例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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砕けた心を繋ぎ止める者

小鳥遊ホシノの心は脆い。しかし彼女の心を支えてくれた人がいた。だからこそ不安定なバランスではあるが崩壊せずに過ごせていた。

 

けれど彼女は今それらを失った、信じていた人に利用されていたと思い込んでいる。精神的支柱がなくなった彼女は少しずつ自我が崩壊し始めており、身体を蝕んでいった。悪夢を見て彷徨う彼女の心は黒く変色していき楽しかった思い出や大切な記憶を消していく。

 

目覚めた頃には涙を流していた。そして自身の身体が恐怖に染まっている事に気づく。全身が黒く染まり白い輪郭がなければ身体と認識する事すら困難になる程。やがて彼女は狂ったように笑い出す。大切な人を信用しきれなかった己に失望して。

 

『……私と同じだったんだね』

 

様子を見に来た先輩が悲しそうな目でこちらを見ている。この人も私から離れてしまうのだろうと直感的に理解した。彼女も同じように黒く染まったヘイローだと言うのに。そのままこちらを眺めるように見ている先輩。やがて『やっぱり駄目だな……』と呟いたかと思えば私の頭に手を添えてきた。

 

『それはホシノちゃんに似合わないよ。だから私が貰うね』

 

突如身体から何かが抜けるような感覚に陥る。軽い倦怠感に襲われた後何故か疲れが取れたかのように元気になった。色も紺ではなく元の姿に戻り困惑していると悲しそうな笑顔を見せて優しく撫でてくる先輩。どうやら彼女の体内にある恐怖を全部取り除き自らのものにしたようだ。つまりホシノはテラー化をする事が不可能になった。身体を蝕む危険もなくなり健康体そのもの。先輩は何故こんな事をするのだろうか?そもそも何故先輩のヘイローも黒くなっているのだろう?彼女に何があったのか……それを聞こうとする前に先輩はこう言った。

 

『ホシノちゃん、私のお願い……聞いてくれる?』

 

「……私にできる事なら何でもします」

 

『ありがとう。それじゃあ……』

 

先輩のお願いを聞いた私は目を見開いてしまった。何故そんな事を頼むのだろう……先輩の顔は至って真面目だ。本心でそう思っているのだろう。

 

『こんな事を頼むのは気が引けるけど……ホシノちゃんにしか任せられないんだ。だから待ってるね。君が来てくれるのを』

 

先輩の背中が離れていく。その背中を追うことは出来ずに私はただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。何でもする、だなんて安請け合いをしてしまった自分に絶望しそうになる。どうしようと一人で頭を抱えて考えるが解決法が思いつかない。周辺も騒々しくなって思考はより乱れていく。

 

耳を澄ませれば遠くの方からこちらに向かって走ってくる足音。忘れるわけがない革靴の音だ。やがて扉が開き入ってきたのは息を切らして今にも倒れそうな黒服。いつもの余裕な面影はなく声を出す余裕すらない彼。どうしたらいいかも分からずに傍観する事しか出来ない。やがて息を整えた彼はこう切り出した。

 

「貴女に伝えたい事があります」

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