例えばこんなゲマトリア   作:スカイブルーホワイトヘアー

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夢の罪

始まりは些細な出来事

一度だって遅刻をしなかった君が教室に居ない

珍しい事もあるんだねと心の中で呟いてそのまま

仮眠をとり始めた

きっと君が起こしてくれるからと信じていたから

いつも通り強い口調で叱ってくれると

この時は呑気に考えていた事を憶えている

それが私の人生にとって初めての後悔であり、

永遠に背負う罪になる事を知らずに

 

仮眠から目覚めて身体を伸ばしていると

違和感に気づいた

外は暗くなっていて君は来ていない

流石におかしいと思い電話をしようと

端末を取り出そうとした時、ふと君の

机に手紙が置いてある事に気づいた

『ユメ先輩へ』

それを視認した時に嫌な予感が脳裏に過る

そして内容を読み始めてそれは確信となり

気がついたら銃を持って駆け出していた

 

『拝啓 ユメ先輩へ 

こうやって手紙で別れの挨拶をする事に

なってしまい申し訳ありません。

面と向かって伝えるのは恥ずかしいので

このようなやり方にさせていただきました』

 

息が切れても走りを緩める事なく走り続ける

何がどうなっているのかを考えるよりも今はただ

君の元へ辿り着きたい、それしか考えていない

 

『私は入学した時からずっとある企業に

スカウトされてきました。

『カイザーコーポレーション』

先輩も名前は知っていますよね』

 

砂漠の入り口には警備兵が数人居た

こちらに向けて銃を構える彼らに怒りを覚え

「どけっ!」と叫びながら交戦を始めた

 

『その中の民間軍事企業であるカイザーPMC

そこの傭兵として働く代わりにアビドスが

抱えている借金を半分肩代わりする。

そういう話でした』

 

乱雑な戦い方をしたので怪我を負ったが

治療は後回しにして再度駆け出した

 

『中々の好条件ですよね。

……私はずっと先輩に迷惑をかけてきたので

これで少しでも貴女に恩を返せればと思います』

 

違う、違うの。迷惑をかけていたのは私の方

君が居てくれる事がどれだけ救いだったのか

どんなに嬉しかった事か伝えたい

帰ってきて欲しい。また一緒に日常を……

 

『本当は全部解決出来ればいいのですが……

それでもこれで少しは負担が減るはずです』

 

「あ……」

 

『……最後に。

ずっと生意気な態度をとってきましたが……

貴女と過ごせた半年間、悪くなかったですよ。

ユメ先輩、お元気で』

 

誰よりも大切だった君は変わり果てた姿で

砂漠の中心で眠っていた

 

「……こんなところに居たんだね、ホシノちゃん」

 

これが私の最初の罪。初めて出来た後輩を

守る事が出来ずに生き残ってしまった事

私の心は粉々に打ち砕かれ、ただその場に

立ち尽くす事しか出来なかった

 

……数日後、未だに心の整理が付かないまま

虚無を見つめて過ごしている

アビドス宛に送られてきた荷物の中には

彼女の持ち物である防弾ジャケットと腕章

そして幾らかの端金が詰められていた

 

「こんな金の為にホシノちゃんは……

クソっ!!クソがっ!!クソがぁぁぁぁ!!」

 

感情のコントロールなど出来るはずもなく

ただ机を叩いて怒りをぶつけてしまう

やがて虚しくなってきた頃に涙がとめどなく溢れ

大声で泣いてしまった

そしてそのまま泣き疲れて眠りにつく

目覚めた時には強い覚悟を持つ事にした

髪を切り短髪にして防弾ジャケットを着る

盾は捨てショットガンを装着する

 

「……似合わないね」

 

鏡に映った自分を嘲笑うようにそう言った

格好を後輩の姿にしたところで何も変わらない

こんな事をしても君はもう帰って来ないのだから

 

その日から彼女はひたすら強くなる事を望んだ

後輩を利用し殺した大人は誰一人として信用せず

大切な人を二度と失わないようにと

 

『先輩、また無茶をしたんですね。

治療をするこちらの身にもなってくださいよ』

 

「あはは……いつもありがとう、ホシノちゃん」

 

そんな訓練後の会話すら出来ないと意識してしまい

涙がまた溢れてきてしまいそうになる

泣いている時間も余裕もないのに止まらない

 

