例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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誰かの生は誰かの死で成り立っている。

世界はそうして均衡を保ってきたのだ。

それが崩れる事は決して起こり得ない。

その概念はキヴォトスという箱庭においても適用されている。

しかしそれの事実を理解する事も知る事も出来ない。

別の可能性が生まれた世界なんて想像はあくまで空想に過ぎない、そう考えている人がほとんどだろう。

そもそもそんな事すら考えないのかもしれない。

それが普通であり当然なのだから。

 

小鳥遊ホシノも例外ではなくそれに当て嵌まる人間だった。あの出来事が起こるまでは。

彼女はとある事件に巻き込まれて自身がいた場所とは違う世界に降りたった経験を得てしまった。

自分の世界以外の存在を理解してしまったのだ。

星の数よりも多く世界は存在しており自分の世界もその一部に過ぎないという事を。

人の欲というものは留まることを知らない。

一つを満たせば次の欲が生まれそれが原動力になる。

故に彼女はこう考える。

「先輩が生きている世界もあるのではないか」

その思考に至るのは当然とも言える。

彼女にとって失ってしまった大切なものなのだから。

今のアビドスはとても賑やかである。

後輩と、別の学園からの友人達、そして支えてくれた先生。

そんなかけがえのない存在に囲まれて彼女が幸せを感じているのも事実ではある。それでも心の罪悪感は消える事がない。

「この輪の中に先輩が居たら」

時折そう考えてしまうのにも慣れてしまっていた。

それが叶わぬ願いだと理解していたから。

そんな想いに身を馳せながら彼女は今日も墓の清掃を行い水を供える。

旧校舎の中庭。そこにある先輩を弔った墓の前で正座をする。

その場所に居る時は昔に戻ったような感覚になり自然と落ち着く。

まるで先輩が目の前に居るかのような安心感に包まれて長時間滞在したくなる衝動に駆られる事も多々ある。

前を向いていかないと理解していながらも人は後ろを振り返ってしまうもの。ましてや彼女はまだ高校生。心が弱くても仕方がないのだ。

この安心感は後輩でも、友人でも、先生ですらも与えてくれない。

先輩だけが与えてくれるこの温もりは断ち切れるものではないのだ。

 

ホシノ「……先輩に会いたいな」

 

掠れるような呟きは砂塵の中にかき消えた。

 

ーーー

 

砂漠という生命の死を象徴する場所を1人の少女が闊歩する。

腕章は砂の下に埋もれ5つの学生証を持ち歩きただひたすらに歩く。

大きな出来事が起こる事もなくただ静寂の時を刻んでいる。

ここは死んだ星。夢も希望も潰えた虚無の世界。

後輩が助けに来る事も、クエストが始まる事も、祈りを捧げる事もないただ砂漠だけが広がる場所。

世界の中心に訪れた彼女は胸ポケットに持ち歩いていた手紙を取り出して読み始める。

これは彼女にとって戒めなのだ。

どんな出来事が起ころうと許される事は決してない罪。

やがて手紙を読み終えた彼女はそれを砂の下に埋める。

冷たい瞳でそれを見下ろしていると一瞬、懐かしい顔が視界に入った。

 

「……そこに居たんだね」

 

彼女は軽く微笑みを浮かべた後に偶像に向かい歩み始めた。

 

ーーー

 

一瞬、彼女と目が合っただけで動悸が止まらなくなってしまった。

あれは何だったのだろうか。何故あのような事が……と考えてしまう。

しかし答えが出る事はなく彼女はその場を後にした。

この時、彼女は本来交わるべきではない存在に……

『色彩』に魅入られた事をまだ理解していない。

 




今まで以上に気合を入れようと思うので投稿頻度が落ちるかもしれないです。
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