「……みたいな事をホシノと話したんだ」
「ウェディングドレスですか。なるほど。
黒服を始末しなくてはいけませんね。
そんな未来があってはなりませんし
そもそも教師と生徒が恋愛をするなど
七囚人も真っ青になる極悪非道の行為です
なのでロリコンクソ野郎の黒服には
正義の裁きを与えなければ」
大量にブーメランを投げた母の言葉には
そんな重みもなくただ妬んでるだけだなと
冷静に考えてしまうのは慣れなのだろう
ただ妬みなどではないけれどヒナ自身も
ホシノの事が羨ましいと思っている
青春を満喫するように恋をして
刺激的な日々を過ごしている彼女は
母の間に依存している自分とは違う
今こうして甘えさせてくれる存在は
あくまで母であり恋人ではない
いつかは『親離れ』をしなければならない
雛が親鳥の巣から旅立つように
しかし甘える事を最近知った自分が
そう簡単に親離れが出来るとは思えない
それどころか永遠に依存している可能性もある
母は優しい。だからそれでも許してくれる
だけど人生において『飽き』は必ず訪れる
いつか私も母に捨てられるかもしれない
今はそんな事がないと言い切れても
十年、二十年後先は分からない
私よりも夢中になれる生徒が現れた時は
そちらに構ってしまうのかもしれない
もう身体の成長と共に今こうして過ごしている
時間も止まってくれたら良いのにと願ってしまう
「何か考え事ですか?」
「……ううん、何でもない」
「そうですか。では少々左手を借りますね」
左手の手袋を外されて派手な宝石の装飾が
施されてある指輪を薬指に嵌められた
その輝きは透き通るように眩しくて……
「………」
左手の薬指に指輪?
「……!?」
「ヒナ?急に取り乱してどうしたのです?」
「えっいや……えっ?こ、これ……えっ」
「何って婚約指輪ですけど」
母は何を言っているのだろう?
婚約指輪?何故私に?同性なのに?
何で?どうして?理解が追いつかない
「ヒナには言っていなかったのですが……
私も淑女のように『悪い大人』でしてね。
私だけの神になった貴女を手放すなんて
勿体無くて出来ないのですよ。だからこれは
貴女にとって『呪い』です。
当然拒否権はありません、その生が尽きるまで
私と共に居てもらいます。つまり……
同性だからとか知ったことではありません。
愛しているので結婚しましょう」
「……不束者ですが」
「……よかったです。これで断られたら
恥ずかしさのあまり首を吊るところでした」
「そんな事させないよ。だって……
永遠に一緒、だもんね」
「そんな強気なヒナも好きですよ」
さっきまで悩んでいた自分が馬鹿らしくなる
そのくらい目の前にいる母は愛おしくて
私の人生で誰よりも大切な人になった
ーーー
「……という訳で指輪を貰ったんだ」
『ゴフッ⁉︎』
通話越しに伝わる友人が驚いている姿が容易に
想像出来てしまう。それはそうだろう
今日の昼に結婚についての話をしたばかりでなのに
指輪を貰ったなんて聞かされたらそうなる
「なんか凄い音がしたけど……」
『い、いや大丈夫。驚いてベッドから
転げ落ちて怪我をしただけだから』
「それって大丈夫なの……?」
『大した怪我じゃな……うわちょっと
何ですか先輩……え?いやいやそんな
大した傷では……ちょ、その包帯の量は
おかしくないですか?ちょっ……』
「……切れた。まあ報告出来たしいいかな」
左手に付いた輝きを放つ指輪を眺めて
これからの人生がより豊かに彩られていく
そんな未来を想像して少し口角が上がった