「どうして私じゃなくてホシノちゃんが……」

 

現実は残酷だ。辛い事も悲しい事も全部

受け入れて生きないといけない

でも君を死なせてしまった私に生きる意味は

存在しているのだろうか

そんな答えの出ない問題に頭を悩ませて寝る毎日を

過ごしていたらいつの間にか春が訪れていた

私は君が居たこの場所を守りたくて留年する道を

選んで学校に滞在していた

何年掛かっても借金を返して安心出来る場所に

すると誓い、そして覚悟を決めたのだ

そんな中足音とノック音が聞こえ扉が開き

見知らぬ少女が現れた

 

「あの……アビドス高等学校ってここですか?」

 

弱々しく尋ねてきた1人の少女は制服に身を包み

こちらの顔色を伺うようにおどおどしている

 

「アビドスはここだけど……貴女は?」

 

そう尋ねると彼女は少し下を向いて小さな声で

 

「アビドスに入学した十六夜ノノミです……

これからよろしくお願いします……先輩」

 

……彼女にはまた後輩が出来たようだ

喜びと悲しみが入り混じった感覚に陥り

上手く言葉が出て来ず迷った挙句に

 

「あ、うん……宜しく」とぶっきらぼうに

返事をした

予期せぬ展開に動揺を隠せそうにもない

しかし彼女にとってこの出会いは吉となり

それが救いにもなる事をまだ知らない

 

ノノミはとても大人しい子だった

ただ黙々と本を読み過ごしている

時折話しかけても質素な返事をするだけ

それでも大事な後輩なのだ

しかし私にはまだ守れる程の力がない

訓練をしなければ。もっともっと強くなる為に

その日も傷だらけになって帰り仮眠室に行く

そのまま眠りにつこうと瞼を閉じた

数分程して扉を開ける音が聞こえ身構えたが

そこに居たのは包帯を持ったノノミだった

彼女は特に何かを言うわけでもなく

私に包帯を巻いていく

その姿が今は亡き後輩と重なった

以降彼女は毎夜訪れては何も言わずに

治療を施してくれる

 

「どうして治療をしてくれるの?」

 

その問いにはしばらく言葉を詰まらせた後に

「放っておけないんです」と答えた

それを聞いて変わり者なんだね、と苦笑をした

「先輩はどうしてそこまで頑張るんですか?

毎日のように傷だらけになるまで……」

 

そう聞かれた時は言葉に詰まってしまった

「なんとなく」そう答えるので精一杯だった

そんな距離感を保ちつつ時は流れていく

気がつけば夏が終わり秋に移り変わる頃

大切な後輩を失って一年が経過した

倉庫にしまった彼女の机に貼ってある

鯨のシールが砂塵の影響で汚れていた

その汚れを見て嫌でも時の流れを感じてしまう

心に空いた穴を埋めてくれる君はもう居ない

今でもその事実が受け入れられない

まだ話したい事が沢山あった

そんな些細な願いすら叶わない

 

「ホシノちゃん……」

 

返事が返ってくる事は二度とない

代わりにスマホに着信が入った

見知らぬ番号から掛かったきたその電話は

『お前の後輩を攫った。身代金と引き換えに返す』

一方的にそう告げられ電話を切られた

それと同時に自分の血管が切れる音が聞こえた

許さない。絶対に許さない

私の後輩に手を出すなんて

もう二度と奪わせない、傷つけさせない

君の銃を借りて私はここから始めるんだ

 

目的地の場所は近くにありヘルメットをつけた

集団が集まっている

その中心部に縄で縛られたノノミの姿を確認し

刹那私の怒りは最高潮に達した

そして数分も経たないうちに制圧し終わらせた

途中何人も命乞いをしていたが無視した

私の後輩に手を出したのだから当然だろう

命があるだけでも幸せだと思え

そう吐き捨てるように言いノノミを解放した

その後アビドスに戻り彼女が怪我をしている事に

気づき急いで治療をしようと慌てふためく

 

「ふふっ……なんだか珍しいですね。

先輩はいつも冷静だと思っていたのですが……

こんな可愛らしい一面もあるんですね」

 

