抱き合っている内に気づいた事だが、ホシノの中に注入した恐怖が無くなっていた。その影響か黒ずんでいた彼女のヘイローは綺麗な桃色に戻っており精神も安定している。何故無くなっているのかは分からないが近いうちに取り出す予定だったので手間が省けた。
それはそれとして視界にチラチラ映るシロコという存在がスケッチブックに何かを書いてこちらに見せているのが気になる。読んでみるとそこには
『ん、早くキスをするべき』
と書いてあった。ムードをぶち壊すような事をしておいて何を言っているのだろうか。そもそもキスなどをする意味を感じないのでハンドサインで否定の合図を送るとムッとした顔で更に殴り書きをしてこの言葉を見せてきた。
『ん、意気地なしの朴念仁。駄目男。ドケチ人間。髪なし人外。ロリコン』
……全てが終わったら彼女は数時間説教しようと考えるには充分な行為だった。しかしその余計な言葉でアリスの事を思い出した。
「……そろそろアリスの元に戻らなければ。彼女も怪我をしているので手当を……」
「それなら私達に任せてください。お二人はやるべき事があるのでしょう?」
スマホをしまいご馳走様でしたと一言呟いた後にノノミがそう答えた。思えば彼女にはずっと助けられてきた。だからこそ彼女を信用して任せる事にした。シロコはまあ……シロコだ。良くも悪くもシロコだ。
二人にその場を任せそれぞれ向かうべきところへ……行く前に。ホシノは何かを迷っているように見えたのでもう少しだけ話す事にした。
「ホシノ、何か考え事ですか?」
「あっ……うん。実は先輩にこんな頼み事をされて……」
その内容を聞いて彼女が誕生した経緯を理解したような気がした。確かにそれはホシノにしか頼めない事かもしれない。
「……でもさ。先輩の願いを叶えてあげたいって気持ちもあるの。……私はどうしたらいいのかな……」
「ホシノがやりたいようにやればいいのです。大丈夫、責任は私がとります。だから思う存分やりたい事をやってください」
「……なんだか不思議だね。先生が先生っぽい事言ってる」
それはそうだろう。教師なのだから、と言いたいが今までの発言を振り返るとそう言われても仕方ないと納得してしまいそうになる。それはともかく早く彼女の元へ向かうとしよう。
塔の最上階。今までの雰囲気とは違い床は砂で埋め尽くされ所々に蟻地獄がある空間。部屋の中心には手紙を読んでいる彼女の姿が。こちらを確認するとその手紙を砂に埋めて武器を構えた。
『待ってたよ。ホシノちゃんなら約束を守ってくれるって信じて……』
「お断りします」
予想もしていなかったホシノからの拒絶により彼女は一瞬目を見開いた。その後すぐに『どうして……?』と聞いてくる。
「私が嫌だと思うからです。だから……先輩、貴女を止めます。覚悟してください!」
どうやらホシノは吹っ切れたようだ。ショットガンと盾を構え戦闘準備を終わらせた彼女は自らの意志を通す為に先輩と対峙する。
『……ふふ。なんだ、お願い聞いてくれるんじゃん。ホシノちゃんのそういうところ、大好きだよ。それじゃあ……私のラストダンスに付き合ってもらうね』