長時間走り続けてようやく塔の入り口に辿り着いた。周辺に敵の姿はなく警備をしている様子はない。強いて言うなら先程のビナーがそれに当て嵌まるのだろうが。
息切れを起こしたので整えてから内部に入るとその異質さに驚きを隠せない。塔の中には見慣れた学校があったのだ。砂で汚れていない綺麗なアビドスの学校。そして着いてきていた生徒達の姿がない。ここは一体何なのだろうか?
『辺境の地にぽつんと存在する小さな学校。そこにはどんなに苦しくてもこの場所を守ろうと頑張る孤独な少女が居ました』
何処かから聞こえてくる声。幼い子に読み聞かせるような優しい口調で物語を紐解いていく。
『いつしか季節が巡り少女には後輩が出来ました。最初はぎこちなく接していたけれどいつしかその子も大切なものの一部になりました。その後も次々と後輩達と出会い、いつしか彼女の周りには笑顔が溢れていました』
目の前に五人の人影が映し出される。それぞれの特徴を捉えているので誰が誰なのかはすぐに理解できた。しかしその中に探し求めている姿はない。
『唯一心の許せる大人との出会いもあり、彼女達は苦難を乗り越えつつ楽しい日々を過ごしていました。しかし彼女達の日常はあっさりと崩れてしまいました。それは何故でしょうか?』
希望のある話から一転して不穏な話に変わる。そして襲撃された時に感じた重い空気が場を支配する。目の前の人影が一人ずつ消えていき、残された一人の人影に色が付着して彼女が現れた。
『お前のような悪い大人が居るからだ』
殺意を込めた眼でこちらを凝視する彼女の手には焦げた茶色の液体が付着したであろうショットガンが握られている。先程の物語といい彼女は自分の知る世界と異なる道を歩んだのは確実だろう。しかし何故色彩の眷属になっているのだろうか。そんな疑問が思い浮かんだが真っ先に聞かないといけない事がある。
「ホシノは何処に居るのですか?」
彼女が出した答えはショットガンを構える事。どうやら話す気はないようだ。最低限の護身術はあるとはいえ恐怖に染まっている彼女相手に通用するとは思えない。それでもホシノの事を聞かなければならないのだ。身体は既に後退する事を拒否している。
やはり現実はそう上手くいく事もなく数分も持たぬうちに酷い損傷をした。殺意を込めた一撃を何度も喰らい既に立つ事もままならない。
ーー悔しい。まさか大人になってこんな風に考える日が来るとは思わなかった。上手くいかない事は妥協するか諦める。そのように事を進めてきた自分が。それは紛れもなくホシノと、生徒と接した事が原因なのだろう。……ならばまだ諦めるのには早い。幸いにも脚の骨は折れていないのだから。
『……そんなに実験材料としてホシノちゃんが大事?』
実験材料。確かにそうだ。初めはホシノを使い実験を行う為だけに近づいたのは事実。しかし今は違う。
「ホシノは私の大切な生徒だ!貴女がどのような歴史を歩んできたのかは知らないが私の大事な生徒を誘拐した事は許しません!」
自分でも驚くほど大きな声で叫んだ。
彼女は少し怯んだ後に『そうやって言えば騙されると思いましたか!?悪い大人はいつも甘い言葉で騙そうとしてきますよね!他のアビドスの子もそういう手口で手駒にしたのでしょう!?』
と怒鳴りながら突撃してくる。
「それは違う。私は、私達は」
「自分の意思で此処に居ます!」
押されつつも彼女の攻撃を受け止める二人の人影。それはかつて廃墟で見つけた機械仕掛けのアンドロイド。アリスとケイ。二人もまた彼の想いに応えて助力をしに現れた。
「……とはいえこのままでは時間稼ぎにすらなりません。なのでアリス、貴女に託します」
「任せてください!」
自らの身体から小さな何かを引き抜いてアリスに渡すとその場に倒れるケイ。そして何かが弾けたようにアリスの身体が輝き出す。
以前空崎ヒナは母への想いを胸に抱き覚醒した。しかしそのような強い想いに匹敵するものをアリスは持ち合わせていない。そう、一人では。彼女の手元にあるのはケイの思い出が詰まった記憶装置。それは鍵としての役割しか与えられていなかった彼女が日常を過ごしていく中で大切なものと出会い彩られていく様が記録されている。
二人分の記憶と想い。それはヒナが抱いた思いの強さに匹敵する程に大きい。やがて『ケイ』という物語を読み解いた彼女の瞳は水色と紫のオッドアイに変化した。それが、それこそが彼女達の選んだ道。忘れられた神々の『王女』として目覚め彼の力になる事。
「アリス達のレベルは……カンストしました」
こうして天下無敵の合体勇者は生誕した。