茶化してくるノノミに対し顔が赤くなった

まだまだ君の真似は出来てないみたい

だって後輩が怪我をしているのを見て

冷静になんていられないだろう

もし大怪我をした姿を見てしまったら

あの日失った君を見た時のように

私の心は壊れてしまうかもしれない

だから二度とそうならないように

自分よりも大切にしたい

けれど怪我の手当は上手くいかず

ノノミはミイラのようになってしまった

それでも「ありがとうございます」と

言ってくれる彼女はとても優しいのだろう

それにしてもこんなにも幸せそうに笑う彼女

そんな顔を見るのは初めてかもしれない

彼女の笑顔を守れたのだと思ったら少しだけ

自分に自信が持てる気がした

それからというものノノミはとても明るく

そして時々ズレた発言をするようになった

私は相変わらずに少し冷たい態度を取りつつも

彼女に振り回される事も増えていった

そんなノノミとの絆の深まりを感じる中

季節は冬を迎え雪が降るようになった

彼女と他愛のない話をしている中

光が灯っていない瞳でこちらを見ていた

一人の少女と目があった

とても寒い中薄着で倒れているものだから

近づいて暖めてあげようとしたけれど

彼女は暴れ始めて敵対心を剥き出しにした

しかし彼女の攻撃からは意志を感じず

その全てに絶望したような瞳は

まるで昔の自分を見ているような気がして

放っておけないと決意した

だから話を聞いてもらおうとして

完膚なきまでに叩き潰した

傷つき抵抗をしなくなった彼女を

学校に運び治療を行った

案の定第二のミイラが誕生したが

彼女は何故か満足そうにしていた

聞けば記憶がなく辺りを彷徨っていたとの事

覚えているのは名前だけ

そんな彼女を放っておける訳もなく

三人目の後輩として迎え入れた

これが私とシロコの出会い

それからというものアビドスの部室は

今までよりも賑やかになったのだと思う

まさか三人も後輩が出来るなんて

想像もしていなかった事態だ

最も一人には二度と会えないのだけどね

今でも君の話は誰にもしていない

例え彼女達がどんなに信用出来るようになっても

ホシノちゃんの事を話すつもりはない

この罪を背負うのは私だけでいいのだから

 

