「それでその時ヒナがですね」
この会話の始まりをどれだけ聞いたのだろうか。目の前にいる年増は口を開けばヒナがヒナがと止まらない。ヒナに対する愛は伝わるが会議の度に聞かされるこちらの身にもなってほしい。というか何故他の二人は当然のように欠席しているんだ。ゴルコンダ……はともかくロリコ……黒服。せめてお前は来てくれ。ゲヘナとトリニティの交流が始まってからずっとこれと顔を合わせているんだぞ。
「聞いているのですか?ヒナが……」
「一日で不良を百人懲らしめた話だろう?」
「違いますよ。テストで百点を取ったのでそのご褒美に欲しいものはあるかと聞いたら『撫でて欲しい』って上目遣いで言われて爆発した話です」
「それはもう68回も聞いたぞ」
「何回でも聞きなさい。あの日はヒナと……」
誰かこの話を聞かない年増を止めてくれ。話が進まなくて困る。まともに話せるだけでいい。この際生徒を呼んでしまおうか?しかし暗黙の了解が……
「お困りのようですね、マエストロ」
「お前は……」
「環境美化部副部長、書記長代理、運動部代表代理、清掃部副部長、風紀副委員長、給食部副部長、そして副会長を務める……」
『ゴルコンダです!』
『そういうこったぁ!』
なんだこいつ。知り合いに似てるが気のせいだろう。赤の他人だ。そうに違いない。これはゴルコンダに似た何かだ。
「おやおや、マエストロともあろうお方が私を無視すると言うのですか?粛清しますよ?一週間プリン禁止の罰を与えますよ?」
俗世に染まるにも程があるのでは?
お前の崇高はそれで良いのか?
そこの年増はともかくお前はいいのか?
プリン禁止如きなんて何の罰にもならん、どうせ甘いものはロールケーキしか出されない。三食ロールケーキも普通にあるくらいだ。ああ、そういえば最近プリン味のロールケーキが発売したとか記事になっていたな。ナギサ曰く邪道だとかなんとか……
「………」
何かがおかしい。いや、その理由には気がついている。そこの二人と同じ括りにされる事を拒んでいるからか受け入れたくないだけだ。だが間違いなく……私も生徒に染まっているのかもしれない。
「何ですかこの硬いチョコは。
歯が欠けるかと思いましたよ」
「それはCheryonka Chocolateです。
偉大なるチェリノ会長の絵が描かれた……」
……やはりこれらと同じ土俵に居るとは思いたくない。いつの間にかゲマトリアが生徒大好きクラブと呼ばれかねない組織になっているような気がする。せめて自分と黒服だけはまともに……あいつも終わってるからな……会議に来ないでアビドスで何をやってるんだか。
「そろそろお暇致します。
この後アビドスに向かう予定ですので。
何故なら見知らぬ生徒の反応があるのです!
そう、この私が知らない生徒が!!
ロリコン朴念仁に独り占めはさせません!」
「私も来たばかりで申し訳ありませんが……
プリンの在庫が底を尽きてしまったので」
「そういうこった」
それぞれが自由に行動する中マエストロはため息をついて「もう好きにしろ」そう言い放ってと全てを諦めた。年増が去り際に
「大丈夫ですよマエストロ。
貴方も生徒に愛される快感を覚えてしまえばこちら側の仲間入りです」
と言っていたが生徒に愛される経験など起こり得ないだろう。
「それはひょっとしてお笑いのつもりで仰っているのでしょうか?」
紅茶を飲みながらナギサが言う。
「生憎私を好むような物好きは居ないだろう?」
「ミカさんとセイアさんが居なくてよかったですね。間違いなくタコ殴りにされていましたよ」
「何故だ?」
「あと……白猫さんと猫塚さんにも」
「変な事を言うな。
まるで人にストーカーが居るかのように
言われても困るのだが」
「こういう人を鈍感と言うのでしょうね」