ーーーアビドス高等学校(5月)
黒服「……なるほど。そちらでも何人かは同じ症状に……ええ。そういう対処の仕方が……参考にさせていただきましょう。失礼致します」
ノノミ「おはようございま〜す。誰かと電話していたんですか?」
黒服「ノノミ、おはようございます。ええ、少々困り事がありまして知人に相談していたのです」
ノノミ「困った事ですか?」
黒服「実際に見てもらった方が早いですね。着いてきてください」
いつもの場所である対策委員会室。その扉を開けるとエアコンが当たる位置で寝転んでいるホシノの姿。全身から力を抜いておりとてもリラックスしているようだ。
黒服「5月の休み中から今に至るまでずっとこのような状態なのです」
ノノミ「ホシノ先輩がここまで気に入ってくれるなんてエアコンを取り付けた甲斐がありますね⭐︎」
黒服「適度な休息でしたら問題はないのですが……訓練の時以外はずっと籠るようになってしまいまして」
ノノミ「もしかして…五月病でしょうか?」
黒服「知人もそれに近いと言ってましたね。ですが現状は訓練での成績も上がっておりますのでこの状態を維持しても構わないと判断しております」
ノノミ「そういえばホシノ先輩の訓練を見たことがないですね。どんな訓練をしているんですか?」
黒服「基本的には耐久力を高めるものですね。戦闘においてホシノが場に長く居ればいるほど勝率も高まりますので」
ノノミ「確かにホシノ先輩はいつも折りたたみ式の盾を持ってますよね。でも武器はショットガンでしたよ?交互に使い分けて戦うって感じですか?」
黒服「いえ、同時に使ってますよ」
ノノミ「えっ?ショットガンと盾ですよ?」
黒服「ですのでホシノはショットガンを片手で扱えます。半年ほど訓練してようやくですが」
ノノミ「物凄い努力家なんですね。でもそんな先輩も暑さには……」
黒服「元からそういう傾向はありましたので。ここまでになるとは思っておりませんでしたが」
ノノミ「とりあえずそろそろホシノ先輩を起こしますね。ホシノせんぱ〜い、朝ですよ〜」
ホシノ「んー…あと5時間だけ…」
黒服「もうとっくに訓練の開始時間は過ぎてますよ?早く支度をしないと本日の夕食を柴関ラーメン山盛りにしますよ」
ホシノ「うへぇ…」
ノノミ「この前連れて行ってもらったラーメン屋ですね。ですが山盛りなんてありましたっけ?」
黒服「ええ。大将曰く『そこの生徒さんは育ち盛りだろう?なら沢山食わないとなっ!』と仰っておりホシノの量を勝手に増量するんです。何故か私も同じ量にされますが…」
ノノミ「へぇ…ちょっと興味が湧いてきたので今度行く時は私も山盛りにしてもうかな…」
ホシノ「やめといた方がいいよノノミちゃん。あれは一人で食べる量じゃないよ」
黒服「準備ができたようですね。それでは訓練室に行きましょうか」
ホシノ「この部屋を出たら暑そう…」
黒服「……訓練後にアイスを用意しておきますので」
ホシノ「ノノミちゃん、訓練頑張ろうね」キリッ
ノノミ「はいっ⭐︎……黒服先生、ホシノ先輩の扱いが上手いですね」ボソッ
黒服「半年ほど付き合いがありますからね。ある程度は把握しております」
ここまで従順にさせるのに苦労した。早く成果が出たのもそれっぽい事を言うだけで好感度が上がるほどホシノが純粋な子供だったというだけの話。
ホシノ「ほらほら二人とも急いで〜。私が暑さでバテる前に訓練を始めないと」
黒服「全く…誇らしげに言う事じゃないですよ」
ーーー訓練室
黒服「今回からは二人で共同の訓練を行なってもらいます。互いを補助して連携が取れるように立ち回ってください」
ホシノノミ「は〜い」
黒服「それでは…訓練開始!」
合図と共に無数の弾幕とダミーターゲットが展開される。今回は全てノノミを狙うように調整したのでホシノがどう動くか見定めよう。
ノノミ「いつもよりダミーの数が多い……早く減らさないと……あっ」
焦ったノノミの目の前に銃弾。思わず目を瞑ってしまったが数秒経っても彼女に銃弾が当たる事はなかった。恐る恐る目を開けるとそこには小さな身体で大きな盾を構える先輩の姿。