そしてシロコがアビドスの一年生として

数日が経過した頃の話

彼女はアビドスの借金を返す為に

銀行を襲ってきたのだという

そして机に置かれた一億円を前に

「ん」と呟きドヤ顔をしていた

確かに借金は利息を払うのでも厳しい

そんな状況だけれども

ノノミと話し合って色々考えた結果

気持ちは嬉しいけど返してきなさいと叱った

それでも彼女が学校の為に行動してくれた

その事実が嬉しくて堪らない

とはいえやり方は教えないと

後輩が間違った道に進んでしまうのは

先輩として阻止しないといけないから

そうやって少しずつだけれど確実に

前に進めているのを噛み締める毎日

二人の後輩に弄られて無愛想にしている私の

素の性格が露天してしまい

可愛いと誉め殺しに遭ったり

三人でサイクリングをしたりと

心の中で罪悪感は残りつつ

悪くないと思える日々を過ごす中

大きな封筒が届いた

中にあったのは二枚の入学届

三人とも意識をしていなかったが

気づけばホシノが帰らぬ人となってから

ニ年目の春を迎えており

砂に混じって桜の花びらが足元に落ちていた

ノノミとシロコはもうすぐ二年生になるが

相変わらず自由に過ごしている

ただし最近ノノミに怒られる事が多くなった

以前から毎日やっていた夜中の見回りがバレて

控えると言った矢先にまた見つかった

安全の為だと反論しても

「自分の身体を労ってください」

その一点張りで返す言葉が思いつかない

シロコの方を見て助け舟を要求するも

彼女も同意見のようで首を横に振っている

「午前4時までに……」

即刻却下された

「せめて日付けが変わるまで……」

それも却下された

「交代制!それ以外認めません!」

聞く耳を持たない後輩達を前に

私が折れるしかなかった

ただし後輩達はペアで回るようにと

約束だけはしてもらった

心配ではあるけれど少しずつ

二人を信用していた私は任せられるかもと

そんな気持ちが僅かに存在していた

とはいえしばらくは様子を見て

危ない目に遭わないか遠くから警戒していた

そしてそれもバレて正座させられた

ただその後に後輩達から言われた

「そんなに私達が信用出来ないのですか?」

と悲しそうに問われた時は答えに詰まった

信用はしている。しているのだけど

もし何か遭ってまた失ってしまったらと

そう考えると震えが止まらないのだ

後輩の問いに対しては

「信用はしている。

けれど慣れるまでは見守らせてほしい」

と返すので精一杯だった

二人は渋々受け入れてくれたが

私は好意を踏み躙ってしまったのかもしれない

そんな自責の念に駆られて嘔吐をした

いつになったら情けない先輩から卒業して

頼れる先輩になれるのだろうと

暗闇に包まれた外を眺めていた

今宵は星が綺麗に輝いている

前までは大好きだった夜空を見上げる行為も

ホシノを思い出すという理由で

暫くやらないようにしていた

その選択は間違っていなかったのだろう

現に今もあの時の事を思い出して

涙が溢れてくるのだから

そんな私を怪訝そうに眺める二人は

隣に寄り添って何も言わない

その気遣いに感謝をしつつも

気遣わせてしまって申し訳ないと

そう思って罪悪感が大きくなっていく

どれだけ信用していても

人には話せない秘密の一つや二つがある

たとえそれが大切な後輩だとしても

 

新学期が始まり学年が上がる

私は留年しているので上がる事はないが

後輩達が無事に進級出来た事が嬉しい

この中にホシノちゃんが居たらと考えてしまい

胸が裂けるように痛くなった

後輩達に悟られないように痩せ我慢をして

歓迎会の準備を手伝う事で気を紛らわせた

紙飾りで小さな教室が彩られていき

華やかな雰囲気を感じてくる

飾り付けが終わり暫く待機をしていると

遠くから足音が聞こえてきた

到着した一年生達はそれぞれ自己紹介を始める

黒見セリカと奥空アヤネ。緊張しているのか

二人とも初々しく、そして可愛らしい

彼女達はこちらを眺めて言葉を待っているようで

ああ、私は……と名前を言おうとしたけれど

「この方はアビドスで1番可愛い先輩です!」

笑顔で語るノノミと「ん」だけで同意を示すシロコ

困惑するセリカとアヤネ、締まらない私

やはり私に君の真似は出来ないのかも

 

それから数日もしないうちに二人は馴染み

部室がとても賑やかになっていた

楽しそうに話している後輩を遠目に眺めて

少しだけ幸せを噛み締めていた

「先輩も一緒に話しませんか?」

そう誘われて一度は断ったものの

何度も誘われるうちに折れた私は

後輩達の輪に入って会話を聞いていた

「先輩って不器用だけどさ、

優しさが滲み出てるわよね」

会話の中、ふとセリカにそう言われた

「私は優しくないよ」

そう否定したが突如ノノミが立ち上がり

マシンガントークを始めた

内容は私の良さについてだった

約二時間にも及ぶ話が終わる頃には

顔から火が出るくらい熱くなっていた

「確かに優しくて可愛い先輩よね」

そう話が盛り上がっていった頃に私は

初めてアビドスから逃げたいと思った

そもそも数日しか過ごしていないのに

なんでセリカとアヤネですら共感してるのだろう

ああ、この空間から離れたくて仕方がない

私は褒められるような人間じゃないのに

ただ後輩を間接的に殺した人間なのに

 

地獄のような誉め殺しが終わり皆が下校していく中

一人学校に残り静寂に包まれている空間に

何故だか違和感を覚えてしまった

いつの間にか皆がいる賑やかな教室に慣れてしまい

孤独な時間が苦手になっていって

流行りの音楽を流しても気は紛れず

寂しいと感じてしまう

身体はとても強く頑丈になってきたがそれに対して

心は反比例するように弱いままだった

もしこんな精神状態で皆を失ったら

私はどうなってしまうのだろう

そんな不安からか不眠状態が続き

睡眠薬を常備するようになっていった

 

