いつからだろう。教師というものに慣れていたのは。隣に彼女が、ホシノがいる事が当たり前になっていたのは。
最初は好奇心を満たす為に近づいただけ。ホシノがどうなろうと気にも留めなかった。
大切な人を失い心が弱っている所につけ込むようにそれっぽい言葉を並べて伝えるだけで彼女の心に響き慕われるようになっていった。その頃からだろう、彼女から好意的な目線を向けられるようになったのは。
プレゼントとしてもらったこのネクタイもその証とも言える。
教師になってからの出来事を振り返ると常にホシノが隣に居た。初めて出会った時とは違い心の底から幸せそうに笑う彼女が隣で歩んでくれていた。
しかしそれももう過去の話。ホシノは攫われ信用も地に落ちただろう。であればもうアビドスに用はない。既に教師だなんて似合わない事を続けるのも面倒になっていた頃だ。ちょうど良いではないか。そう自分に言い聞かせるように呟きながらネクタイを外そうとして手をかけた。
思えば随分と長い間このネクタイを着けていた。ホシノと出会って一年が経過した頃にプレゼントとして受け取って以降ずっと。
『……先生、私と出会ってくれてありがとう』
ふとそんな記憶が蘇る。あの時見た涙ぐみながらも笑顔でこのネクタイが入った箱を渡してきたホシノ。
『……先生、好きだよ』
一度思い出し始めると止まらないもので……実験後に背中越しに言われた好意を示す言葉。大した記憶ではない、そう思っていた筈なのに鮮明に思い出せてしまう。何故なのか。……いや、答えは既に出ているのだ。
『いつもありがとう、先生』
自分が思っているよりもホシノという存在が大切だったという事。そんな単純な事に気づくのに随分と回り道をしてしまったようだ。大きなため息をついたあと、緩めようとしたネクタイを締め男は似合わないと理解していながらもう少しだけ『教師』を続けようと決意した。
言い淀んだ続きの言葉を聞いてもらう為に。
アビドスに到着するや否や校門に並んで待っている四人の生徒。彼女達は何かを悟ったかのようにこちらを凝視している。
シロコ「ん、待ってた。行こう」
黒服「まだ何も伝えてませんが」
シロコ「黒服に盗聴器を付けていたから事情は知ってる。ちなみに盗聴の発案者はノノミ」
……悟った訳ではなく盗聴していただけなようだ。相変わらず締まらない。しかしおかげで緊張が解けたので不幸中の幸いと言うべきだろう。
ほんの少し、教師というものを理解できたのかもしれない。無論未熟である事に変わりはないのだが。間を開けて深呼吸をした後、生徒達にこう告げる。『ホシノ救出の手助けをお願い致します』と。
彼は悪い大人ではなく『教師』としてその生を歩む事になる……かもしれない。
四部に力を入れたいので
日常と深淵はしばらく更新出来ません