年が明け、トウカイテイオーはクラシック級に上がった。
今年の春にはいよいよ、トウカイテイオーが目指す「無敗の三冠」の一冠目「皐月賞」と、二冠目「東京優駿(日本ダービー)」が来る。
トウカイテイオーの夢の始まりだ。
しかし、その前に一つ、トウカイテイオーには関わらないものの、トゥインクル・シリーズに関わる者として触れなければならない──いや、触れずにはいられないことがある。
それは昨年の年末に行われた、トゥインクル・シリーズ一年の総決算──夢のグランプリレース、暮れの大一番たるGⅠ「有馬記念」のことだ。
このレースでラストランを迎えた、偉大なウマ娘がいる。
その名はオグリキャップ。
トゥインクル・シリーズ史上に残る人気を誇った、芦毛のスターウマ娘。
タマモクロス、スーパークリーク、イナリワン、バンブーメモリーなど──数多のライバル達と激戦を演じ、世界の強豪とも相対した、地方の笠松トレセン学園から来たアイドル。
昨年の秋シーズンには低迷し、一昨年には一着のワールドレコードを叩き出したウマ娘とタイム差無しの激走を見せたジャパンカップにおいてすら、二桁着順に惨敗。
「オグリは終わった」と言われ、いよいよターフを去ると──「引退する」と宣言して臨んだのが、ファンの人気投票によって出走ウマ娘が決定される、夢のグランプリたる有馬記念だった。
そして、私はあの有馬記念でのオグリキャップに、アグニカ・カイエルの姿を見た。
結果については、最早語るべくもないことだ。
彼女はあの時、このトゥインクル・シリーズにおける史上最高の名声と栄誉を手にし、伝説となった。
それはクラシック三冠と同等、いやそれ以上かもしれないモノだった。
彼女が去ったことで、今年のトゥインクル・シリーズは新時代を迎える。
今のトゥインクル・シリーズに必要なのは、新しいアイドル。新たなるスター、ヒーローだ。
腐臭を一掃する鮮烈な風を、時代が求めている。
純粋な力だけが、世の理を正しい方向へと導くのである。
そして、トウカイテイオーこそがその新しいアイドルに──次の時代を作り上げる存在になると、私は確信しているのだ。
「今年のクラシック戦線における栄誉は、全て我々が頂く──ですね?」
「そうだ。『無敗の三冠』を手にすれば、トゥインクル・シリーズにおける栄誉栄達は思いのまま、というわけだ。
お前にも働いてもらうぞ、
「はっ!」
「ねぇトレーナー。その人誰?」
トレーナーに──いや、トレセン学園に正月は無い。休みとなるのは1月1日、元旦のみ。
翌日からはトレーニングが再開され、5日には年内初の重賞レースたるGⅢ「金杯(東)」が中山で、GⅢ「金杯(西)」が京都で施行される。
それ以前に、正月にはドリームトロフィーリーグの冬の頂点を決定する「ウィンタードリームトロフィー」が行われるのだから、正しくトレセン学園に正月というものは無いのである。
と、そんなことはさておき。
私は三ヶ日が明けるや否や、トレーナー室にトウカイテイオーを呼びつけ、今後の話をすることとした。
「テイオー。君の次走は『
去年の皐月賞ウマ娘ハクタイセイも勝利した、クラシックに直結するレースだ。ある意味、クラシックへの登竜門と言えるだろう。
コースは京都レース場の芝2000メートル、昨年末のシクラメンステークスと同じ。1月19日に行われる。構わないかな?」
「あ、うん。それは良いけど……」
「ありがとう。
まずはレースに慣れ、
日々のトレーニングに加え、2000メートルのレースを定期的に走ることで、ダービーの2400メートルもこなせるようになっていくハズだ。
本当は2400メートルのコースも経験させたいところだが、皐月賞までの間、オープンクラスに2400メートルのレースは無いのでやむなしである。
未知の部分もあるが、トウカイテイオーは2000よりも、少し長い距離が本質的には向いているだろうと私は見ている。2400もこなせるに違いない。
──と、ダービーの心配をする前に、まずは皐月賞があるのだが。
「准将は、担当ウマ娘のトレーニングに集中して下さい。今年のクラシックにおける有力ウマ娘の情報収集は、私が行います」
「ああ。頼んだぞ、石動」