多少は無理をしつつも悟られないように過ごし

数週間が経過した時にアビドスにとって

大きな転換点になる出来事が発生した

その日はいつもと変わらない日常であり

机に向かい書類整理をしていると遠方で

自転車が止まる音が聞こえた

シロコがアビドスに到着したのだろう

数十分の遅刻だと注意しようとして

教室を飛び出した矢先にその人は居た

白を基調とした服に身を包むその人は

シロコ曰く『先生』だという

聞けば道端に倒れていたところを保護?したそう

まずは状況の整理をしようと休ませておき

この大人をどうするかと考えた

どの学園の先生かは知らないが

うちの可愛い後輩に手を出そうというのならば

闇に葬る事も視野に入れよう

そんな物騒な事を考えていたらバツが悪そうに

「……実は先生を呼んだのは私なんです」

ごめんなさいの一言の後、アヤネが話し始めた

現在アビドスの状況はお世辞にも良いとはいえない

そんな中シャーレに先生が着任したと聞いて

気がついたら連絡をしていたようで

近いうちに来てくれるという手筈だったらしい

「共有するのを忘れていました……」

誰にでもミスはあるから仕方がないとも言える

しかしセリカは「今更大人なんて信用出来ない」

そう言って教室を飛び出していった

この時私は何も言わなかったが

セリカの意見には同意していた

今更来たところでもう遅いのだ

この後アビドスが救われたとしても

ホシノは帰ってこないのだから

その日は解散となり皆が下校した後に

先生の首元を掴み私は顔を近づけて

「二度と関わらないでください。

あなたが来ても何も変わりはしません」

拒絶するように吐き捨てて私は部室に戻った

所詮大人なんて自分の利益でしか動かない

無駄に搾取されて終わるのがオチだろう

だから関わらないでほしい

後輩を守れるのは私だけなのだから

しかしそんな想いの私とは裏腹に

先生は後輩達と絆を深めているようで

会話の中に先生の話題が出る事が多くなった

一緒にお菓子を買いに行ったとか

倉庫を漁って宝探しをしたとか

銀行強盗をしようとしたら止められたとか

そんな話ばかりになっていった

最初は信用出来ないと言っていたセリカですら

「先生の事は信用してもいいかも……」

なんて言う始末で……

このままだと皆が先生に騙されて不幸になる

純粋な後輩達が大人の醜さを知ってしまう

私はどうすればいいのだろうか

悩みに悩んで出した答えは

先生を問い詰める事

放課後に呼び出して銃を突きつけながら

「私の後輩に近づいて何を企んでいるんです?」

返答次第では安全の保証は出来ないと言葉を添え

それが発する言葉を待ったが返ってきた答えは

「"皆の事をもっと知りたい"」

という子供のようなものだった

顔近くの壁を殴り再度脅した

「次にふざけた答えを言ったら当てますよ」

しかしそんな事をしても先生は私に対して

「"君の事をもっと教えてほしい"」と言ってきた

その時にこの人は話が通じないのだと悟り

苛つきを抑え切れず舌打ちをしてその場を後にした

また大人に積み重ねてきたものが壊される

そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

皆の笑顔が、アビドスが崩れ落ちるなんて

私には絶対に耐えられない

そんな精神が不安定な状態が続いた弊害で

砂漠を放浪するようにもなっていった

この場所では何も考えなくていい

砂漠に居る時は孤独であろうとも関係ない

むしろ静かな方が心地よく感じるくらいだ

ただし今日に限っては最低最悪の訪問者が

私に近寄って来ていることを察知した

人の形をしていながら姿は異形と言える

黒いスーツを見に纏う大人

私が『黒服』と呼んでいるそれはこちらに

気づき不適な笑みを浮かべて近づいてくる

「これはこれは……随分とお疲れのようで」

そう気遣うように話しかけてくるが

その本心は見え透いたように分かる

何故ならそいつの後ろには何人もの

カイザーPMCの兵士が付き添っているのだから

「『暁のホルス』の件は残念でしたよ。

あんなにも耐久性が低いとは思いませんでした」

……いまこいつは何を言ったのだろうか?

暁のホルス?確かホシノの……

「ですがそろそろ新しい実験をしたいのです。

そこでどうでしょう、アビドスにいる……

シロコという生徒を是非私の実験材料として」

全てを言い終わる前に私は発砲した

途端に倒れる黒服と銃を向けてくる兵士

そうか、こいつらが元凶だったんだ

こんな大人の為にホシノは命を落とした

その事実が許せない。だから大人は嫌いなんだ

「全員殺してやる」

怒りに身を任せて私は暴走した

数分もしないうちに辺りは静かになり

黒服の死体を確認しようと振り返った直後

全身から力が抜けていきその場に倒れ込んだ

薄れていく意識の中最後に見たのは

憎たらしく笑う黒服の姿だった

 