ホシノ「ノノミちゃん、怪我はない?」
さっきまでの面倒臭がりでやる気を感じない先輩の面影はそこにはなく冷静沈着で落ち着いた雰囲気の彼女に思わず「…はい」と答えるのが精一杯だった。
ホシノ「良かった。攻撃は私が引き受けるからノノミちゃんは安心して」
笑顔でそう伝える頼もしい先輩を見て先程まで焦っていたのが嘘のように落ち着いた。自分の役割を果たそう。ミニガンを握る手に力を込めて準備を終える。
ノノミ「ノノミ、行きます!」
ミニガンの届く距離に居る敵や障害物を全て粉砕する。撃っている間はとても無防備だけど問題ない。先輩を信じているから。
ホシノ「ノノミちゃんやるね。これは私も負けていられないよ」
ホシノ先輩はショットガンでロケット弾を相殺したりリロード中の敵を的確に狙い撃っている。自身の身体より大きい盾を持ちながら。
黒服「ほう…予想以上に連携は上手くいってますね。初めてとは思えないほどに」
それにしてもホシノの笑顔を久しぶりに見た。きっと彼女は確信したのだろう。自分は誰かを守れるほどに強くなっている、と。現に昨日までより明らかに動きが竣敏になっている。それでいて被弾はしていない。もうダミーでは訓練の意味がなくなってきたのだろうか。そんな事を考えていたらいつの間にかダミーと遮蔽物が全壊していた。
ノノミ「終わり…でしょうか」
ホシノ「そうみたいだね。うへぇ…疲れたぁ…」
黒服「二人ともお疲れ様でした。想像よりも連携がとれており訓練としては完璧と言えるでしょう」
ノノミ「ホシノ先輩、とてもカッコよかったです。頼れる先輩って感じでしたよ♪」
ホシノ「ありがとー……ってその言い方だと普段は頼れないって思われるって事!?」
ノノミ「普段は可愛らしい姿しか見てこなかったので⭐︎」
ホシノ「なんか複雑だよぉ…」
黒服「本日の…いえ、戦闘訓練はこれくらいにしましょう。次回からは実戦を行います」
ホシノ「いよいよだねぇ。大丈夫、ノノミちゃんには傷ひとつ付けないように守るからね〜」
ノノミ「ありがとうございます。頼りにしていますね⭐︎」
黒服「あとは自由時間とします。アイスは委員会室の冷蔵庫に用意しておきました」
ホシノ「アイス!訓練後はやっぱり冷たいものだよねぇ」
黒服「私は後片付けをしますのでしばらくここに残ります」
ホシノ「先生も一緒に食べようよぉ。私も後片付け手伝うからさぁ」
黒服「貴女は休んでおきなさい。何度も言っておりますが休む事も訓練ですよ。ただえさえいつも無茶ばかりしているのですから少しは……」
ホシノ「うっ…話が長くなりそう…ノノミちゃん逃げよう」
ノノミ「はいっ⭐︎」
黒服「こらホシノ、まだ話は終わって……行ってしまいましたか」
逃げてしまったホシノに呆れつつ後処理を開始する。とはいえ仮想的に生成したものなのでそう時間はかからないが。
黒服「…ところで貴女は行かないのですか?ノノミ」
ノノミ「はい。黒服先生に聞きたい事がありまして」
黒服「私が答えられる範囲でよろしければお答えします」
ノノミ「ホシノ先輩の盾にユメと書いていました。もしかしてあの盾には本来の持ち主がいるのではないでしょうか?」
黒服「その通りです。いえ、居たと言った方が正しいでしょう」
ノノミ「………」
黒服「生憎私もどのような人物かどうかは知りません。ホシノと出会った頃には既に居ませんでしたからね」
ノノミ「…そうですか。答えていただきありがとうございます」
黒服「ただ一つ言えるとするなら…ホシノは今彼女の意思を継いで生きているという事です。私はそれを支えているに過ぎません」
ノノミ「私もホシノ先輩を支える事は出来るのでしょうか…」
黒服「その意志があるなら可能でしょう。さて、片付けも終わりましたので戻りましょうか」
ノノミ「はい…」
黒服「(既にノノミの存在は充分にホシノの支えになっていますがそれを今伝えるのは無粋というものでしょう)」
そういう風に考えてる辺りいつの間にか[先生]としての意識が芽生えてきているようだ。とはいえ根本から変わる事はないだろう。私は研究者なのだから。