「あのさトレーナー、その人誰なの?」
「それと、
「は。ただ今確認を進めております。
もうしばらく、調査に時間を頂きたく」
「良いだろう。──とはいえ、
「は!」
「もう、トレーナーってば!」
石動にある程度の指示を出したところで、トウカイテイオーが少し声を張り上げ、私を呼んだ。
──いかんな。担当ウマ娘とのコミュニケーションも、トレーナーとして大切な職務の一つである。それを蔑ろにしてはトレーナー失格だ。
「すまなかった、テイオー。何かな?」
「その人、一体誰なのさ!?」
と、トウカイテイオーは私の側に立つ石動を指差した。──そういえば、彼女にとっては初対面になるのだったか。
「紹介しよう。私の副官──サブトレーナーの石動だ」
「石動・カミーチェだ。よろしく頼む」
石動が敬礼し、トウカイテイオーに名乗る。
……ちなみに石動は、黒いスーツに身を包んでいる。私の外遊に同行する際の服装である。軍服など、この世界には必要ないからな。
「去年までは私の個人的な用件のために動いてもらっていたが、今年からはトレセン学園のサブトレーナーとしても、私の補佐にあたってもらうことになる。基本的には裏方に回ってもらうつもりだ。
君との接点はそう多くはないかもしれんが、もし私にどうしても外せない用事などがあり、君のトレーニングを見ることができない時などは、代理として石動に入ってもらうこともあるかもしれん。
君も、名前と顔程度は覚えてやってくれ」
「トウカイテイオー、君には期待している。
君の三冠のために、私も微力ながら力を尽くすつもりだ。よろしく頼む」
「あ、うん……よろしく」
石動が差し出した手を、トウカイテイオーはおずおずと握り返す。
無愛想な石動とトウカイテイオーの相性がどんなモノかは不明だが、まあ私の代わりに石動が出るような事態は起こらないハズだ。
彼女と石動が直接関わることは、恐らく無い。
「トレーナー、サブトレーナーなんていつの間に付けたのさ。ボク、聞いてないよ?」
「石動には諜報活動──情報収集に励んでもらうからね。他のトレーナーを出し抜くためにも、私と石動が繋がっていることは、あまり周知されたくない」
例えば今年、ラスタル・エリオンがトレーナーとしてクラシック戦線に送り込んで来るウマ娘にも、強豪がいると耳にしている。
ラスタルなどはなかなかそうしたウマ娘の情報についての尻尾を掴ませてくれないので、見習いサブトレーナーという立場を利用した、地道な調査要員としての石動の役目はかなり重要だ。
「諜報、って……そんなの要るの?」
「勿論。例えば各陣営がどのような作戦で挑んで来るか、それを知ればレース展開の予想が正確になり、作戦も立てやすくなるだろう。
本番で奇策を打つウマ娘や、本番まで牙を隠しているウマ娘もいる。今年のクラシック三冠に関わって来そうな有力ウマ娘の数も少なくない以上、私1人では手が回りきらないのでな。
我々がクラシック三冠を──ひいてはトゥインクル・シリーズを制覇するために、石動がもたらす情報は今後重要になるハズだ」
トウカイテイオーのクラシック三冠制覇のために、やれることは全てやる。
──この日本という国にある法律に反しない範囲で、手段を選ぶつもりはない。
目標を達成するためには、事前の準備と先々を見据えた手を早め早めに打つことが肝要だ。
かつて私は、バエルを手に入れるという目標を達成するために、私は友人を切り捨て組織に反して鉄華団を利用し、アイン・ダルトンを生贄として阿頼耶識を用意し、同志を集め満を持して「バエルの祭壇」に足を踏み入れた。それと同じである。
「ふーん……トレーナーも色々大変なんだね」
「まあ、ある種の腹の探り合いにはなるな。
──と、そんな雑事は我々に任せてくれたまえ。君は自分のことだけを考えてくれればそれで良い」
さて、次走についての話もした。
早速だが、トレーニングを始めよう。皐月賞まで4ヶ月と少し──我々が思っている以上に、時間は無いのだ。
◇
アタシはナイスネイチャ。しがないウマ娘です。
一応トレセン学園の生徒で、絶賛トゥインクル・シリーズで走っています。