目覚めた時には私は謎の施設に拘束されて

数日の間はサンドバッグにされていた

最初のうちは抵抗を繰り返していたが

その度に身体中に電気を流されてとてつもない

痛みに襲われたのでいつしか抵抗せずにただ

殴られ、蹴られる事を受け入れていた

「大した神秘もない貴女如きに価値はない。

戦闘能力も暁のホルスに劣りますしね。

身の程を弁えてもらえますか?」

そんな事自分が一番分かっているとすら言えず

私はただ下を向いてこの地獄のような時間が

終わるのをただ耐えていた

しかし途中から何故耐えているのだろうと

自問自答を繰り返し始める

助けが来ると思って希望持っているから?

そんな事がある筈ないのに

だって私がこうなっているのは

自分が招いた結果なのだから

 

そんな状態が続いて2週間が経過した頃

既に私は衰弱しきって命の灯火が消えかかって

いつ死んでもおかしくない状態だった

本来であれば生きたいと望むのだろうけど

私はもう生きる事に疲れていた

それにもしかしたら死んだ後ホシノに

会えるかもしれないと考えていたと思う

しかしそう思っている私とは裏腹に

私が生きる事を望んでくれた人もいた

それは私が嫌悪して突き放した大人である先生と

四人の後輩達だった

私の為に黒服が率いる組織と対立して

危険な目に遭いながらも此処に現れた

拘束されて衰弱した私を見た後輩達は

怒りに身を任せて本社を襲ったらしい

「どうしてあなたはそこまでして私を……」

そんな問いに彼は笑顔でこう答えた

「"困っている生徒を助けるのが先生だからだよ"」

この時に私は初めて心から信頼できる

大人と出会えたのだと感じていた

 

救出されてから数日が経過した頃に

見舞いも兼ねて先生がアビドスに顔を出した

私は彼の姿を見るや否や頭を下げて

「ご迷惑をおかけしました」と謝罪した

それに対して彼は私よりも深く頭を下げて

「"こちらこそもっと早く助けられなくてごめん"」

と謝罪をしてきた

そんな行為がしばらく続いた後に話をした

先生のおかげで事が上手くいきそうな事

後輩達に変な事をしていると誤解していた事

そして助けてくれた事に対する感謝を

それの事を長くならないように言葉にした

「ですので……何かお礼をさせてください」

今まで迷惑をかけてしまったのでそのお詫びを

したいと思い伝えたら彼はしばらく悩んだ後に

「"君の事をもっと知りたい"」と

あの時のような事を言ってくれた

それに対して私はあなたの事も知りたいですと

少しだけ微笑みながらそう答えた

その日以降後輩達から「頑張って」と

何かとつけて言われるようにもなった

「何が?」と聞いても「いえいえ」も返され

はぐらされてしまうのでしばらくは

困惑して過ごす日々が続いた

 

ある日先生に頼まれて初めてシャーレの当番

をやる事になり後輩に見送られながら

私は学校の何十倍も大きい場所に訪れた

とはいえ基本的には事務作業だけなので

そこまで苦労はしないものの量がおかしい

全学園分の書類なので毎日山のような

書類と格闘していると目元に隈ができた

先生は笑って誤魔化していたが

無理をしているのが目に見えて分かるので

強引に休ませようとソファーに寝かせて

需要はないと思いながらも膝枕をしてみた

そうしたらものの数秒で眠りについたので

やっぱり無理をしていたんだと思った

けれどそんな先生だからこそ私は

彼の事を信用出来るのだろう

そのまま数時間眠る彼の代わりに書類整理を

終わらせて彼の寝顔を見ていると

ふと自分の中に暖かなものを感じた

彼をもっと見ていたい

私の中に芽生えたこの感情はなんなのだろう

結局その答えには気づけなかったけれど

この居心地の良さは味わった事がなかった

後輩達と過ごしている時とは違う感覚で

胸が熱くなるような、そんな感覚

それは先生の事を考えていたり

先生と過ごしている時に陥る

「……やっぱりあなたは不思議な人ですね」

眠る彼の頭を撫でてそう囁いた

 

