このGⅠの大舞台で、前走の惜敗をバネにして、今年のクラシック戦線を戦ってきた強豪たちを打ち砕き、メジロマックイーンは「最も強いウマ娘」としての勝利を掴んだのであった。

 

「うおおおおおおおおお!! マックイーン!!!」

「落ち着け」

 

 絶叫するガエリオを窘めるが、これはもう聞いていないなと思い諦める。

 トウカイテイオーの方に視線をやると、その口元には笑みが浮かんでいる。

 それはライバルを讃えるモノか、あるいは来年自分がああなることをイメージしているのだろうか。

 

「トレーナーさーん、やりましたわー!」

 

 メジロマックイーンが手を振っている。

 もう一度ガエリオの方を見てやると、涙を流して両手で振り返している。リアクションがオーバーすぎるのではないかとも思うが、こればかりは仕方がない。

 何せ、ガエリオにとってもメジロマックイーンにとっても、GⅠはこれが初勝利になるのだから。

 

「───ボクも来年、あんな風に」

 

 雨が蒸発するのではないか、とさえ思える観客の熱気の中で、トウカイテイオーはポツリとそう呟いた。

 

 

 菊花賞を制したのは、メジロはメジロでもメジロマックイーン。

 出走を危ぶまれながらも無事に出走にこぎ着け、内枠を引き当ててメジロの悲願に繋がる長距離で結果を出してみせた。運を味方につけ実力で掴み取った、見事なクラシックGⅠ制覇だった。




次回「メイクデビュー」
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