今はクラシック級で、デビュー戦は去年の12月2日。京都の芝1200メートル、3番人気の2着でした。うーん、微妙。
その次の京都ダート1400メートルでは1番人気に推されました。アタシなんかで良いんだろうか、とちょっと落ち着かなかったけど、ここでは無事に勝利。
何とか人気に応えられて、とりあえず勝ち上がれて良かったよね、うん。1番人気で負けたらどうしようって思ってたから、ひとまず一安心だったかな。
続く1月初週、昇級初戦となる京都芝2000メートルの福寿草特別では、デビュー戦と同じ3番人気になったけど、結果は6着。
……まあ、昇級初戦で勝ち上がって連勝なんて、そんな上手くは行かないですよね。距離も長くなったし。
というか、このレースに関しては自分の結果より、1着になった子の強さの方が印象に残ってるかもしれない。
あの子はすごかったなぁ……出遅れたのに最後は2バ身差の完勝とか、もうアタシなんかとはレベルが違いますわ。ああいう子が重賞とか、それこそGⅠとかに勝つ子なんだろうなぁって思うよアタシ。
そんなわけで、今のところはまあまあって感じ。
とりあえず1勝クラスには上がれたから、今年中に泣きながらトレセン学園を去ることにはならなさそうで良かったけど、今はオープンクラスに上がるべく地道にトレーニングしています。
オープンに上がれば、トライアルに出てクラシック三冠レースにも挑戦……なんて、アタシなんかにはまだまだ、そんな大それたこと言えませんわ。ボチボチ頑張って、まずは目の前のレースに勝たないと。
と、そんなこんなで今からレースです。
アタシは今、体操服を着て7番のゼッケンを着けて、芝コースのゲートの前に立っています。
──最初はメチャクチャ緊張したけど、これで4戦目とあって、流石に慣れてきたかな。
今日出るレースは、オープン競走の「若駒ステークス」──去年の皐月賞ウマ娘も出た、クラシックの登竜門とも言われる出世レース。
今年はアタシを含めて9人が出走します。
大注目のウマ娘は、8枠8番のトウカイテイオー。
圧倒的な1番人気で、これまで2戦2勝。
既にオープン入りしていて、既にクラシック有力候補の1人と言われているウマ娘です。
いやー、またキラキラしてるすごそうな子と一緒になっちゃったなぁ……運が良いのか悪いのか。
アタシの人気ですか?
アタシは5番人気だそうですよ。今回は下から数えた方が早いけど、まあアタシはこんなモンだよね。
でも、出るからには1着を目指すよ。
こんな冴えないアタシだって、ウマ娘の端くれなのです。レースには勝ちたいと思ってるのです。
目指すは勝利、果ては重賞タイトル。日々のトレーニングはレースで勝つためなのです。
『京都レース場、第九レースはオープン競走の若駒ステークス。4月から始まるクラシック戦線に向けて、重要な一戦です』
ファンファーレが鳴り響き、実況も始まりました。
いよいよゲート入り。7枠7番──奇数番号のアタシは早めにゲートに入って、偶数番号のウマ娘たちがゲート入りするのを、深呼吸しながら待つのです。
そして、私の隣に8番──トウカイテイオーが入って来ました。チラリと横を見ると、ちょうど視線が合ったりも。
ただ、すぐに彼女はアタシから視線を外して前を向き、アタシも前を見てスタートに備え──ゲートが開かれるタイミングに合わせて、飛び出します。
『さあ、若駒ステークスのスタートです。9人が綺麗に揃いました』
出遅れは今回無し。先行争いが始まります。
京都芝2000メートルはホームストレッチからのスタートで、第1コーナーまでは距離があるから、ここは冷静にゆっくりとポジションを決めて行きたいところだけど──大外の9番に入った子が斜めに切れ込んで、内から前に上がっていく2番の子と競り合うように逃げて行きました。
『真ん中からイイデサターン、外からノーモアウォールです。今日は行きますノーモアウォール、内から2番のシンホリスキーです』
アタシは外側の枠なので、内には行けない。
少し外を走らされることにはなるけど、それはもう仕方ないから、腹をくくって外の走りやすいところを走ろうと思う。
逃げて行くのは2番のシンホリスキーと9番のノーモアウォール。そこから少し離れて、4番のイイデサターンと3番のダンディウェスト。