「学校の事も一息ついたので海に行きましょう」

唐突にノノミがそう言うものだから

どうして海に?と皆が困惑していた

それに対して議論している姿を眺めていると

「先輩はどう思いますか?」と聞かれたので

「息抜きは大事だと思う」と答えた

私がそう言った事で海に行く事が確定して

休みの日に水着を買いに行く事になった

後輩達が楽しそうに計画を練る中

私は自分の身体が傷だらけな事を思い出して

水着は着れないかな……と考えていた

その日の夜、部屋の鏡の前で自分の身体を

眺めていても全身傷と絆創膏まみれで

とても綺麗とは言えない身体だった

「こんな傷だらけの私の水着を見て先生が……」

それは無意識のうちに出た言葉

何故先生に見られる事を前提に考えて

しまったのだろうか

ただ後輩達と海に行くだけなのに

もしかしたら私は心の中では

先生に水着を見てもらいたいのかもしれない

 

そして水着を買いにいく日になって

五人で大きなショッピングモールを歩いている

長い時間悩んだけれど答えは出なかった

もし先生に傷だらけの身体を見られてしまい

嫌われてしまったらどうしようと

そんな想像が駆け回る中後輩達は

水着の試着をしたりして楽しんでいる

「先輩も選んでください☆」

手を引かれて私も自分が着る水着を探した

この際アンダーウェアのようなものでいいと

それっぽいやつを手に取ったのだけれど

「先輩はこっちの大人っぽいビキニとか

パレオのようなものが似合いそうですね」

と言った後輩達の意見に押されて

落ち着いた色合いのビキニを選んでしまった

試着した際に傷だらけの身体を後輩達に

見せたが「全然気になりませんよ」

と一蹴されてしまい「本当に?」

と聞き直しても「はい」と口を揃えて

そう答えられた事が決め手となった

家の鏡の前で購入した水着を試着するも

選んでもらった手前申し訳ないけれど

やっぱり私には似合わないような気がした

 

そして数日後、二泊三日の旅行として海に来た

どういう理由かは分からないけどこの場所は

ノノミ曰くとある理由で貸切らしい

突っ込みたい衝動に駆られたが

楽しそうに海を満喫する後輩達を見れたので

触れなくていいかと考えた

先生は私の水着姿を見て

「"似合ってる、綺麗だね"」と褒めてくれた

ありがとうと伝えたかったのだけれど

何故か声が出なくて顔を背けてしまった

ただその日はずっと胸が暖かくて

幸せを感じていた事を覚えている

こんな他愛のない日常を過ごして

幸せを噛み締めて生きるのも悪くないと

少しずつそう思えるようになっていった

こうして大切なものが増えていって

世界が彩られていくように感じた

けれどそれは私にとって

仮初の日常に過ぎなかった

 

その日は先生と買い物をすると言って

ノノミとアヤネが出掛けた日

部室に残っていた後輩達と歓談していた時に

ふとスマホをこちらに向けて

「……先輩、これ……」

セリカが見せてきたスマホの画面には

『シャーレの先生が襲撃された。

先生とその周辺に居た生徒は生死を彷徨い……』

というネットニュースの記事だった

一気に血の気が引いて顔が青ざめていく

事実確認をしようと三人に連絡を送るが

既読がつく事はなかった

激しい動悸と吐き気に襲われた私は

近くにあったバケツの中に嘔吐した

しかし何度吐いても治ることのない吐き気に

私は身動きが取れなくなってしまったので

シロコが確認の為にシャーレに向かい

セリカは私の介抱をしてくれた

「先輩……大丈夫?」

心配そうに背中をさすってくれる彼女

せめて三人の安否を確認するまでは堪えようと

シロコからの連絡を待った

数十分もしないうちに連絡が来たが

無情にもその内容に書いてあったのは

『アヤネとノノミは即死だった』という事実

私はその場に崩れ落ちただ嗚咽をあげた

 

