大事な話がある。彼はそう言った。
けれど私は彼に対して大嫌いと、二度と顔を見たくないとまで言ってしまった。そんな私が話す資格などあるのだろうか。ある筈がない。
「帰って」
だから私は突き放そうとした。絶対に後悔すると理解していながらも彼の好意を受け止められる気がしなかったから。それに私は彼を信用しきれなかった。ずっと側で支えてくれたただ一人の大人を。
そんな私の思いを無視するかのように彼は私の手を握り何かを訴えるような顔で
「どうか話だけでも……」
と積極的に近づいてきたので思わず
「ひゃい」
と咄嗟に返事をしてしまった。気がついたら先程まで考えていた資格云々の事はなかったことのように頭から消え、彼の言葉を待っていた。
「前にお伝えしたように私は最初貴女を実験道具として利用しようと近づいた。これは事実です」
改めてそう言われると悲しくなってくる。所詮自分は悪い大人に利用されるだけの価値しかないと言われたように感じる。それでも私は彼の伝えたい事が言い終わるまで聞く事にした。
「ですが……教師として過ごしているうちに心境の変化に気がついたのです。ホシノを実験道具としてではなく生徒として接している事に。貴女という存在が大切なものになっている事に」
何故だか顔が……いや、全身が熱くなっている。彼はまるで私に対して……
「貴女を傷つけてしまった手前こんな事を言うのは何様だとは思うでしょうが……どうか私の隣に戻ってきて頂けませんか」
握られている手に力が入っているのが伝わってくる。彼の言葉に偽りはなく本心で語っているのが分かった。
……正直な話、迷っている。もし今言ったことが全部嘘でまた騙されてるとしたらと考えてしまう。今後こそ心が完全に砕けて立ち直れなくなってしまうだろう。……だとしても。私は彼を信じたい。一度は疑ってしまったけれど……所々破けたスーツと息が切れるほどの勢いでここまで来てくれた、悪い大人ではなく一人の先生として私に手を差し伸べてくれた彼を。
「もう一回だけ……信じてもいい……?」
「……はい。必ず貴女を大切にすると誓います」
そう言われたのと同時に自然と溢れる涙と暖かくなる胸に安らぎを感じて目を閉じた。……私の大切な居場所はここにあったんだ。失いかけたけどきっと大丈夫。もう失う事はないと確信しているから。
そんな時視界の端にカメラを構えている後輩の姿を見た。目があった際も「お構いなく〜」とハンドサインを出してまるで傍観者気取りな彼女といつの間にか私を抱き寄せている先生。感情が追いつかなくなりそうだけどふと思い出した。
「あの、先生。私……」
「言わずとも大丈夫です」
彼は更に力強く抱きしめてきた違う、そうじゃないよ。……でももう少しだけこのままがいいな。こんな事をしている場合じゃないと分かっていても抜け出せなかった。
私は貴方が好きなのだから。