アタシはその斜め左後ろの少し外目に付けて、アタシの更に外には8番のトウカイテイオー。
……ちょっと圧を感じるような気もするけど、アタシはアタシの走りをするだけ。
『ゴール板にかかりました。先頭は2人、並んでいます。外はノーモアウォール、内はシンホリスキーです。そして3番手にイイデサターン、それからその後ろにダンディウェストがいます。
人気のトウカイテイオーは後方からのレース、イイデサターンを睨みながらのレースになります』
走りつつバ場の具合を確かめながら、第1コーナーを曲がっていく。
今日は晴れてて良バ場だけど、今回の京都レース場での開催の終盤だから、トラックバイアスはかなりありそう。外を回りすぎると良くないだろうけど、内に入るタイミングなんてあるんだろうか。
──そもそも、そんな器用なことアタシにはまだできない気がするし、気にしすぎるのも良くないと割り切るしかないかな。
『さあ引き離してシンホリスキー、第2コーナーにかかろうというところ。リードが2バ身くらいになりまして、1400の標識を過ぎました。
向正面に入ります、ノーモアウォールが2番手になりました。後ろは6、7バ身離れました。
3番手ピタッとイイデサターンです。その外の7番がナイスネイチャ』
場内放送の実況の声は、第1コーナーを曲がる頃には聞こえなくなる。
風を切る音とみんなの足音、息遣いなんかが聞こえてきます。
『その外を通りましてトウカイテイオー、1番人気。内の方にはダンディウェストがいます。
縦長の展開です。外を通りましてミスタースペイン、その内がアジサイトミオー。更に後方に1人、
先行したものの下がって行ってしまう3番の子を傍目に、3番手のイイデサターンに続く形で追走。
ラストスパートに向けて脚を溜めておきたいところだけど、外目を回ってるのがちょっとキツイかも。
一方、恐ろしいのはアタシの外から内を窺っているらしいトウカイテイオー。
……全然涼しい顔で、息が上がるどころか汗一つかいてないんですけど。怖っ。
『第3コーナーかかりました。各バの間隔がグーッと縮まってきました、縮まってきました』
京都の坂を登って、第3コーナーへ差し掛かる──と、坂の頂上に達した時、アタシの少し後ろの外を回っていたトウカイテイオーが、一段階ギアを上げた。
(もう仕掛けた……!?)
驚くアタシのことなんて、彼女は多分気にもしていない。
トウカイテイオーは笑顔を浮かべ、一息にアタシを追い越して捲っていき、アタシの前のイイデサターンもかわす。
もう息が切れて垂れ始めてるっぽいノーモアウォールも避けて、先頭を走るシンホリスキーに並びかけて行く。
『さあ外、外を通りまして、トウカイテイオーが押し上げて参りました!
800メートルの標識を過ぎました。シンホリスキーが2番手ですが、早くもトウカイテイオーが二番手から先頭を伺おうと言うところ。間に4番のイイデサターンが入っています。
この3人、人気の3人が前を占めました』
残り800メートル。
トウカイテイオーはシンホリスキーに並び、2人の間を突いて行こうと、イイデサターンも割り込んで行く。
釣られそうになるが堪える。前に3人が横並びになってしまっていて、ただでさえこの3人の外を回らさせられそうなのに、ここで脚を消耗したら、間違いなく最後まで持たない。
今は待って、外を回って直線で躱しにかかるしかない。
『第4コーナーにかかりました、シンホリスキーが先頭です。
外を通ってトウカイテイオー、外を通ってトウカイテイオー。そして3番手にイイデサターン、外に回したのがナイスネイチャ。
さあ、直線に向きました!』
第4コーナーカーブ。大外、4列目とかなりの大外を回ることになってしまった。ミスった、とは思うけど、こうなった以上はしょうがない。
先頭を見ると、何と早くもトウカイテイオーがシンホリスキーをかわしている。コーナーを曲がる直前、トウカイテイオーはイイデサターンより先行して2列目を回り、イイデサターンを3列目で回らせるようにしていたのが見えた。理想的な立ち回り。
……作戦まで完璧とか、すごすぎじゃないですかね?