後日詳細な状況が説明された

とある地下鉄に爆弾が仕掛けられ

それが偶然にも爆発してしまいたまたま近くで

買い物に来ていた三人は巻き込まれたとの事

そして不幸にも悪い大人が生み出して流通した

『ヘイローを破壊する爆弾』が近くにあり

それが誘爆した事によって二人は即死した

先生が意識不明の重体で済んだ理由は

ノノミとアヤネが身体を張って庇ったから

そういう見解らしい

大切な仲間を二人も失った事で

重い空気が流れる部室の中

何かを決意して出て行こうとする

シロコとセリカの二人を見て私は扉の前に

立ち塞がって「何をするつもり……?」

と震えながらも問いただした

「あの事件は意図的に起こされたもの」

「私達は犯人に心当たりがある。

だから会いに行くだけ」

危ないからやめて、行かないでと懇願しても

彼女達の意思は固く聞いてくれない

実力行使で止めようとしても

力の入らない身体では立っているのが限界で

数分後にはその場で座り込んでしまった

「大丈夫よ。危ないと思ったら逃げるから」

「先輩を一人にはしない。

だから安心して待っててほしい」

そう言い残して二人は学校を後にした

この日私は命を賭けて止めなかった事を

永遠に後悔している

 

私の手元にあるのは四つの学生証

そして胸ポケットにしまっていた

もう一つの学生証を取り出した

それらを机の上に並べて置いた

ノノミ、シロコ、セリカ、アヤネ

そしてホシノの学生証

五人の後輩を失った私の心はもう

粉々になるくらいに打ち砕かれて

泣く事も叫ぶ事もなくただただ一人

静かな教室で過ごしていた

「……そろそろ行こう」

学生証を手に持って向かった先は病院

そこのとある一室にいる人に会いに行く

私に残った唯一の大切な人、先生

彼は意識不明の重体だがまだ生きている

今はまだ回復の目処が立っていないけれど

元気になってほしいと願いを込めて

私は一羽の折り鶴と

『先生、いつもありがとう』と書いた

メッセージカードを添えて病室を後にした

そんな僅かな希望を胸に抱き

何とか生きていた私の心を完全に壊したのは

それから数日も経たない間に速報として

『シャーレの先生は回復の目処が立たず。

これ以上の治療は無駄と判断して近日中に

葬式をーー』

という記事だった

 

私は積み重ねてきた大切なものを全て失った

もうこんな思いを繰り返したくない

だから私は自殺する事を選んだ

砂漠の上に寝転んで

手榴弾の安全ピンを外し胸元に近づける

「皆、今からそっちに行くね」

また皆と会える、そう願い手榴弾は

爆発して私は死んだ

そう思いたかったけれど生きていた

「どうして……どうして死ねないの!?」

本来であれば死んでいたかもしれないが

私は皆を守れるように強くなる事を願い

鍛えていた事が災いして手榴弾の

至近距離の爆発にも耐えてしまったのだ

精々数日動けなくなる程度の怪我だろう

死にたくても死ねない

どうして何もかも思い通りにいかないの

どうして私の人生はいつもこうなんだ

上手くいった事なんて一つもない

生きていても何も出来なかった

全てを失っても尚死ぬ事すら許されない

……もう限界だった

誰でもいい。私を殺して

そう願って瞼を閉じて考える事を放棄した

 

それから何日が経過しただろうか

複数の足音が近づいたと思うと

私を囲むように立っている気配を感じた

「大した力はなさそうだがこれでいいか」

「眷属くらいにはなれるだろう」

そんな会話が聞こえたがどうでも良かった

殺してくれるなら何でもいいと

その後私は何かを注入されて悶える

苦しい感覚に襲われてようやく死ねると

安心していたが突如痛みがおさまって

動けるくらいに回復してしまった

どうやら私は色彩の眷属として適合した

そして恐怖の存在になった私は

世界の全てを破壊していく

それを見て歓喜をする司祭を見て

私は一人ずつ命を奪っていった

驕るなと叫んでいるが

驕っているのはお前らの方だ

人を駒として利用して生き永らえさせ

人生を弄ぶお前らなんて

死んで然るべき存在だろう?

全員を殺しても満たされる事はなく

廃墟となった世界を歩いていると

目の前に現れたのは先生だった

全身ボロボロで生きているのかも

分からないような姿だけれど

そんな事は些細な問題だった

何も残っていないと思っていた私に

先生という大切な人が残っていた

その事実が嬉しくて

思わず抱きついてしまった

それが原因で彼は本来起こり得る事がない

『色彩』に魅入られるという事態になり

彼の身体は変貌していき

『色彩の嚮導者』として生誕した

私は嗚咽をあげて先生に対して

「ごめ……な……さ……ぃ」

と謝り続ける事しか出来なかった

 

これが私が体験した全てであり

死ぬまで許されない罪である

そして今私は

自分の罪を精算して

『ようやく死ぬ事が出来る』

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