『トウカイテイオー、余裕で先頭に立ちました! トウカイテイオーが先頭に立っています!』
直線を向き、アタシもスパートをかける。
だけど、トウカイテイオーとの距離は全然縮まらない──どころじゃない。どんどん離れて行くんですけど。マジか。
『残り200を迎えました、トウカイテイオー先頭! イイデサターンが来る、その外を通りましてナイスネイチャ! ナイスネイチャが3番手!』
あの子のポニーテールが遠くなって行く。
イイデサターンがアタシの左側から、アタシを置いてトウカイテイオーを追っていくが、トウカイテイオーの脚は全く衰える気配が見えなかった。
いや───あの子、ホントにすごかったわ。
『トウカイテイオー強い! リードが二バ身ぐらいになりました! 懸命にイイデサターン! イイデサターンがこれを追いますが、縮まりません!
トウカイテイオー、1着! 3連勝!』
当然のように。いとも簡単に、トウカイテイオーは先頭でゴールに飛び込んだ。
『トウカイテイオー、鮮やかな勝利で3連勝! 勝ち時計、2分1秒4! この時期の2000メートルにしては、まずまずのタイムが出ました!
一着は8番のトウカイテイオーです! そして2着には四番のイイデサターン、2バ身差はとうとう最後まで詰まりませんでした!』
こうして、若駒Sが終わった。
アタシはイイデサターンに次ぐ3着。──まあ、5番人気で3着なら、結構頑張ったんじゃないでしょうかね。
「───また負け、かぁ」
悔しくないわけじゃないけど、あんな勝ち方をされちゃったら、しょうがないと諦めもつく。いっそ清々しいとさえ思う。
多分、このレースを何回やり直したとしても、彼女の勝利は揺るがないだろう。あの子は全然、本気を出していなかった。
「おめでと。すごいね、アンタ」
息を整えながら、ケロリとしているトウカイテイオーに声をかける。
……すると、彼女は目を丸くした。いや、何でさ?
「──どしたの? アタシ、何か変なこと言った?」
「あ、ごめんごめん。ビックリしちゃった。これまで同じレースに出た子にお祝いされたことなくってさ。ありがとね、えっと……」
「アタシはナイスネイチャ。……次はトライアル、行くんだよね?」
「うん、そのつもりだよ。ボクの目標は『無敗の三冠ウマ娘』だからね」
ワオ。無敗の三冠、とはまた大目標ですな。
でも、ここまで3連勝──しかも本気を出してないとくれば、真面目にできてもおかしくないでしょう。
……この前と言い、アタシって相手が悪すぎるのでは?
「そっか。アンタならきっとできるよ。応援してる。
それじゃあね。またレースで一緒になったりしたら、その時はよろしく」
ヒラヒラと手を振って、アタシはトウカイテイオーに背を向ける。敗者は大人しく、速やかかつ静かに地下バ道へ帰って行くものなのです。
今回は負けたけど、次は勝つ。そう心に誓って。
───誓ったんだけど、レースの後、アタシの脚には骨膜炎が発見されてしまったのでした。
怪我です。夏までは療養を、と厳命を受けました。
何ということでしょう。
こうして、アタシは皐月賞にもダービーにも出られないことが確定したのです。
いや、別に気にしてないです。
元々出られる公算はあんまり無かったし、出てもトウカイテイオーがいる以上勝てはしないだろうし。
………ウソ。残念な気がしなくもないけど、こればっかりはしょうがない。
怪我も治ればまた走れる程度のものだし、幾分マシだと思えるようにしたいところだよね……。
アタシはナイスネイチャ。しがないウマ娘です。
まずはリハビリを頑張ります。
次走「トライアルレース」